40 みんなと遊ぼう!
現実世界、授業が終わってからBCDオンラインユーザーは脇目も振らずに更新内容のチェックにかかる。そして何故か私の元に感想を言いに来るのである。何故だろうか。
ARデバイスにブラウザを投影したままの雪村さんが屈託無い笑顔で私の机に手を付いた。
「保住君保住君! 今日の更新見た?! 【勇者の聖鎧・陸式】だって! レア度3で90コストの魔術師だよ!」
彼女の心底嬉しそうで裏表無い笑顔は、未だに雪村さんの下の名前を覚えていない私に罪悪感を覚えさせた。
ついでのようにぞろぞろと、竹内と永遠が私の机に集まってくる。
とりあえず私は言いたかったことを言った。
「クランメンバーが使用感語ってたけど明らかに強いね。二連火球で足止めしてから追撃にマナシューターが間に合うから騎士に対してエグいダメージが継続的に出せる。足も速いから味方の騎士に随伴して前線に出やすいし、逃げ足も速いから戦士から逃げやすいどころかファイアバレットで強行突破潰してから【ホバークラフト】【ブースター制御】で戦士みたいにブーストからの強格闘でダウンまで取りに行ける。いや本当に強いね……ゲームバランスが心配になるくらい強い。まさかA+レートで魔術師単騎で戦士とのタイマンに勝てるとは思わなかった。……相手が【零式聖鎧】以下ならやりようによっては相手にならないね」
「……っ」
何かを言いたそうな雪村さんだったが、私が一言喋り終えると言葉を詰まらせた。いいたいことが被ったのだろうか。
構わず私は続ける。
「逆に言うと戦士は【呪鎧・弐式】くらいのスペックがないと安定して刈れないなぁ……【ホバークラフト】挙動はヘビーファルとかで慣れてる人多いし兵装そのものは正当な魔術師の最上級版ってところだから使ってる人みんな動きそのものはもうかなり腕に馴染んでいる感じが出てるし実装初日とは思えないほど普通に戦えてちゃってる人多くて不思議な気分だよ。立ち回りとかはまだ煮詰まってないから普通に刈れるけどこれ一週間くらいしたらかなり厄介な魔術士が増えそうで怖いね。【呪鎧・弐式】はコスト80で、コスト90の【陸式】と相打ちならギリギリでスコアのアドバンテージ取れるけどそれはそれで負けてる気もするし複雑な気持ち。とにかく【陸式】は足が速くて展開力が優れてて、うかうかしてるとすぐ味方騎士が被害を受けるから、CURSEの扱いは以前にも増して難しくなったよ。90コスは騎士も充実してるし楽しいな、【メリッサ】は射撃で前線形成能力高いし【クリーガー】はショックボルトを軸に遊撃も迎撃も得意だし、80コスだけど【呪鎧・参式】も普通に戦えるし。とりあえず戦士は【呪鎧・弐式】一択かな。次手でステルス装備の【勇者の聖鎧・試験型】かな。魔術師は遠距離固定砲台役として【聖鎧・重武装仕様】に今回の騎士随伴型【勇者の聖鎧・陸式】がいれば遠近の両方で――」
「さっき更新見た割にはずいぶん詳しいな」
竹内が割り込んでくる。目で「黙れ」と語りかける。しかし彼は黙らなかった。
「てかなんかさっきから戦士目線なんだけど。使う側じゃなくて殺す側の目線なんだけど」
「偶然じゃないかな。俺本職は魔術師だし」
「抜かせ」
永遠が疑うようなで見てきたところで、次の授業のチャイムが鳴った。
○
戦士使いであるという、あらぬ疑いをかけられていた私はクランメンバーに相談してみた。「俺って本職魔術師使いだよね?」と
「突然何を言い出すんだお前は」「最近お前が魔術師使っているところ本当に見たことない……」「いやお前は戦士使いだろどう考えても」「明らかに戦士使う割合多いぞ」「戦士使いじゃなきゃ呪鎧使いこなせいぞ常識的に」
真っ向から否定されたので私はプレイデータの集計を宙に投影した。
「いやいや待ってくれ。コレを見てほしい! なんと仕様割合は騎士が一番多いぞ! 39%だ! 戦士は36%! 魔術師は25%!」
