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06 色とりどりのオッサンⅡ

 クラン【大赤字】のクランマスターに加入申請を出したところ、夜の7時ごろに受理された。職場から帰宅したクランマスターが早速受理してくれたようだ。


【大赤字】のクランメンの大半が帰宅し、コミュニティのチャットにカスタムマッチのお誘いが張られる。


 カスタムマッチ。

 それはレーティングマッチやカジュアルマッチとは違い、対戦人数・マップ・コスト・チームメンバーなど、開催した人がルールを自由に設定できるモードだ。


 一戦あたりの報酬と経験値は最低に設定されているが、人が集まっているルームに入れば戦うまでの時間が少なかったりするのでカスタムマッチを主戦場にしている人も多い。


 基本は野良プレイヤーを集めて遊ぶものだが、今回は異なる。

 ルームに鍵をかけ、コミュニティで集めた面子のみで遊ぶ完全なる身内戦だ。



       ○



 同じクランのメンバーは同じサーバーに集結する手段があるため、現在BCDオンラインのロビーとなっている傭兵ギルドの建物には、【大赤字】に所属しているプレイヤーが集結していた。


 今日の身内戦の発起人であり、面倒な試合設定の変更を担当してくれる【わざおぎ】さんの周囲に人が集まっていた。

【わざおぎ】さんのアバターは長身でスレンダーの金髪ポニテだ。

 しかし中身はオッサンであり、ボイスチェンジャーを噛ませてない地声を常に垂れ流している。

【わざおぎ】さんが口を開いた。


「なんで12人以上集まっているのに7人しか部屋に入らないんです?」


 現在集まっているのは私を含めた全員で20人ほどである。


 集まっていたクランメンの誰かが【わざおぎ】さんに「俺は観戦側に回りたい、今日はそんな気分」と声をかけている。


 皆は思い思いに無責任な会話を続けた。

「そのうち待ってれば集まるでしょ」「俺まだレートB+だから部屋に入るの恥ずかしい」「だって部屋に入ってくるのみんな強いから足引っ張りそうだし……」「観戦しつつ駄弁るの楽しいし……」


 BCDオンラインの外部に作られているクランのコミュニティを見れば『今試合中だからあと八分待って!』とのメッセージが。

 私も参加を表明している。

 しかしあと5人を待っている時間を使えばレーティングマッチで何戦かできそうで、しかし一旦この場から姿を消せば皆のモチベーションに響くので待機の呪縛から逃れられず、歯痒い気持ちでいた。


 そんな中、戦う意思はないが集まっていたクランメンバーの誰かがこう言った。


「そういえばうちのクランで一番強い人って誰だろう」


 唐突すぎる火種の投下であった。


 クランメンバーの大半は聞こえないふりをしようとして目を背けたが、とりあえず話題には噛みつく人たちは確実にいた。

 クラン【大赤字】はしょせん身内クランで、活動方針などのない緩い空気が最大の特徴だ。

 基本的には馴れ合うための集まりで、内部で切磋琢磨すべきであるという意識が極めて薄い現状の中、投げ込まれたのが上の「格付け」という話題である。


 一人二人、三人四人と格付けの話題に参加する人が増えていき、また一人また一人と暇つぶしに会話に参戦していく。

 そして個人名を口にし始めるメンバーが出現し始めたとき、立ち上がった少女がいた。


「なぁおい。そもそも強さの定義ってなんだよ。レートか? レベルか? タイマン力か? 連携力か?」


 立ち上がった少女は男だった。銀髪ツインテールロリのアバターのその人は【ノララ】さんだ。中身はオッサンであり、ボイスチェンジャーを噛ませてない地声を垂れ流している。

 クラン【大赤字】における頭脳要因の一人で、他クランとのやりとりを務める外交官だ。

 現状最もクランに貢献している人だが、クランマスターではない。


 【大赤字】の平均年齢と女性型アバター率は高めである。

 【ノララ】さんがふっかけた議題に、色とりどりのオッサン達はざわざわし始める。


「むしろレートってカンストしてないやつって何人いるの?」「レベルなんて長くやってる指標しかならないしな」「チームとチームの戦いなんだから個人の技能よりも連携のほうが重要なんじゃねぇの?」「一部のやつらは一人で戦線崩しに来るぞ。そこんところどう考えるんだ」「味方のサポートに徹するとやたら強いやつもいるぞ。前線での援護射撃とか後衛の護衛とかしてる目立たない強者」「拠点工作とかで一発逆転狙ってくやつは――」「あとはセオリー無視して戦線引っかき回すだけ引っかき回してチームの連携ズタズタにしてくる変なのもいるけど」


