05 色とりどりのオッサン
装備は毎週一つ以上追加されるが、その主な入手方法はガチャ方式と試合終了時の確率でのドロップ、銅貨ショップ、銀貨ショップの4つが存在する。
――ジャンク屋のガチャ。
抽選によってランダムにアイテムを一つ購入するシステムだ。
手に入れた金貨を消費することによってガチャを引けるので、金貨ショップとも呼ばれる。
確率での入手になるので必ずしも目当てのアイテムが手に入るとは限らない、際限なく金を吸い込む沼である。
――試合終了時の確率でのドロップ。
試合終了時に、一定の確率でガチャで配給されているアイテム群の中から一つが入手できるシステムだ。
無課金が最も運営に感謝する装備入手手段がこれだが、一日にこなした試合数によって確率はどんどんと下がっていて、10戦もすればほぼアイテムのドロップは見込めなくなる確率となる。
運営曰く、一日中プレイできるようなプレイヤーと一日にわずかな時間しか遊べないプレイヤーの差を少なくするための配慮である、とか。
同様にしてレベルアップのための経験値やゲーム内通貨の一つである銅貨も、試合終了時に入手できるが、連戦すれば稼ぎの効率は低下していくようになっていた。
戦闘報酬であるドロップは、中身がガチャと同じなだけに拾えたところで必ずしもレアな装備がゲットできるとは限らず、大概は水増し用に入っている無意味な装備群が出てくることも多い。
レアな装備が出ないわけではないが、戦場からいらない装備を回収してたのかとすら揶揄されているのが現状だ。
通称、ゴミ拾いである。
――銅貨ショップ。
ギルド内に設立してあるショップで、ゲーム内通貨の一つである銅貨を消費することによってリアルマネーを消費せず装備を購入する事が出来る設備だ。
ゲーム開始時からしばらくは誰もがお世話になるショップだが、現状ではほぼ低レアで低コストの装備しか並んでおらず、大体のベテランは商品のすべてを買い尽くしている状態にある。
征旅の鎧改もここで購入である。
しかし最近では最高レア装備の一つである【勇者の聖鎧レベル1】も、極めて高価な値段設定になっているがここで購入できるようになった。
――銀貨ショップ。
ガチャやアイテムドロップでダブった時にもらうことの出来る銀貨。それをを消費するショップだ。
銅貨ショップよりもラインナップは豪華で、時にはガチャで追加されたばかりの装備が売り出されることもある。
廃課金にはありがたいが、無課金微課金がこのショップにお世話になることは一ヶ月に一度あるかないかだ。
いずれはどんな装備も銅貨ショップで買えるようになると運営は名言しているが、その追加ペースはとても遅い。
試合終了時ドロップの入手に賭ける人もいるが、時間と労力がかかるうえにピックアップなしなので確実ではない。
ガチャの天井はピックアップされる一つの装備で1500円だ。早くに新装備を使いたい人はリアルマネーでガチャを回す。
VR時代に、物欲センサーは否定できない。
だからなのかこのあたりは割と寛容だ。
運営もプレイヤーを逃がさないように必死なのだろう。
○
火曜、午後2時のBCDオンラインは毎週大はしゃぎなユーザー達で埋め尽くされる。新装備が追加されるからだ。
我がクラン【大赤字】が集結しているサーバーに偶然振り分けられたので、いつものように見知ったメンツとともに更新を待機していた。
現在時刻は午後1時30分。
「今週の新装備は何かな!?」「先週は戦士だったし、今週は騎士だろ。アンチ装備が出れば課金を煽れるし」「強蛇(ヘビー・ファル強襲型の略称)にアンチする必要ないだろ。あんなゴミ装備誰が使うんだ。せめて零式聖鎧並みに強くしろ」「強蛇実装初日メタ張って【ジーンメイル】使って狩りまくろうとしたら同じこと考えてたジーンメイルとミラーマッチにしかならなかったな……」
決して少なくない人数がログインしているなか、誰かがぼそりと口走った。
「毎週毎週、平日の昼間にずいぶんとログインできるやつが多いなオイ」
その言葉に、はしゃいでいたメンバー達は一様に二の句が継げなくなってしまった。
平日の午後2時。普通ならば働いてるか勉強しているかといった時間帯だ。
