24 永遠ちゃんゲームを始める。新人応援ログインボーナス編
【STEP CLEAR!】
『すごいね! 次は高速移動について学んでみよう!』
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〈チュートリアル STEP3〉
・視界の中心に向かって高速移動してみよう
・高速移動中はエリアルブースターのマナを消費する
・エリアルブースターのマナを使い切ると、一定の回復待ち時間が発生する
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チュートリアルの説明書き画面では高速移動としてエリアルブーストを駆使して左右にステップを踏んでいるプレイヤーの紹介動画が映し出されている。
永遠が我慢しきれずに口を挟んだ。
「なんか背中からの推進力で動いてるみたいだけど、転んで顔から地面に叩きつけられないの? 下半身がついて行かなかったときとか怪我するわよ」
「永遠ちゃん永遠ちゃん。このゲームそこまで厳密に物理演算してないから」
「……雑……」
そう言って永遠は重い動きの足で走ろうとするが、今回のチュートリアルの目的がそれではないことに気がついてすぐさま足を止めた。
彼女は鎧の凹凸に指を滑らせてみたり、意味もなしに飛び跳ねてみたり、現実のVRメガネに手をかけてみた後に、私に助けを求めてきた。
「どうやってあの動きするのよ」
「前後左右どの方向でもいいから早く進みたいって念じると動くよ」
私は携帯ゲームをプレイしながら端的に答えた。
VRゲーム初心者はここで5分くらいつまずくが、彼女は優秀だった。
エリアルブーストの起動を習得した永遠が、チュートリアルの世界をそこそこの速度で直線移動する。
【STEP CLEAR!】
『すごいね!』
「本当だ。脳波操作みたいなものなのね」
『次は武装の切り替えについて学んでみよう!』
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〈チュートリアル STEP4〉
・プレイヤーは複数の武装を装備している
・武装を一つ一つを切り替えることで、使い分けが可能になる
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チュートリアルの説明書き画面では主撃攻撃としてブラストシューターを撃ったり手投げ弾を投げている紹介動画が映し出されている。
『それじゃ、射撃攻撃を試してみようね!』
画面の説明書きが消えるのと同時に、永遠の手元に武器が出現する。
それは食卓用ナイフほどの大きさの短剣だ。刀身には魔術的な意味を持つ刻印がびっしりと刻み込まれている。
格闘武装ではなく射撃魔術『ブラストシューター』の触媒である。
永遠の体が動くようになったのと同時に、敵が一体出現する。
敵の装備は【ファルメイル】レベル1、初期装備の一つだ。その外見は現実の甲冑のように曲面が多めである。
永遠は【ファルメイル】に向けて短剣の切っ先を向けた。発射は思念操作をトリガーとしているため一見分かりづらいが、何も言わずとも射撃操作に成功する。
生成された小石がすさまじい勢いで敵に向かって衝突する。しかしそれで与えられるダメージは僅かだ。連射しなければダメージを稼ぐことはできない。
いつの間にか腰のホルダー部分に出現していた手投げ弾を取るために、永遠はブラストシューターの触媒をしまおうと悪戦苦闘している。
「……これいちいち武器しまって取り出してってやらないと駄目?」
「いや? 手放して捨てようとすれば武器は勝手に鎧のホルダーに移動してるし、装備の剣もわざわざ引き抜かなくても手元に瞬間移動するよ」
「ふーん、便利でいいねそれは」
思い切って触媒を捨てると、永遠の手には手投げ弾が出現し自動的にホールドされる。
その感触に気分をよくしたのか、パッパッと武装を切り替えて遊ぶ永遠であった。
【STEP CLEAR!】
『次は格闘について学んでみよう!』
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〈チュートリアル STEP5〉
・格闘武装の装備中、スタミナゲージを消費することで格闘攻撃を行える
・弱、中、強の使い分けを駆使することで、格闘の内容が変化する
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今度は鎧の腰にある剣帯にロングソードが現れた。
