第1話 この世界はどこもこうだ。
「ハアっハアっハアっ……!!」
地面はぬかるみ丈の高い藪の生い茂った獣道を、ガル・リーバスは手で藪をかき分けながら追っ手から逃げていた。
「(くそっ、いつまで追ってくるんだよ)」
追手は数人。男性は一人もおらず、全員女性。
小柄なガルでも腕力や体力で相対すれば、勝てるような相手だ。
けれども、それはできない。
『男は女を見たら即逃げる』
それがこの理不尽な世のルールだった。
法的な決まり事ではない。そうしなければ、男はこの世界でまともに生きることができないからだ。
「……撒いたか?」
かれこれ逃げ続けて数時間。
スタミナには自信のあるガルだったが、さすがに泥だらけの藪を全力疾走するのは体にこたえた。
藪を抜けて着いたのは、石切場のような巨大な岩が並び立つ土地だった。
ガルはその中でも、とりわけて大きな岩陰で膝を抱えるようにして隠れていた。
「いい土地だなぁ……」
岩場の周りは芝生のような丈の低いフワフワとして触り心地のいい草に覆われ、所々に生えた木々が作る木陰は本当に寝心地が良さそうだった。
爽やかな風が吹き抜け、色とりどりな鳥たちが木の実を啄んでいる。
あの藪を抜けた先にこんな綺麗な場所があるとは思わなかった。
「なんだか見たことのある景色な気がするんだけど、思い出せないのはどうしてだろ……」
ガルは自分の出身地を知らない。
どこから生まれて誰が親なのかもわからない。
気付けば、自分は歩いていて走っていて人語を話していて――そして、ガルを自分のものにせんとする女性や、命令を受けて操られている男性に追い掛け回されていた。
ふとガルは自分の隠れている岩の近くに、入り口が二メートル四方程度の洞穴があることに気が付いた。
確認するように中に入る。と、風通しはなく少し薄暗くはなっているものの、ジメジメともせずかなり快適な隠れ家になりそうだった。
棚から牡丹餅のような思わぬ収穫に、ガルの頬がついつい緩む。
「これはラッキーだなぁ……でも、これだけ住み心地の良さそうな洞窟となると……」
獣が魔素を取り込みすぎて変化した『魔獣』が住み着いている可能性がある。
ガルは足元にある小石を拾って、遠くに投げてみる。
「……反応はない、か」
魔獣定住の疑いも晴れ、ホッと一息吐きながら穴の少し奥に進んでみる。奥行きは十メートル程しかないが、住処にしては丁度いい広さだった。
「痛っ!」
歩いていると、コツンという音ともに頭が何かにぶつかった。
暗がりに目が慣れてくると、そこにあるものの正体が見えてくる。
「……電球のソケットかな?」
手に取ってクルクル回してみると、案の定明かりがついた。
「これまたラッキーだn……え?」
電球?そんな文明的な物がどうしてこんな場所に――
――とそう思った刹那。
「動くな」
背後から、そう声が掛かった。
これから不定期に投稿していきます。できれば、二日に一度は更新出来たらいいなと思っています。