 その光景を見て【ノララ】さんはなぜかニヤニヤしていた。

 気合い作られたその美貌は彼の性格を受けて歪んでしまっている。


「何だよ誰も答えを出せないのかよ」


 【ノララ】さんは得意げに皆を煽った。

 私は関わりたくないので部外者のふりをしてそれを見ていた。


「じゃあ結局なんだってんだ」

 誰かが答え合わせの要求を唱えると、【ノララ】さんは堂々と仁王立ちして、


「俺たちはチームの歯車なんだからどれだけかみ合うかが重要なんだよ。むやみに高性能なの揃えたってうまく噛み合わなかったら試合には勝てん」


 そして続け様に断言した。


「一番強い個人は知らんが今集まっているメンツで強いチームなら分かる。おい、そこのBタイプの二人、こい」


 誰かが呼ばれたが、周囲を見渡してもノララさんが求めていそうな人物は見当たらない。


「那由他とプロト、おまえらだよ。絶対に魔術師殺すマンととりあえず動くやつ皆殺しするマンのおまえら2人を主軸にするぞ」


 名前を呼ばれてぎょっとしてしまったが、それよりも大事なことがあった。


「待ってノララさん、どっちがどっちなんです?」 私は聞いた。

「プロトはとりあえず動くやつ皆殺しするマンだろ、自覚がないのか」

「無いよ!」

「私はウーマンだよ!」 那由他もピンクのツインテールを振り回して抗議の声を上げている。


 【ノララ】さんがこっちに来いと手招きをするので渋々私は立ち上がって移動した。


「次は騎士皆殺しにするマンの『わざおぎ』と、とりあえずこっちに攻めてくるやつ皆殺しするマンの『ギザ歯』でいい。那由他とプロトが攻めきれなかったときのダメージディーラーと戦線の維持はこの2人がいれば安全」


 今回の中心人物であった金髪ポニテ美女の【わざおぎ】さんと、文学少女的な雰囲気を醸し出す緑お下げ髪の少女である【ギザ歯大好き】さんが指名された。

 立ち上がる2つの美少女の皮を被ったオッサンは仕方ないと行った様子で移動を始める。


「最後は俺と、戦士絶対に殺すマンの【頭痛】。頭痛には攻めてリスポン拠点取って盤面有利を取ってもらいつつ、俺が帳尻合わせでいろいろフォローする」


 最後に呼び出されたのは【頭痛が痛い】さんだ。外見はボリューミーで癖のあるプラチナブロンドが特徴的なロリ巨乳だ。やはり中身はオッサンである。


 厳選されたメンツを見て、クランメンバー達は動揺しつつも臆さず反論を大声で述べた。


「うわぁ……なにこの超攻撃型パーティー……!」「強い奴ら集めただけじゃないかてめぇ!」「いくらなんでも適当すぎるだろ!」「こんなの誰が考えても一緒だろ!」「俺は!? ねぇ俺はどうなの?!」


 【ノララ】さんはほとんどの意見を無視して、こう言った。


「ちゃんとバランス考えてるわ。即席打ち合わせ無しパーティーならこれが一番強いってだけだよ」


 矢面に立ったような居心地の悪さを覚えながら、ちょうど試合に出撃できるメンバーが12人そろったので強さ云々の話題は立ち消えになった。



       ○



 夜九時ごろ。

 着信が届いた。

 マツリカからだ。

 今回は文面でのやり取りではなくボイスチャットのようだった。


『征旅の鎧改が買えました! 今から戦い方教えてもらいませんか!?』


 早速受理すると彼女の元気な声が届く。

 声に加工は無い。本当に女子学生のようだった。


『えっ? 今から?』

『いつからなら平気ですか?』


 ……食いつきと話の早さが凄い……!


