05
「もうこんな時間か。僕は魔法科の出し物の手伝いに行かないといけないけど、母さんたちはどうする?」
「そうね。樹たちの魔法科はメイド喫茶をやってるのよね?私たちはそこで休憩したら帰るわ。」
「私も休憩する―。」
メイド喫茶をしている教室の前まで来ると、並んでいるのは数人だった。
「混んでないみたいだから、すぐ入れそうだよ。」
「そうでもないぞ。」
聡が声をかけてきた。
「聡、もう着替え終わってるのか。」
「樹は珍しくギリギリだな。待ってても来ないから、探しに行こかと思って出てきたところだ。早く着替えて来い。」
「すまん。それで、混んでなさそうなんだが、入れないのはどうしてだ?」
「3年生の先輩が言ってたんだが、あまりにも列が長くなって周りの迷惑になるから、整理券を配布することにしたんだと。それで、今日の分の整理券は配布し終えたから、もう入れないみたいだぞ。」
「そんなに人気なのか?」
「みんな百合子さんと美姫さん狙いだ。2人のメイド姿を見たら、それ目当てに客も増えるだろうと思うぜ。」
「そうか。百合子さんと美姫さんのメイド姿は見たのか?」
「早めに来てこっそり覗き見ていた。美姫さんのメイド姿もいいが、百合子さんのもいいな。甲乙つけがたい。美姫さんが可憐な花だとすると、百合子さんは高嶺の花、って感じだな。」
「言い得て妙だ。」
聡の話から、メイド喫茶で休憩するのは無理そうだ、と母さんに伝えた。
「残念だけど、人気があるのなら仕方ないわね。もう帰るわ。」
「えー。疲れたから休憩したいー。それに、メイドさんのお姉ちゃんを見たかった。」
「椿、我がまま言わないの。」
椿がごねていると、
「行ってらっしゃいませ。」
扉が開いて、客が出てきたときにメイド姿の百合子さんが見えた。
「すっごい綺麗なメイドさんだー。」
「あら、樹じゃない。ん?もしかして、樹のお母さんと妹さん?」
「肯定。」
「樹、この美人さんはどなた?」
「元生徒会長。」
「紹介が遅れました。魔法科3年生の高科百合子と申します。樹にはいつもお世話になっています。」
「ご丁寧に。森林柊です。こちらこそ、息子がお世話になっています。」
「お義母様には申し訳ありませんが、ただ今満席のため、お席をご用意できません。」
「いいのよ。理由は聞いたから。」
「もしよろしければ、何もないところですが、私たちの休憩室兼更衣室で休憩していかれますか?」
「そこまでして頂かなくても。」
「いえ、私ももうすぐ交代の時間なので、お義母様といろいろお話ししたいことがありますし。」
母さんは、『どうしたらいい?』と聞くような顔で僕の方を方を見た。
「百合子さんには悪いけ――――」
「妹ちゃんは美味しいケーキ食べたくない?お姉ちゃんが用意してあげるわよ。」
「わーい。私、ケーキ食べたい。」
「一緒にケーキ食べようね。」
「うん。お母さん、このお姉ちゃんの言うように、休憩していこうよ。」
百合子さんは僕の言葉を遮って椿を篭絡にかかり、椿はその罠にまんまとかかってしまった。
「しょうがない子ね。申し訳ないけどお言葉に甘えさせて頂くことにするわ。」
「それでは交代の時間まで少しお待ち下さい。後で、お茶とケーキをお持ちします。樹、お義母様と妹さんを休憩室に案内してくれる?」
「了解。」
休憩室兼更衣室として使われている教室まで母さんと椿を案内して、着替えた。
「僕は行くけど、百合子さんが戻ってくるまでここで待ってて。」
「分かったわ。」
「さっきのお姉ちゃんに『早く来てね』って言っといてー。」
「百合子さんだっけ、綺麗な子だったじゃない。樹とはどんな関係なの?」
「どんな関係もなにも、生徒会で一緒なだけだよ。それに、僕を高校からの編入生として気にかけてくれているだけなんだ。」
「本当に?」
「・・・。」
「樹君、遅かったね。」
メイド喫茶をやっている教室に入ると美姫さんが声をかけてきた。
「ごめん。少し百合子さんと話をしていたから。」
「百合子さんがお客さんを見送った後、戻ってくるのが遅かったのはそういう理由だったのね。で、どんな話をしたの?」
「百合子さんが母さんと話をしたいんだって。阻止しようとしたんだけど、椿が百合子さんにケーキでつられてしまったんだ。」
「それであの女はケーキを箱に入れているのね。椿ちゃんから攻略しようとするなんて悪知恵だけは働くんだから。」
「今回もしてやられた。」
「百合子さんが柊さんとどんな話をしようとしているのか気になるけど、もう時間だから私は表に出るよ。樹君も3年生と交代して。」
「了解。」
時間になったため3年生と入れ替わって作業を始める。
「樹、お義母様と妹ちゃんの飲み物は何がいいかしら?」
「母さんは紅茶で椿はオレンジジュースでいいと思います。」
「じゃぁ、用意して。」
「了解。」
紅茶とオレンジジュースを用意して百合子さんに渡す。
「母さんとはどんな話をするんですか?」
「な・い・しょ。」
そう言って、百合子さんは教室を出ていった。




