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39 みんなで遊ぼう!


 模試の答え合わせとその解説、復習をしていたら5時になってた。

 最終問題の解説を終え、いい区切りだと私は宣言しつつ身を床に投げた。


「追加で一時間も勉強したし今日はもう勉強しない! 遊ぶ!」

「えー? まだ一時間だよ?」 永遠が謎の抗議と共に、テーブルの下で私の足を蹴る。

「ふ――……」 雪村さんはホッとしていた。

「普通の人は一時間も勉強したらそれで今回は終わりでいいの。急にやる気出しても体と心が追いつかない。また明日!」


 身を起こして、私は言った。永遠が返す。


「はいはいまた明日ね、分かった」

「ゴメン適当にいった。明日は自主勉でお願い。やるのはまた来週とかでいいよね?」

「えー。じゃあも遊ぶって何して遊ぶの」

「……?、……、……あっ!」


 永遠の呼びかけに、私ははっとした。

 2人には帰って貰って1人でゲームする気だった。

 放課後クラスメートの家に集まってゲームをする流れになったのなら、みんなでゲームを遊ぶというのが一般的なのか……!


 しかし私は対人VRゲームを専門とするプレイヤーであり、和気藹々と遊べるようなゲームは持っていないのである。


「ごめん永遠ちゃんみんなで遊べる感じのゲームなんてない……」

「いやダウンロード販売があるじゃない」



       ○



「イエー! また私の勝ちー!」


 congratulations! とファンファーレが鳴り響き、永遠の操作するキャラクターがお立ち台で祝福を受ける様子がリビングの大型テレビに映し出させていた。


 3戦目にして、順位が固定されはじめてきた。

 また永遠が勝った。

 二位は雪村さんだった。

 私は最下位だった。

 ……また、最下位だった。


「くそぁ! 納得いかない! もう一戦!」

「落ち着きなさい哲人」

「そうそう落ち着いて保住君」

「そんなこと言って勝ち逃げする気でしょ……? 勝ち逃げズルイ……俺も勝ち逃げしたいのにぃ……!」

「テツ、あんた最低なこと言ってるわよ……」


 スナック菓子とソフトドリンクをリビングのテーブルに広げ、私たち3人は普通にゲームを楽しんでいた。


 永遠がこの場で購入したのは、よくあるパーティーゲームだ。すごろくと簡単なミニゲームを組み合わせたゲームデザインで、勝敗を決めるのは運の要素が強く反射神経や対人ゲームの経験があんまり役に立たないので公平に戦えるだろう、と。


 五時から始まり、気がつけば、六時半である。

 一ゲームに30分程度かかり、いつまで経っても一位が取れない私の要望ですでに3回戦目が終わっていた。

 時間を忘れて遊んでいた……というのは私にとって毎日のことだが、2人も一緒になって時計も確認せずにコントローラーを手放さなかった。


 六時半……そろそろ母親が帰ってきても遅くない時間帯である。

 しかし残業していれば、あと30分は帰りが遅くなるはず。つまりもう一ゲーム遊べるはずだ。そろそろ全力で勝ちを狙いに行かないと……!


 しかし現実は非情であり、誰かが玄関を空けた音を私の耳は確かに捉えた。

 インターホンも鳴らさずに、だ。続いて特有の足音と、両手に持った複数のエコバッグが擦れる音がした。


「ただいまー……あれっ?」


 母親の声だった。


「……ヤベっ……!」

「え? 哲人? あらあら、なになに? 学校のお友達!?」


 こちらに聞かせる大きな声が廊下の向こう側から響いてくる。

 ……こんな時ばっかり早く帰ってきやがって……! 仕留めるか……? いや出会い頭に意識を失わせるくらいで止めておくか……?

 投擲に適した適度な重量物にテレビリモコンの乾電池を握りしめたところで、扉が開くと、私の母親がリビングに顔を出した。


 すぐさま永遠と雪村さんの2人は姿勢を正して、母親に向かって挨拶をする。


「おじゃましてます」

「おじゃましてまーす」

「えっ女の子……!? ……もしかして永遠ちゃん?! 久しぶりじゃない!!」


 このあとややこしくなったのは言うまでも無い。



       ○



 火曜日。つまりBCDオンラインの更新の日である。


 午後の授業中に更新が来るため、学生にとってはつらい時間だ。

 永遠はいつも通り授業に集中している。雪村さんはちらっと時計を見て、小さくため息を吐いた。これから授業が終わるまで更新内容は確認はできず、お預けを食らうからである。こういうときサイボーグじゃない人は大変だなぁと私はBCDオンラインでクランメンバーとはしゃぎながら思った。



