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32 禁じられた力、複垢


 日曜日は昼過ぎから永遠と一緒にBCDオンラインで遊ぶことになった。


 土曜日は深夜4時くらいまで【大赤字】の身内部屋が盛り上がっていたので、いつものメンツは多分まだ寝ていて身近な遊び相手はほとんどログインしていないのである。


 野良で遊ぶか、と思ったときに永遠からのお誘いだ。

 一応土曜日に何度かチャットでBCDについての会話があったのだが、今日もやっているとは思わなかった。

 BCDオンラインをプレイしているのは大体が男性だ。那由他のような女性プレイヤーは実際かなり希少である。

 というかそもそも女性は携帯端末のパズルゲームくらいしかプレイしない。VRゲームなんてもっとやらない。


 なのでBCDオンラインに手を出した永遠の行く末は、割と興味がある。

 彼女はサイバネティクスにかなりの知識を持つ天才という名の変人であるが、現実世界での交友関係はかなり充実している。恋人がいないのが疑わしい程度には。


 三日坊主にならないか、いつ引退するのか、勝率は、一日の平均プレイ時間はどのくらいか。興味は尽きないが、私があれこれ口出ししている時点でもう一般的なプレイヤーからは逸脱しているに違いない。

 とりあえずは彼女に楽しんで貰うことに尽力すべきだろう。私はそう結論づけて、BCDオンラインにログインした。


 彼女からの招待を貰って同じサーバーに到着する。


「おはよー永遠ちゃん」

「もうお昼過ぎよ」

「気にしない気にしない」


 出会って早々に飛んでくる小言。VRだろうと永遠は永遠なのだと安心する。

 しかし言葉とは裏腹に彼女は嬉しそうに目元を和らげて、


「土日に遊ぶなんて初めてね」

「病院にいた頃は土日でもよく遊んでた気がするけど」

「それ幼稚園とか小学校一年生とかの頃じゃない」

「……そうだっけ?」

「もう、しっかりしてよ」


 口を尖らせた永遠の指摘に私は自分の記憶を疑った。

 前提として物心ついていない時の記憶になるが、事故の影響で記憶が混同しているため事実と異なる認識をしている場合が多々ある。

 困るのは永遠と面白くもなんともない昔の思い出話をするときくらいので、別段気にすることではないのが救いだった。


 気を取り直して私は言った。


「で、今日はなにして遊ぶの?」

「……なんかずっとゲームやってるって聞いてた割にはずいぶんレベル低いわね……」


 空中で指を動かしながら永遠がぼやく。

 恐らくはメニューを開いて、私の情報を確認しているのだろう。


 現在の私はプロトではない。


 ユーザーネーム、ふぁんとむ。

 レベルは【12】、ランクは【E+】、プレイヤータイプは【B】。

 これが今の私だ。


「こっちはね、2つ目のアカウントなの。複アカ。ほとんど使わないやつだけど、永遠ちゃんと一緒に戦うときはこっち使うね」

「それ意味なんのあるの?」

「俺の本アカはレベル高すぎて初心者に混じってると大怪獣パニックになって試合にならないと思って。それにレベルなんて飾りだから。結局強さなんて装備と腕前だから、安定して勝てるよ」


 私は言い果った。BCDオンラインにおいてプレイヤーのレベル数がシステムに影響することがない飾りの数字であることは、このゲームの利点である。

 装備を強化する【ルーン】という存在を除けは、始めたばかりの初心者とサービス開始からプレイし続けている上級者の装備に性能差は存在しないのだ。

 初心者と上級者に差がほとんどないことはこのゲームの大きな長所である。新規参入が絶えない理由もこれに寄るところが多いと言われている。長所は場合によって短所になり得ることを加味しても、VRMMO系のゲームにはない特徴だ。


 いまいち理解していない永遠が言う。


「私とテツだけで勝てるものなの?」

「勝てるよ。てか、勝つよ」

「言い切った」

「だってこのアカウント勝率100%だもん。近々負けがつくけど今はできるだけ負け無しで行こうと思ってるからよろしく」


 そう私は宣言して、永遠の手を取った。


「今日はカスタムマッチで遊ぼう」


 よくよく考えれば手をつなぐ必要なんてなかったが、自然と私の体はそう動いた。

 手を振りほどかれると思ったが、意外にも永遠はおとなしく手を引かれていた。

 何かが起こる前に私は素早くカスタムマッチの設定をくみ上げ、プライベート設定で作った部屋に彼女を連れ込んだ。


 マップは訓練場。コストは70。人数は6vs6。レーティング制限は無し。

 コメント〈初心者歓迎〉。


 何もないブリーフィングルームに二人きり。

 余計に気まずいのでは?

