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17 高難易度チャレンジ版「対空戦・ソルジャーシップ」前編

「半年記念を祝うな! 一周年までサービスが続くか不安になるだろうが!」


 ノララさんの、どこを注視しているか分からない文句は、やはり彼も変人なんだろうなという事実を実感させた。



 投稿された開発・運営だよりを受けて、一部のプレイヤーは阿鼻叫喚の渦に巻き込まれていた。


 カジュアルユーザーにとっては、戦えば戦うほどアイテムがもらえる夢のような一週間になっているが、ヘビーユーザーにとっては違った。


 高難易度チャレンジ版「対空戦・ソルジャーシップ」の追加および、そこから極低確率でドロップする新レア度4装備。

 問題なのはそれだ。

 わざわざ確率の設定を明言しなくてはならない理由など、運営チームにはないのにかかわらず、『極低確率でドロップする』と記述したのは、このアップデートが炎上案件なのを理解しているからなのであろう。

 間違いなく荒れる。というかもう荒れている。SNSがとても荒れている。


 別に新レア度4装備ドロップを狙わなくてもいいだろ、と言う意見は出てくるだろうが、問題の本質はそこではないのだ。

 確かに普通の試合にだけ出ていればいいだろうが、ほかのプレイヤーが皆そうするとは限らない。

 便りに書いてあった通り、BCDオンラインの今後を予想したい! 新装備をコレクションしてみたい! といったプレイヤー達は皆、高難易度チャレンジ版「対空戦・ソルジャーシップ」を心を殺して周回するマシーンになるだろう。


 現状では使える場面のない装備を欲しがるプレイヤーなど相当なヘビーユーザーしかいない。

 そして、そんなヘビーユーザーは大抵が高レベルのベテランだ。

 おそらくはベテランのCタイププレイヤーの半分は戦場から消える。

 そして高難易度チャレンジ版「対空戦・ソルジャーシップ」は最大出撃人数4人のPvEモードだ。

〈※敗北演出鑑賞 ネタ装備歓迎〉なんて目的でもない限り4人で出撃するのが当たり前だ。それ以下の人数で出撃する意味はない。


 チャレンジを周回するベテランCタイププレイヤーの付き添いで、BタイプのプレイヤーもDタイプのプレイヤーも一部戦場から消えるだろう。

 つまり戦場に残されるのは新装備に興味のないアマチュア達と、一部のカジュアルユーザーのみとなる。

 間違いなく、試合の質は大幅な低下を見せるだろう。


 そして、私は確実にクラン【大赤字】のメンツに付き合わされる。

 目に見えている。

 今週の土日は、消えると。



       ○



 なぜ私は土日のすべてをゲームに捧げようとしているのだろうか……。


 楽しい時間が過ぎていくのは速く、アップデート後4日はすぐに終わってしまい土日になろうとしている。

 平常時ならば土日が楽しい時間になるのだが、今週は別だ。高難易度チャレンジ版「対空戦・ソルジャーシップ」が私たちを待ち受けている。


 長時間のプレイに耐えることのできる私は当然のように攻略メンバーに抜擢されていた。

 BCDオンラインは人体への負荷が低くある程度の長時間プレイできる人は多いが、それでも一日の半分以上プレイできる人間は希有だ。

 メンバーの披露での離脱が避けられないのならば、少しでも人員を増やして組める4人組小隊の数を多くするのが現状取ることのできる最善。

 最善だが、私にとっては最悪。

 いくら私がVRゲームを長時間プレイしてもあまり体調を崩さないとはいえ、いくら無理をしていいわけではないのだ。

【大赤字】以外のクランからも助っ人を頼まれたが、断らせてもらった。

 大赤字は廃人クランでは無い。周回スケジュールは各々の個人的要望を考慮したものになっている。


 よそ様のクランは48時間耐久とか企んでるらしいが、どうなってしまうのか。


 そして迎えた運命の日の前日。

 指揮を執るノララさんによって組まれたローテーションが発表されたが、不思議なことに、私の休憩時間は明記されていなかった……。



       ○



 金曜、23時59分。

 その時計の表示が土曜0時00分へと変わった瞬間から競争は始まった。


 すでにログインしていたプレイヤー達が出撃受付カウンターへと駆けより、追加された高難易度チャレンジ版「対空戦・ソルジャーシップ」へと潜っていく。


 物見遊山に体験してみようという人や、なんとなく一回はクリアしておこうという人もそこには混じっているが、おそらくすぐにやめてしまうだろう。

 そう私は思っていた。


 そして、すぐその通りになった。

 潜ったまま出てこないのは廃人だけである……。

 私たちが海面から浮上することができたのは、夜が明けてからだった。



       ○



 話は、挑戦初回が終わった時間帯。


 極めて混乱した表情の【ノララ】【飯屋】【ポンタラ】そして私が出撃から帰還する。


「はい、しょけんクリア――、……」飯屋さんが消えそうな声で言った。

「ノララさんの読み取りだったな」ポンタラさんが相づちを打つ。

「クリア時間ギリギリすぎるんだが……」ノララさんが言う。

「えっこれ周回させられるんです? クソゲー過ぎない?」これは私のセリフだ。


 追加されたチャレンジ版の対する不安はつきなかったが、蓋を開けてみればその多くは杞憂に終わった。

 通常難易度版の基本戦法が流用できたのである。

 基本的なギミックはそのままだったので、若干のトラブルはあったが挑戦初回にしてクリアはできた。


 緊急会議が始まる。ノララが口を開いた。


「マナ射撃バリアを力業で割るのが正攻法だなこれ。旋回強化ルーン外して射撃強化ルーンガン積みで行かないと安定しないはず。俺の見立てだと高レート射撃回しまくれば周回6分切れる。というか最低6分半くらいまでに殺せなかったら失敗だ」