ゲーム内の設定ではそれを【量産型の聖剣】と称している。聖鎧の装着者が装備することで青白い魔力を纏い切れ味を上げている。
永遠は前のチュートリアルの要領で武器を切り替え聖剣を握りしめ、その光り輝く聖剣をブンブンを振り回して敵を叩いた。
しかしうんともすんとも言わない敵と減らない体力ゲージを見て、恥ずかしそうに声を振り立てた。
「えぇっ?! VRゲームの剣ってこうやってやるんじゃないの!?」
「BCDは違うんだ……! 弱、中、強の3つしか振り方がないんだ……!」
「……じゃあこれも脳波操作なの?」
永遠はゆっくりと敵に歩み寄り、真剣な表情で正面を見据えた。
突然彼女の体が機敏に動き、敵を左切り上げで斬る。中攻撃だ。
BCDオンラインの格闘に自由度という自由度は一切無い。
ゲームのシステムによって再生された固有のモーション通りに体は動かされる。
続け様に横薙ぎの一撃。
「体が勝手に動いたんだけど!」
「楽でいいでしょ?」
「なんか気持ち悪い!」
その感想を聞いて私は微笑ましいなぁと和んだ。
初めは誰しもそんな物である。
「これ以上連続で攻撃できないの?」
「チュートリアルの装備は連続攻撃は二回だけだね。3回振るにはスタミナが足りない」
格闘モーションキャンセルを知らないので、今頃になってようやく永遠は自由に動き回れるようになる。
「今念じても剣が振れないのは見えてるこのウェイトゲージと関係がある?」
「ウェイト終わるまで格闘は振れないよ」
「……制限ばっかりねこのゲーム」
ため息をつくように彼女はつぶやいた。
幻滅しているようだが、それはそれで面白い物なのだ。
だからゲームをフォローする意味で私はこう言った。
「だからねBCDオンラインはね、まずは何をできないのか、から把握するゲームだって言われてるの」
ゲームのフォローにはなってなかったようで、永遠は苦い顔を浮かべていた。
チュートリアルは進んでいく……。
○
試合のチュートリアルが終了し、今度はロビーであるギルド内の施設に関してのチュートリアルを永遠は受けていた。
試合出場に関するチュートリアルを終え、次はジャンク屋でガチャを回してみようみたいなところまで来ていた。
「なるほどね、今のNPCに話かければ試合に出て行けるの」
「じゃあチュートリアル用の金貨もらえたしガチャ回しにいこうか」
「10連まで取っておくといいことある?」
「まとめて回せるだけだから序盤は貯めずに回した方がいい」
鎧を纏っていない赤毛のアバターを操る永遠は、移動速度に制限など一つも無い軽々とした動きでギルド内を駆けずり回っていた。
まだマップは覚えられていないようで、今まで行ったところを総当たりしながらジャンク屋を探し、その勢いのままガチャNPCを発見し突撃していった。
『新装備入荷! ただいまキャンペーン実施中だよ!』
いつも聞く定型文。だが私はそれで肝心なことを思い出した。
「そういえば新装備出るのって火曜日じゃん! 入院中にアップデート来てたわ! ゲームやってる場合じゃなかった!」
「だからどうしたの」
「新装備の詳細スペックを調べたい! できれば今すぐ!」
「……あとででいいでしょ! 今はちゃんと私に集中しててよ」
現実で狼狽してると、VRグラスを一瞬だけ取り外した永遠に叱られた。
「ごめんなさい……」
「テツはいつもそうなんだから」
Wikiとか見たい気持ちを抑えて、私は観戦に集中することにした。
永遠はチュートリアルで支持されたとおりお行儀よくNPCに金貨を手渡す。
『なんだか姉ちゃんは今日ツキがいいんじゃないか~?』
NPCが珍しく追加で口を開いた。レア確定時の特殊セリフだ。
装飾がなされた木箱がカウンターに無造作に置かれる。
〈【プリンセスメイル】レベル2入手!〉
「うわ! 上級姫騎士だ!」
「レアなやつ? 強いの?」
明らかに機嫌が良さそうな永遠の声。私は正直に
「いや微妙、超攻撃特化型戦士で扱いがゲーム内で一番難しい。俺もまだ使いこなせない」
「ふーん……」
「……使いこなしてみようとか思ってないよね?」
【プリンセスメイル】。通称姫騎士。コストは80。
カテゴリは戦士だが呼び名は姫騎士である。
帝国軍装備としては珍しくヒロイックな外見をしていて、装飾できらびやかに彩られたその装備はゲーム内一ビジュアルに優れている。
レベル1実装時、面白半分にピックアップまで回したはいいが使いこなせずにインベントリの肥やしにしていたプレイヤーは星の数ほどいるという。
しかし、そのビジュアルとピーキー過ぎる性能から愛好家は多く、レベル2実装の際にはピックアップ無しだったので阿鼻叫喚のガチャ地獄が展開されていた。