 ことが起こる前に私は急いでルームを開放すべく試用する装備の登録を始める。

 その様子を見た永遠も着替え始めるが、装着した装備に私は目を疑った。


 やられ役のような魅力に乏しい貧相な外見の【征旅シリーズ】装備に追加の装甲と大推力エリアルブースター機構を追加した、どことなく無骨でマッシブな装備【征旅・高出力評価試験型】レベル1だ。

 コストは70、兵科は騎士。耐久性は少々低いが機動力に優れるオーソドックスな性能の装備である。その足まわりの良さから70コストの騎士では一軍に数えられる。

 永遠が装備しているそれは店売りではないため、現在の彼女が持っている可能性の少ないものだった。


 尋ねる。


「待って永遠ちゃん。それどこで手に入れたの? ガチャ?」

「戦ったあとなんか貰ったわよ」

「ドロップしたのか……」


 永遠はなんて運がいいのだろうか……。


 安定した勝利に最も重要なのは強い性能の装備だ。ほどほどに単純な戦闘システムでは、わずかな戦闘能力の差が勝敗に直結する。そして装備の性能は戦闘能力を決定づける要素の中でかなり比重が大きく、かつ簡単に変化させることができる。


 とりあえず勝ちが続けばゲームの楽しさは伝わるだろう。装備性能頼りに勝ちを掴みつつ、ゲームシステムは後から覚えていけばいい。とりあえず勝てばいい、とりあえず勝っていれば何も問題はない。

 負けから学べるものなんて人生の何も役に立たないとノララさんは言っていた。ゲームなんて浅ましい喜びを味わい尽くせばそれでいいのだと。


 私は無料ガチャで偶然引けた【インターセプター・カスタム】レベル1を装備した。

 一軍装備ですらなく、二軍装備にも劣る三軍装備だ。本アカなら絶対に使わない装備だか、初心者を装うならちょうどいい。


「とりあえず飽きるまで一緒に戦って勝とうか」

「ちゃんと手加減しなさいよ」

「わかってるって」


 永遠はマツリカと違って私の視線で緊張せず、のびのびと戦うことのできる素質の持ち主だ。

 しかも同学年なので物事への理解力も保証されている。小学生か中学生疑惑のあるマツリカのように一つ一つをかみ砕いて優しく教える必要も少なく、見知った間柄なので遠慮もいらないだろう。


(Eレートに上がる前までに集団戦の戦い方まで仕込んで、Aタイプから脱却させよう)


 マツリカで一度教育を実践した結果を踏まえて、永遠のプレイヤースキル向上を効率的に進めようとしている自分がいた。

 必然的にそうなってしまうのだから仕方がない。1度目よりも2度目の方がうまいのは当たり前だ。


 持っている少ないルーンを適当に装備に刻み、準備を完了させた私はルームを開いた。

 ぼちぼちと人が集まり、やがて満員となる。


 ・Aチーム

 ふぁんとむ

 オリーブ

 エブリデイたかし

【リップロック】87ti6tr%20

【修行中】クソリプレーズ

【車は急に】オルガ



 ・Bチーム

【大赤字】キンタラ

【ご自由にどうぞ】ジェファーソン

【零式聖鎧元に戻して】ゴールデンタカシ

 ゴルディアスの結び目

 崇也

 おいしいごぼう




 相手チームにある見知った【大赤字】の文字。

 クラン【大赤字】ではレートの低いプレイヤーも何人かいるが、最下層レベルのプレイヤーはしょうもない理由でレートを上げないたった一人のみである。


「あれはうちのクランマスターの複アカですねぇ……何してるんだあの人」


 キンタラ。それはお酒大好き酔っ払いの一人であるクランマスター、ポンタラさんの2つ目のアカウントである。

 以前【大赤字】には【経営破綻】という第二クランが存在した。が、その2つのクランでログインしてこなくなったメンバーがそこそこの人数になったので統廃合した結果消滅した。

 そのクランを管理していたのが【キンタラ】というアカウントだ。クランマスターなど誰もやりたがらないので、ポンタラさんは押しつけられる形でそのアカウントを習得したのである。


 しかし【経営破綻】が消滅した現在、その用途は無料配布される金貨であわよくばピックアップ無しの新装備を狙おうとガチャを回すくらいしかなかったのだが……。


 わざわざレベルの低いアカウントで〈初心者歓迎〉なんてコメントのルームに入っていく理由など一つしかない。初心者狩りだ。


 プレイヤーのレベルで装備に性能差が発生しない長所の悪いところが、まさにそれである。初心者狩りのしやすさはBCDオンラインの問題点の一つだ。

 複数アカウントの習得は規約で禁止されており、生体認証などで対策が取られているが、こうして私や彼が複アカをしているように抜け穴は存在する。


 潰そう。

 幸いにもこのアカウントは習得したばかりだ。永遠以外の誰にも存在を知られていない。キンタラを知っている私のほうが一つ有利だ。【インターセプター・カスタム】でも殺すのは容易いと確信できる。


 例のごとくメッセージを打ち込む【ポンタラ殺す】

 いざ、送信。と念を込めようとしたとき、ふと思いついた。



 これ試合中に送ったら面白いんじゃないか?



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