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8連絡した先は

 放課後、家に帰るとすぐ、愛理は家の電話の子機をもって、自分の部屋に急いだ。母親には不審がられたが、それでも愛理には急いで電話する必要があった。しかも、他人に聞かれてはまずい内容なので、自分の部屋に子機を持ってきたというわけだ。



「ええと、この番号に電話すればいいよね。なんだか緊張する……」


 電話の相手は、先日ワビーの散歩中に出会った謎の男だった。名刺をもらっていたことを思い出した愛理は、電話しようと決意した。名刺をもらったのは、事件が起きる前であり、すでに何カ月も過ぎていた。しかし、電話した方がいいと愛理の本能が訴えかけていた。理由はわからないが、実行した方がいいと感じたので、愛理は電話しようとした。


 受話器を持ち、いざ番号を押す段階になって、緊張してしまった。なかなか、発信ボタンを押すことができない。


 心の中で、この電話を掛けたら、いつもの日常はもう戻ってこないことがわかっていた。すでに不審者が妹の美夏を傷つけてから、今までの平穏で退屈な日常は崩れ去っているが、この電話をかけなければ、そのまま穏やかに時間が解決して、元通りとまでは行かないが、いつも通りの日常が戻ってくる。そんな予感がした。それでも、愛理は何者かに操られているかのように、発信ボタンを押した。


 今の生活が壊れていく感覚があった。いや、愛理にとって、今の生活はすでに壊れている。美夏が不審者に襲われた日から愛理の日常は狂いだしていた。それが、さらに壊れていくだけだ。愛理はそんな中で、心の高揚を感じていた。自分の感情に戸惑うが、どうしようもなかった。



「プルルルルル」


 電話のコール音が鳴り、ドキドキと愛理の胸は激しく鼓動する。名刺に書いてあった名前の男は出るだろうか。出たとして、愛理は自分のことをどのように説明するのか考えていなかった。最悪、自分と会ったことも忘れているかもしれないという恐怖もあった。


「もしもし、タイムイズマネー株式会社 百乃木です」


「も、もしもし、ええと」


 電話に出たのは、間違いなく、名刺をくれた男だった。しかし、いざ、相手と話そうとしたとき、自分がどのように名乗っていいのかわからなくなった。散歩途中に出会った、小学生の女子ですが、とでも名乗ればいいだろうか。そもそも、愛理は相手に名前を伝えていない。それだけで自分を思い出してもらえるのか不安になった。



「その声は、確か……」


 幸い、相手は愛理の声を思い出そうとしてくれた。聞き覚えのある声だと必死に記憶を探っている感じが電話越しから伝わってくる。


「わ、私は、この前犬の散歩途中に会った、朱鷺愛理ときあいりです。覚えていますか。私に名刺をくれたこと」


「ああ、思い出しました。それで、私の話に興味を持ってくれたということですね。連絡がないから、興味がなくて、名刺を捨てられてしまったかと思いましたよ」


 朗らかに笑う男は機嫌がよさそうだった。



「電話で話すほど軽い内容ではないですから、また同じ公園で少しお話ししましょう。ちょうどそちらに用事があるので、お会いできると思いますよ。」


 そして、トントン拍子に会って話す段取りが決められていった。あまりの展開の速さに驚く愛理だったが、それでも何か自分の知らないことを知れるという好奇心が勝り、男に会う日がとても待ち遠しく思うのだった。


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