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25 永遠ちゃんゲームを始める。初めての対人編



「とりあえず試合に出てみるわ私」


 チュートリアルをすべて終えた永遠は大胆にもそう断言した。


「躊躇無いっすね」

「別に怖がる要素なくない?」

「普通対人戦って怖いものなんだけど……。どうする? 俺、試合の様子も見てたほうがいい?」

「見てて」


 彼女が素直に観戦を求めたのが、少し意外だった。

 マツリカさんの事例を見るに、多くのプレイヤーは人の視線の存在に多くの意識を持って行かれるものだ。

 しかし私と永遠は見知らぬ関係ではない。

 加えてチュートリアルから観戦している事実もある。

 初めから高いハードルを飛び越えさせていたのなら、いきなりの試合を他人に見られていても問題ないと言うことか。


「もちろんちょっとは怖いというか緊張しているところもあるけど、どうせゲームの中でどこにいるのかも知らない人との戦いだし、そこまで怖いとは思わないわね」


 落ち着いた様子で彼女はそういった。


「あと自分も何回かはやってみたいっていうのもあるし」

「その言い方、なんかやらないといけない理由でもあるの?」

茉莉(まつり)よ。あの子、いまいち私たちと話が合わないから聞いてみたら、今はこのゲームやってて他にやりたいことがないだって」

「茉莉……? ……、……。……雪村さんか。……余計に訳わからん」

「学校終わったあと一緒に遊んでもあんまり面白そうじゃないし、そんなにこのゲームが面白いのかなって疑問に感じたのよ。テツもやってるみたいだし、だから一回は遊んでみたいと思って」

「へぇ。でも、他人を原動力にするとゲームって長続きしないぞ。永遠ちゃんもちゃんと楽しまないともったいないよ」

「もったいない?」

「ゲームは自分勝手に遊べるから楽しいんだ。現実じゃやっちゃいけないこととか、できなくてもやれなかったことをする場所にする楽しみかたもある」

「ふーん……。できなくてもやれなかったこと、ね」

「普通は他人との戦いなんかがそれなんだけど、最初怖いと思うのは当たり前だからあんまり気負わないでね。だんだん楽しくなってくるから」

「今は、テツが後ろで見ててくれるんでしょ?」

「そうだけど」


 私が言い切ると、永遠は試合受付のNPCに話しかけ出撃準備を行う。


「なら、私は大丈夫だから」


 わざわざそう発言すると言うことは、やはり怖い気持ちはあるのだろう。

 したたかにも見えた彼女が、言葉の裏に見せたかすかな不安のひとかけら。


 私は携帯ゲーム機をスリープモードにし、彼女の戦いに向き合うことにした。



       ○



 ブリーフィングルームに送られた永遠は、周囲の味方に目を向けながら現実の私に視線を向けた。


「今になって緊張してきたわ私」

「アドバイスいる?」

「できれば自分の力で戦いたいけど、最低限だけはちょうだい」

「わかった」


 グラスをかけ直して永遠は再び瞳を閉じた。

 VR上で、これから共に戦うプレイヤー達に向けて視線を向けて、遠くまで響く凜とした声でこう言った。


「私試合に出るのは初めてだけど頑張るから、みんなよろしくね!」


 しかし帰ってきたのは沈黙である。

 自分の発言を無視されたと思った永遠は苛立ちに眉をひそめるが、実際に起こった出来事は違っていた。



 現在のBCDオンラインのプライベート設定を見ると、デフォルトの状態では他プレイヤーとの細かい意思疎通は不可能になっているのだ。

 自分で設定をいじらなければ、チャット以外で味方と会話をすることはできないのである。

 つまりいくら声を張り上げても、彼女の声が誰かに届くことはない。

 そういう事実を私が永遠に伝えると、


「VRゲームの意味ないわね……」

「でもね、ゲーマーなんてそんなものなんですよ。MMOも何度か手を出したことあったけど、みんな好き勝手に遊びたいから他人のことなんてあんまり考えないし」

「それってどうなのよ」

「どうもこうも、むしろ今の段階だとみんな殺伐としてるからむやみやたらに会話しない方がいいぞ。みんな何が正しくて何が悪いかわからないし、勝てなくてイライラしてるやつとかも多くて口論になりやすい」

