ユンカーは仕事熱心です。
暇つぶし、第2弾
ここはユーラ王国。
大陸の北側の町、ホリデー伯爵が統治する町ホリデー。
ユーラ王国は大きな島、1つの大陸が単独国家だ。
島、の名はビッグ島。
そのものである(笑)、さしずめ日本風に言えば、”大島”。
大きさは南北に1500キロ、東西に2000キロのラグビーボールのような楕円状の形をしている。
まー、島の内部には巨大な山脈がウネウネ、概ね海岸線より10キロ圏内が人間たちの生活圏。
それよりも島の中央付近は未開の地、といった世界だ。
ホリデーの町は海岸沿いの町。
南側に向かってなだらかに高度が上がってゆき、町の南側、約5キロのところに”アルフレッド牧場”があり、その先は急こう配に高度が上がってゆく。
30キロ先には万年雪が山頂を飾る、東西200キロに及ぶ”カミサマ山脈”、5000M級の連峰の荒々しい岩肌が人の行く手を阻む。
”アルフレッド牧場”からさらに5キロ程の急こう配の先に広大な”ミケローネ樹林”が”カミサマ山脈”の山裾に広がる。
南北に15キロ、東西に100キロに及ぶ”ミケローネ樹林の中に大小7つのダンジョンが確認されている。
町の東側は”カミサマ山脈”を水源にミケローネ樹林を突き抜けて悠々と流れる大河”ホリデー川”。
海に流れ込む河口付近では幅が70Mほどの川の水はホリデーの町の人の水源だ。
川から引きこんだ細い小川は毎分10リットルの水を、10Mの長さの沈殿槽と砂礫や炭を利用した濾過槽を通して浄化して、水汲み場に供する。
そして飲料水の水くみ場の下流の生活用水は20Mの沈殿槽を通して濾過。
その先に2メートル四方、深さ1メートルの共同洗濯場があり近所の主婦たちが仲良く洗濯をしに来る。
ここが町の情報の集積地、いつでもおばさん達がにぎやかである。
余った水は再び弧を描く形で川に戻される。
こうした簡易的な濾過装置はユーラ王国各地で広く利用されている。
一説には500年前に異世界”チキュウ”から来た勇者が魔王討伐のたびの途中、王国各地の飲料水に窮していた村々にこの方式を伝えたとか。
さしずめ、弘法太子か行基上人のような、あがめられっぷりだ。
70センチの深さの沈殿槽の砂の掻き出しは重労働だ。
しかし水汲み場の管理、沈殿槽、洗濯場の砂出し、濾過槽の砂礫や木炭の交換は冒険者ギルドの初級者たちの安全な稼ぎ場である。
人口2万人くらいのホリデーの町はユーラ王国北部において最大の町。
”冒険者ギルド ホリデー支部”、通称ホリデーギルド。2階建ての木造の建物はいかにもお役所的なたたずまいで町の中央に陣取る。
1階中央の入り口より左側はギルドの依頼張り出しコーナー、および各種受付窓口。
右半分はギルド直営の食堂、兼、酒場。
「ありがとうございま~す。」
少女特有の可愛い高い声がギルドに響く。
受付カウンターで報酬を受け取る、”チビッコロケット団”、ではなくて
冒険者チーム”ロケッツ”。
「あ、そうだ。ユンカーさん。
こないだ教わったアレ、だいぶ集まったんで見てもらえます。」
ロケッツの3人がヒソヒソ、とユンカーに声をかける。
フム、”アレ”とは穏やかでないな(笑)
まだギルドに入ったばかりのユンカー。
受付係の業務もやってます。
「ミサさん、”ロケッツ”の買い取り査定しに行きますんで受付を10分くらいお願いします。」
細い銀縁メガネ、背は170センチくらい、スーツのように見えなくもない服を着た目立たない人。
それがユンカーだ。
「いいわよ、いってらっしゃい。」
金髪ロン毛の長身美人お姉さん、ミサさんが受付にユンカーと変わって座る。
ユンカーとロケッツ3人組は昼前でまだ冒険者たちが戻る前の時間、誰もいない買い取りコーナーで4人掛けのテーブルに座る。
「では見せてもらいましょう。」
