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6事件の後遺症

 愛理の学校に不審者が侵入した事件は、あっけなく幕を閉じた。愛理が気を失っている間に警察が入り、犯人は現行犯逮捕されたようだ。男の名前は「石崎雷徒いしざきらいと」二十歳。専門学校を卒業後、就職ができなかったストレスで、自分の母校であった、愛理たちの学校を襲うことを思いついた。


 自分より弱いものをなぶってストレスを発散したかった。そこで、自分が通っていた小学校のことを思い出した。小学校にいじめられていたことも記憶としてよみがえり、犯行に至ったそうだ。犯人の男の犯行動機がニュースキャスターによって報道されている。




 その様子をテレビで見ながら、愛理は物思いにふけっていた。この事件で、犯人はナイフを持っていたにも関わらず、けが人は奇跡的にいなかった。


 ただし、この事件で、妹の美夏は姉である愛理の記憶を失ってしまった。それ以外のことは覚えているのだが、愛理の記憶だけごっそりと抜け落ちてしまった。医者は、無理に思い出そうとすると苦しむので、ゆっくり時間をかけて思い出させていけばいいと言っていた。


「ええと……」


「どうしたの?」


 リビングでテレビを見ていた愛理に声をかけたのは、妹の美夏だった。不安そうな表情で愛理を見つめている。家に見知らぬ女の子がいたら、不安や戸惑いを覚えるのは、当たり前だ。とはいえ、両親は愛理のことを美夏の実の姉だと根気よく説明していた。記憶がなくて、愛理のことを赤の他人だと本人が思っていようと、愛理は美夏の姉であることに変わりはなかった。それに、愛理と美夏は顔がよく似ているので、記憶がなくても赤の他人で通すには無理があった。



「お姉ちゃん、今まではそう呼んでいたよ。私のこと。まあ、今日も思い出すことはないだろうけど。学校の宿題をやっていなかったから、自分の部屋に戻るね」


 愛理も両親に習い、妹が自分のことを思い出してくれるよう、自分のことを根気よく説明していた。しかし、何度説明しても、妹の美夏は愛理を自分の姉だと認識するまでには至らない。まるで、何者かに、愛理のことを姉と思うなと言われているような、不気味な感じだった。


 そのため、愛理は美夏に声をかけられるのが苦痛だった。初めの方こそ、美夏にしっかりと向き合って自分が姉であることを思い出してもらおうと努力はしたが、事件から一カ月が過ぎた今では、すでにあきらめていた。


 気まずくなるので、大抵は自分の部屋に駆け込むのが習慣となりつつあった。






 いつもの習慣で、自分の部屋に戻った愛理は、深いため息をつく。もし、このままの状態が続けば、気がめいってしまう。どうしたらこの状況を打開できるのだろうか。医者は時間が解決してくれるというが、それでは先に愛理の方がまいってしまいそうだ。


「こんな苦痛が続くなら、いっそのこと、この時間を誰かにあげることができたらいいのに」


 つい、そんな自虐的なことをつぶやいてしまう。



『そんなに時間をあげたいなら、協力してもいいけど』


「でも、時間を売買できるのは、一八歳以上の成人でしょう。私はまだ十歳で、時間を売買できる年齢ではないよ」


『それは、時間の売買が子供に与える影響を考慮してのことみたいだよ。別に子供だからといって、時間を売買できないわけじゃない』


「しらなかった……」


 はて、と愛理はここまで会話して、やっと自分が誰かと話していることに気付く。部屋にいるのは自分一人であり、自分以外に人はいない。その事実を知り、愛理は急に怖くなって顔を蒼くして震えだす。幽霊などの非科学的なものを信じてはいないが、それならば誰と話していたのか、説明ができない。そんな恐怖で愛理はきょろきょろと自分の部屋を見渡していた。


 急に静かになった愛理に、声の主は不審に思ったのだろうか。



『どうしたの。何か浮かない顔をしているけど。ああ、そうか』


 声の主は、愛理が何を考えているのかわかったかのように、突然自己紹介を始めた。


『僕の姿が見えないから、怖くなったんだね。僕が誰だかわからないことも原因か。かわいいなあ。仕方ない、まずは自己紹介でもしますか』


 こほんと咳払いし、謎の声の主は自己紹介を始めようとした。


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