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19 土曜日と6時間の成果

 全体的な視点の話をすれば、高難易度チャレンジ版「対空戦・ソルジャーシップ」は炎上案件になるかと思われ、事実そこそこ荒れたのだが大きな騒動には至らなかった。

 大炎上案件に比べれば、小火のようなものだ。

 結果だけを見れば多くのプレイヤーの土日が潰れただけで、同時キャンペーンとして行われた「戦闘後ドロップ確率大幅上昇キャンペーン」によってこの一週間はアイテム稼ぎ放題だったからである。

 初心者にとってはある種のガチャ回し放題イベントで、経験者にとっても身所持の聖鎧を何個か獲得することのできた、限りなくユーザー有利な五日間だった。


 ウン十万、ウン百万円が飛んだとか、運営が不適切な発言をしただとか、データが電子海の藻屑になったとか言う話ではない。

 運営・開発便りを見ても先行入手ができるというだけで先行体験ができるとは一言も書いてなかった、と運営を擁護するユーザーまで現れる始末である。運営の自作自演な予感がするがどうかしているのは確かである。

 プレイできる日時が土日のみの二日間だったというのも大きい。

 被害程度はせいぜい土日が吹っ飛んだくらいなのだ。

 しかも参加しなければ環境から振り落とされるというものでもない。

 些細な損害である。



       ○



 寝ても覚めてもゲーム、ゲーム、ゲーム、ゲームだ。


 もっとほかにやるべきことはないのかと、自問したくなるほどの時間をゲームに費やしている。

 とはいえ、あらゆるものを渡り歩いて、たどり着いたのがゲームというコンテンツだったのだから仕方のないことだ。

 自分の居心地のいい場所は仮想空間の中にしかなかった。

 現実に嫌気がさしているわけではないし、逆に絶対に仮想空間から離れられないわけでもない。消去法で残ったのがこれだけだった。もっといいものが見つかれば即移住するだろう。

 勉強に励むのもスポーツをしてみるのも、ボーイスカウトのような集団に属してみることも、散々試してみた時期があったが現実はこれだ。

 文武両道を目指したこともあったが……妙な言い回しになるが、文武両道を目指す意味がなかったのである。

 電子との親和性が高いこの肉体は、人間社会ではまだ居心地が悪い。



       ○



 どこからか漏れ出た6人の名前が、今BCDオンラインの一部で話題になっていた。


【大赤字】プロト

【大赤字】ノララ

【イグナイター】家なき子

【イグナイター】ランクス

【6人の旅人】ピンフ主義

(クラン無所属)シャロン


 この6人がレア度4装備を獲得した総員であるらしい。

 どれだけドロップ率低かったんだとか、なんで箝口令があったのに自分が入手しているのが漏れているのかだとか、なんで一番ネガネガしていたノララさんが入手しているのだとか、そういう感想はあるがこの際すべてを置いておこう。


 私は複数のクランを渡り歩いているため、そこそこ顔が広い。

 確実に好奇の目で見られるのは明らかだった。

 しばらくは弟子と【大赤字】と別のゲームで暇を潰そう……。


 弟子との時間を作るいい機会だと思うし、多分私の情報を漏らしたのはノララさんだと思うからそれを折檻して時間を潰せばいいだろう。

 ノララさんもかなり強いが、タイマンし続ければ確実に勝ち越せる自信がある。今回のイベントのように連続でプレイし続けるという条件ならば、私はクラン内最強だろう。毎日五時間連戦し続けて泣かせよう。


