36 ■幕間 幸せは永遠には続かないから①
【回想 藤咲永遠】
ジリジリと耳を貫く大音量のベル、人の不安を逆撫でる不協和音と火災からの避難を促す男性のアナウンスが鳴り渡る。火事です、メインロビーで火災が発生しました、落ち着いて避難してくださいーー。
看護師が叫ぶ声、患者の悲鳴、子供達の泣き声。
錯乱の真っ只中にある病院のロビーで、その騒ぎの中央のにあるのは1台の無人運転の大型トラックだ。
ロビーを二分するように横たわるトラックは、その頭をカウンター隣の壁にめり込ませている。
出入り口に使われていた強化ガラスと、トラックのフロントガラスが粉になってその周囲の床へと広がっている。
病院特有の鼻をつく独特の匂いに、異臭が混じっていた。
入り込む外気の匂い、壁を破って出てきた建築材の匂い、漏れ出た液体燃料の匂い、火の匂い、血の匂い、焼ける髪の匂い、焦げた肉の匂いーー
ずるり、と、トラックと壁の間から血みどろの屍体が崩れるように動いた。
それは小学生の男の子ーーだったものだ。
顎部が重力に引かれ落ち、うっすらとしたピンク色をした歯茎の一部が床に落ちる。
血液は致死量をゆうに超えた量が流出し、ミンチと化した臓腑は壁とトラックの隙間へと引き伸ばされ、砕け散った骨片はガラスと共に床へと転がっていた。
トラックから上がる火の手はその死体を遠くからじりじりと焼き、形の残っている右半身の表面は時間と共に黒く色を変えていった。
トラックと壁に挟まれるように左半身を潰され、その少年は即死した。
7歳、小学2年に上がったばかりの一人の少年だった。
残った右半身の腕は、一人の少女の手を握っていた。
血にべったり濡れた髪を振り乱し、襲いかかる炎など気にせずに泣きわめく血まみれ少女は、壊れた機械のように叫び続けていた。
おとうさん、おとうさん、てつくんをたすけて! おねがいだから、おとうさん、おねがいだからおとうさん、おとうさん、おとうさんーー
未だ体温が残っている死体の右手を握り続け、彼女はその死体の救援を願い続けた。
【回想 終わり】




