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04 大人しい雰囲気で常識人ぶってる癖して戦うと人格変わるタイプ

 試合開始から3分。

 敵陣の目と鼻の先に陣取った私は、敵チームのヘイトを引き受けながらオブジェクトの影で敵との立ち回りによるにらみ合いを繰り広げていた。


 那由他からボイスチャットが飛ぶ。


『プロトー。私、西の方にいるけど騎士二枚に睨まれて前出れんわ。色々試したけどマーク外れない。相手の魔術師殺すの任せた』

『ならこっちが枚数有利ね、了解』

『私はちょっと無理して敵をこっちサイドに釣ってみる、ミスって死んだらすまん』

『なら那由他が殺されてる間に俺が突っ込んで切り崩すわ。一体食えそうなのがいるから』

『敵のラインのどこが薄い?』

『南』

『そっちから攻めるのね、了解』


 メニューからマップを開いて、事前に目星をつけておいた地点にPingを打つ。

 同時にラジオチャットを送信。【魔術師を警戒!】


 遮蔽物の向こうにいる敵と、背後に控えている味方をレーダーで確認する。

 敵は完全にこちらを迎撃する布陣と私は判断した。

 味方の1人が私の近くに合流する。さらに背後にもう1人味方が陣取る。攻めの構え。私は遮蔽物から飛び出し、敵の側面に位置取った。味方と十字砲火になるポジションだ。

 敵全員は迎撃の構えを崩してない。だが敵の一体に射線が通っていた。

 右手を伸ばして射撃魔術の狙いを定める。


 私は思わず叫んだ。


『首取ったっ!』


 選択している魔術は火球。放つ。敵は回避動作を取っていない。命中確定、と同時に抜刀。エリアルブーストで即座に距離を詰め、力任せに二刀を上段から叩きつけた。敵が仰向けに転がる。転倒状態だ。