「魔術師一番低いじゃねぇか」「騎士と戦士を同程度で使ってるって完全に戦士使いだぞそれ」「いや戦場のキーマンな戦士魔術師の割合が50%超えてるっておかしいぞ。合わせて61%とかどんだけだよ……」「墓穴掘ったな見事に……」「そもそも6人のうち4人前後は騎士使わないとまともな試合展開にならない中でそれだけ騎士以外乗ってるってお前……」
クランメンバーから総スカンを喰らいそうになるが、そんな私に与する少女のオッサンがいた。【ポンタラ】さんだ。
乳のでかい金髪ポニテが私をかばうように躍り出る。
「まあいいじゃないか。俺たちがこいつに戦士押しつけてる事実もあるのも確かだ」
「うん……とりあえずプロトくんに戦士使わせとけば感実に仕事してくれるし勝てるからな……下手に他人に任せるより信頼できる」 【デスアメショ】さんがフォローをくれる。
「とにかくだ、戦士使いの認識で良かったじゃないかプロト。お前は戦士を使うためにサイボーグ化したんだろ?」
「してねぇよクソが……!」
【ポンタラ】さんが庇ってくれたと思ったら、躊躇無く後ろから刺されたので私は刺し返した。
「事故って体のほとんど潰れたから行き成りでサイボーグ手術することになったんだよ殺すぞ!」
「でも良かったじゃん生きてるしゲーム強くなれたし」
「よくねぇようちの父ちゃん母ちゃん手術とパーツの借金返すためにずっと働き詰めなんだよ家庭冷え切ってんだよコノヤロウ……家帰っても夜まで誰もいないしさぁ……常人とスペック違いすぎるおかげで学校じゃ浮くしよぉ……!」
別に言うつもりはなかったが、ここで強く言っておかないと言いたい放題になる恐れがあるので仕方なく私は思いの丈を吐き出した。
「本当にマジな……五感のデータ全部記録されるからって、あいつの視界に入るの止めようとかあいつの周りで喋らないようにしようとかな……動くと周りの人が逃げるし、逃げられない状況だと誰も無言で何もしなくなるし……そのくせ見えないところで陰口言ってるし……聴覚デバイスが音拾うから聞こえるし……」
「プロトに悲しき過去……!」「ガチで悲しいヤツじゃないですか」「反応に困る……」
「教師もサイボーグに理解なんてないから役に立たねぇしよぉ……! いじめられても誰も助けてくれないからcnt筋繊維パワーで防衛したら相手怪我してこっちが加害者になりかけるしよぉ……! 人間ってなんであんなに脆いんだよ殺すぞ……」
「ヤベーこと言い出したぞこいつ……」
ざわつくクランメンバーを尻目に【ポンタラ】さんが他人事と言わんばかりにズケズケと聞いてきた。
「ならサイボーグじゃないほうがいいのかやっぱり。真人間がうらやましい?」
「いやサイボーグのほうがなんやかんや楽だからそれはない。学校で授業中とかテスト中にゲームとか出来ないって真人間は不便だなって思ってる。五感のデータも記録取っておけば後々見返したいとき便利だし。この時期みんなテスト勉強とか必死になってるけどアホじゃねぇのって、サイボーグになればテスト始まる前までゲームできる、あいや間違えたテスト中にすら――」
「おいダブルスタンダードやめろ」 【那由他】が幻滅したような声を出す。
「やっぱり良かったじゃん生きてるしゲーム強くなれたし」 これは【ポンタラ】さんの発言。
「マジトラック最高だわ。これぞ現代の転生トラックって感じ。サイボーグはいいぞ。ポンタラさんも改造する?」
「いやしない。俺の会社ではサイボーグに偏見とかなさそうだけど別にいい」
「年齢が上がれば上がるほどサイボーグは受け入れられるからな……社会人のある意味うらやましいところ。故に小学生中学生あたりのサイボーグが一番地獄である」
「……いや、そろそろ体がガタ付いてきて、ちょっとくらいは考えてるけど。あくまで補助的な改造だけど、医療目的だけど」
しみじみと【ポンタラ】さんは言い切った。彼もそろそろいい年である……。
面白半分に会話に参戦してくるオッサンがいた。【ネコパンチ】さんだ。エルフのように耳を尖らせた銀髪で巨乳のアバターを操っている。
「二度と役に立たない知識をありがとな」
「【ネコパンチ】さんの子供が事故ってサイボーグになったら使えるぞ」
