34 初心者狩り狩り
大抵の戦士はそのスタミナ量で格闘を3度振るうことができる。
騎士は大体が2回。魔術師は大体が1回だ。
連撃すればするほど一撃の威力は下がっていくが、総ダメージは上がっていく。戦士の主な仕事は敵に格闘三連撃をねじ込んでいくことである。
しかし何事にも例外がある。
【零式聖鎧】と【呪鎧・弐式】のことだ。【零式聖鎧】は格闘モーション値の設定がおかしく強格闘の威力が異様に高く弱格闘の威力が異様に低いので、中→弱→強の3連撃よりも中→強の2連撃の方が総ダメージが出る。これは恐ろしい特徴で、ただ中→強→強のお手軽コンボで何もかもをバラバラ刻むことができるのであった。【インターセプター・カスタム】で状況を作り上げて長い時間かけて9回殴るよりもこちらの方が強いのだから困る。
そして【呪鎧・弐式】はそもそもスタミナがないので2連撃しかできない。しかしそれでも強い。実装前にナーフされたのだと思われる。
結論として私が何を言いたいのかというと、【零式聖鎧】と【呪鎧・弐式】以外の戦士は大抵がゴミだ。
今のように【零式聖鎧】と【呪鎧・弐式】以外の戦士装備を使うと、その不自由さに激しい後悔に包まれる。
イライライライライライラしながら私は今まで戦っていた。この装備、弱い。弱すぎる。ポンタラさんに連続攻撃を決めれば少しはイライラを発散できたと思ったが、ワンキルできなかったがっかり感が想像以上に大きかった。【インターセプター・カスタム】の射撃寄りの兵装とスタンワイヤーという一芸を持っている装備とか認識していたが、一芸は一芸でも宴会芸らしい。私が今【インターセプター・カスタム】である程度活躍できているのは相手が初心者だからだろう。
Aレート帯上位が誰も使っていないのには理由がある。わざわざ【インターセプター・カスタム】を慎重な立ち回りで使うよりも、【零式聖鎧】で適当に突っ込んで格闘振り回している方が絶対に楽に勝てるからだ。
そして戦士というカテゴリーがチームで担う役割は非常に大きい。味方全体と敵全体の腕と連携が同程度ならば、勝敗を左右するのは装備の差だ。相手が【零式聖鎧】を使い、こちらが【インターセプター・カスタム】などというゴミを使っていたら確実に負ける。
ポンタラさんはクラン内では突出した強さを持たないが、それでもプレイヤー全体では確実に最上位の腕を持つ。酔っ払いだが、地頭も切れるほうだ。このアカウントがプロトの複アカだと感づかないわけがない。
敵チームの全員が中央からいなくなる。
その隙に中央のリスポーン地点を染め上げてから、敵陣に突っ込んでいく味方の後を追った。
勝負をかけるなら、ここしかない。
ポンタラさんから当たり前のようにメッセージが送られてくる。
【初狩り楽しいよね】
【一緒にしないでください】
【そんな……ずっと一緒だって信じてたのに……】
この状況においてもまだふざけてますねぇ……この人は。
返信を考えながら、同時にチーム全体の行動を考える。
『永遠ちゃん! そこにあるリスポーン地点も制圧しちゃって!』
敵陣へ流れ込んでいく味方たちの後ろを足で追いながら私は指示を出した。チームの指揮を執るのは個人的な趣味で避けたかったが、もう好き嫌いを言っている場合ではない。どちらにしろ勝ちを取るには全員での集団行動が必須だ。
永遠がリスポーン地点に足を踏み入れながら私に問う。
『なんで!?』
『ここで敵が沸くポイントを一つだけにすれば、次のウェーブでは絶対に敵の戦力が一カ所に集まるの! そこ叩いて逆転狙う!』
『なるほどね!』
ポンタラさんのリスポーン時間まで残りは大体10秒くらいだ。
こちらもメッセージを送る。
【アウトポスト殴って逆転しますね】
【あっ、ちょっ、やめて押し込まないで】
【殺す】
【やめてぇ!】
話しながらブースターのマナが回復した私は味方に合流。
敵の唯一の生き残りである魔術師を味方がリンチしているのを見ながら、敵拠点にあるオブジェクトを眺める。
アウトポスト。
それは青空が溶けたような色をした巨大なクリスタルである。内側で絶えず変化を続ける控えめに煌めく虹色の光は、優美で見てて飽きない。BCDオンラインで最も美しい物体と言われるのがこれだ。
ゲーム内での設定は忘れたが、これに攻撃を加えれば最大で敵チームの合計コスト分のスコアを獲得できる。終盤に一発逆転を可能にするシステムの一つだ。
逆転の糸口に気がついた味方達はアウトポストであるクリスタルに群がり、格闘攻撃を叩き込んでいく。攻撃音がするたびにこちらのスコアが増える。一人なら大体一分で最大までスコアを改修できるが6人なら20秒もかからない。
