04
午後の初めは自由時間なので、椿たちを案内することになっていた。
「樹、お待たせ。美姫ちゃんもお久しぶり。」
「柊さん、お久しぶりです。椿ちゃんともまた会えて嬉しいわ。」
「私もお姉ちゃんとまたお話しくて会いたかった。」
「今日は東高際を見て回るんだろ。それに、美姫さんは受付だから椿と話ばっかりしてられないんだぞ。」
「そんなこと分かってる。だから、お姉ちゃんとは受付の時間が終わったらお話するの。」
「残念。美姫さんは受付が終わったらメイド喫茶のお手伝いだ。」
「えー!いっくんのけちー。」
「僕のせいじゃないだろ。」
「2人とも、こんなところで騒いでいたら迷惑になるからもう行くわよ。」
「東高際を楽しんでらして下さい。」
「美姫ちゃんありがとう。」
「お姉ちゃん、またね。」
「あれ?そう言えば、父さんは?」
「突然仕事が入って来れないって。すごく残念がってたわ。」
「そうなんだ。仕事だったら仕方ないか。」
「いっくん早く―。」
「はいはい。」
母さんと椿と一緒に高校内を歩く。
「次はねー。あそこのクレープ食べる。」
「佐伯さんところのクラスのお店か。」
「樹が知っている子がいるの?」
「生徒会で一緒なんだよ。佐伯さんは会計をしてる。」
「美姫ちゃんがいるんだから、浮気しちゃダメよ。」
「否定。」
「ねーねー、魔女クレープってどんなのなのかなぁ?」
「ほら、今買った人の持っているクレープを見てみろ。あんな感じの魔女的な毒々しい色のクレープらしいぞ。」
「うわっ!凄い色使いのクレープ。魔女魔女クレープって言うのもあるみたい。どんなのなのかなぁ?」
「魔女魔女クレープは魔女的な味。」
「魔女的な味だって。いっくんはこれだね。」
「なんでだよ。普通のにするに決まってるだろ。」
「えー、面白くない。」
「面白くなくていいんだよ。」
椿に魔女魔女クレープの説明をしたのは佐伯さんだった。
「魔女クレープ3つ。」
「ありがとう。」
「いっくんは魔女魔女クレープでしょ。」
「違う、って言ってるだろ!」
「妹さん?」
「肯定。騒がしいでしょ。」
「騒いでくれた方が宣伝になるからいい。」
「そう言ってもらえると助かる。」
クレープを買って空いている椅子に座る。
「美味しいー。」
「色は毒々しいけど、味は普通に美味しいわね。樹は魔女魔女クレープじゃなくてよかったの?」
「僕は危険な橋は渡らないことにしてるから。というか、母さんがそんなことを言うから椿が真似するんじゃないか。」
「あら、ごめんね。これからは椿のいないところで言うことにするわ。」
「いや、そういう事じゃなくて、、、」
クレープを食べ終えた後は校舎内を見て回る。
「この熊さん可愛い!」
「へぇ、ビーズで作ってあるのね。うまく出来ているわ。」
手芸部の展示室には少し大きめのビーズでできた熊の人形が展示されていた。
「いらっしゃい。あれ?森林君だっけ?」
「はい。先輩は部活紹介のときの、、、」
「あの時は私の名前を言っていなかったわね。三里未来よ。紫とは同じクラスだから森林君のことはよく聞いているわ。」
「未来さんが紫さんと同じクラスだったなんて、奇遇ですね。」
「それで、紫が『森林君が生徒会を手伝ってくれて助かってる』って言ってたわよ。」
「紫さんがそんなことを。」
「えー!売り切れ?」
「1日10個限定って書いてあるから、売り切れちゃったのね。」
大声を出した椿の方を見ると展示物の一部を販売しているようだが、お目当ての人形が売り切れてしまっているようだった。
「ごめんね。人気があるのか、午前中で売り切れちゃったの。」
「残念。でも、1日10個限定って書いてあるから、明日になったらまた買えるんでしょう?いっくん買っといて。」
「明日も朝一は受付だから買えるかどうか分からないぞ。」
「えー。可愛い妹のために、そこを何とかするのが兄の役目でしょ。」
「この子、森林君の妹さん?」
「肯定。騒がしくてすみません。」
「そんなことないわよ。この熊の人形が欲しいの?」
「うん。」
「じゃぁ、特別に私のを譲ってあげるわ。」
「いいの?」
「いいのよ。よく考えたら、私は渡辺君にまた作ってもらえばいいから買う必要なんてないのよね。それに、森林君のお陰か、渡辺君がちょくちょく部活に来てくれるようになって、私も助かってるから、そのお礼と思ってくれるといいわ。」
「すみません。それじゃ、お言葉に甘えさせて下さい。」
未来さんは自分のカバンから、ビーズでできた熊の人形を持ってきた。
「はい、どうぞ。」
「お姉ちゃん、ありがとう。」
「どういたしまして。」
その後も校舎内を見て回ったが、熊の人形が買えたのがよほどうれしかったのか、椿はずっとニコニコしていた。




