表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜の女王  作者: M.D
2170年秋
159/688

28

「うああああぁぁぁぁ!」


 突然、訪さんが叫んだ。


「あなたたち2人さえいなければ!」

「そうですね。訪さんたちの誤算は、私たちが三成さんと事務局に行ったことと、私たちが身体強化を使えることでした。」


 美姫さんは内心の動揺を抑え、務めて冷静に返答する。


「そうよ。私たちの計画は完璧だったのに!この計画のために何年準備してきたと思っているの!」

「でも、実際に実行するのはもっと先だったんじゃないですか?」

「!?」


 訪さんの表情が驚きに染まる。


「やはり、そうでしたか。」

「どういうこと?」

「魔法学科に魔法使いではない普通の人が入学してくるのは数年に一人の割合だと聞きました。訪さんはこの計画の一環として事務局で施設管理を担当するようになり、それを待ち続けたのだと思います。

 そして、待ち焦がれた三成さんが入学してきて、頻繁に水準3の資料室への出入りするようになるのは、卒業論文を書かないといけなくなる今から1、2年後のはずだった。」

「確かに、最初は先輩の手伝いが多いし、頻繁には水準3の資料室への出入りはしないな。」

「三成さんの言うとおり、計画を実行するためにはもう少し待つ必要があったところに、訪さんたちには絶好の機会が訪れました。」

「美姫さんが僕に資料と論文の調査をお願いしたこと、だね。」

「そうです。そのことを聞いた訪さんは、この機を逃すまいと実行を前倒ししたことで計画にほころびが生じ、失敗に繋がったんだと思います。」

「この計画のために私は辛い生活を耐えてきたの。だから、計画が前倒しできると喜んでどこが悪いの?失敗するなんて分からないじゃない。」


(最後の詰めを誤った、というわけですな。)

(そうですね。)

(綿密な計画を立てて実行したとしても絶対に成功するとは限らないのに、計画が前倒しできると喜ぶとは、余程今の生活に疲れていたのしょうな。)

(暗い穴の中に突然差し込んできた光にすがりたくなる気持ちは分からなくもないです。)

(苦しくとも最後のひと踏ん張りが重要なのですな。そうせずに、安易な方に流されたことが失敗につながったのでしょうな。)

(そうかもしれませんね。)


「そもそも、訪さんはどうしてこの計画に参加したんですか?」

「・・・それは、東京に復讐するためよ。私がこの計画のためにどれだけ犠牲を払って努力してきたか、あなたのように魔法使いの主流家系出身で、なんの苦労も知らないお嬢様には私の気持ちなんて分からないでしょうね。」

「美姫さんはそんな――――」

「森林君も同じよ。外国人の私がこの地位に就くのに、日本人の何倍も努力が必要だったなんて分からないでしょ。それに、日本人なんて大っ嫌いよ!私の名前を聞くと誰もかれも笑いをこらえるし、子供の頃にどれだけイジメられたか!誰も助けてくれなかった!先生だって!

 大人になってからも変わらなかったわ!日本人が遊びに行っている間も、私は資格取得のための勉強や、押し付けられた仕事をこなすことで精一杯!それも復讐をするためだと思って、今の地位を得るために我慢して頑張って来たのよ!」

「それでも――――」

「ずっと東京は私には優しくなかったわ!そんな東京に復讐しようとして何が悪いの?東京なんて滅びてしまえばいいのよ!」

「・・・。」


 皆黙ってしまった。


「つまり訪さんは反魔連ではなく、魔法連合国側だったのですね?」

「くっ!」


 訪さんが漏らした感情が、美姫さんの考えが正解であることを告げる。 


「訪さんのお父さんは上海出身で、迫害を受けたお父さんと一緒に東京に亡命してきた、と伺いましたが、それは東京に入り込む口実だったのではないでしょうか。」

「美姫さんは、訪さんが魔法連合国の工作員だと言いたいのか?」

「はい。そうなるように洗脳されたのだとは思いますが。」


「そこまで分かっているならここで私が言うことは何もないわ。もう連れて行きなさい。」

「その前に、無線鍵を渡してもらえますか?」

「分かったわ。」


 訪さんは素直に無線鍵を差し出した。


「では皆様、国防軍の施設へご同行願えますかな。」


 皆無言で歩き出した。



(美姫さん、お疲れ様。)

(エレナ様から探偵の真似事をするように言われたときにはビックリしたけど、無事に終わって本当によかった。)

(このくらいは、ワレにかかればお茶の子さいさいじゃ。)


(さすがはエレナ様。頭脳明晰でどんな事件もたちどころに解決してしまう、優れた将を持てたことに俺は感動しています。先の第9次聖魔大戦においても――――)


 最近ザグレドが出てくる回数が多くないか?いい加減うざい。



(エレナ様はいつ訪さんが真犯人だと気が付いたんですか?)

(三成が渡した無線鍵をすり替えたのを見つけたときじゃ。何か良からぬことを企んでおる、と思って泳がせておったのじゃ。)

(あの時の呟きはそれを見つけたからだったんですね。)

(そうじゃ。)

(でも、その時に指摘しなかったのは、最近推理小説がお気に入りだから、その後に事件が起こることを見こして推理をする余地を残しておき、探偵役をやってみたかったから、とかじゃないですよね?)

(そ、そんなことはないのじゃ。)


 エレナ様の姿が見えていたら、目が泳いでいるに違いない。 


(やっぱりそうだったんですね。エレナ様はもう少し自重して下さい。)

(美姫さん、エレナ様が見つけられたときにに指摘していれば証拠を隠滅されたかもしれないので、黙っておられたのは賢明な判断だった、とワシは思いますな。)

(グレンはいいことを言うのじゃ。)

(ありがとうございます。)

(確かにグレンさんの言うとおりかもしれませんが、もう探偵の真似事嫌ですよ。)

(こんなことはそうそう起こらんから、安心しておればよいのじゃ。)

(そうだといいんですが、、、)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