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穴の中を覗く。
(この先には何があるのでしょうか?)
(とにかく、降りてみんことには分からんのう。樹、先に降りるのじゃ。)
(その前に、暗くてよく見えないので、懐中電灯を持ってきます。)
懐中電灯を取りに戻ったついでに、のどが渇いたので水を飲んだ後、ペットボトルを鞄に入れておいた。
(それじゃ、行きます。)
穴に備え付けてある梯子を下りる。
(樹、決して上を向くでないのじゃ。)
(分かってます。上を向いて、美姫さんのスカートの中を覗いたらエレナ様に何をされるか分からないですから。)
(見たかったら見てもいいよ。)
(美姫は何を言い出すのじゃ。樹、上を向いたら殺すからのう。)
(サーバを探しに来て、悪魔がいる場所につながる穴を見つけてしまうなんて。こんなこともあるんですね。)
(恐らく、サーバの基板が壁に埋め込まれていたのも目くらまし、なのでしょうな。)
(床の仕掛けに気が付かれないようにしたかった、ということですか?)
(そうですな。何らかの事情があって本棚が移動させられたとしても、サーバの基板が先に目に入るようにしておくことで、床には意識が向かないようにしたのでしょうな。)
(美姫さんのお父さんも用心深いですね。)
(悪魔を隠すとなると、このくらいのことをする必要があるのでしょうな。我々もエレナ様が悪魔の精神エネルギーが漏れていることに気が付かなければ、床の仕掛けを見つけられなかったのですからな。)
(同感。)
それ程深くない穴を降りると、穴の側面に扉があった。
(どうしますか?)
(何もないとは思いますが、楯魔法を発動する準備だけして、扉を開けましょう。)
(了解。)
扉には仕掛けがなく、慎重に開けると、上の部屋と同じくらいの広さの空間があるだけだった。
(悪魔はいないようですね。)
(やはり、残留しておる精神エネルギーが感じられておったようじゃのう。)
(でも、精神エネルギーが残留している、ということは、悪魔は本当にここにいたんですね。)
(しかも、残留しておる精神エネルギーからして、ごく最近までここに悪魔がおったようじゃのう。)
(それを知らずに、今まで過ごしていたなんて、、、)
(自身からの強い精神エネルギーで床下から漏れる弱い精神エネルギーを覆い隠しておったのじゃろう。上手く考えたものじゃ。)
(父はここで何をしていたのでしょうか?)
(そこまでは分からぬが、地下に悪魔を隠しておるくらいじゃから、良からぬことじゃろう。)
(そうでしょうな。悪魔を研究する公的な機関があるにも関わらず、そこに引き渡さずに独自に観察か研究を行っていたのですから、後ろめたいことなのでしょうな。)
(それに、ここは息苦しい感じがしますね。弱っていたら身動き取れないかもしれないかもしれません。)
(ザグレドがそう感じるのも当然じゃろう。壁の模様を見てみるのじゃ。穴の入口と違って、ここの模様は悪魔の精神エネルギーを押さえつけるためのもののようじゃからのう。)
(人間もいろんな模様をよく思いつく。)
壁には模様が描かれており、手前の壁の一部がくりぬかれているのが見えた。
(あそこには何があるのかな?)
(行ってみよう。)
近づいてみると、くりぬかれた箇所の奥にノートが数冊置いてある。
(ノート?何でこんなところに?)
(こんなところに置いてあるんだから、きっと悪魔に関することが書かれているのよ。調べてみましょう。)
(美姫、気を付けるのじゃ。まだ何かあるかもしれんからのう。)
(分かりました。)
(樹は楯魔法を発動する準備をしておくのじゃ。)
(了解。)
美姫さんがノートに手を伸ばした時だった。
ボッ!
「きゃっ!」
突然全てのノートが発火し、炎が噴き出してくる。
(これで!)
咄嗟に炎が美姫さんに及ばないよう楯魔法を発動し、消火するために鞄の中のペットボトルを投げつける。
(美姫さん、大丈夫?)
(うん。樹君の楯魔法が守ってくれたから大丈夫。まさかノートが発火するなんて思いもしなかったよ。)
(美姫さんのお父さんとしては、そこまでして隠しておきたい内容がノートには書かれていたんだろう。)
(やっぱり悪魔について、かな?)
(肯定。)
(ワシもそう思いますな。この状況から考えて、悪魔を観察していた記録か、悪魔を使った研究日誌でしょうな。)
(こんなことになるんだったら、もっと慎重に調べればよかった。)
(手順を踏まずにノートを取ろうとすると、発火装置が作動するようになっていたんじゃないかな?この家に入るときにも鍵を開けるために手順があったから、あれと同じような発想だと思う。)
(発火装置があったとしても、ノートがあんなに一気に燃え広がる?)
(ノートは引火性の強い油紙で出来ていたのでしょうな。下を見てみて下さい。樹君がペットボトルを投げたおかけで燃え残ったノートの一部分が落ちているようですな。)
慎重に落ちているノートを拾い上げる。
(グレンさんの言うとおり、油紙で出来ているようですね。でも、だいぶ燃えてしまっています。)
(でも、読めなくもないよ。)
(見た感じだと、悪魔を観察していた記録みたいだ。)
(悪魔との会話についても書かれているみたい。父は悪魔と何を話していたのかな?)
(まずは、ここを出ない?ノートを調べるのはここを出た後でもできるから。)
(そうね。あまり長くいたいと思えない場所だしね。)