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「今日は東京における魔法使いの家系についてです。美姫さんは知っていることだと思うけれど、忘れていると今後問題を起こす可能性があるので、一緒に聞いて下さい。」
「はい。父はあまり親戚付き合いが好きではなかったようで、そういうことはあまり知らないので助かります。」
「では、始めましょう。樹君は魔法使い御三家って知っているよね?」
「”六条”、”龍野”、”桐生”と習いました。」
「それでは、何故3つの家が魔法使い御三家と言われているか分かるかな?」
「えーっと、、、3つの家がそれぞれの魔法の腕輪への適正度が高いからですか?」
「半分正解。美姫さん、説明できますか?」
「はい。悪魔を倒すことができるよう魔力を高めるために、3種類の魔法の腕輪それぞれに対する適正の純度を高ようと婚姻を繰り返した結果、”六条家”、”龍野家”、”桐生家”の3家に収斂された、で合っていますでしょうか?」
「そのとおり。このことは教科書には載っていないけれど、東京は魔法使いの歴史が浅いから、早急に強い魔法使いを生み出すために1種類の魔法の腕輪にのみ特化して適正の高い家系を生み出す必要があった。六条家は”大砲系”、龍野家は”銃剣系”、桐生家は”楯系”というように。
そのため、それぞれの家には本家筋と分家筋があって、血が濃くなりすぎないよう本家筋どうしの婚姻は認められないのが普通だ。本家筋と分家筋の違いは、本家筋は当主を選出する会議に参加できるが分家筋はできない、というところかな。美姫さんは龍野家の分家筋だね。」
「美姫さんはいいところのお嬢さんったんだ。」
「本家筋と比べると全然だけど。」
「それと、御三家以外にも魔法使いの家系はあるけれど、ほとんどは御三家のどれかと血がつながっているんだ。」
純一先生が電子黒板に家系を書いていく。
「小野家は龍野家とつながりがあるんですね。」
「だからこそ、龍野家の現当主である亜紀様に要請されて美姫さんと樹君に補講を行っている、という訳だ。」
「病院に魔力検査に来たのも、亜紀様から頼まれたからですか?」
「そのとおり。私は左衛門様から聞いたけれど、実際には亜紀様からだろうね。話を続けると、御三家には外家筋という特別深い関係を築いている家系があって、小野家は龍野家の外家筋だから龍野家当主の亜紀様を支える立場にある。
外家筋の役割は2つあって、1つは分家筋と同じく血が濃くなりすぎないよう御三家に外の血を入れられるようにすること。もう1つは樹君のように魔法使いの家系とは違う生まれの魔法使いや御三家以外の魔法使いの適正を見極めて、有用な能力であれば取り込んでいくこと。」
「だから僕も美姫さんと補講を受けられているんですね。」
「そういうことだ。樹君は現時点ではどの魔法系統に適性があるか分からないから、とりあえずは影響下に置いておこう程度だけれど。」
「そうなんですか。。。」
「魔力の使い方を訓練しないとうまく魔力を魔法の腕輪に入力できないから、鍛えていくうちに適正が分かるはずだよ。樹君の適性が龍野家に有用であれば、樹君への投資も無駄ではなかったということになる。」
「もし僕の適性が龍野家に有用でなかったらどうなるんですか?」
「特に何もないと思うよ。そこら辺は有能な魔法使いを血筋に取り込むための必要経費だと割り切っているから。」
「そうですか。」
「今から心配する必要はないよ。魔力の使い方を訓練して適正が分かってからの話だし。」
(エレナ様も『魔法使いは神経系に精神エネルギーを流す訓練を受けているよう』と言っていたけど、美姫さんも訓練を受けていたの?)
(神経系に精神エネルギーを流す訓練、というのがどういうものかは分からないけれど、魔力を感じる鍛錬は小さいころから少しずつやっていたよ。でも、樹君はエレナ様が鍛えてくれるから、すぐ私に追いつくと思う。)
(エレナ様が?鍛えるというか、意地悪して反応を楽しむ、という嫌な予感しかしないけど。)
(意地悪などしておらんのじゃ。)
(エレナ様は優しいよ。)
(そうかなぁ?)
(そうじゃ。樹のくせに生意気じゃ。)
「あの時、美姫さんに樹君の検査をお願いされていなかったら樹君の才能を見逃すところだったから、龍野家を支える人間としては、美姫さんには感謝しないといけないね。」
「ありがとうございます。」
「話を魔法使いの家系に戻すと、魔法の腕輪への適正の7~8割は母親から受け継がれるから、魔法使いは女系家系だということも覚えておかないといけない。」
「7~8割が母親からって、父親の影響が小さすぎないですか?」
「だからこそ、魔法使いの世界では女性の地位が高くて、女系家系になっているんだ。御三家の当主を代々女性が務めているのもこれと関係がある。そういう事もあって、魔法使いの男性は婿入りするのが一般的になっているから、樹君も御三家の分家筋か外家筋の女性と結婚するとよいかもしれない。よらば大樹の影というしね。」
「男の魔法使いは不遇ですね。」
「そうでもない、かな。魔法の腕輪への適正に対する母親の影響は大きいが、魔力量の最大値はどちらからも受け継がれるから、魔力量が大きい男性魔法使いはモテる。魔法の腕輪への適正への影響も小さいから、別の魔法系統の女性魔法使いと結婚する者もいるくらいだ。」
「成程。」
「それに、女性が生める子供の数は数人だけれど、男性は何人もの女性に子供を自分の子供を産んでもらうことができるからね。今の法律では、優秀な遺伝子を残すために、能力があると認められた男性の魔法使いは最大3人の女性と結婚することが許されているから、もし樹君が優秀な魔法使いでその気があるのなら沢山子供をつくれるよ。」
「僕は1人でいいです。。。」
「今はそうかもしれないけれど、将来は分からない。英雄色を好む、って言われているし。」
(樹、3人の女性と結婚しても美姫は大切にするのじゃぞ。)
(さっきも言いましたけど、僕は1人でいいです!)
(そうですよ。エリカ様、余計なことは言わないで下さい。)
「まぁ、沢山子供をつくれるといっても、魔法使いの女性が24,5歳になる前に生んだ子供が魔法使いになる確率は極端に低いし、子供を産む間隔を最低でも2年はあけないと子供が魔法使いになる確率が低くなるとされているから、そんなに多くはつくれないんだ。」
「そうなんですか?不思議ですね。」
「これにはいろいろな説があるけれど、まだはっきりしたことは分かっていないんだ。ただ、今までの統計上そうだってことが分かっていて、魔法使いは25歳前後で魔力の自然増が止まるから、そこに何か関連性があるっていう説が有力かな。」




