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第1試合がもうすぐ始まるが、出番がまだの僕たちは聡と並んで観戦する。
「いよいよ俺たち1年生の初陣だな。まずは1班からか。」
「元繁は少し緊張しているように見える。」
「美沙はそうでもないみたいね。」
1年生1班と2年生2班が所定の位置に着いた後、審判が入ってきた。
「第1試合を開始する。準備は出来ているか?」
「「はい。」」
「では、始め!」
審判の号令と同時に美沙と元繁が散開する。
「模擬戦での教訓を生かして、2年生に的を絞らせない作戦か。」
「2年生も一瞬戸惑ったみたいだけど、すぐに対応できているのはすごいね。」
「しかし、的を絞らせない作戦だとすると、”楯系”の海斗を出すのはおかしくないか?」
「聡君が疑問に思うのも分かるけれど、自分たちが現時点でどれだけ2年生に対抗できるのか確認しておきたかったんじゃないかな。」
「負けることを前提としているのはよくない気がするけど、闇雲に戦うよりも経験値を得ることに重点を置いたんだろう。」
「成程。」
2年生の放った魔導砲が海斗が発動した魔導楯を直撃する。
ゴーー!パリンッ!
「ぐはあっ!」
魔導楯を砕かれた海斗が魔法壁まで吹き飛ばされる。
「1年生の”楯系”の中では一番の海斗でも2年生の魔導砲を受けると、ほとんどもたないのか。」
「2年生は”大砲系”の生徒が多いみたいだから、実力者も多い、ってことじゃないかな。」
「それに、諒太さんという外家筋の”楯系”の生徒がいるから、普段から鍛えられていて戦い慣れているのかもしれない。」
「そうだとしても、これ程までとは思わなかった。」
残る美沙と元繁は何とか魔導砲と魔導弾の嵐をかいくぐっている。
「しかし、美沙と元繁は上手く逃げ回れているな。」
「反撃できているのは美沙だけだけど。」
「美姫さんは厳しいな。魔導砲で逃げ道を限定されたところに雨のような魔導弾を浴びせられるんだから、逃げ回れるだけでもすごいと思うが。」
「2年生も美沙さんが反撃した時に『やるじゃない』って言ったみたいだし。」
「樹、読唇術ができるのか?」
「いや、映像を見てそう言っているんじゃないかと思っただけ。」
「なんだ、そうか。」
(樹君の言ったことは正解ですな。)
(グレンさんは読唇術ができるんですか?)
(悪魔の耳は地獄耳ですので、ザグレドの力を使えばこの程度の距離であれば何を言っているのか聞こえるのですな。)
(そうなんですね。)
「ぐはあっ!」
元繁が魔導弾を避けられずに食らってしまった。
「ついに元繁もやられてしまったか。」
「あれだけ避け続けたんだから、頑張った方だと思う。」
「美沙もあきらめたみたいね。」
美沙が降参の意を示して、勝敗が決した。
「第1試合の勝者は2年生2班!」
審判が2年生の勝利を宣言し、第1試合が終了した。
「やっぱり、1年生と2年生との間にある壁は高いな。」
「僕らは身体強化を習ったばかりだけど2年生は1年間鍛錬できたわけだから、壁が高くても仕方ないんじゃないか。」
「そうなんだが、美沙や元繁だったら2年生にも善戦できる、と思っていただけに、あっさり負けてしまったのが衝撃的だったんだよ。」
「運もあったんじゃない?第1試合だけ班の数が足らなくて1対1で、1年生にとっては不利な試合だったから。それに、2年生も戦略的にはいい選択をしていたし。」
「どういうことだ?」
「2年生は”楯系”の生徒を出さずに”大砲系”の生徒を2人出していただろう。これは1年生に対してだったら攻撃に専念しても問題ないと判断したからだと思う。」
「確かに、そのとおりかもしれないな。樹はそんなことが分かったな。」
「僕は戦力的にはまだまだだから、せめて作戦面からでも貢献しないといけないと思って勉強をしていたんだ。」
「樹君は過去の魔闘会の映像を見たり、戦術論の本を読んだりして、頑張ってたものね。」
「美姫さんの方が理解が早くて、追いつくのに必死だったんだけど。」
「へぇ、2人はそんなことをしていたのか。」
「それと、試合見ていて気が付いたことがある。」
「何?」
「美姫さんの方が2年生よりも早い。」
「あぁ、僕もそう思った。」
「模擬戦で見せた美姫さんの速度は、さっきの2年生よりも断然早かった。第3試合は1年生が勝って、2年生に一泡吹かせてやろうぜ。」
話をしていると第2試合が始まったので、席を立ち、控室に向かう。
「非力かもしれんが、樹と美姫さんが勝ち上がれるよう、協力させてもらうよ。」
「ありがとう。」
「でも、無茶はするなよ。」
「了解。」
控室に着くとすでに試合が終わっており、2年生が勝っていた。
「第2試合もあっさり負けてしまったみたいだ。」
「そのくらい実力差がかなりある、ということじゃない?」
「そうかも。でも、僕たちはそうじゃない。」
「そうね。まずはこの試合を勝って次に進みましょう。」
スピーカから試合開始を告げる案内が聞こえた。
『間もなく第3試合を行いますので、選手の生徒は入場して下さい。』
「さぁ、行こう。」
「えぇ。」
美姫さんとともに控室を出て闘技場へ向かった。