「何度も何度も口論したことがあるみたいな言い方ね」

「なったんだよ……今はもうレートの最上位だからそんなことはないけど、昔は本当にひどかった……」

「知らない人と口論するのが面倒なら逃げればよかったんじゃないの? どうせゲームなんだし」

「あの時の俺は若かったから売られた喧嘩全部買ってたんだな」

「なにしてるのテツ……」

「面倒になったら引退でいいやって思ってやっちゃいけないことをしまくってたんだな……。全部乗り越えてきたおかげでまあ割と強くなれたんだけど」

「テツが口論に強くなった? そんな感じはしないけど」

「まあ、口論にはできるだけ付き合わないで、面倒だからタイマンで勝負決めようって話題すり替えてたんだけど」

「あなたゲームでそんなことしてるの……?」

「集団戦メインのゲームだから意外とタイマンにはみんな慣れて無いから、ボコボコにしてその様子を録画しておくと大抵黙るってうちのクランメンバーが言ってた。ゲーマーって自分の強さにプライドもってるから何も言い返せなくなるって。頭おかしいのはその人です」

「実行してるテツも大概よ」

「悪用厳禁だからね。まねしないように」

「しません」


 マツリカさんという弟子の経験を踏まえ、私は永遠をどう育てるべきかを瞬時に答えを出していた。

 やはり、ネットユーザーの汚い部分には極力触れさせないようにして、ゲームの楽しい部分だけをかすめ取るべきである。

 一番弟子は直接の面識も共有している現実も皆無なのでできることは限られるが、幼馴染みの永遠ならば私が取ることのできる手段は実に多い。


 永遠が味方の5人に向かっていきなり挨拶をしたときには肝を冷やしたが、そこはゲームの仕様に救われた。

 マツリカさんのように身内だけで遊ぶように誘導し続ければ、永遠は勝手に自分たちだけのグループを作り上げるだろう。

 極端に知能の低下したユーザーと関わって面倒を被る必要など無いのだから。


 というわけで、ひとまずは戦闘能力の強化を目指すことにした私である。


「このゲーム、チュートリアルだけじゃスタートラインにすら立ててないって前話したよね」

「覚えてない」

「この前の検査の日の話(※7話)だよ。チュートリアルだと三すくみも格闘のパリィもバックスタブも拠点の制圧も教えないからな。おそらく運営は他人にやられてから覚えろとか思ってる」

