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10時間を売りたい人

 最上階には部屋がいくつか並んでいたが、男に案内されたのは、エレベーターから一番遠い部屋だった。


「ここで少し待っていてください。ソファに腰かけてリラックスしてもらって構いません」


 扉を開けると、そこは応接間となっていた。ソファと机が並び、向かい合って話せるようになっていた。男は愛理をその場に残し、去っていく。部屋に残された愛理は手持無沙汰になりながらも、今後のことを考える。足が疲れていたので、男の言葉に甘えてソファに座ることにした。



「私って、もしかして、とんでもない場所に来てしまったのかな。勢いでここまで来てしまったけど、これからどうしようか」


『どうしようかという意味がわからない。男の働いている時間売買を仲介する会社に来ただけの話。そこまで緊張することはないと思うけどね。相手は別に愛理のことを取って食おうというわけじゃないでしょ』


「そうかもしれないけど……」


 愛理の脳内に白亜の声が響き渡る。声の主を探して辺りを見回すが、部屋の中には、愛理以外に人の姿は見当たらない。


『ちゃんと清めの塩を持ってきているおかげだね。これからも僕の形見を肌身離さず持っておけば、こうやって話をすることができるよ』


「声だけ頭の中に聞こえるって違和感ありまくりだけど、仕方ないのかな。できれば白亜の姿を見ながら話をしたいところだけど」


『もちろん、それも可能だよ。とはいえ、時と場合に寄るかもね。ほら、やってきたよ』


 白亜が話し終えると同時に扉がノックされ、男が戻ってきた。用事は済んだのだろうか。



「待たせてしまってごめんね。仕事の定時連絡をするのを忘れていて、その報告をしていたんだ」


 男は、愛理の正面のソファにドカッと座り込む。そして、少しの間考え込むように目を閉じていた。そして、思いついたように愛理に質問する。



「ところで、君は、時間売買についてどう思う?」


「とても良いシステムだと思います。今の世の中、私のような退屈で暇を持て余している人間にとっては、その退屈な時間、人生を売ることで、お金を得ることができる。お金を得ることができるし、いらない時間を売ることができるので、一石二鳥でメリットが多い。もちろん、時間が足らない人にとっても、金をかければ自分の時間が延びるので、これもまたメリットがある」


 愛理は、突然の質問にひるむことなく回答する。時間売買についての自分の考えを正直に言葉にしていく。



「時間を買いたい人は、夢や希望にあふれている人、そんな人が時間を買って行動を起こせば、きっと世の中のためになる。時は金なりというけど、本当にそう思う。そんな人たちのために私たち、退屈を持て余している人間は時間を売る。需要と供給が成り立っているからこそ、百乃木さんたちのような仕事があるのでしょう?」



「なるほどね。小学生とは思えない言葉だな。それに、需要と供給なんて難しい言葉をよく知っている。君はまだ小学生なのに、人生に退屈しているというわけか。その時間を売りたいがために、私が渡した名刺に連絡をしてきてくれたのかな」



 愛理の答えにうんうんとうなずきながら、男は、愛理が自分と接触しようと電話した理由を尋ねる。


「私は……」


「ああ、その前にちゃんとした自己紹介をしてなかったね。話はそのあと、ゆっくり聞くよ。私の名前は百乃木大夢もものきたいむ。時間師をしています。タイムイズマネーの社員です。よろしく」


 自己紹介を終えた百乃木は、握手をしようと愛理の目の前に右手を差し出す。反射的に差し出された右手を握ってしまった愛理。その手は百乃木によってぎゅっと握りしめられ、痛いくらいだった。


朱鷺愛理ときあいりです。こちらこそ、お忙しい時間を割いて頂きありがとうございます」



「お礼は別にしなくて構わないよ。それでは本題に入ろうか。愛理さんは、どうして僕に連絡をしてきたのかな。やっぱり時間売買をするためだよね」



「私は……」

 






「話は以上だ。何か他に知りたいことがあったら、遠慮せずにこちらに連絡をくれればいいよ」


 百乃木との話を終えた愛理は、車で家まで送ってもらうことになった。家の前で車をとめられると両親に怪しまれるので、待ち合わせ場所の公園まで送ってもらうことにした。家に帰ると、緊張していたのだろう。どっと疲れが出てきて、愛理は自分の部屋のベッドにダイブした。


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