「あいあい、ルーン入れ替えてきますー」


 私は彼の指摘を受けて、メニュー画面を開いて【正規魔術師の聖鎧】のカスタム画面を開き、対人用のカスタムからPvEモード用のカスタム仕様をバババっと作り上げた。

 ポンタラさんも宙に視線を向けている。彼も自分にあった使い勝手になるようルーンを積んでいたのだろう。


 かまわずノララさんは解説を続ける。私たちは他のカスタマイズ作業をしながら耳を傾けた。


「飯屋は【正規魔術師】いつも使ってるからアドバイスはない。ポンタラさんはちょいちょいエイムがガバってるから気をつけて。プロトは面倒くさがらずちゃんとグレネードと簡易ブラストシューターで追い撃ちしろ、敵の体力削り切れてないぞ」

「ういうい」「了解っす」「了解ー」


 そして、私にだけ追加の指令が下される。


「あとプロト、骸骨誘導してるときにさ、壁越えグレ投げの間に二連火球の曲射でも壁越え狙ってほしい」

「壁超えって間接射撃? そんなこともできるんですか?」

「この前検証したらいけた。船が移動してるとき、杖の上部が壁から頭出してる状態で、ステージ中央の柱上部にレティクル合わせるイメージで感じで撃てば、曲射二連火球の射線が船と交差するポイントが何カ所かある。俺が観測しつつタイミング知らせるからちょっとやってみてほしい。練習の時間いる?」

「壁越え曲射はやったことあるんで実戦しながら感覚すりあわせます」

「オッケー、じゃ次の周回行こうか」



       ○



 5周回目にして、私たちは早くもある種の悟りへと到達した。


 初回で種が割れてしまったので、4周目にして特定の手順をこなすだけの脳死ルーティンワークへと突入したのである。

 慣れてしまえば高難易度版といえど、別段苦労するものではなかった。

 開発作業で忙しい運営チームでもクリアできたのだから、廃人がクリアできない道理はない。

 ……いや、私は廃人できない。

 廃人なのは【ノララ】【飯屋】【ポンタラ】だ。



 全員で襲いかかる敵エネミーの群れを突破し、ボスエリアへと踏み込む――。

 その直前、全員が装備の手投げ弾を上空へと向かって投げた。

 同時にアナウンスが走る。


〈ソルジャーシップが出現しました!〉


 カメラが特殊演出モードに切り替わる。

 山の向こう側から凶鳥がマナの燐光をまき散らしながら巡航してきて、ステージ上空を縦横無尽に行き来しながら搭載してきた戦士たちを各ポイントに降下させていく。


 ムービーの最中は操作が効かない。エネミー以外の時間は止まっている。手投げ弾も空中にピン止めされている。

 その間に私たちは呼吸を落ち着かせることにしていた。


 ノララさんがげんなりとした様子で指示を出した。


「プロト、誘導お願い」

「骸骨一体誘導しまーす……」


 ムービーが終わるのと同時に、上空へと放った手投げ弾がエネミーの足元に転がって爆発する。

 与えるのはちょっとしたダメージだが、これをやるとやらないのとではクリア難易度は大きく異なる。


 シップから投下してきたエネミーとは別に、道中でも相手にした骸骨兵がポップする。

 私たちは、これを相手にしなければならないが――。


 もはや、大して感情は揺れない。

 慣れてしまった。



       ○



 通常版と比べると、押し寄せる雑魚の処理に手間取るとそれだけで味方が全滅するのと、最速ルートを取らないとソルジャーシップを完封するための手順が取れなくなっているのと、ソルジャーシップの体力の増加と制限時間の短縮でクリアそのものが難しくなっている点が高難易度といったところだろうか。


 つまり一人でも定石を知らないものが混じっていればクリア不可能。

 普通の「対空戦・ソルジャーシップ」に手こずるようなプレイヤーは初めから対象にされていない難易度設定だ。

 ノララさんの意味のないタイムアタックに付き合わされた経験がなければもっと苦戦しただろう。


 背中から即死レベルのスナイプが飛んできたり呪い装備が押し寄せてきたりとか、理不尽をちょっとだけ期待した自分がいる。


【クリアのための戦術としては、火力の高い属性魔法射撃を扱う聖鎧でいかに効率よくソルジャーシップの体力を減らすかが重要になってきます。4人のうち、誰がソルジャーシップの体力を減らすダメージディーラーとなり、誰がダメージディーラーの護衛をするか、といった組み合わせの最適解をぜひ探ってみてください!】


 開発陣はこんなことを言っていたが、廃人の出した答えは違っていた。

 すべての道中に配置されている敵はすべて戦士カテゴリーで、彼らはダメージディーラーとなる魔術師を殺しに来るため護衛の騎士が必要になると思われたが、最適解は全員魔術師での力押しだった。

 そうしなければ周回に時間がかかるからだ。




 墜落したソルジャーシップ内部から出てきたNPCに集中砲火を浴びせ、表示させているHPゲージが0になったところでゲームクリアの演出が流れた。


 画面が暗転し、宝箱を開くアニメーション演出が入る。

 戦闘後ドロップがあったようだ。


〈ネイトメイルレベル3入手! ※取得済み〉


 皆が一斉に口を開いていく。


「なんかおちた?」

「ゴミが落ちてきたよ」

「俺もゴミだわ」

「い゛ー」


 出撃の準備をしながらノララさんがぼやいた。


「なんかドロップ率上がってるらしいぞ、ほぼ100パーだとか」

「ゴミしかでないけどな」

「回そう、ひたすら数を回そう」

「あ゛ー。う゛ー」


 飯屋さんは無意味な奇声を発していたが、誰も気にしていなかった。

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