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30 30秒の攻防

 1対2でも圧倒的に有利なのに、私に対しては3体が警戒を向けている。ずいぶんと臆病だ――と思いつつも、その判断には百点満点の評価を下す。私でもそうする。そうでもしなければ一瞬でチームが瓦解する、そういう圧倒的な火力を持つのがCURSEを発動した呪鎧・弐式だ。

 1対2なら捌ける自信があったが、1対3は無理だ。私は遮蔽物の隙間から飛び出した一瞬に簡易型マナシューターのチャージショットをヘビー・ファル拠点防衛型に叩き込みつつ、体3つ分程度の距離だけ後ろに下がった。同タイミングで味方魔術師のロングレンジマナシューターの光がヘビー・ファル拠点防衛型を貫く。

 CURSE、残り時間47秒。


 戦術の方針を転換する。


「弟子! まだ死んでないよな!?」

「まだ生きてます! でもすぐ落とされそうです!」

「そろそろ全員で死ににいこうか!」


 敵の魔術師は一撫ですれば殺せる。だから、いかに他の敵の余力を削るかが重要になる。


 再び前進しつつ、継続して続けていた簡易型マナシューターのチャージを中断。肩部ファイア・ボルトをセットする。

 狙うのは敵の呪鎧・参式。大胆不敵にブーストを消費して接近する。


 カースを発動した装備に真正面から勝てるのはカースを発動した装備だけだ。

 無強化の呪鎧参式でカースを発動した呪鎧弐式と戦うのはリスクとなる。



 それに、売られた喧嘩は買うのがゲームだ。

 敵の呪鎧・参式もカースを解き放った。



 視線と視線が交差する。

 それに水をかけるかのようにアナウンス。


〈味方が撃破されました!〉


「足手まといさんが!」

「死んだ仲間のことは気にするな!」


 戦線の崩壊が始まった。第二ウェーブはこちらの負けだろう。


 私は聖剣二本を両手に装備した。


「ヘイズさんも前に出て行っちゃいました! 師匠! 私どうしたら――!?」

「適当なやつの援護! 俺も前出るぞ!」


 もう時間が無かった。

 前に出れば1対3だが、躊躇している場合ではない。


 つけ込む隙はある。

 敵は3体だがボイスチャットで連携して完璧に意思疎通が取れているという訳ではないはずだ。どこかに、連携のほころびが出来るはず。

 揺さぶりをかけて、相手のミスを誘ってそこをつくしか無い……!


 遮蔽物である木箱の列とマップの端の間に私はブーストを使って入り込んだ。そこはキャラクター一人が入ること程度しか出来ない、短い一本道だ。僅かな期間ならば、一対一が形成できる。


 敵の呪鎧・参式は一本道での私との一対一に応じることなく、路を抜けた先でヘビー・ファル拠点防衛型の右前方で待機している。簡易マナシューターを手にしてたのならば突破は可能だったのだろうが、恐らくセットしている武器はファイア・ボルトだ。強行突破装甲による突撃は不可能である。


 その隙に敵勇者は遮蔽物を軽く迂回しつつ。私の背後を取るように回り込む動きを始めていた。このままでは確実に挟み撃ちに遭い、私は死ぬ。ターゲットを切り替えた。

 この場合の動きは――


「勇者から殺す!」


 バックブーストで一本道から離脱しつつ、回り込む勇者を迎え撃てる位置に陣取った。簡易マナシューターのチャージ完了までの4秒をカウントしつつ、レーダーで敵の動きを見ながら、敵魔術師の射線を切れる位置へ身を隠す。勇者は依然としてこちらに向かいつつ、敵呪鎧・参式も一本道に入りこみ、最短経路で私を追い詰めにかかる。

 射線が通らなくなったヘビー・ファル拠点防衛型は別のターゲットを狙いに、戦線から離脱していった。


 1対3の構図が完全に崩れた。ターゲットの優先順位が変動する。

 だが、誰を狙えばいいのか答えを出すことは困難だった。勇者を狙ってもよい、だがCURSEを発動した呪鎧・参式の機動力は呪鎧・弐式に迫る。すぐに合流される。

 私が狙いを定めたのは呪鎧・参式のほうだった。勇者と合流される前に殺す……!