この時間にログインできる人種をあげれば、主にニートか大学生か不登校児。
それ以外では休みを取った社会人か、普遍的な働き方から少し外れている社会人だろう。
しかし大多数はニートか学生だ。
きわどい発言をしたその人もどうせニートなのだろうと誰もが思ったが、誰も口にはしなかった。不毛だからである。
緩くパーマがかかった黒髪ショートカットで巨乳のおねえさんが千鳥足で私たちの集団に加わった。
彼は【飯屋】さん。アバターは女性だがしかし中身はオッサンであり、ボイスチェンジャーを噛ませてない地声を垂れ流している。
見れば現実で酔っ払ったままログインしているようだ。
「おれはー、しょくばからろぐいんしてるー」
「私は大学生で、この時間授業入れてないだけだしー」
正気を疑うような【飯屋】さんには誰も返事を返さず、続けざまに【那由他】さんが必要のない告白をするがそれもスルーである。周知の事実だった。
クランメンバーはそれを皮切りに次々と口を開いていく。
「有給取ってる」「俺は夜勤明けで仮眠から起きたあとだわ」「毎週火曜日はシフトいれてないぞ」「休みが不定期だから偶然今日が休みですぅ~」
「……」
私は無言を貫いて、道ばたの石になろうと力を尽くした。
しかし一人のメンバーが私の近くにツカツカと歩いてくる。
中身とアバターの外見がオッサンのクランのメンバー、【ユウスケ】さんだ。
比較的距離の近いメンバーの一人で、普通の社会人なので普段はこの時間にログインしていることはない。
「プロト、お前高校生だろ、今の時間的に授業中だろ、なんでログインしているんだ」
「いやあぁ……。何ででしょうね、不思議です」
「前々から平日昼間にログインしているのは知っていたが、なんか事情があるかと思って触れずに来たが今日はなんとなく聞くことにしたぞ」
「勘弁してくださいって」
「これは好奇心だから満ちるまで止まらないぞぉー。さあ吐け」
現実の私は歯噛みした。ちょーめんどくさい……。
視線を正面に上げると先生はオリエンテーションを兼ねた挨拶をしていた。思いっきり授業中である。
BCDオンライン上ではね私の事情を知らないクランメンバーは無責任に私をあおり立て始めた。知ってるメンバーはにまにまと薄気味悪い笑顔を浮かべている。
更新まであと15分。みんな暇だった。
「サボりか? サボりなのか。やっぱりBタイプのBは馬鹿のBか」「不登校? 出席足りてる?」「高校で留年とかやめとけよ」
私は声高に反論した。
「サボってねーですしー! ちゃんと授業受けとるしー!」
「没入型のゲームやりながらどうやったら授業受けられるんだよ……常識外れなことを言うな。最近の高校生はまったく……」
「おのれらの青春時代とこっちの青春時代は全然形が違うんですー。知らないで物言うと恥ずかしいぞー」
「それを言われるとそうだろうが、授業中にゲームやれる環境が整った学校とかあったらニュースになるぞ普通は。そんなニュース、新聞で読んだことねぇ」
「ユウスケさん新聞とか読むんですか」
「一応社会人だし……」
「そんなこと言ってるユウスケさんは仕事じゃないんですか?」
「俺は新型のインフルエンザに罹って休みだし……」
「寝てろ馬鹿!」
○
話題はインフルエンザで病欠しているユウスケさんに移り、内心私はホッとしていた。
現実に意識を集中させる。いったんペンをノートの上に置いて、つけていた眼鏡を外しレンズを拭きながら抜群の視力で周囲の様子をうかがう。
私がVRゲームをプレイしているのは先生にはばれていないし、幼なじみにもばれていない。知っているのは竹内だけで、ちらちらとこっちに視線を向けている。
なんとなく教室中に視線を向けてみると……。
なぜか転校生の雪村さんが、そわそわと授業に集中していないのが気になった。
授業中に隠れて遊ぶタイミングを伺っているような感じではないが、しきりに時計を気にしている。
かくいう私も時計を気にしている。現在58分。今週の更新担当がせっかちな人だったらフライング気味に更新が始まるはずである。気を抜いてはならない。