試合時間残り2分を切った。
『永遠ちゃん』
『何?』
『そろそろ敵五体が一斉にリスポーンする。復帰後の無敵解けたら二人であの強い相手だけ囲んで落とそう』
味方の体力を確認すれば、一人が体力3割を切っていて瀕死。永遠は体力半分程度。残りの三人は八割といったところ。
ここで一人でも崩れれば総崩れ。望むのは無傷での敵の殲滅。
高すぎる勝利条件だが、決して不可能ではない。
最後に、永遠に確認しておく。
『火球は撃てる?』
『九発残ってる』
『ブーストのマナは?』
『満タン』
『ヨシ』
へへへへ。思わす声に出る。
二対一なら体力満タンでも相手を即死させられるのがこのゲームだ。
一番弟子とはまだやったことのないコンビネーションで、永遠にも概要は教えてないが、どうにかなるだろうという自信はあった。
言葉を交わさずとも、Bレート以上なら誰でもできる簡単な連携だ。
『そろそろ。俺の正体はばれてるだろうから、俺が敵の背後で永遠ちゃんが敵の正面にいてね。多分後ろの俺警戒して振り向くだろうから、その背中に火球撃ち込む感じで』
『……それうまくいくの?』
『ポンタラさんはBタイプだからわからんけど大抵の廃人は驚異度の判定とかその場の状況判断とか機械的にやってるから釣れると思うけどなぁ』
『ちょっと。そこは嘘でもいいから断言してよ』
『振り向かなかったら俺と永遠ちゃんの役割が反対になるだけだから、あんまり深く考えてなかったわ。ごめん。とりあえず二人で格闘つなげて何もさせずに殺す感じにするから合わせてね』
『はいはい』
『そら……来たぞ』
レーダーに敵影が複数。重なっているが数えなくても何体か分かる。
降りてきたのは魔術師を除いた五体だ。
空から降りてきた全員が無敵のベールを纏って着地する。リスポーン後の無敵解除は6秒経過か攻撃行動に移行した時だ。脳内でカウントダウンを始めつつ、無敵の【急造型聖鎧・特別仕様】の背中に向かって大型連装式ブラストシューターを撃ち続ける。
鬼さんこちら 手の鳴るほうへ――そう歌い出したくなる気持ちを抑えてひたすらに弾を垂れ流し続ける。
案の定180度旋回を始める【急造型聖鎧・特別仕様】。レーダーと弾幕の情報だけで、位置を特定された、が想定内。
このコスト帯だとまだ急速な旋回は不可能だ。4秒の時間を費やして敵がこちらを向く。残り無敵時間は大体2秒。【急造型聖鎧・特別仕様】の右手が私の足下に照準を合わせる。火球・改だ。
息を呑む。果たして、奥の手であるドーピングの一つも使っていない私は、この距離で射撃魔法への対処ができるのだろうか?
私は大型連装式ブラストシューターのトリガーを引き続けた。少しでもダメージを出すならば別の敵に撃つべきであるが、今必要なのはダメージではない。弾幕の命中が生むエフェクトによる軽度の錯乱が主目的である。
通常ブラストシューターといったマシンガン系列の射撃が試合で使われることは少ない。騎士は火球やマナシューター系の武装を使う。使うのは一部の魔術師装備くらいだ。戦士もブラストシューター系の装備を持っていることがあるが、そんなものを撃つくらいなら剣を持った状態でうろうろしていた方が色々便利である。
つまりはブラストシューターなどほとんど誰も使わないのだ。使ったところで、大して活躍はできない。一発で怯みの取れる火球の制圧力に押しつぶされるのが関の山だ。
よって、ほとんど対策をする必要が無い。だが完璧に対策をしているプレイヤーは少ない。
ブラストシューターを使われて最もイラっとする場面は弾丸を叩き込まれた状況のなか、撃ち返すために弾幕の嵐に顔を向けてエイムを定めなければならない場面だ。曳光弾のように目視しやすく光る弾丸と鎧から飛び散る火花のせいでレティクルが見にくくなるのである。
しかしポンタラさんは訓練している側の人間だ。
練習に付き合わされた私が言うのだから間違いない。
弾幕に目を照らされながらも正確にエイミングができる。
私とポンタラさんの実力はほぼ等値だ。僅かな開きは存在するのだろうが、この状況では誤差だ。
ここで勝敗を分かつ重要な点は、味方の動きだ。
永遠がBレートレベルの連携をぶっつけ本番でできるか。またはポンタラさんの味方が彼のことを助力に来るか、である。
しかし大前提として私とポンタラさんのタイマンで、プレイングミスが無いことが求められる。あったらそれで決着はつく。
正念場だ。
『永遠ちゃん! 勝つよ!』