 再び右側に舵を取るべくブースターを入れる。敵呪鎧・参式との射線が通る。簡易マナシューターのチャージを開始してから4秒が経過していた。レティクルが合っているのを確認し、即座に放つ。だが緊急回避を使われ、命中しなかった。


「クソっ……!」


 緊急回避を使ったというならば格闘を当てに行くチャンスだが、呪鎧にそのセオリーは通用しない。まだ余力を残している可能性があるからだ。

 横から回り込んだ勇者が、こちらに銃口を向けていた。旋回するが、もう対応は間に合わず――


 何も出来ずに死ぬ。間違いなく、助からない。出来るのは時間稼ぎだけ――


 勝利を諦めかけた、その時だった。


「師匠!!」


 敵勇者の背を、マナシューターの閃光が貫いた。怯みが発生し、勇者の動きが一瞬止まる。条件反射に近かった。その瞬間には、私はすでにブーストを入力し、二刀の聖剣に切り替えていた。

 入力するのは強攻撃だ。一歩を大きく踏み出し、二刀をX字に交差させて振り抜いた。

 呪鎧・弐式のぶっ壊れポイントの一つ、二刀流モーションだ。異様なほど広い当たり判定とモーション値で、雑に強い。


 そして、CURSE発動中の呪鎧・弐式が他装備と一線を画すぶっ壊れポイントが射撃怯みからの強格闘を「緊急回避発動で回避することが不可能」なことである。

 緊急回避が発動可能なタイミングに差し掛かるよりも前に強格闘を叩き込むことができる装備も何個は存在するが、それ相応に性能は抑えられている。しかし呪鎧・弐式レベルの高性能装備でそれができてしまうのは大分ゲームバランスを崩壊をまねいていた。


 敵勇者が転倒状態に移行したことで、形勢は一時的に逆転した。

 敵勇者にさらなる追撃を与えつつ、追ってきた敵の呪鎧・参式を見据える。

 状況としては2対1――局所的な枚数有利。だかマツリカさんは瀕死で、相手はノーダメージだ。

 ブーストで高速移動をしながら敵の呪鎧・参式がマツリカさんにファイア・ボルトを全弾掃射する。狙いが甘かったのかマツリカさんはギリギリ死ななかった。

 マツリカさんにトドメを刺すべく放たれた簡易マナシューターの一撃を、彼女は緊急回避の無敵を利用して無効化した。ブースターのマナが枯渇しただろう状態で、彼女は敵呪鎧・参式の足下に転がった。彼女を見ると、装備しているのは簡易マナシューターだ。格闘武器を持っていれば最速で中格闘を振ることくらいは出来ただろう。プレイングミスである。

 敵もそのプレイングミスには気がついたようで、緊急回避上がりの弟子に緊急体術を当てて怯みを取った。彼の手には聖剣が握られている。体術モーションが終わり次第、最速で格闘を入れる算段だろう。

 私は敵の背後に回り込んだ。敵呪鎧・参式が剣を腰の位置に持って行った。中格闘のモーションの始動だ。私は即座に体術を出した。バックスタブに成功。私は守る物のない敵の背に剣2本を突き刺し真横に体を引き裂いた。


 ダメージを与えつつ、ブースターのマナが全回復する。しかしバックスタブモーションに使われる時間は消費される。


 CURSE、残り時間28秒。

 敵呪鎧・参式は転倒状態に移行した。こいつに追撃を入れた後、勇者を処理すれば――


「師匠! 後は頼みます……!」


 見れば弟子が敵勇者にパリィを取られ、カウンターを喰らっていた。

 元々瀕死の彼女であったが、カウンターのダメージが入ればもう助からないだろう。

 しかしカウンターが終わるまでは敵勇者は動けない。

 それは紛れもなく、弟子が作った好機であった。


「任せろ!」


 敵の勇者も呪鎧・参式も、数秒にも満たない僅かな時間、行動が制限される。


 私はブーストでその場から離脱した。行き先は敵の魔術師だ。位置が遠くてレーダーでは補足できないが、頭の片隅で行動を常に追っていたので場所は割れていた。


 CURSEで強化された圧倒的な移動速度でもって、マップを駆けていく。その速度は現時点でゲーム内最速だ。追いつける装備はない。


 遮蔽物地帯と高台を越えた向こう側に体力満タンの敵魔術師はいた。

 簡易マナシューターのチャージは済ませてあった。背後にフルチャージショットを当てて怯みを取り、即座に切り替えた格闘を振る。

 右手の聖剣を縦に振り下ろした、中攻撃。その後最速で強攻撃を繰り出す。敵魔術師は転倒状態に移る。これで体力が4割ほど削れた。

 起き上がりの無敵時間が始まるまでの僅かな時間に行う追撃も、現状の最大火力を発揮するものを自然と選択した。

 格闘モーションをブーストでキャンセルしつつファイア・ボルトに切り替える。発射。全弾撃つ。格闘に切り替え、無防備に倒れている敵の背中に強格闘を入れた。撃破。


 私は引いた。


 ……防御力に優れかつ体力もフルだったヘビー・ファル拠点防衛型が一瞬で蒸発した……この装備火力おかしい……。


 残り時間のカウントを確認。16秒。


 エリアルブースターのマナも少し残っている。

 もう一体にだけなら、噛みつく余裕はある。


 視界にちらつく瘴気が、嫌に禍々しく見えた。

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