「おっナチュラルに煽ってきたな。彼女どころか周りに女すらいないよクソが。架空の俺の息子まで殺しやがって」
「お前の生まれるかもしれない息子はナノマシン障害で遺伝子疾患持って生まれて病院通いなあげく、その病院で起こった事故でサイボーグになったあげく学校になじめず誰にも助けられないまま孤独を抱えVR空間に逃げ込んだあげく【ポンタラ】さんみたいな人格破綻者に薫陶を受けてゴミみたいな日々を送るようになるんだぜ」
「ごめんそれ全部お前の人生だと思うけど全然同情出来ない」
【ネコパンチ】さんは平均年齢高めの【大赤字】のなかで、意外と若い方だ。
そして若干陽キャの疑いがあるので、試合ではそこそこの頻度で集中砲火を受けている。
彼はこう続けた。
「サイボーグうんぬんはともかく、学生のうちに彼女とか作っとけよ。――いや、作らなくてもいい、努力したって経験だけは積んどけ。同じクラスに十何人もの女子がいる環境とか今だけだからな。ゲームばっかりしてないでそこら辺もちっとは手出しておけよ。自分の部屋に女呼んだりとかまでは言わないが」
「じゃあ今俺の部屋にクラスメートの女子いるからセーフってことか。良かった」
「は?」
思わず出てしまった、という感じの「は?」である。
「またよく分からん冗談をこいつは」
「テスト勉強で集まる場所に使われてるだけだよ」
「証拠の画像を出せ」
「出さねーよハゲ」
「放課後にテスト勉強とか青春かよ……テストは今週? 2週間後?」
「いや4週間後」
「は?」
【ネコパンチ】さんが絶句するなか、【廃村の生き残り】さんが口を出してくる。
「ちなみにどんな関係? クラスメート以外で」
「片方は幼馴染。もう片方は今年転校してきた子で、幼馴染のグループに入っててその流れでちょいちょい会話してて、成り行きで」
「なんてタイトルのエロゲ?」
「現実」
「成り行きで男の部屋に行っちゃうんか最近の子は……お前の母ちゃんどうしてんだ」
「いや、夜まで家にはいねーって仕事してるんだから」
「じゃあなんだ。両親がいない自分の家に女子二人連れ込んでるのかお前は」
「連れ込んでるというか勝手に入ってきてるっていうか……」
「はぁ!?」
「クソが! なんて青春だ!」 【ポンタラ】さんが叫んだ。
「セックス!! セックスだ!!!」 【廃村の生き残り】さんは吠えた。
「てかなんで女連れ込んでるのにゲームやってるんだよぉ!」 【ネコパンチ】さんはうろたえている。
「テスト勉強とゲームと両立ができるからサイボーグなんだよ」
気色の悪いテンションに至った【廃村の生き残り】さんが地面に寝転がる。
「親のいない男子の家に来るってことは覚悟してきてる可能性ありますよね!?」
「なんの?」
「セッックスッッッ! 試しにヤらせてって頼んでみてほしい。あとヤってる時の動画もくれ」
「いや無理だってば。あと最低だな廃村さんのその発言。二人ともだいぶソワソワしてるからあんまり勉強に集中できてないんだぞ」
「いつ押し倒されるかドキドキしてるだけじゃねぇの!?」
「いや……それは……ないでしょ」
私は現実で、必死になって模試を解いている永遠と雪村さんを見た。
「転校してきた子、まだ出会って半年もしてないし」
「幼馴染の子のほうはオーケーって言ってるように聞こえるぞ」
「いやそっちの子は論外というか」
「めっちゃブスなのか」
「いやすごい美人だと思うよ。でも男として見られてないんじゃないかなーって。サイボーグなのも知ってるし。俺この前も普通に部屋に呼ばれたけど普通に遊んで帰ったし」
「お前、普通さ、好ましく思ってない男を家に呼ぶか? 呼ぶってことはそういうことだと思っていいぞ」
「男っていうか俺サイボーグだし。人間とは言い難いし」
「人間関係なんてどう転がるか分からないんだしそういうのはヤることヤってから考えろ。な?」
何故か諭すように【廃村の生き残り】さんが肩を叩いてくる。
変な名前しやがって……と思いつつ、彼の言葉を頭の中で反すうする。
「やること……打倒ユリスか」
「ダメだこいつ」




