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26 人権装備、呪鎧シリーズ

 ブラストシューターも弱くはないが、格闘戦で有利を取れるのは火球装備だ。

 事前に連携が取れて完全に射撃戦で戦うと決めたのならばブラストシューターの弾幕形成能力は驚異だが、初心者にそれができるわけもなく、私のアドバイスと永遠の戦闘能力によって戦いは一方的なワンサイドゲームのまま終局となった。




 リザルト

 撃破トップ   オリーブ

 ダメージトップ オリーブ

 施設トップ   オリーブ

 協力トップ   オリーブ

 陽動トップ   オリーブ

 総スコアトップ オリーブ



 敵を殺して殺して殺しまくった試合で、かつ味方が頼り無いと大体こうなる。

 スコアトップ総ナメでご機嫌な永遠は、ギルドに帰還すると再びグラスを外して現実にいる私に目を向けた。


「ちょっとは楽しさ分かってきたけど、これになんで人が集まってるの?」

「他がソロゲーにとりあえずマルチとPK要素つけたみたいなのとかMMOばっかりだからじゃねぇかな。あとはFPSみたいなのばっかりだし、PvPメインは黎明期に出まくったけどことごとく駄目だったからメーカーが避けてるのもある。今はARゲーも強いのもつらい。殴り合いファンタジーゲーのこれは結構珍しいし、基本無料形式で要求スペック低いから子供もとっつきやすいし」

「でもそこまで面白い感じもないけど。むしろ動きがゆっくりすぎて違和感すごいんだけど」

「それが割と理由の一つでもある。VRでガチの対人ってまだまだハードル高いんだよ。だから相手が人間らしい動きをしてないおかげで殴りに行く心理的ハードルが下がってるっぽい」


 私の言葉に永遠は細かく首を縦に振っていた。思い当たる節があるのだろう。

 とはいえ、いきなり格闘を振りに行った永遠も永遠である。

 どの段階であそこまで割り切れたのか少し気になるが、彼女はその細い顎に指を当てて、


「茉莉が結構熱中してるのが意外なのよね。あの子、争いなんかできないタイプだと思ってたのに」

「そうなの?」

「そう。こんな対人しかないゲームに熱中してるとは思わなかった」

「これはなー、やられる前にやれって心理が働くからなー。優しくて責任感の強い人とかわりとハマる可能性が高い」


 私は少し語ることにした。


「チーム戦なので自分が下手だとチームメンバーに迷惑掛かるわけだ。だから味方の足を引っ張らないようにするために、頑張って敵のことを攻撃しないとって心理が働く。それすれば味方の助けになるし、敵チームもそう思ってるから戦場が過熱するってパターン。あとは敵を打ちのめすのが大好きな輩とかも普通にいるので、殴り合いをしないって選択は皆無かな」