BCDオンラインは半没入型のゲームだ。大半のゲーマーはこういうとき、VR機器を装着した状態のまま現実に強く意識を集中させて、公式サイトで更新のお知らせが来るのをカチカチと更新ボタンを連打しながら待機しているのだ。
プレイヤーはVRと現実の両方で、同時に作業をすることになるので、更新一分前になると例のごとくギルド内は静寂が支配する。大人数が更新連打している影響で公式サイトの応答も重くなる。
だがその時は必ずやってくるものだ。
○
ローディングと共にガチャの更新がメニュー画面に通知された。
同時、クランメンの誰かが叫んだ。
「ヘビー・ファル拠点防衛型! 何これ!」
新装備の追加。それはお祭り騒ぎ開演の合図である。
公式サイトにもアクセスしつつ皆は情報収集に励む。
さなか一人、情報も確かめずにジャンク屋へ走って行くものがいた。
「とりあえず天井まで回してくる!」
彼は【廃村の生き残り】さんだ。男性アバター。
数少ないBCDオンラインガチ勢である。
「人柱役は頼んだ」「ヘビー・ファル拠点防衛型って魔術師かよ、しかもコスト80……」「姫騎士が銀貨ショップで買える! 早くね!?」「尻勇者レベル2も銅貨ショップに落ちてるぞ!」「えっ?! 尻2と姫買えるん!?」「これ野良でケツと姫騎士大繁殖するやつだな……」
テンション高くなった皆は更新の内容を見て、思い思いに気持ちをスラング混じりの言葉を口にする。
上機嫌になっている【那由他】さんは私の肩に飛びかかるように腕を回してきた。
勢いで私の首にツインテールの片方が落ちてくる。
「プロト~テンション低いなぁ~!」
「俺は今【廃村の生き残り】さんのガチャ配信待ちー」
「いい加減課金戦士になっちゃえよ~。毎回天井まで回そうぜ」
「いやこのゲームにできるだけ金使いたくないなって……零式聖鎧みたいなのが来たら回すけど」
「まあ私も試用動画待ちだわ。一緒に見ようぜ」
「りょうかいー」
というわけで、地面に座り込んで空中にモニターを投影させる。
BCDオンラインには専用のブラウザが付属しているが低機能でやたら重い。使うのはこういうときくらいだ。
事前に登録してある【廃村の生き残り】さんのストリーミング配信サイトにアクセスし、人柱役の様子を眺める。
画面ではジャンク屋に金貨を投げつけた【廃村の生き残り】さんの視界が表示されていた。
彼のコメントが耳に届く。
『とりあえず確定までは回すぜー!』
ガチャは一回300円(税抜き)というこの時代にしては強気の設定なのだが10連初回は500円(税抜き)、10連2回目は1000円(税抜き)というよく分からないレートが設定されていた。
そしてピックアップ装備は20回目まで回せば確定で出現する。
毎週ほどほどに楽しみたいなら1500円+消費税だけ払えばいい。
はずなのだが……。
『とりあえず500円銭投げだ!』
言いながら廃村さんはジャンク屋のNPCに向かって少量の金貨を投げつける凶行に及んだ。
吸い込まれていった金貨が宝箱に返還され、廃村さんの足下に転がっていく。
ジャンク屋にはほかのプレイヤーは表示されていないのでこのような光景になる。
一つ一つを手で開けるのは効率が悪い。
なので宝箱はひとりでに開き、その中身は廃村さんのインベントリに入っていく。
〈【ヘビー・ファル】レベル1入手! ※取得済み〉
〈【格闘強化ルーン】レベル2入手! ※取得済み〉
〈【格闘グローブ】レベル1入手! ※取得済み〉
〈【征旅の鎧】レベル5入手! ※取得済み〉
〈【征旅の鎧】レベル5入手! ※取得済み〉
〈【急造型聖鎧・特別仕様】レベル2入手! ※取得済み〉
〈【マナ収束術式】レベル1入手! ※取得済み〉
〈【征旅・指揮官型】レベル3入手! ※取得済み〉
〈【インターセプター・カスタム】レベル2入手! ※取得済み〉
〈【征旅・軽装型】レベル4入手! ※取得済み〉
配信を見ているメンバーから軽い悲鳴が上がった。
「これはひどいグロ画像」「全部習得済み……」「店売りのレア度1ばっかり……」「クソガチャだこれ」「レア度1でも特にゴミばっかりじゃ……ひええええええ……」
『これくらいは想定内だし。次は千円をぶん投げるぜー!』