 いつか全員にレア度4装備が配られてしまえば私が先行入手したことなどどうでもよくなるだろう。それまでの辛抱だ。


 しかし、そんな浅はかな考えはすぐさま打ち砕かれてしまった。


 運営スタッフの一人がSNS上でした発言では『レア度4装備の入手は夏季を予定している』とのことらしい。

 今は春だ。夏まで自粛……? そんなのは考えられない。

 私は自粛することをやめた。

 この際もっと人脈を広げておくのもアリかもしれない。

 ノララさんに復讐することも考えると、これから忙しくなりそうだ。


 そんな感じで電子上での被害については受け入れたつもりだったのだが、完全に見過ごしていたところが一つだけあった。



       ○



 早朝の廃人しかいないBCDオンラインのレーティングマッチは、人数が少なすぎてほぼメンツは固定となる。

 出撃し、帰還してから即座に再出撃すれば全く同じことをしていたメンバーと再度マッチングするためカスタムマッチや身内部屋ともまた違った楽しみがある。

 そんな喜びを味わいながら登校し、校舎を歩きながらも試合に出撃していると私の机の前に座っていた人間がニヤニヤ顔をしていた。

 竹内だ。

 私はげっとした。


「土日でずいぶんと有名になったな」


 リアルも安全では無いことをすっかり見落としていた私である。


「いや有名になったというか、有名にさせられたというか……」


 言いながら私は座席に座った。

 口封じまでされて、私自身もそれに従いコミュにだけ情報をちょろっあげたのに流出しているのはクランのメンツの悪意を感じるがまあ軽微なものだ。

 気にしてたらきりがない。


 竹内は話を続けた。


「ゲットのために何時間周回した?」

「土曜日と6時間かな……」

「24+6で……30時間かぁ。そこまでこのゲームに体力使いたくないなぁ……」

「俺だって使いたくないわ」

「でも今だってログインしてるんだろ? 授業中も戦い続けるんだろ? 先生にはばれんなよ」

「そんなヘマせんよ。で、本題はなんだ」


 ながらVRの話題は早めに切り上げたかったので、私は端的にそう問いかけた。


「俺の知り合いの廃人に話聞いたらさ、今回追加されたレア4装備は全部で六種類で、今回はちょうど六人だけで六種類全部出たらしい」

「なにそれ知らない……」

保住(ほずみ)(※主人公の名字)は戦闘能力ばっかり高くてシステム面とか他のことあんまり知らないからそうだと思ったよ。となると『エンディミオン【リミッター2解放】』とか知らないな?」

「なにそれ知らない……。俺がゲットしたのは『ブレイヴフルカスタム・エクスペンダブル【SP】』だし。プレイヤーの情報だけじゃなくて装備の方も全部分かってるの?」

「当たり前だろ! ていうか装備の情報が全プレイヤーの本命で、入手プレイヤーの情報とかただの添加物だって」

「……!」


 そういえばそうだった。

 別にどこの誰が何の装備を持っていようが、その所持者が一定以上の技量とプレイ時間と強運があると言うだけで、よく考えればそのうち埋もれてしまう情報だ。

 私も正直、他の所持者の名前はいまいち覚えていない。

 つまりはそういうことなのだろう。


「今のところ分かってるのは兵科とスキルの名前。あとはコストか」

「詳細教えて」


 竹内は情報を話し始めた。


「レア4装備は現状、騎士・魔術師・戦士に各二種類ずつ。バランス考えるとこれで全部って可能性もあるとか。そんでもって分かっている詳細は――」


 竹内が次々とその詳細を口にしていく。

 それは以下のようにまとめられた。


 ――騎士

『アルフレッド専用勇者の聖鎧』

 所有者は【大赤字】ノララ。

『ドミネイター・ブレイヴ-6th〈エース〉【SP】』

 所有者は(クラン無所属)シャロン 。


 ――魔術師

『爪牙の聖鎧・ライオット【SP】』

 所有者は【6人の旅人】ピンフ主義。

『ブレイヴ・ハイペリオン』

 所有者は【イグナイター】家なき子。


 ――戦士

『ブレイヴ・エクスペンダブル【SP】』

 所有者は【大赤字】プロト。

『エンディミオン【リミッター2解放】』」

 所有者は【イグナイター】ランクス。


 自分の名前が出てくることにむずがゆさを覚えつつも、私は胸の内を吐いた。


「ノララさんあいつ一番主人公っぽい装備ゲットしておいて隠してやがったのか……殺さないと……」

「『アルフレッド専用勇者の聖鎧』の話か。メインストーリーの主人公の勇者の名前がアルフレッドだっけ。絶対に主人公装備だから絶対に優遇されてるだろうな」


 ノララさんは主人公ってガラじゃないだろ……。


「それよりもだ」


 竹内は身を乗り出した。


「大赤字はともかく【イグナイター】ってクラン、知ってる?」

「最近レートに出るとよく遭遇するし、めっちゃ強いから結構知り合いの間で話題になってるよ」

「へー、俺はまだレートA-の前半だからな……」

「さっさとレベル上げてレートカンストさせちまえよ」

「いやだよユリスとかのド廃人と戦いたくないよ!」

「でもあいつたまにカスタムマッチにも来るからたちが悪い……! そういえば、ユリスは今回みたいなイベントに参加しないのな。絶対入手狙ってると思ったけど、所有者にユの文字がなくてちょっと安心した」

「あいつフレンドとかいなさそうだしな……」


 竹内の言葉は、正しく偏見であった。高確率で事実だとは思うが……。

 その頃、並列して意識を向けているBCDオンライン上では、残り試合時間1分となった。開いた点差によってもう勝敗は決定していたので、私は雑なプレイに変更して、今日初めて知ったレア度4装備たちの共通点について尋ねてみた。


「後ろに【SP】とか【リミッター2解放】とかついてるのとついてないのがあるのは何で?」

「ああそれな、括弧付き装備はコストに+10とか+20ついてるから、なんかの装備の強化版って感じらしい。『アルフレッド専用勇者の聖鎧』と『ブレイヴ・ハイペリオン』はコストは演算記号無し、コストはただの200」


 竹内は嫌そうにため息を吐いた。


「どいつもこいつも〈ソルジャーシップ〉みたいなボスがもってそうなスキル持ってるんだよな……。【随伴聖鎧】とか【マナバリア・フィールド】とか【巡航形態】とか。どう環境変わっていくんだよって大騒ぎよ」

「インフレしてんなぁ……。しかしうかつに引退できんなこれ……」

「オイオイオイ。引退なんて考えるなよ。俺まだおまえに本気の戦いで勝ってないんだぞ」


 悲しいかな、竹内はそれほど強くなかった。

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