『えっと、そのやる気は何なの……?』

『私、ちょっと前にAレートの人に一対一で手も足も出なくて……。でも、もしもその人とまた戦えるのなら、いつかリベンジしたいんです』

『ちなみになんて人? 名前覚えてる?』

『ユリス、って人です』

『ああユの字ね』

『ご存知なんですか?』

『超有名だよ。このゲームでユといったらユリスのことを指す。敵のチームにいたら負けを覚悟するレベルで強い、圧倒的に』

『戦ったことあるんですか?』

『そりゃもちろん』

『勝てましたか……?』

『勝ちもあるけどたぶん負け越してる。あと味方になった時の安心感凄い』

『勝つこともあるなんてすごいですね……!』

『いや味方が粒ぞろいなら勝てないことはないよ。チーム対戦ゲーだし。えっ、じゃあもしかして、ユの字に勝てるくらいに強くなりたいとか?』

『……私でもそれくらい強くなれますか……?』

『できるんじゃね? 知らんけど』

『……』

『いや俺も無責任に言ってるわけじゃないのよ。ほらこのゲーム、プレイヤースキルの天井低いから覚えること覚えればあとは連携と立ち回りのほうが重要になってくるし……。あっ、ヤベっ』


『もしかして……何か作業を……?』

『うん。今、試合してる最中』

『なにやってるんですか私と話している場合じゃないでしょう!?』

『大丈夫大丈夫。味方が優勢で俺今使ってるの魔術師だから。もうこうなると俺は安全圏から的当てしてればいいから誰かと雑談しててもいいんだな』

『ヤベって言ってましたけど!?』

『あ、それね。レーダー見てなくて殺しに来た戦士から逃げ遅れて相打ちになったの。今リスポーン待ち、暇』

『いやそんな……悠長に話してる時間あるんです……?』

『このゲーム超反応とかあんまり必要ないし、体も勝手に動くタイプだし、そもそもゲームスピード遅いから。没入度下げれば別の作業しながら、とかできなくはないし今レートじゃなくて身内戦なんよ』

『身内戦……?』

『知り合いだけでやるカスタムマッチのこと』


 私は身内で遊ぶためだけにこのゲーム続けている節がある。

 撃破され、天国からマップを俯瞰しながらリスポーンに備える。


『あー、味方がどんどん死んでる。だいぶ点差が縮まってきた』

『まだ出撃しないんですか!? 私と話してて大丈夫なんですか!? 切りましょうか!?』

『こういう時はちょっと時間無駄にしてもいいから味方と出撃合わせるのよ。一人で復帰しても囲まれて死ぬから』

『……』

『大丈夫だって。よほどヘマしなきゃ負けないよこの試合。……よし時間だ』


 というわけで、味方全員がリスポーン可能になったのでタイミングを合わせて出撃する。


『時間的にあと一回ぶつかるくらいの時間しか残ってないし、そもそも今こっちがスコア勝ってるし、敵の体力も減ってるだろうからここで負ける方が難しい』


 正直劣勢ならマツリカと話している余裕はないが、今は別だった。

 通話しながら視界とレーダーを確認する。

 味方の騎士が敵魔術師の射線を警戒して前進できずに団子になっていた。


『あ――……これ誰かが壁になって前出ないとダメなパターンですね。俺が行くかぁ……』


 拠点に籠っていれば絶対に負けない圧倒的有利な状況だが、【大赤字】のメンツはこの状況でさらに攻めに行く。

 それは何故か? 身内戦なので楽しく戦うことが最重要だからである。


 仕方がないので敵魔術師の火線上に身を晒しに行く。

 私が被弾したタイミングを見計らって、突撃耐性で構えていた騎士と戦士たちが特攻を開始する。

 味方の後を追いながらマツリカに私は話しかけた。


『マツリカさんのやる気は分かったけど、今日はもう無理かな』

『そんなぁ……』

『とりあえずアドバイスとしては、たまに敵の騎士がローリングしてこっちの攻撃を無敵回避することあるじゃん。【緊急回避】ってスキルあるとそれできるようになるんだけど』

『はい』

『今の段階だと征旅(せいりょ)(よろい)(かい)が緊急回避持ってる一番コストの低い装備なんだ。それ使ってれば低いレートは勝てるよ』

『……冗談ですよね……?』

『マジなんだなこれが。射撃喰らって瀕死まで追い込まれることがほとんどなくなるし、格闘も回避できないことはないから格段に生存率が上がる』

『分かりました。ちょっと試してみます』

『楽しんできな』

『明日は時間ありますか?』

『ちょっと用事があるけど、時間取れないかごねてみるよ』

『……期待してます!』

『マツリカさんも頑張ってるみたいだから俺も頑張るよ!』


 言い切って私は通話を切断した。


 とりあえず答えだして実戦練習させておけば勝手にうまくなっていくだろう。

 我ながら雑な教育方針だ。

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