02
「今から見てもらうのは中学で学ぶ魔法使いのための教科書です。」
情報端末にダウンロードしたファイルを開いてみる。
「美姫さんは中学校には通っていなかったけれど、魔法使いのための教科書を見たことはありますか?」
「はい。基礎的なことは父から教えてもらっていました。」
「そうであれば、美姫さんは知っていることが多いと思うけれど、復習だと思って聞いて下さい。」
「はい。分かりました。」
「さて、まずは魔法使いについて説明しましょう。樹君は魔法使いについてどの程度知っているのか教えてくれませんか?」
「はい。魔法使いと呼ばれる人達はファンタジー小説に出てくるように炎とかを出せたり、カボチャを馬車に変えたりできるわけではなく、単純に魔力が放出できるだけ。それでも悪魔を倒したり、悪魔の攻撃を防いだりすることができるのは魔法使いだけだから、人類が生き残っていくために必要不可欠な人達、というくらいです。」
「一般的に知らされているのはそうなんだけれど、実際には魔法使いは悪魔を倒せるような魔力を放出できないんだ。」
「そうなんですか!?」
「悪魔を倒せるような巨大な魔力を人間の体内で生成できると思うかい?もし仮に生成できたとしても人間の体がそれに耐えられないかもしれない。」
「確かに、そんなことまで考えていませんでした。」
「美姫さんは説明できますか?」
「はい。”魔法の腕輪”から魔導力が出力されるのであって、魔法使い自身の魔力が放出されているわけではありません。」
「そのとおり。魔導力というのは魔法の腕輪によって生成されたエネルギーのことで、魔法の腕輪は周りにある物質や人間の体内にある物質を、魔法使いから吸収した魔力量に応じた魔導力に変換していることが実験で分かっているんだよ。だから、普通の魔法使いは”魔法の腕輪なし”には魔導力を放つことができない。」
情報端末に映し出された教科書には魔法使いと魔法の腕輪の関係が説明されている。アインシュタインとか質量とエネルギーの関係とか。
「魔法使いがはめている腕輪にそんな理由があったなんて知りませんでした。魔法使いである証だとばかり思っていました。」
「魔法使いが純粋に巨大な魔力を放出できると思ってもらったほうが都合がよいからね。魔法使いは魔法の腕輪がなければ普通の人よりも少しだけ魔力量が多いのと、魔法の腕輪への適正があることくらいだろうね、肉体的な違いは。」
「魔法の腕輪への適正ですか?」
「そう。樹君も受けたよね、魔力検査。あれは魔力量とともに魔法の腕輪への適正も検査しているんだよ。魔法の腕輪には主に”大砲系”、”銃剣系”、”楯系”の3種類あって、適正がないと魔力を入力しても悪魔に通用するような魔導力が放出されない。」
「そうだったんですか。」
「魔法使いは魔法の腕輪なしには魔導力を放つことができないから、魔法の腕輪への適正がないと、どれだけ魔力量があったとしても魔法使いとは認められない。だから、魔力検査では3種類の検査用の腕輪が付いたベルトを使って適正をみるんだ。
魔力検査帯は”大砲系”は赤、”銃剣系”は青、”楯系”は緑の光が魔力量と適正に応じて光るようになっていて、その光量を測定することで魔法使いとしての素質を見極められるようにできているんだ。」
純一先生が電子板に説明を書いていく。
「知りませんでした。」
「魔力検査は義務だから全員が受けさせられるけれど、魔法系統については知らされていないからね。でも樹君も第二次悪魔大戦の映像を見たことがあるだろう。」
電子板に当時の映像が映し出されている。
「はい。2英雄である”六条武”と”龍野圭一”が悪魔を次々に倒していく映像は何回も見ました。」
「映像にあるように、六条氏は巨大な魔導砲を放っていて、龍野教授は六条氏が撃ち漏らした悪魔を魔導矢で撃ち落としているよね。これは、六条氏が”大砲系”で龍野教授が”銃剣系”だからこのような戦い方になったんだよ。」
「それぞれが得意な戦い方をしているのだとばかり思っていました。」
「2人の素質がそうさせていたんだ。そして悪魔が侵入しないように魔導防壁を展開しているのが”楯系”の魔法使いたちだ。地味な黒子のような存在だから英雄とは呼ばれなかったけれど、それでも東京を守った紛れもない勝利の立役者なんだよ。」
「”楯系”って不遇ですね。」
「そうでもないんだ。第二次悪魔大戦で一番死者が少なかったのは”楯系”の魔法使いたちだから、実際には”楯系”の家系に生まれたかったと思っている魔法使いは多い。」
その後も、教科書を使って魔法使いについて学んだが、覚えないといけないことはたくさんありそうだった。
「今日はここまでにしようか。また明日同じ時間にここに来て下さい。」
「はい。分かりました。ありがとうございました。」
補講が終わり美姫さんと寮へ帰る道すがら話をした。
「魔法使いのことを知って、違う世界に来たんだな、と改めて感じた。」
「私は魔法使いが周りにいるのが普通で、逆に樹君がどう感じているのかは分からないけれど、住む世界が違うってそういうことなのかもしれないよ。」
「同意。」
「でも、純一先生が言っていたように、魔法使いと普通の人の身体的な違いは、普通の人よりも少しだけ魔力量が多いのと魔法の腕輪への適正があることくらい。だからほとんど同じよ。」
「そのことなんだけど、純一先生は魔法の腕輪への適正については教えてくれたけど、『魔力についてはまだ分からないことが多くて説明できない』って言ってたよね。魔力って何なんだろう?」
「父は大学で魔力について研究していて、思考によって発生する精神エネルギーが魔力でないか、とか言っていたような。。。」
「思考によって発生する精神エネルギー、か。美姫さんのお父さんは大学で研究していたから、龍野教授って呼ばれているの?」
「そうだけど、樹君には言っていなかったっけ?母の体が弱い原因が魔力にあるんじゃないかって、研究を始めたって聞いたわ。」
(圭一の『魔力は精神エネルギーでないか』と考えたところは部分的に正しいのう。)
突然エレナ様の声が聞こえてきたので、二人で顔を見合わせた。
(エレナ様は魔力が何か知っているんですか?)
(当然じゃ。人間を作ったのはワレじゃからのう。)
えっ!?
(『地球上の生物の進化を操作して人間を作ったのはワレらじゃ』と病院で話したことを覚えておらんかったのかのう?)
(あの話は本当だったんですか?あの時は僕をごまかすために適当な話をしたんだと思ってました。)
(なにを言うか!)
(樹君、エレナ様の話は本当よ。エレナ様も樹君は今までエレナ様のことを知らなかったんですから、いきなり神様だ、って言われても疑って当然だと思いますよ。)
(美姫が言うことも分からんではないのじゃ。)
(樹君には私からも説明しておきますので、今は魔力について教えてもらえませんか?)
(よいじゃろう。もうすぐ寮につくから、後で話そうかのう。)
(お願いします。)