 そして一度でも勝利の喜びを知ってしまったのならもう前の自分に戻ることはできない。

 スポーツや武道ならば相手を尊ぶ気持ちや健全な人格の形成、礼節、道徳心の発達を促すという目的があるがゲームにそのようなものはない。

 運営は利益を、プレイヤーは勝利の快楽を貪ることを主目的としているのが、私が永遠とマツリカに対してあまり深みにはまって欲しくない理由の一つである。


 永遠はクラスメートの一人である雪村茉莉の存在が理由でゲームを始めたらしいが、これからどうなるか未知数である。


「まだちょっとだけ戦うわね」


 気軽な表情で連戦を続けようとする永遠であった。

 不安はつきない。



       ○



 金曜日の夜、今日も身内部屋を開催するというので久しぶりにログインする。


 開始前の身内部屋に意気揚々と集まっていたのは、【那由他】さん【ユウスケ】さん。

 他のメンバーはまだ不在である。


 意味も無くぴょんぴょんと飛び跳ねながら那由他さんが話した。


「プロトじゃん。引退したかと思った」

「緊急入院でこんなにもネットから隔離されてました」

「サイボーグは大変だな」


 どうでもよさそうに適当な感想である。お世辞にもってない。

 しょせんは他人事といった感じだ。

 ユウスケさんも口を開く。


「ド廃人が一週間くらい急にログインせずにいると、サイボーグの緊急手術かな? って思う」

「あるあるネタっすね」


 まるで私がド廃人かのような口ぶりだが私は指摘はなかった。

 ユウスケさんのような変人にいちいち口を挟んでいたら日が暮れてしまう。


「ガチャ引いた?」 ユウスケさんが私に聞いた。

「まだ」

「おまえがいなかった一週間でまた環境変わったぞ。80と90コス」

「80コスも?」

「今週の追加装備が(じゅ)(がい)・弐式と(じゅ)(がい)・参式な。これがまあ強い強い。両方ピックアップあるから3000円出して買ってきな」

「いや性能分からないのに金とか出せないし……」

「ちなみに弐式の方が戦士、参式の方が騎士ね」

「勇者と零式聖鎧よりも強い?」

「安定性ではその二つの方が上だけど攻撃性能は呪鎧のほうが圧倒的に上だね。特に零式聖鎧はもう環境にはついて行けないと思う」

「マジ?」

「わかりやすく人権装備だわな。メインは簡易マナシューター。サブでファイア・ボルトって武器持ってるんだけどこれが強行突破ぶち抜いてよろけ取れる上、切り替え速いリロード速いダメージ稼げるっていう超絶性能してる」


 私は耳を疑った。

 圧倒的な性能で目の前を動くものすべてを切り刻んできたあの零式聖鎧が?