「それ知らないとどうなるの?」

「じゃんけんで例えるとグーしか出せない状態かな」


 それは比喩でも何でも無い。

 以前私が弟子とのタイマンで証明してしまったことだ。


「とりあえず装備は【征旅・指揮官型】で」

「わかった」

「メイン武器にブラストシューター装備してるけど、外して火球装備で行こう」

「なんで?」

「単純にそっちの方が強いから」


 言うと、永遠は素直にメニューを開いて装備を整え始める。

 私は構わず話を続けた。


「体術とかパリィとか火球からの格闘とか三すくみは何戦かしたら教えるよ。今はチュートリアルで習ったことだけで戦おう」

「私グーしか出せないんだけど?」

「グーで全員殴り倒せばいい」


 そう結論を出して、私たちは試合の準備を終わらせた。



       ○



「そういえばゲーム始めたばっかりの頃ってこんな戦いしてたな。懐かしい」


 試合に出撃した永遠とその仲間達5人を眺めながら私は喋った。

 マップは戦いやすい訓練場。コスト帯もやや低い50。

 私が初めた頃とは環境が異なるが、まあこんなものだろう。

 一般的に高コスト帯と呼ばれるのは80を超えた箇所からである。

 それより先はゲームスピードや攻撃力、リスポーン待ち時間などの関係からセオリーを知らなければ一方的な試合展開となってしまうことも珍しくはない。

 50はまだ動きが緩やかな方だ。


 水の中を歩くかのように、ブースターも使わずにのろのろと歩く敵味方12人を見ながら私は思い出す。


 予測のつかない動きをする騎士たち。

 テンプレとは程遠い形のぐちゃぐちゃの前線。

 無謀に特攻をした結果簡単に死んで敵に得点を献上し続ける猪戦士。

 味方の後ろで大してダメージにならない魔法を撃ち続ける芋魔術師。


 以前に想像したとおりの、連携のレの字もない戦場だ。

 ちょっと前は考えてるだけで体調が悪くなりそうだったが、今は違う。

 間接的にだが、私はこの戦場に介入できるのである。

 全員カモに見える。


 暴れ放題。

 食べ放題。

 虐殺タイム。


 思い浮かぶのかそんな言葉ばかりだ。

 ダブルスコアがつけば大勝利が基本のこのゲーム。

 永遠の初戦はそんな輝かしい白星を取らせてあげたいものだ。


 目指せ、トリプルスコア。


「とりあえず火球当てるところから始めよう」


 足並みがそろわず中心の見当たらない戦場で、永遠は遮蔽物の影に身を置いていた。

 集団戦が基本のこのゲームだが、敵味方は全員好き勝手に動いていて、誰も彼も連携を取らずに孤立状態にあるという悲惨な戦場がそこにはあった。

 そして永遠以外の全員はブラストシューターを装備していて、鈍い足と火力の出ない射撃で、撃って撃たれてをひたすらに繰り返している。誰も格闘攻撃をするところまで踏み出してはいない。


 現在射線に身をさらしていない永遠のことを狙っている敵はいなかった。

 今なら安全に射撃を使えると判断した永遠は、おもむろに身を出して右手を敵に向かった伸ばした。


 永遠が火球を放つ。

 目で追えてしまうくらいの速度で爆炎が敵に向かうが、着弾までの一秒にも満たない時間で敵はあらぬ方向へと移動していて命中はしなかった。


「これ当てられるの……? 弾が遅すぎるんだけど」

「弾速を覚えて、相手の動きをよく見て、敵が進んでる進行方向に置く感じで撃つのが基本だね」

「簡単に言わないでよ」

「狙いは足下の地面ね。当たると爆発するから、その爆風の当たり判定で足を巻き込む感じ。それで、火球が当てると怯みで一瞬だけ動きが止まるから、その隙に格闘を入れるのがこのゲームの基本の動きだね」


 コツを伝えている間に、クールタイムが終わり再び火球が撃てるようになる。

 再び射撃、しかし命中せず。永遠の舌打ちが聞こえる。


「当たらなくてイライラする!」

「永遠ちゃん落ち着いて」

「私前出る! 外さない距離まで寄って当てる!」


 イライラの閾値が限界まで達した永遠は、一人遮蔽物から飛び出した。


「永遠ちゃん永遠ちゃん! 一人で出ると危ないから! あとそいつ狙うのは悪手だって!」

「誰狙えばいいの!」

「マップの一番左にいるやつ! 永遠ちゃんが右から行って味方と挟み込めば簡単に落とせるよ!」

「格闘は何振ればいいの!?」

「中から強振って転倒とったらエリアルブースター使って硬直モーションキャンセルしてからまた中と強!」

「そんな難しいこといきなりできないよ!」


 言いつつ、永遠は敵から撃たれるブラストシューターの雨をくぐり抜けて私の指示した敵に向かっていった。

 こちらに背後を向け、右へ左へふらつきながらひたすら射撃を続ける敵の足下に永遠は照準を合わせる。

 放たれた火球は正確に移動し続ける敵の足下へと直進し、発生した爆風がひるみをもたらし動きを止める。

 そこへ、最速で聖剣に持ち替えた永遠が接近し、一縷の躊躇いもなく格闘を中・強と振るった。

 まるで何度も練習していたかのようになめらかな動きでエリアルブースターを起動、真後ろへと一瞬吹かして格闘モーションをキャンセル。

 強格闘の命中によって転倒状態に移行している敵に向かって、永遠は再び格闘を振るった。

 四度の格闘命中によって敵の体力が底をつく。撃破である。


「できた!」


 天才かな?


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