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竜の女王  作者: M.D
2170年夏
105/688

12

 長かった特訓も終わって、今日は夏休み明け初日である。


「おはよう。聡、なんか黒くなってないか?」

「おはよう。特訓と称して、夏休み中、炎天下で姉貴にしごかれ続けたからな。」

「夏休み前にそんなことを言っていたのを思い出したけど、どんな特訓をしたんだ?」

「秘密、ってことで。死ぬかと思ったが特訓の成果は出たぞ。そういう樹も日焼けしたな。」

「聡が魔闘会に備えて特訓していたのと同じように、僕も美姫さんと特訓してたから。」

「美姫さんと、か。うらやましい。俺なんて鬼のような姉貴と、だからな。」


「聡のお姉さんって、陽菜さんでしょ?」


 珍しく美沙が話しかけてきた。


「そうだが。」

「清楚で優しい百合子さんと、活発で男気のある陽菜さんは3年生の女子の中でも1、2を争う人気のある生徒よ。」

「姉貴は外面だけはいいからな。何故だか分からんが、俺にだけ”かわいがり”とか言って、厳しく接してくるんだよ。」

「不出来な子ほど可愛い、ってやつじゃないの?」

「なんだと。」


「百合子さんについても同感。清楚なのは見た目だけだから。」

「そっか。樹君は美姫さんと一緒に生徒会の仕事をしているから百合子さんについて詳しいのね。百合子さんが清楚なのは見た目だけ、って、普段はどんな感じなの?」

「あんまり聞かない方がいいと思う。」

「そうよ。百合子さんの正体を知ったら幻滅するから。」


 美姫さんも話に加わってきた。


「美姫さんがそう言うのなら諦めるわ。」

「なんだ、美沙、えらく引き際がいいじゃないか。いつもはもうちょっと粘るのに。」

「美姫さんは分家筋、私は外家筋だから、立場をわきまえないと。」

「そんな事気にしてたのか。俺たちはまだ学生なんだから友達でいいじゃないか。」

「私だって美姫さんのことは友達だと思っているわよ。でも、魔法使いは家系を重要視することを知らないわけじゃないでしょう。」

「渡辺家は本流からかなり外れているから、家系はあまり関係ないな。」

「そう言える聡が憎らしい。」

「そうか?俺の立場もいろいろと辛いぜ。魔法使いとしての才能がある美沙のほうがいいに決まってる。」

「私も魔法をうまく扱えていると思っていたけど、美姫さんの実力を知ってしまうと、自分はなんて井の中の蛙だったんだろう、って思うわけよ。」

「美姫さんと比べるのが間違いだ。」


「おはよう。朝礼を始めようか。」


 先生が教室に入ってきたので、美姫さんと美沙も自席に戻っていった。


(美沙さんと一緒にいるところをよく見るから仲がいいんだと思っていたけど、今の話を聞くと微妙な感じ?)

(そうなの。間違っていることとかは正してくれるんだけど、あまり私の意見には反対しないの。ご両親にも立場を考えるよう言われてるみたいだし、私の方に今一歩踏み込んできてくれない、って関係かな。)

(聡も言ってたけど、まだ学生なんだからそこまで気を使う必要なんてないのに。)

(私もそう思ってはいるんだけど、美沙もなかなか変えてくれなくて。)


  ◆ ◇ ◆ ◇


「樹は夏休みはどこにいたの?高校最後の夏休みだから、一夏のいけない経験をしようと思っていたのに、情報端末も繋がらなかったし!」


 生徒会の役員会を終えると百合子さんが迫ってきた。


「えーっと、、、」

「樹君は夏休み中私と一緒にいました。」


 百合子さんの質問に美姫さんが答えた。


「美姫さんと、夏休み中ずっと?私そんなの聞いてないわよ。」

「百合子さんに言ったら妨害してくると思ったから、言わなかったんです。」

「えぇー。もうすぐ魔闘会だし、密着して樹君の鍛錬に付き合ってあげようと思っていたのに。」

「密着って、百合子さんは樹君に何を教えようと思っていたんですか?」

「手取り足取り、って意味だったんだけど。いやらしいことを想像したのかしら?」

「そんな想像していません。それに、百合子さんは”大砲系”なんですから、樹君と魔法系統が違うじゃないですか。」

「魔法系統が違っても、魔法使い初心者の樹君に教えてあげられることはたくさんあるわよ。」

「百合子さんに教えてもらわなくても、樹君は私と一緒に鍛錬をして十分成長しました。」

「そう。分かったわ。」


(百合子さんにしては引き際が早くない?)

(同感。)


 などと思っていると、


「ねぇ、樹。」


 百合子さんが密着してくる。


「百合子さん、樹君から離れて下さい。」

「だって、夏休みの間会えなかったんだもの。樹分を吸収しないと枯れちゃう。」

「枯れはてて下さい。それに樹分、ってなんですか?」

「樹の養分?」

「それだったら、百合子さんが吸収したら樹君が枯れてしまうじゃないですか。ほら、樹君も何か言って。」

「別にいいわよね、樹?」


「えーっと、、、」

「ほら、反対しないってことは、いいってことと同じよ。」

「樹君もちゃんと断って!」

「ゴメン。なんか、もう諦めの境地みたいな気分。」

「ふふふ。樹は物わかりがいいわね。」


 その日は帰るまで百合子さんにまとわりつかれた。

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