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37 自業自得と言われても



 WHOの手によって、ゲーム依存というものが世界的に認知されてから十数年。

 意識を電子に没入させるタイプのVRゲームが民間に普及しつつある現代においても、それを問題視する傾向は続いている。


 ゲーム依存の症状としては、ゲームを優先するあまり日常生活に支障をきたしているのにも関わらずゲームをやめない、というものだ。


 私もゲームを一日中続けていることが大抵で、ふとしたことでゲームをやられない時間があるとイライラするが、

 幸いにもゲーム依存の症状は出ていないので心は穏やかである。


「師匠に話を聞いて貰って、よかったです。なんだが前向きになれました」


 マツリカさんとの応対は150分程度の時間が経過したところで、ようやくお開きになった。

 彼女はすがすがしい様子で、


「とりあえず、先生に分からないところを聞いてみたり、クラスメートと一緒に試験勉強したりとか、やってみたいと思います」

「そうかそうか」

「では、ありがとうございました師匠。おやすみなさい」


 そんな感じでマツリカはログアウトしていったが詳細は詳しく覚えていない。

 ゲームをしたかったからである。


 だか、その夜、いいことをしたという実感はそこそこ感じていた。

 ゲームはほとんどの時間、自分一人で完結する趣味だ。他人になにかを与えるような機会は著しく少ない。思えば貴重なチャンスであった。



 この時期にテストに焦っているということは、マツリカは今週かもしかすると来週テストなのかもれしない。

 学生は大変だなと思いつつ、私は再びゲームに身を捧げることにした。



       ○



 この体の高すぎるスペックはある程度簡単に儲けを生むことができると気がついたのは小学校六年の頃、遊んでいたゲームで当時トップクランを指揮していたポンタラさんに腕を買われて雇われた時(時給千円+ガチャ代支給)。

 そして、賞金付きの大会に出場し、準優勝した時だ(賞金150万)。


 当時はまだVR関連全般的な技術が稚拙だったこともあり、リハビリでVR空間を使用していた私の経験値が飛び抜けていたことが強かったが、それでもこの機会の体の利点が生きたことは間違いない。


 そして現在。

 私は学生固有の悩みに対して、同級生にある有料サービスを展開していた。


 朝、一年の頃のクラスメートがこちらに手を振っているのが見えた。

 名字は高田。下の名前は覚えてない。

 とりあえず私は話を聞きに行った。


保住(ほずみ)さん(※主人公の名字)、保住(ほずみ)さん。次の中間テストの模試の作成はいかがですか」

「気が早くね? まだ四週間前だぞ」

「マジで頼りにしてんだって。予備校の授業じゃ取れて平均点ちょっと上なんだよ。俺推薦狙ってるから。マジで内申点欲しいから」


 興奮気味に彼はまくし立てた。

 仕方がないと私はいつものように金品を要求する。


「お納めください」

「まいど」


 袖の下から贈られたプラスチック製のカードを私は素早く受け取った。

 ウォレット3000円分。我ながらアコギな商売であると感じる。


 中学生の頃、VRゲームをやりながら授業を受けつつも暇を持て余していた私が、担任の言動や問題集を材料に、手慰みに作った定期考査を予測した模試のことごとくが高い精度だったことが発端だ。

 調子がいいときは、私が製作した模試の答えを丸暗記すれば本番で9割は取れるとまで言われたそれは今、限られた友人関係の間で回っている。

 お値段は全教科で3000円である。


 高田はもみ手をしながらこう言った。


「それでですね? うちの知り合いからも保住(ほずみ)さんの力をお借りしたい人がいましてね……?」

「はいはい。分かったよ、うちの学校は全生徒で同じテスト受ける仕組みでよかったな」


 そして今期もまた顧客が増えた。

 高田は持っていたクリアファイルを私に手渡す。


「なにこれ」

「去年と一昨年の過去問だそうです。参考にどうぞ」

「これ集める努力を勉強に回せばいいのに……」


 その私の発言を聞いて高田は表情筋を固まらせ、不快感を表したが見えるようなわかりやすくは表情には反映させなかった。

 私が彼らの成績の上下を握っている感覚、癖になる。



       ○



 サイボーグをしていて肩身が狭いとか、世の中から外れた存在だと自覚してしまうタイミングは非常に多い。

 左利きが、右利き用に整備され尽くした社会に無意識にストレスを感じ続けているように、機械化された体を持つサイボーグは常人のための社会に対して小さなストレスを感じ続けているのだ。


