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――――15分後。
こちらに駆けてくる足音が聞こえる。
「あれ?美姫ちゃん?」
「ん?旬果お姉ちゃん?どうしてここに?」
「それは私の台詞。美姫ちゃんこそどうしてここに?」
軍服を着た旬果さんがこちらに近づいてきた。
「無駄口をたたいておらんと、現場の確保と調査に早く向かわんか!」
「承知しました。」
去っていく旬果さんと入れ違いに、将校がこちらに歩いてくる。
「私は魔法軍情報戦略隊隊長 一条豊少佐です。お初にお目にかかります。龍野美姫さんですね?」
「はい。」
「ここの安全は我々が確保しましたので、もう安心です。」
「ありがとうございます。」
「お怪我はありませんか?」
「大丈夫です。」
「それは良かった。で、この者たちは?」
豊少佐が倒れている襲撃者たちに目を向ける。
「突然襲われたので、何も分かりません。」
「そうですか。おい、この者たちを拘束して連れていけ。」
「承知しました。」
豊少佐の命令を受け、襲撃者たちが連行されていくと同時に警報が止まった。
「さて、現状について私の方から簡単に説明しておきましょう。先程、資料室で何らかの事件が起きたことから、我々のところにも警報が鳴り、こちらに急行してきた次第です。まさか連行を行うという事態が発生するとは思わず、ここに残っているのは私1人になってしまいましたが、周囲は我々の部隊の者が警備を行っていますので、ご安心を。
また、現在は事件の初期調査中であり、皆さまには申し訳ないが、初期調査結果が出るまではここにいて頂き、その後、国防軍の施設で事情聴取をさせて頂くことになりますが、よろしいだろうか?」
「え、えぇ、それで構いません。」
「では、しばしお待ち頂きたく。」
僕たちを代表して訪さんが答えたあとは、誰も何も話そうとはしなかった。
「あの者たちは美姫さんが?」
豊少佐が沈黙を破って美姫さんに問いかける。
「いえ、樹君が。」
「ほう。君が森林樹君か。君もやるようだな。」
「いえ、そんなことは。」
「銃を向けられても怯むことなく立ち向かい、さらに1人の犠牲者も出さないとは、実戦経験があるものであってもなかなかできることではない。」
「身体強化ができる魔法使いであれば、できると思います。」
「しかし、”全身の”身体強化を使えねばならない。高校1年生である君が”全身の”身体強化を使えること自体が驚きなんだよ。」
「それについては、美姫さんという良い教師がいたお陰です。」
「ほう。美姫さんも”全身の”身体強化を使えるのか。さすがは、圭一先生の娘さんというところだね。2人の魔闘会での活躍は目を見張るものだったから、それも当然か。しかし、樹君が魔闘会で発動させた魔導楯、あれは魔力の暴走なんかではないんだろう?」
「無我夢中でその時のことは覚えていないので、よく分かりません。火事場のクソ力だったのかもしれません。」
「まぁ、今はそういうことにしておこう。」
(あれだけ派手にやってしまったら、やっぱり隠し通せるようなものじゃなかったか。)
(そうね。あの時は私たちが無事に生き残ることで精一杯だったから、仕方ないんじゃない?)
(怪しまれるくらいで良かったと思うしかないか。)
――――10分後。
旬果さんが戻ってきた。
「初期調査結果が出ましたのでご報告致します。」
「うむ。結果を聞こう。」
「警報の原因は水準3の資料室における主装置への不正侵入が原因と思われますが、OSの1つに改変を受けた痕跡を発見しましたので、まず間違いないかと。」
「やはり、か。続けてくれ。」
「はい。不正侵入方法についてですが、主装置につながる配線に異常が見られないことと、抜き差しされた履歴が残っていないことから、何らかの方法で不正侵入を受けたものと推定されます。」
「不正侵入ソフトを使われたか。」
「今のところ、不正侵入の方法が分からないため、詳細は不明です。」
「監視カメラの方はどうだった?」
「はい。監視カメラの映像を確認したところ、本日、水準3の資料室への出入りをしたのはそこにいる石田三成1人です。」
「僕は不正侵入なんてやってない!」
「まぁ、待て。誰も君が犯人だとは言っていない。ただ、本日、水準3の資料室への出入りをしたのは君だけだ、という事実を言っただけだ。」
「それでも――――」
「まだ初期調査の段階だ。監視カメラの映像だけで君を逮捕することはないし、君が犯人でないという証拠がこれから見つかるかもしれないから、あまり騒がない方がいい。」
「分かりました。」
(三成さんが犯人だったなんて信じられない。)
(私も。そんなことをするような人には見えなかったのに。それに、三成さんが不正侵入をする動機が分からない。)
(三成が犯人ではないじゃろう。)
(エレナ様は他に犯人がいるとお考えですか?)
(そうじゃ。真犯人も分かっておるのじゃ。)
(本当ですか!?)
(誰ですか?)
(それを美姫にこれから皆に伝えてもらおうと考えておるのじゃ。)
(今、私がですか?)
(そうじゃ。美姫はワレが考えた台詞を言うだけでよいのじゃ。それに、証拠が残っておる今でないといかんからのう。)
(分かりました。それで三成さんの無実が証明されるのであれば。)
(楽しくなってきたのじゃ!)