       ○



 14時になり、一週間待った新装備追加の時間がやってくる。


「【勇者の聖鎧・陸式】だって! 魔術師カテゴリ! なにこれ!」



「また勇者シリーズ装備増えたのか」「メインストーリーでは一領(ひとくだり)しか登場しないのに、陸式って今回一気に増えたな……」「今設定では何領あるっけ、勇者シリーズ」「【零式聖鎧】、【勇者の聖鎧】、【勇者の聖鎧・決戦仕様】、【勇者の聖鎧・試験型】×3、【急造型聖鎧】×20、【急造型聖鎧・特別仕様】、【(じゅ)(がい)・壱式】、【(じゅ)(がい)・弐式】、【(じゅ)(がい)・参式】、【メリッサ】【聖鎧・重武装仕様】【勇者の聖鎧・陸式】」「今のところ33領か……」「俺未来から見てきたけど50領まで増えてたよ」「その他追加物資で【イリデセントメイル改】レベル2来てる。またガチャにゴミが増えた……いらねぇ……」



 今日は以前にも増して、仕事をしていないクランメンバーが多かった。

【那由他】【飯屋】【ポンタラ】【ノララ】【わざおぎ】【廃村の生き残り】【ユウスケ】【デスアメショ】【じゃじゃ】【豆腐山】【蛍光色】【頭痛が痛い】【栗鼠】――大赤字オールスターと行ったところである。映えるメンツではないが。


 現在時刻、14時00分。更新から一分も経ってないのにもかかわらず、ピックアップガチャを引き終えた【廃村の生き残り】さんが、スペックを見ながらフリー演習に潜っていった。


『おいこれスペックの時点でクソ強い通り越してぶっ壊れレベルだぞこれ』


 毎回恒例のように配信を開き、クランメンバーで輪を作って装備スペック検査と装備運用の考察をする。


『とりあえずメインのマナシューターから装備回していくよ』


 投影しているブラウザでは、訓練場に【廃村の生き残り】さん操る【勇者の聖鎧・陸式】が降り立つ場面が映っていた。


 ――勇者の聖鎧・陸式

 外見は【勇者の聖鎧】に準ずる純白の鎧だが、鎧の各所にワンポイントとなる紺色の装飾が施されており装甲の細部も変更が入っているようだった。

 特に下半身や足裏にはエリアルブースター機構が追加されており、【ヘビー・ファル】と同様にスキル【ホバークラフト】が付属し、地表を滑走するような高速移動が可能となっていた。

 それ故か、やや機動にクセはあるが騎士クラスのスピードを得ていた。


【廃村の生き残り】さんは訓練所で棒立ちになっている勇者に向け、バレルの長いマナシューターを片手に射撃ダメージを計測している。

 たった一発で勇者の体力の1割以上を削り取った光景を見て、クランメンバーがざわつく。


「マナシューの火力エグいな。速射で何発撃てる?」 隣にいる【那由他】が思わず口を出す。

『4発。射程は重武装聖鎧よりもちょっと短いけど』

「えー。瞬間火力も総火力も高すぎる……」


【廃村の生き残り】さんは武装を切り替えた。【勇者の聖鎧・陸式専用マナシューター】から【勇者の聖鎧・陸式聖剣】へ。【勇者の聖鎧・陸式聖剣】から【簡易ブラストシューター】へ。【簡易ブラストシューター】から【高出力二連火球】へ。