だが【廃村の生き残り】さんの心にはダメージはないようだ。
いや、ダメージはないと言うよりはもう痛みを感じなくなっているのかもしれない……。
廃村さんは続け様に先ほどの倍の金貨をジャンク屋へとぶん投げる。
送られてくる10個の宝箱の中には、ひときわ輝きを放つものが一つあった。
それはレア度3確定のレア宝箱だ。
しかし20連目はピックアップが確定なので実質ガチャは爆死である。
〈【急造型聖鎧・特別仕様】レベル2入手! ※取得済み〉
〈【対物ブラストキャノン】レベル1入手! ※取得済み〉
〈【ブラストシューターA】レベル2入手! ※取得済み〉
〈【ファルメイル改】レベル2入手! ※取得済み〉
〈【耐属性のルーン】レベル3入手! ※取得済み〉
〈【征旅・指揮官型】レベル2入手! ※取得済み〉
〈【ブラストシューターE】レベル3入手! ※取得済み〉
〈【征旅・魔術師仕様】レベル2入手! ※取得済み〉
〈【聖剣[先行型]】レベル3入手! ※取得済み〉
〈【ヘビー・ファル拠点防衛型】レベル1入手!!!〉
『新装備は1500円、みんな知ってるね』
私は発言する。
「防蛇(※ヘビー・ファル拠点防衛型の略称)の使ってるところ早くみたいです」
『うんうんやるやる』
食い気味に返答した廃村さんだったが、クランメンバーは好き勝手に横やりを入れ始める。
「【最初期型ファルメイル・特別改修】レベル1と2と3追加されてるけど引かんの?」
誰の発言かと見てみれば先ほど私に絡んできた【ユウスケ】さんだ。
彼は常識人面をしているが【大赤字】きっての変人疑惑がある。
トップかどうかは定かではないが、とりあえず変人であることは確かだ。
「ユウスケさん特改ファル(※最初期型ファルメイル・特別改修の略称)はピックアップなしですって。狙って引くのは地獄ですよ」 私は廃村さんの身と財布を思って援護射撃を加えた。
「ざっとガチャ報告調べた感じ素ファルの攻撃力上げただけの半分ネタ装備だから逆に引かないと環境に取り残される。俺も引くからみんな引こう」 ユウスケさんが言った。
「逆にってなんの逆なんすか!?」
「このような誰も使わないネタ装備がBCDオンラインに華を添えるのだ……プロトも課金戦士童貞卒業しておけ。ピックアップ無しの特改ファルなんて何万払えばコンプできるかなんて分からんけど、童貞散らせばきっと射精並みに気持ちのいい思い出になるぞ」
「いや俺何回かは課金してますし……」
「10万円も入れてない内は無課金に分類されるのは世間一般の常識だろ?」
『よく分からないけどなんか追加されてんのなら出るまで回すかー』
ユウスケさんにそそのかされて、廃村さんは無駄にガチャを回そうとジャンク屋へときびすを返していった。
その手にはいつの間にかクレジットカードが握られている。
面倒になってきたので観戦に徹してると、隣にいる那由他が私の体を肘で軽く小突いてきた。
「私の中身女なんだけど何でみんな普通に下ネタに走るのかな……いやデリカシー気にしてほしいわけじゃないけど」
「わからん……そういうクランだとしか……」
「夜は短しシコれよ乙女とか前に言われたし、姫扱いじゃないのは知ってたけどネカマだと思われてるのかな……ちんぽついてないよ私」
「……俺もついてないぞ」
「はは、ナイスジョーク」
軽く笑いながらも私は配信の様子に集中する。
『レア度1はピックアップ無しだっけ。10連で3000円、天井無しか。燃えてきた』
「何が!? 何が燃えるの!?」「ピックアップなしレア度1装備狙い撃ちでコンプとか無茶だって!」「燃えるのはおまえの給料だろ!?」「毎月クレカの限度額いっぱいまで回すは何で?!」「ピックアップ無し引こうとして飢え死にかけたのこの前やったばっかりじゃねーかよぉ!! 学べ!」「毎度毎度理解の範疇超えてくるのやめろ!」「天井超えてからもガチャろうとするから毎月おかずに困ることになるんだぞ!」「別のゲームでもキャンペーン始まったら金入れるんだろ!? そっちに回すためにちょっと辛抱しろよ!」
『わかっている……わかっているんだが……俺にはできないんだ……!』
人はそれを依存症という。