ユンカーがそう言うとイーザが肩掛けカバンの中から透明な小さなビニール袋、(なんとジップロック)を取り出す。
その中には金粉、いや砂金。
ユンカーは懐から小さな白い台秤を取り出す。
上皿式の精密台秤、デジタルメーターのメードインジャパン(笑)。
上皿に小さな紙を載せ、増えたメモリをゼロに修正する。
ジップロックから丁寧に砂金を紙の上に広げる。
「7.2グラムありますね。
3日間でこの重量だと1日に2グラムは行けそうですね。」
「今日の買い取り値は1グラム3000リン、計21600リン。」
「先の3日間が6.8グラム、最初の3日間が8.1グラム。
予想を大幅に上回る成果ですね。
調査にご協力、感謝いたします。」
「この金はアルフレッド牧場の上、こわいこわ~いミケローネ樹林の中の金脈から流れてきます。
最近1週間、大きな雨がありません。
砂金は川の勢いで山の上から流れてきます。
激しい雨がミケローネ樹林に降れば、広い樹林の中のどこかでがけ崩れが起きて山の表層の金脈が現れそのおこぼれが流れ出たり、流れ残ってた砂金も下流に向かって大量に流れてきます。
そういうわけで今は砂金は一番取れない時期と言えるでしょうか。
あなた方は、砂金ふるいは一日2時間くらいでしたよね、1時間で1グラム。
すごいイイ稼ぎ場と言えるでしょう。」
「あなた方が一生懸命に川の水汲み場の砂取りをしてくれているから、私は川底の砂、ロケッツが毎日さらう川底の砂の権利をホリデーギルドにもらいました。
ギルドマスター、エスカイヤ様がお父上ホリデー伯爵に頼んで正式に認可されました。
ですから、正式に川底の砂金採りを”ロケッツ”に認可します。
この認可は1か月更新です。
そして、この許可は水汲み場清掃、の新人チームに出していくつもりです。
もしも、あなた方よりも新人さんがこの依頼を受ける場合はそちらを優先する、もしくは当番による交代制になるかもしれません。
それまでの間、ロケッツが川底の砂をどうしようと自由です。
例えば、キレイなシスターやホリデー孤児院の子供たちを雇って砂金採りをしようと構わないと、伯爵様からは許可をいただいてます。」
「ただ気をつけてください。
水汲み場は人の目につくところです。
そこで稼ぐ、ということは予想外の危険を招く可能性もあります。
例えば、用心棒を一人雇いたいとか、だったらギルドは当然、お手伝いします。
けがで療養中の冒険者や体力的にダンジョンに潜れなくなった人、など雇用が生まれれば、おっと、仕事がひとつでも増えればギルドも万々歳です。」
『砂金採り、調査。』、依頼成功。成功報酬 12000リン
砂金買取 7.2グラム 21600リン
合計 33600リン
「この依頼は内密の物でしたので依頼料はこの場でお支払します。」
そう言って、ユンカーはテーブルの上に1000リン銀貨を33枚、100リン銅貨を6枚きれいに並べてから、代表のイーザに渡す。
「さて、では新しい依頼の説明をします。」
「今回の調査により、水汲み場清掃、の依頼を受けているチームは強制的に砂金採りの権利も借りなければなりません。
金額は月20000リン。
このお金で”第二水汲み場を作る予定です。
”ロケッツ”さんは1か月単位で最大3か月、水汲み場の清掃、の依頼を受けられますがどうでしょうか?
今日とは言いませんので2日以内にお返事を下さい。」
「も、もちろん3か月やらせてください。」
イーザが立ち上がって言う。
「ロケッツならそう言ってくれると思ってました。
でも2日待ちますからシスターや孤児院のみんなにも一応聞いたらどうでしょう。」
3人組の初級者少女の冒険者チームは水汲み場清掃係。
水汲み場のお掃除をして昼前にギルドに戻り、その報酬でお昼ご飯をギルドで食べて、午後からは近場で薬草を採る。
それが彼女たちの日課、雨の日も風の日も。
お仕事に情熱、ネ~わ(ダメダメなわたし)