 格闘モーションの硬直をエリアルブーストでキャンセルしつつ、敵陣から離脱。

 入れ替わるように味方の1人が敵陣に侵入し、転倒状態で無防備なその敵に剣を二度振るった。敵のHPが0になり、光になって消える。撃破。

 アシスト点を獲得する。


 撃破の事実を攻め時だと認識した味方4人が敵陣に流れ込み、乱戦が始まった。


 その時、那由他の声が耳朶に触れた。


『ごめん私死んだわ。ヘイト取り過ぎた。できるだけ時間稼ぐ』

『オッケ気にすんな』

『全員連合装備だったからなんとなく零式聖鎧にしたけど(じゅ)(がい)にしておけば良かったかな。そっちはさっき一人食った?』

『おう、今魔術師孤立してるからこのまま食いに行くわ』


 那由他と会話しながら、私は敵陣の奥深くへと単騎駆けしていた。

 味方の猛攻によって敵の背後にいる魔術師への道が開けていた。

 エリアルブーストを全開にして魔術師への血路を突き進む。


 アナウンスが入る。


〈味方が撃破されました!〉


 敵軍が撃破点を獲得。那由他が撃破されたようだ。


『あークソ! 死んだ!』


 那由他の絶叫を聞きつつ、敵の魔術師に接敵する。

 孤立状態にある魔術師に相性有利な戦士が手間取る道理はない。

 敵の魔術を身に受けダメージを食らいつつも、火球をけん制に使い、クロスレンジまで踏み込み二刀で切り伏せる。


〈敵を撃破しました!〉


 撃破完了。私は叫んだ。


『魔術師食った!』

『ナイス! そろそろ私もリスポーンできるから』

『俺もそろそろ体力半分切りそうなんだけど前線維持できる? あと俺としては敵の沸き止めるの気が乗らないんだけど……』

『今やってるのレーティングマッチだぞ馬鹿。遊ぶな』

『そういえばそうだった』


 私は振り返り、振り切ってきた敵を視界に入れる。

 敵は味方4体と依然攻防を続けており、戦力的には拮抗状態にあった。

 私が合流すれば、その分だけ戦力差で上回る。


 だがレーダーに突然敵の反応が増えた。位置は敵のリスポーン拠点だ。先ほど撃破された敵が復活したらしい。

 少し後方に引き、参戦のタイミングを伺っていると、那由他から指示が飛ぶ。


『プロト! チャンスだ! 合流しなくていいからできるだけ早く拠点踏め! ここで盤面有利取れ!』

『タイミングは? 今行けそうだけど』

『マジ?』

『たぶん俺のこと誰も見てない。この辺りは感覚でわかる』

『さすが毎回最速で敵陣に真っ先に突っ込む男、その辺の感覚は随一だな。頼んだ』

『なら取りに行くわ。最速ならもし見つかって死んでも制圧はできると思う』

『こっち色に染まり始めた瞬間私がそこから復帰するから大丈夫』


 私は那由他の言動を信じて敵の拠点を踏んだ。

 レーダーを見る限りでは私のことを警戒している敵はいない。

 しゃがみ込んで全武装を解除し、意識を集中させて拠点制圧速度に加速をかける。

 リスポーン拠点が敵陣色から自陣色へと染まり始めた瞬間、上空から零式聖鎧が降り立つ。那由他が復帰したのだ。


『ナイス。中央取ったからこのままミスんなきゃ勝ちだね』

『どうする? 迎撃陣敷く? このまま攻める?』

『攻めたいけど味方の動き見て考える』

『とりあえず中央キープか。リスポン拠点絶対に踏ませないようにしとく』


 隣に着地した那由他は、こちらのことを一瞥もせずに再び敵へと走っていった。

 私も後を追う。


『カバー頼んだぞープロト』


 そして、リスポーンによる戦力の即時補充ができなくなった敵は、開き続ける枚数差を覆すことができず、一度完全なる全滅を迎えたのだった。



       ○



 私の先制攻撃による初動有利を継続したまま長く続いた第一ウェーブが終了した。

 敵は一度全滅したが、こちらは那由他と他一人が死んだだけだった。

 4人分多くとった撃破ポイントだけこちらが優勢である。


 座り込み全員で体力の回復をしつつ、敵陣方向に目を向けて警戒を続ける。

 レーダーに次々と反応が出現する。

 敵が全員リスポーンした、第二ウェーブの開始だ。


『那由他、奥で敵沸いたぞ』

『了解』

『一応Pingとラジオチャット打っておくか』 【ここに注意!】


 敵陣の奥に復帰した敵が位置を散らしながら、私たちが占領したマップの中央地帯に向かってじっくりと歩を進める。

 マップの中央につながる道は2つ。二人で参戦会議する。


『北? 東?』

『ちょうどいいから俺が東の方1人で見る。やばかったら逃げるけど』

『なら私は北のほう担当するわ。出足潰せたらそのまま崩しに行くから』

『了解、タイミング合わせて挟み撃ちで』


 そう言って私と那由他は別方向に分かれた。

 狭い通路の一つの出口に自分一人で陣取り、こちらに向かおうとする敵に向かって火球を撃ちその勢いを削ぐ。

 射撃戦だ。しかし戦士は射撃であまり火力を出すことはできない。射撃戦で本領を発揮するのは魔術師だ。この場合は味方の魔術師が優秀なことに期待をするしかない。

 敵前線と味方前線の境目で身を隠しつつ、視界に表示されている情報を見ていると――


 気がついた。


『那由他! 敵の枚数足りねぇ! 警戒!』


 レーダーに移る敵影の数が5人と、最大人数の6人から一人足りないのである。

 那由他が気がついた。


