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竜の女王  作者: M.D
幕間4
131/688

03

「そしてここからが決勝戦のハイライトだ。」

「何が、決勝戦のハイライトよ。陽菜に魔導楯を切り刻まれ続けただけなじゃない。」

「そんなことないです。だって、一方の魔導盾で百合子さんの魔導砲を防ぎながら、他方で陽菜さんの剣戟を防いでいたんですから。」

「2人を相手するなんて、諒太さんもやりますね。」

「だろう。」


「確かに、魔導楯を再生するたびに強度や形状を変えていたし、工夫していることが分かって魔導楯を切っていて楽しかったから、諒太も頑張っていたと思うわ。」

「あれ、楽しんでたんですか。笑顔だなぁ、とは思っていましたが。」

「だって、かわいい後輩が必至で頑張ってるのを見たら、どこまでできるのか試してみたくなるじゃない。」

「すぐに力尽きたけどね。」

「折角、俺の活躍をもうちょっと語ろうと思ったのに、百合子さんは一言多いですよ。」

「『今年は俺が百合子さんの魔導砲を受け切って名を上げることにします』とか言ってたくせに、全然大したことないんだもの。」

「百合子さんの魔導砲は受け切りましたよ。」

「それは私が手を抜いていたから。本気だったら、諒太は今頃病院のベッドの上よ。」

「ごもっともです。」


「俺が魔力切れで降参した後は、順当に3年生1班が勝って終了だ。」

「何、その投げやりな終わらせ方は。」

「いいんですよ。決勝戦のハイライトはもう終わったんですから、後は適当で。」

「まだそれを言うか。」


「実際には雅之たちも頑張ったのよ。百合子がやる気を出さなかったせいで、いつもと違って押し込まれる場面もあったから、張り切っていたのかもしれないわね。」

「押し込まれてなんかいないわ。雅之たちの、俺たち今青春してます、っていう感じの雰囲気が鬱陶しかったから、早く終わらせようと思って魔力を少し多めに溜めようとしたところを狙われただけよ。」

「その、俺たち今青春してます、っていう感じの雰囲気というのが分かりませんが。」

「なんて言うか、高校最後の試合、みたいな感じで、全力を出し切って、勝っても負けてもいい思い出に昇華されるような感じの雰囲気よ。」

「いい雰囲気じゃないですか。」

「百合子はそういうのが嫌いなのよね。」

「そう。そんな普通の青春なんてありふれた感じがしてダメね。」


「もしかして雅之さんって、百合子さんに嫌われてます?」

「嫌いね。」

「やっぱり。」

「雅之は百合子に相手にされなくても全然めげないのよ。中学1年の時に、『俺が百合子を守ってあげないといけない』と雅之に思わせる出来事があってからずっとなの。」

「それって、どんな出来事なんですか?」

「東大附属中学に入学して2ヶ月くらいたったころだったと思うけど、3年生の先輩に校舎裏に呼び出されたのよ。」

「なぜか既視感を覚えます。」

「いつの時代にもそういう先輩がいるということね。面白そうだから行ってみたら、案の定3人の先輩から『生意気だ』とか言われて、(゜∀゜)キタコレ!!と思っていたんだけど、雅之が乱入してきて邪魔してくれたわけ。」

「校舎裏に呼び出されて、面白そう、って思うところが百合子さんらしいですね。」


「それで、雅之は先輩たちにボコられてしまったんだけど、先輩たちが帰って行ったあとで『これからはこうして俺が守ってやる』とか気持ち悪い台詞をはいたから、一発殴って帰ったの。」

「雅之さんが不憫です。」

「助けに行ったのに殴られた時点で、百合子さんはおかしい、って気づくべきですよね。」

「恋は盲目なのかしら。」


「それからよ、雅之が事あるごとに私に絡んでくるようになったのは。」

「まぁ、百合子も悪いわね。百合子が急速に実力をつけて、雅之が模擬戦で勝てなくなったときに『私に勝てたら考えてあげなくもない』とか言っちゃうんだから。」

「あれは、どうせ永遠に私には勝てないだろうから諦めてもらおうと言ったんだけど、勘違いされてしまったのよ。」

「それは百合子さんが悪いですね。」

「だって、『俺が百合子を超えるまで待ってくれる、ということだな』なんて考えるとは思わないじゃない。」


「雅之さんって肯定的な思考の持ち主なんですね。」

「というか、誰かと同じで脳筋なのね。努力すれば夢は叶う、的な感じの。」

「だ・れ・が、脳筋ですって?」

「私は陽菜とは言っていないのに、その反応をするということは、自分が脳筋だと認めたようなものだぞ。」

「何ですって?」


 陽菜さんのスイッチが入ったようだ。


「お二人は仲がいいんですね。」

「まぁね。こんなことが言いあえるくらいの仲ではあるわ。」

「中学からずっと一緒だしね。でも、百合子、後でお返しさえてもらうから、覚えてなさい。」


 騒ぎ始めた2人だったが、美姫さんの一言で落ち着いた。


「魔闘会本選で支援してあげるんだからそれで無にしなさい。」

「しょうがないわね。その代り本気でやりなさいよ。予選みたいにやる気をなくした、とかはなしよ。」

「分かってるわよ。」

「昨日までロンドン観光についてしか話をしていなかった気がするけど?」

「私はやるときはやるわよ。フィッシュアンドチップスを食べて、油で胃がもたれていつもの力が出せません、とかなったらお話にならないから、試合前に食べるための日本食もちゃんとも持っていくんだから。」

「本当に大丈夫なのかしら。」


「樹はロンドンのお土産何がいい?」

「えーっと、、、無難に紅茶ですかね。」

「そこは魔闘会本選での優勝、とか言ったらかっこよかったのに。」

「それは思いつきませんでした。諒太さんの案を採用して魔闘会本選での優勝で。」

「却下。」

「どうしてですか?」

「陽菜のために魔闘会本選で決勝戦までは進むつもりよ。でも、優勝なんかしてしまったら、樹との結婚に横槍をいれてくる人が増えるじゃない。今でも『優秀な子供を産むために』とか言って、”大砲系”の魔法使いとの縁談がいっぱい持ち込まれているのに。」

「魔闘会後の祝賀会でも誘いを断るが大変そうだったものね。」


「百合子さんは自分の欲望に忠実ですね。」

「私の人生は私のものよ。私が不幸にならない程度に周りの人を助けてあげたりはするけれど、私から幸せを奪うようなら断固抵抗するわ。」

「そう言うところは羨ましいです。」

「諒太は家系にこだわりすぎなのよ。自分に正直に生きたほうがいいわよ。」

「そうですね。百合子さんを見ていると自分がちっぽけな人間に見えてくるので、もう少し自由に生きてみます。」

「そうしなさい。」


 その後も和やかに雑談は続いた。

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