『ええ!』
ポンタラさんの右手が正確に私の足下を捉えた瞬間、私はブースターを起動した。同時に剣を装備し、真正面に突撃。ポンタラさんに択を突きつける。
すべてのスキルを使いこなせる上級者同士一対一の差し合いで勝敗を分ける一つの原則がある。『先に手を出した方が負け』である。集団戦になると途端に役に立たなくなる原則だが、この場面ではまだぎりぎり有効だった。
ポンタラさんは火球改を撃たない。私はそのまま前進を続ける。ついには私とポンタラさんの聖鎧同士の表面が触れあう。まだ撃たない。そして私も格闘を振らない。
ポンタラさんが火球改から聖剣に装備を切り替えたのを見て、私も剣からスタンワイヤーに切り替える。
『テツ!』
永遠の声。私は瞬時に後ろにブースターを入力する。
永遠が撃った火球がポンタラさんの足下へと雨飛、爆発し当たり判定をまき散らす。彼女のエイムは正確で確かに直撃コースだったが、ポンタラさんの実力は一歩上手だった。レーダーの動きだけで永遠の攻撃を把握していたのだろう。
【急造型聖鎧・特別仕様】が私の背後に向かってローリングする。前方方向に向けて緊急回避を発動したのだ。
『っ!』
レーダーでポンタラさんと私の位置関係と移動方向を確認する。
最悪な状況は、背中が触れあった状況でポンタラさんから格闘攻撃を引っかけられて、そのまま転倒まで持ち込まれることだ。
状況は緊急回避を先に使ったポンタラさん圧倒的不利だ。そこは変わらない。私は安全な距離をキープしたまま旋回し、視界に【急造型聖鎧・特別仕様】を捉えた。同時に旋回を終えたポンタラさんと目が合う。
そこには、聖剣を両手で腰だめに構えた【急造型聖鎧・特別仕様】の姿があった。この装備特有の強格闘モーション。完全に時間稼ぎへと切り替えたようだ。
腰だめに構えた剣の切っ先をこちらに向けたまま、【急造型聖鎧・特別仕様】がブースターを吹かしながら突進を始める。ヤクザがドスを構えて相手の腹部を貫くようなモーションから、それはドスアタックとも呼ばれている。前方への範囲が長く、威力も高く、うまくいけば複数の敵や回避した敵をも貫けることから、十二分に驚異的な攻撃だ。
しかし突撃前に長い溜めがあり、突撃中のキャンセルが効かないことからパリィを取られやすいという弱点がある。
見え見えのドスアタック、パリィを取れといっているようなものだ。
これは罠だ。
この場面でパリィを取っても確実にポンタラさんを落としきれる自信が無かった。確証はないが、彼は装備に防御系のルーンを山ほど積んで耐久型にしているような気がしたのだ。
私はポンタラさんの突撃にスタンワイヤーを合わせた。膝をついて大怯み。即座に格闘に切り替え。
『永遠ちゃん! 合わせて!』
動けないポンタラさんへ、中→弱→中と格闘を振るった。逆袈裟、右薙ぎ、逆袈裟の連撃がポンタラさんのHPを削る。スタミナを使い果たしたので、バックブーストで距離を取る。
強格闘は降らなかった。転倒状態にならず短時間の怯みだけで硬直しているポンタラさんが残される。
『そういうことね!』
私の後退に合わせて永遠が格闘装備を持ったままポンタラさんに接敵、ひるみ状態が解けないうちに二度、格闘を振るった。私の時と同様に強格闘は降らずに、ひるみだけを与えて後ろに逃げていく。
そして入れ替わるように私が再度格闘を振りに行く。今度は中格闘、弱格闘と続け、最後に強格闘でダウンを取った。バックブーストで離脱。
ダウンを取ったポンタラさんに向かって永遠が強格闘の袈裟懸けを振り下ろし、私も強格闘の兜割を叩き込む。
ポンタラさんのHPが底をついた。撃破である。
『ナイス永遠ちゃん!』
それはスイッチと呼ばれるテクニックだ。敵を転倒させず、味方と連携して入れ替わり入れ替わり絶え間なく怯みありの攻撃を当て続ける姿からそう呼称される。野良で初対面の味方とも成立できるコンボであり、別段人外的なテクニックを必要とするわけでもない簡単なものだが、効果は抜群だ。敵に無敵時間を与えること無く一方的に撃破できる。
敵の残りは4体。これを全滅させて、アウトポストを殴り潰せば勝ちだ。
即座にポンタラさんからメッセージが届く。
【俺の勝率100%が!!】
そのメッセージは、彼のチームは敗北したという事実を意味していた。
○
リザルト
撃破トップ ふぁんとむ
ダメージトップ ふぁんとむ
施設トップ ふぁんとむ
協力トップ ふぁんとむ
陽動トップ ふぁんとむ
総スコアトップ ふぁんとむ
初心者狩りそのものですねこれは……。