 社会に出ればまだマシだという意見はあるが、学生のうちはそうはいかない。

 義務教育を受けている人間のうち、自分以外に何人サイボーグがいるのか、という話だ。多分日本には10人もいないだろう。

 よって圧倒的少数の私たちに、世間が都合を合わせることはめったにないのだ。

 なまじ日常生活を不都合なく過ごせているところや、場合によっては健常者よりも優れた能力を示すことができる私たちは、度々排斥の的となることも多い。



 この日もいつものようにゲームをしながら授業を受けていたらいつの間にか昼休みになっていた。竹内と飯を食う前に永遠と一言会話をするのがなんか恒例行事となっているのでノルマをこなそうと机の上と頭の中を片付けていた。

 昨日、何故か永遠は泣いた。その理由を、どうにかして聞き出したかったのだ。

 度胸はないが、サイボーグだ、考える時間だけは大量にあった。だけども、どうしてもその理由も、さりげなく答えを聞き出せるような質問の糸口も見つからなかった。

 仕方が無いので、無かったことにしていつもみたいに適当に雑談に落ち着けようとしたとき、雪村さんが何かを期待するように軽い足取りで、永遠と一緒に私の机にやってきた。


「藤咲さん! 保住君! 今日の放課後時間ある?」


 有るか無いかで言えば、一人でゲームするための時間だけがあり、それ以外の時間はないのだが……。

 永遠と顔を見合わせると、彼女は「何かあるの?」と雪村さんに歩み寄った。


「じゃあ、一緒にテスト勉強しない?」

「テスト四週間前ですよ?」


 思わず敬語になる私である。

 この学校、みんな真面目すぎない? どうして誰も彼も四週間前から勉強をしようとするのか、はたはた不気味である。いや、中学の同級生と離れたくて、とりあえず通える範囲で一番頭のいいところに進学したのだから、秀才が集まっているのは必然的ではあるが。


「今からコツコツやっていけば直前になって焦らなくてすむんだよ!」


 自信満々に雪村さんがそう発言した。

 返答に本格的に困った私は無理矢理永遠に話を振った。


「永遠ってテスト前の勉強どうしてるの?」

「私は毎日予習と復習してるから、直前に難問をさらうだけであんまりテスト勉強って感じのことしたことないわね」

「保住君は?」


 逃げようとしたがしっかり補足されていたので、私は正直に答えた。


「俺テスト勉強とかしたことない……」

「……!」


 それを聞いて雪村さん顔をはっとさせて、おもむろに私の手を握った。


「一緒にがんばろ、保住君」


 まるでシルクのように滑らかで、若干冷たい肌が私の手を包み込んだ。

 思わぬ不意打ちだが私はなんとか正常を保った。

 そして、私の言葉足らずな発言を永遠が補足してくれる。


「茉莉、そいつ毎回勉強せずにテストで満点とれるから勉強しないってだけよ」

「満点!? ……もしかして全教科で?」

「まあうん」

「えぇ……!? そんな……保住君は私の仲間かと思ったのに……」


 ほんのりとした失望を感じたのか雪村さんは私の手を離した。

 若干悲しくなった。


「永遠ちゃんって入学式で新入生代表の挨拶したって聞いたのに、もしかして保住君のほうが成績上なの……?」

「上だけどサイボーグだから成績の順位からは除外されてるの俺。教師からは満点取れて当たり前とか思われているし」

「いい機会だからそのスペックの有効活用してみたら? 使い道がないとかよく言ってるし」 永遠の提案。

「有効活用とは?」

「私たち二人が今度の試験で満点取れるように勉強を教えるとか」


 ……話の流れがおかしくなってきた。

 そもそも私は放課後一人で遊んでいたいのに、いつの間にか永遠が雪村さん側に回っていて、その時間を潰そうとしているのだ。何故だ。


「……俺勉強ができるからテストで満点取れてるって訳じゃないんだけどな」


 物心ついて、サイボーグになって、義務教育に復帰したときから勉強というものに困ったことが一切ない。

 この悩みを聞いた時点で真人間のクラスメートは不快感を覚えるが、知ったことではない。贅沢な悩みだ、とかいう意見も知らない。


 単純に、覚えようと思って見聞きした物は電子的な記録に残るのか一生忘れないので、とりあえず将来に強く影響する学業は力を入れておこうというだけである。それでもゲームができるくらいには余裕が有り余っているのだが。


「じゃあ放課後、哲人の家で勉強ね。茉莉はそれでいい?」

「うん、いいよ」


 俺が良くないんですけど……。



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