「俺メリクリ環境にもまだ順応してないのに……」

「前にクリーガーが緊急回避と強行突破持っててぶっ壊れだろって話になったじゃん。弐式も緊急回避と強行突破の両方持ってる」

「もしかして呪鎧だから【Curse】もついてる?」

「うん」

「ぶっ壊れッすね」

「引く?」

「もうちょっと様子見る」


 私の慎重な発言を聞いて、那由他さんがアドバイスをする。


「詳細確認するならネットで動画見ればいい。わかりやすく装備性能と武器性能まとめてあるからさ」

「うん、今見てる」

「なんか返事がお座なりだからそうだろうと思ったよ」

「いや別に適当に返してるわけではないけど。体のパーツ入れ替えでパワーアップしたから並列作業も楽になったし」


 私のカミングアウト。ユウスケさんが反応する。


「また意味もなくパワーアップしたのか」

「うむ。今回はすごい。……すごいって言うか、ひどい。どんどん人外に近づいている気がする」

「お前は元から人外スペックだけどな」


 投げやりにユウスケさんが吐き捨てる。


「いや、今まではなんだかんだ人の枠の中に入ってたと思うんですよ」

「入ってねーよ、思いっきりはみ出してたよ。お前のリアルは何年か前の姿しか知らないけどその時から十分スペックおかしかったよ」

「いやいや、その時の俺より強い人いたし。しょせん俺なんて決勝戦敗退だし、優勝したあの人達のほうがおかしいし」

「中学生で歴戦のプロゲーマーに食らいつけてたのがすでにおかしいんだけどな」


 当時を知るユウスケさんが感慨深くつぶやく。


「プロトお前、雑談もいいけどちゃんと性能確認して部屋やるまでにガチャ引いとけよ」 那由他の小言。

「引くこと確定なのかよ」

「確定だよ。呪鎧カテゴリはそういう装備だよ」

「……俺呪鎧って持ってないから専門外なんだけどなぁ……何方かというと殺す専門」

「つべこべ言ってないでとっとと動画見終えろ。二つとも装備は共通だからそんなに時間かからねーだろ、あと何分だ?」

「まだ10分以上あるけど5倍速で見てるからあと2分」


 並列して鑑賞している動画共有サイトに投稿されたプレイ動画を見ながら返事をする。

 ユウスケさんが「そういうところが人外なんだよ……」とぼやいた。


 私が動画を見続けていると、突然メールが送られてきた。

 送り主は目の前にいるユウスケさん。


「プロト、それやる」

「なんすかこれ」

「【STEEL】ってゲーム。おととい発売されたVRシューティングゲー。従来のFPSの系譜のデザインしてるから楽しいよ」


 怪しい。

 VR上ではいくら目が高性能でも、ゲームを通して観測できる表情はVR機材が拾って出力できたものだけだ。心を読む精度の情報は含まれない。

 しかし普通に言動から心を推測することは可能だ。

 ユウスケさんは変人なので探りはかけずに直接聞きただすのが正解だ。


「本音は?」

「すでにスポンサーついてるから賞金制大会やるっぽい。また一緒のチームで出ようぜ。お前くらい練習量詰めるアホはめったにいないんだ」

「え~~……。プロゲーマーでもないのにまた大会でるんすか?」

「ゲームやって金稼げるって素敵じゃん?」

「ならユウスケさんも手術すれば?」

「しねーよ」


 ぶっきらぼうにユウスケさんは否定した。


「まあいいや、もらえるものはもらうね。大会に出る出ないは後々ということで」

「うんそれでいい。じゃあこれからよろしくな弟子よ」


 俺、師匠やってるのに誰かの弟子になるんか……。



       ○



 今回の身内部屋の主催者はどうやらユウスケさんのようで、一向に集まらないメンバーをどうにかかき集めようと一旦ログアウトしてしまった。

 私はというと、追加された新装備を無料配布分の金貨で引こうとしたが引けずに金貨をドブに捨てる羽目になったので、結局なけなしのお小遣いを出して手に入れた。


(じゅ)(がい)・弐式】と【(じゅ)(がい)・参式】。

 結局ピックアップ確定まで引くことになった。

 相変わらずレアが出ないガチャである。

 使ってみれば、那由他やユウスケさんの評判に違わぬ、あまりにも強すぎる装備だった。

 今後はこの装備を使いこなせるかどうかが試合の勝敗を決めるだろう。


 人が集まるまでの僅かな時間で少しだけ練習をし、とりあえずルーンをセットし性能をカスタマイズさせておく。


 次々と集まってくるクランメンバーから快気祝いとなる言葉だけを貰っていると、ログインしてきたクランマスターであるポンタラさんがおもむろに私の対面の地面に座った。


「おうプロト、ごぶさた」

「お疲れさまですポンタラさん」

「復帰してきて安心したよ。これはノララさんから成功報酬だってよ。この前の(ソルジャーシップ)周回頑張ってくれたからな。」


 ポンタラさんが私に人差し指を向けるジェスチャーをすると、OSからメールを受信した通知が入る。

 すぐさま確認すると、書かれていたのはアルファベット大文字小文字数字が混じり合った一行のメッセージだった。


「それはウォレット3万円分のコード。一週間前から渡そうとしてたけどいなかったから、もう受け取り期限が明日までだ。入院が長引かなくて良かったな」

「……時給千円かぁ……」

「こら」


 ゲームをしていて時給が発生するのは、想像以上にうれしい。

 だが支払い主がノララさんなことが不気味で素直に喜べなかった。

 どうせ何かを企んでいるのだろうが、今は目の前のお金をありがたく思っておこう。


「とりあえずガチャ代に回すね。サンキュー3万円」

「それよりも、聞いたぞプロト。またパワーアップしたんだって?」

「今日からは俺のいるチームが勝つよ、やったね」

「言うね」

「ごめん嘘ついた。……いや嘘ではないけど、対人ゲーという対人ゲー全部否定レベルの外道戦法だから普通に遊ぶときは絶対に使わないやつ。普通の戦闘力はほんのちょっと上がったくらい」

「上がったのかよ」


 ポンタラさんは苦笑しながらも私の肩を抱くように腕を回した。


「じゃあプロトも戻ってきたし、今日は花金だしやるぞ。飯屋ルールの部屋」

「えぇ……。俺未成年だって言ってるじゃないですか」

「知るかボケぇ!」


 男らしく大胆にポンタラさんは宣言した。


「負けたら一杯酒を飲む! 勝ったら好きに酒を飲む! それが絶対だ!」

「いや酒飲みたいだけじゃないですか」


 飯屋ルール。それは酒飲みのオッサンのために自然発生したルールである。

 敗者は罰ゲームとしてリアルで一杯の酒を飲まなければならない。

 勝者はご褒美としていくらでも酒を飲んでいい。

 それだけだ。

 要するに酒を飲む口実にゲームを使っているだけなのである。

 毎回全員がべべれけになって寝落ちしてルームが自然消滅するまで続けられる。


「花金だからな。一週間の疲れを明け方までかけて酒と戦いでドロドロにするんだ」

「飯屋さんルールで戦い続けてると最後の方みんな動きひどくてつまらないんだもん……」

「それはお前の飲む量が足りてないんだよ。一線越えてみようぜ」

「俺未成年だから酒飲んじゃいけないんだけどなぁ……。みんな法律とか知ってるのかなぁ……」


 このような皮肉も全員に無視されるのが恒例であった。


 以前未成年だからと、勝ち負けにかかわらず一ミリリットルのアルコールも飲まずに戦ったら案の定私のいるチームが全勝する結果となった。

 全員が酒で鈍った頭になったメンバー相手に私が負ける道理は皆無であり、次回からは悪い大人達から送られた酒を飲んで戦う羽目になった。


 未成年飲酒の事実をもみ消すための手段も同時に提供されたので、無罪というのが【大赤字】公式の見解である。


「飲む量をコントロールしたかったら勝てばいいのだ! 俺は沢山飲みたいから勝ち続けるぜ!」


 今日にテンションが上がって叫んだポンタラさんを見て、私は彼がもう酔っ払い始めていることをなんとなく察したのだった。

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