とりあえずガチャを回して全装備コンプを目指す【廃村の生き残り】の総被害額は15万円を超えたという。
メニューを開いて【プリンセスメイル】の外見とステータスを眺めている永遠だったが突如ローディングが入る。
前触れ無しに視界の中心に見覚えのある画像が表示された。
金貨が山のように積まれたイラスト、その上には「新人応援ログインボーナス」の文字。
「なんか今もらったよ。金貨10枚」
「あー、いつぞやのやつか」
「なにこれ、ばらまき?」
「そうだね。3ヶ月くらい前に俺も貰ったけどまだ続いてたの知らなかった」
「意外と気前がいいのね」
「昔からどの運営でもこんなものだけどなぁ」
ゲームを全く知らない彼女を見て、私は自分が初心者だった頃を思い出した。
そして、ろくでもない思い出ばかりだったので即座に頭から追い出した。
永遠にはもっと楽しい初体験をプレゼントしないと……。
そういうわけで私は永遠がすべて最適な行動を取るように誘導することにした。
「じゃあ十連回そうぜ」
「そうね、さっきいいやつ引いたし、引くなら今しかない」
……が、ガチャの結果だけはどうしようもない。
ここでクソガチャに遭遇して気分を悪くして即刻引退、なんてことになっては目も当てられない。
今は運が回ってきていると根拠のない自信の元、気前よくジャンク屋にゲーム内の全財産を差し出した永遠を見て、私は心の底から祈った。
ちょっとくらいまともな装備が出てくれ、と。
運命は私の神経を逆撫でするような結果を目の前に出した。
〈【先行量産型アーヴィン】レベル1入手!!!〉
〈【ジーンメイル】レベル1入手!!〉
〈【征旅・指揮官型】レベル1入手!〉
〈【ジーンメイル改】レベル1入手!!!〉
〈【征旅の鎧・魔術カスタム仕様】レベル1入手!!〉
〈【征旅・指揮官型】レベル4入手!!〉
〈【正規魔術師の聖鎧】レベル3入手!!〉
〈【呪鎧 参式】レベル1入手!!!〉
〈【クリーガー】レベル1入手!!!〉
〈【征旅・魔術狙撃仕様】レベル3入手!!〉
「えっ何この引きの良さ。うらやましすぎるんだけど」
「いいの?」
「最高レア度3のやつが4つ。そこそこなレア度2が4。レア度1は2つだけ。夢のスターターキットって感じだ」
毎週毎週【廃村の生き残り】さんの爆死ガチャを酒のツマミにしている私にとっても、これほどまでの引きの良さはほとんど見覚えがなかった。
しかも初日の初回で、である。
歯噛みをせずにはいられなかった。私はずっと無課金でピックアップを捨てていた時期があって、なおかつガチャ運もよくなかったのでサービス開始から4ヶ月ほどは最高レア3の装備なんて持ってなかったのだ。
これほどの強装備があれば他の初心者をなぎ倒すことなど造作も無いだろう。
安心したが、心は複雑な感情を抱いていた。
「いいなぁ、俺の知らない新装備も引けてるっぽいし。いいなぁ、うらやましいなぁ」
「そんなにいいの?」
「ピックアップ無しで最高レア一つ引くのに大体40連は回さないと駄目ってうちのメンバーが言ってた」
「最高レアの排出確率は?」
「7.5%とかなんとか」
並列して遊んでいる携帯ゲーム機から目を離して、無防備に寝姿をさらす永遠の体を見る。
長い睫毛、桃色の唇、整った目鼻立ち。
体つきは細いが出るところは出ていて、外の空気にさらされている肌は瑞々しく、柔らかでシミ一つ無い。長く伸びている黒髪もふわあっ……としなやかにクッションへと垂れている。
VRゲームばかりやっていると美人の尺度が麻痺しがちだが、彼女ほどの美人を見つけようと思えば一日中走り回っても見つけられないだろう。
そんな彼女だが、私の視線など気にすることなく堂々と寝返りをうったり足を組んだり組み替えたりして制服の部分部分がめくれ上がったままゲームを続けている。
パンツ見えてますよ。
「となると10回で7.5%が4つも出る確立ってとんでもない低確率になるわね」
「俺なんてサービス開始から今の今まで全然いいの引けてないのに……」
「うらやましい……チュートリアルガチャでの姫騎士だけじゃなくて何で初心者キャンペーンでも」
私は妬み心をVRの中と現実の両方でつぶやいた。
その羨望が心地よく感じたのか、永遠はわざわざVRグラスを外して私の目を見てこう言った。
「私の人徳かしら」
そこには学校でもまず見ないまぶしいほどの笑顔と、すさまじいドヤ顔が混同していた。が、私の反応が芳しくなかったのか、すぐに顔を赤くしてそらした。
「いや自分でやって恥ずかしくなられても」