『敵の戦士が裏走ってる! アウトポスト凸られるぞ! 処理するか!?』

『守りは間に合わないから処理しなくていい! 無視して前進! 中央キープしたまま全員で攻めて敵押し込もう!』

『KD勝ち狙いね! 了解! 点差ギリギリになりそうだからアウトポスト交換狙いたいんだけど!』

『残り時間三分! やるならもう今から行くしかないぞ!』

『行く! 押し潰してすり潰す! 徹底的に!』

『突撃だー!』


 那由他のシャウトを聞いて私は我慢しきれず一足早く先駆けをしてしまった。

 敵五人に一人で突っ込んでいく私を見て那由他がツッコむ。


『はえーよプロト! もうちょっと躊躇(ためら)え!』

『ゴメン! 助けて!』

『しゃーねーなぁー!』


 那由他のラジオチャットが流れる。【攻めるぞ!】

 次々と味方達は返信を打った。【了解!】【了解!】【了解!】

 味方が次々と前線を上げ、敵に向かって走って行く。


『とりあえず魔術師に強格闘をシューッ! あっ、パリィされた』

『お前なー! 生き残るためにわざとカウンター貰ってんの私にはバレバレなんだよ! まだノーデス狙ってんのか!』

『ゆるして!』


 私は地にたたき伏せられながらも那由他との会話に心を躍らせていた。

 レーダーを見れば全速力で敵に囲まれている私の元に、味方達が駆けつけてくるのが確認できた。


 敵の一体は単独行動中。

 つまり敵は5人しかいなくて、こっちは6人だ。

 人数差で押しつぶせる。


 そして、押し寄せてきた味方たちが私の背中を踏み超えて敵に殴りかかりにいったのを、私は横目眺めながら生き残った喜びを噛みしめていた。



       ○



 試合が終了する。

 結果は圧勝でした。

 強い上に上手く合わせてくれる味方でありがたい……。


 基本的にA帯ともなるとろくでもない動きのプレイヤーは体感では15%くらいしか存在しないので、きちんと意思疎通ができて集団行動のできる味方がそろえば勝率はグッと上がる。


 しかし、ゲーマーは面倒は嫌うが効率を重視したがる奇妙な人種なので言葉を交わさず無言で編成を整えそのまま出撃というケースも多い。

 そもそも特定個人以外との会話を完全にシャットアウトしているユーザーもそこそこいる。

 リアルに近いことを売りにしているVRゲーでも大半はこんな感じで、BCDオンラインはリアルを売りにしていないので野良で他人とコミュニケーションが取れることは軽い奇跡といっても過言ではない。

 今回みたいに出撃前に戦いの方針が決まるのは極めて稀だ。

 知り合いがいたのは幸いだった。


 クラン【大赤字】のログイン情報を確認する。

 インしているメンバーは那由他さんの他には二人のみだ。

 クランメンの大半は社会人である。

 よって平日の夜以外にインしているのは学生の私か無職くらいしかいないと言ってよい。

 さっきの試合のみんなも恐らくは無職か学生だ。



       ○



 傭兵ギルドに設営されたジャンク屋という名のガチャにいく。


 BCDオンラインがクオリティの割にプレイ人口が多いのは基本無料な点が要因の多くを占めているらしいが、その代償として前時代の集金システムであるガチャが存在する。

 ガチャは悪い文化である。しかしガチャで売り上げを稼がなければ運営が成り立たない。私は涙を呑んでガチャを受け入れている。


「新装備入荷! ただいまキャンペーン実施中だよ!」


 ジャンク屋の窓口に立つ青年のNPCから、決まった顔と決まったモーションで何度も聞いたセリフが飛んでくる。

 リリース直後の一週間以外、このゲームでは新装備の追加とそのピックアップキャンペーンを開催しているので、ここに立ち寄れば毎回この定型句を聞くことになるのだ。


 BCDオンラインに設置されているNPCにはこれと言って高度なAIが搭載されているわけでもなく、同じことを繰り返すだけの昔の自販機みたいな存在だ。


 このゲーム、VRゲーの癖にあんまり自由度のない戦闘が気軽に遊べるというと割とユーザーに受け、思ったよりもアクティブプレイヤーも新規も多いが、ガチャ引かないと新装備がすぐに使えないところがネックだ。

 鬼畜のような値段設定と非道な排出率ではないため大きな不平不満は出てこないが、ポジティブに捉えているプレイヤーは限りなく少ない。


 先週追加された機体は【ヘビー・ファル強襲型】。

 コストは80。カテゴリは戦士である。


 コスト80の戦士は零式聖鎧レベル2一強だからいらない……。


 有効期限が一日しかない金貨がログイン時に支給されるので、それを使うために一日一回はジャンク屋に足を運ぶ必要がある。


「宝箱を一つくれ」

「了解!」


 NPCの青年が窓口の奥に引っ込んで、木箱を持ってくる。


「なんだか兄ちゃんは今日ツキがいいんじゃないか~?」


 !

 レア確定時の特殊セリフだ。

 胸が高まるような感触がした。


 木箱がカウンターに無造作に置かれる。


 待機モードに戻ったNPCをしり目に、受け取った木箱を備え付けのテーブルに持っていき、開ける。


〈【勇者の聖鎧】レベル2入手!!! ※取得済み〉



 それもう持ってるよ……!

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