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竜の女王  作者: M.D
2170年秋
132/688

01

「樹、それが終わったら倉庫から看板を持ってきてくれ。」

「了解です。」


 今日は東高際前日。僕と諒太さんと有志の生徒で校門の飾りつけと看板の作成を行っている。ちなみに、東高際は東京大学附属高校際の略である。


「どうして僕たちがこんなことをしないといけないんですかね?」

「言ったと思うが、校門の飾りつけと看板の作成は生徒会の役割なんだ。手伝ってくれる生徒もいるが、基本的には生徒会役員が主体となって働かないといけない。」

「僕は生徒会役員ではないのですが、、、」

「樹は生徒会補助員として生徒会運営に携わっているんだから、この作業をして当然だろ。それに、予算の割り振りや争いごとの仲裁とかやらないといけないことが多くて女性陣もてんてこ舞いだから、肉体労働は俺たちがやるべきなんだ。」

「そうですね。四の五の言わずに頑張りますか。」

「そうしてくれ。」


 黙々と作業を続け、結局終わったのは暗くなってからだった。


「ようやく終わりましたね。」

「今年は男子の生徒会役員が俺だけだったから、どうしようかと思っていたが、樹がいて助かったよ。」

「どういたしまして。」

「手伝ってくれた皆にお礼を言って、生徒会室に戻ろう。」

「了解。」



 生徒会の扉を開けると、メイド姿の百合子さんが出迎えてくれた。


「おかえりなさいませ、ご主人様。まずはお風呂?食事?それとも、わ・た・し?」


 えっ!?


「何ですかその台詞は。それに、メイドはそんなことを言いませんよ。」


 美姫さんの声がして横を見ると、美姫さんもメイド姿だった。


「美姫さん、今の私はメイドの真似をしている奥さん、って言う設定なの。でも、樹の驚いた顔が見れたから、成功ね。」

「ドッキリだったんですか。」

「樹が『わ・た・し』を選んでくれれば、なお良かったんだけど。」

「遠慮しておきます。」

「つれないわね。」


「それにしても、どうして2人はメイド姿なんですか?」

「今年は魔法科はメイド喫茶をすることになったから、その衣装よ。そのくらい樹も知ってるでしょ。」


 魔法科は生徒数が少ないため、東高際の出し物は1・2・3年の合同だ。


「百合子さんがメイド喫茶をする方向で押し切ったことは知っていますが、何故”今”メイド服を着ているのか、ってことです。」

「それは、樹に一番最初に見てもらいたかったからよ。どう?似合ってる?」

「似合ってはいると思います。」

「ふふふ。ありがとう。でも、そんなに見つめられると恥ずかしいわ。」

「いや、そんなことないですよ。百合子さんの思い込みです。」


「おかしい。メイド服を着て照れている姿は百合子さんなのに可愛く見える。」

「あら、諒太もいたの?」

「いましたよ。見えてましたよね?」

「諒太はアウトオブ眼中だったわ。」

「急に真顔にならないで下さい。樹と違って、俺への対応はいつも通りなんですね。」

「樹以外にサービスする必要性を認めないわ。」


「そうなのよ。百合子さんは樹君にメイド姿を見てもらいたくて、『私のメイド姿は気に入ってくれるかな?』ってずっとそわそわしてたの。」

「紫、いらないことを言わない。」

「そんな百合子さんは、夫の帰りを待つ新妻みたいで気持ち悪かったんだから。」

「新妻だなんて、、、」

「都合のいいところだけしか聞こえないのか、この人は。」


 制服姿の紫さんがあきれた顔をしている。



「美姫さんもメイド姿なのは何故?」

「百合子さんに着せられたの。生徒会の仕事が忙しくて試着できなかったから、『本番までに一度は着ておきなさい』って。」

「それで、折角着たんだから樹が帰ってくるまでそのままでいてもらったわけ。メイド姿の美姫さんも綺麗でしょう?」


 改めて美姫さんのメイド姿を見ると、いけない奉仕をしている様子を想像をしてしまいそうだ。


「そうですね。メイド姿の美姫さんもいいと思います。」

「ありがとう。でもスカートが短いし、少し露出が多い気がするの。」

「それは、ストッキングとかガータベルトとか下着系にいいものを揃えたり、服の装飾にこだわったりしたら、予算がなくなって布地を減らさないといけなかったからよ。」

「百合子さんの考えた予算配分は間違ってないですか?」

「ある程度は妥協したんだけど、譲れない線はあるのよ。本当はもうちょっと予算があったらよかったんだけど。」

「元生徒会役員だからといって、依怙贔屓はダメ。」

「もう、ヒロポンは真面目なんだから。」


「確かに、良質のシルクを使ったいいストッキングですね。」

「これの良さが分かるなんて、諒太のことを少しは見直したわ。」

「でも、そんなことが分かるなんて、もしかして諒太は変態さん?」

「紫と一緒にしないでくれ。一時期、華恋がストッキングにはまっていたことがあって、ストッキングを変えるたびに、いちいち感想を言わされたから詳しくなっただけだ。」

「そんなに詳しいんだったら、これから諒太のことを変態ストッキング紳士、と呼んであげるわ。」

「やめろ。」


 諒太さんの新たな一面を見た気がした。


「佐伯さんもそれは出し物の衣装?」

「そう。魔女。」


 そう言って、佐伯さんは机の上に置いてあったとんがり帽子をかぶった。


「ヒロポンのクラスはクレープを売るんだって。」

「魔女なのにクレープ?」

「魔女的な毒々しい色のクレープ。」

「見た目が毒々しいなんて、絶対に売れないでしょ。」

「そう言わないで、当日は買って。」

「樹君、安心して。ヒロポンのクラスを見に行った時に試食させてもらったら、見た目はあれだけど味は普通だったわ。」

「僥倖。味まで魔女的とか言われたらどうしようかと思った。」

「魔女的な味も用意してある。」

「僕は普通のを買うことにするよ。」

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