 勇者の聖鎧・陸式の背中からから2つの物体が浮かび上がった。

 各所与に驚きの声。


「なにその新ギミック」 首に金髪のポニテをマフラーみたいにぐるぐる巻きにした【わざおぎ】さんが反応する。

「あのダッセェ杖いらなかったよな……これはこれでちょい古くさいが」 【ノララ】さんが吐き捨てる。

「これ似たようなのPS2で見たことある……!」 紫髪猫耳オッドアイアバターの【トドえもん】さんが体育座りをしたまま小声で言った。


 魔術師全般が持っている杖は廃止され、背部に搭載された魔石を搭載した魔導具の子機が自アバター上部に展開し、大火球による砲撃を行う形式に変更されているようだ。


 画面では砲撃が行われていた。放たれた高速の火球は勇者の足下から微妙に離れた位置に着弾したが、広すぎる爆風によってしっかりダメージが入った。


「えっ? この高出力二連火球の性能イカれてない?」 スーツにピシッと身を包んだ、女子アナみたいな黒髪の成人女性アバターの【蛍光色】さんが冷静に突っ込む。

「スペックは微妙かと思ったけど2発同時発射だから威力二倍かよクソが」 【ノララ】さんの発言だ。

「爆風の範囲しゃれにならないぞこれ……俺この装備好き……」 【わざおぎ】さんが恍惚とぼやく。

「あーこれ、地面撃てば遮蔽物の角に隠れてる敵に当たるな」 【ユウスケ】さんがおふざけ抜きに平静と考察している。


 私も我慢できずに発言する。


「一応聞くけど、火球からのマナシュー間に合う?」

『試してみる』


 各装備で武装は違えど、使い勝手は同じである。あたかも使い慣れた装備のように2つの武装を切り替え、火球からマナシューターのコンボを【廃村の生き残り】さんは実行した。


『間に合ったよ』

「まあそうだよな……」

『そして、この装備にはもう一つサブ武装がある』


 武装を切り替える。【高出力二連火球】から【腕部ファイアバレット】へ。

 敵に向けた左腕から、炎の塊が4発絶え間良く放たれる。

 着弾し、ごっそりと勇者の体力が減る。


『強すぎない?』

「一発はマナシューの半分くらいの威力だけど4発ほぼ同時発射できるから洒落にならんな」 【デスアメショ】さんの発言だ。聖母のごとく優しげな目つきが特徴のくせっ毛のロリで、【大赤字】きっての良心である。

「全弾命中で怯みとれる上に一発一発が割と火力高いな、迎撃かダウン追撃用か」 【ポンタラ】が顎に手を当てささめく。

「火球→ブースト強格闘→腕部ファイアバレット4発のコンボいける?」 魔術師をこよなく愛する【わざおぎ】さんが、一歩踏み入る。


【廃村の生き残り】さんがコンボを実行する動画が流れている。


『できたよ』

「なら火球→ブースト強格闘→腕部ファイアバレット3発→強格闘入るかな」 【ユウスケ】さんの提案に、

「最後は出の早い中格闘のモーションじゃないと入らんだろ。タイミング的に」 と【那由他】が指摘する。


「いや火球→ブースト強格闘→腕部ファイアバレット3発→マナシューターのほうがダメージ出るでしょ。出来るか試してほしい廃村さん」 私の発言だ。


 又もや【廃村の生き残り】さんが実行する。練習無しの即席のコンボであり、武器切り替えの速度が最速でエイムが精確でなければ出来ない技量のいるものだったが、彼は難なく実践して見せた。


『間に合うね。成立するかシビアだけどこっちの方が火力高い』


 ただでさえ高性能な装備の、圧倒的に高火力に配信鑑賞勢の秩序が乱れた。皆が堰を切ったように感想を言い始める。


「勇者の体力7割削れてるんですけど!」「クリーガーなんて紙装甲だしワンコンかなぁ……」「人権装備の匂いがプンプンするぜ」「【ホバークラフト】【ブースター制御】【魔法衝撃軽減】があるから魔術師なのに格闘振りにいけるよやったね」「耐久低めだったり、武器の射程が魔術師としてはちょい低かったりどの武器も弾数控えめだったりで装備ぶん回していかないと継続火力出せないところだろうけど、どうとでもカバーできるからあんまり弱点にはならないな」


 その時で、ちょうど14時10分だった。試合から帰ってきた【飯屋】【じゃじゃ】【豆腐山】さんがクランメンバーの輪に参戦する。


「聞いてくれみんな。こいつ強カウンターで強靱度中だった」 【豆腐山】さんの発言に、悲鳴が上がった。

「今カスマに出たら相手の編成が全員【勇者の聖鎧・陸式】でハゲあがるかと思った」 男性アバターの【じゃじゃ】さんが息を切らしながら行った。


 【豆腐山】さんは燃えるような深紅のツインテが特徴的な少女アバターのオッサンだ。戦士使いであり、更新で【勇者の聖鎧・陸式】が魔術師だと分かるやいなや【零式聖鎧】で出撃していった。

 彼は続けて愚痴る。


「【ホバークラフト】だから逃げ足速すぎて【零式聖鎧】じゃ追い切れないしどうしたらいいのこれ」

「いや呪い装備使えばいいだろ。先週追加された【(じゅ)(がい)・弐式】」 【ノララ】さんのレス。

「俺CURSE使えないんだけど……」

「だれかへやたてて」


 陸式で暴れてきただろう【飯屋】さんは、ほくほく顔であった。




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