15 初心者講座 とりあえず突撃編
〈作戦スタートです!〉
暗転した画面に、訓練場の風景が映る。
訓練所は岩場の荒野に作られており、周囲は背丈よりも大きい岩石で埋め尽くされた、緑のほとんどない痩せた土壌が舞台となる。
プレイヤー達は岩石の合間に開かれた通路と主戦場の広場である荒れ地を駆け巡って、殺し合いを繰り広げるのだ。
自軍陣地の上空でプレイヤー達がポップし、地面に着地した味方達が一斉にエリアルブースターを起動する。
背中から風魔法で推進力を得た私たちは、砂煙を巻き上げながらマップの中央へと向かっていく。
このマップは自軍陣地から伸びる2本の路が中央の広場へと繋がる構造で、広場の中心に横たわる涸れた川の溝を対称軸として、向こう側の敵サイドにもほぼ同様の地形が広がる線対称な作りのマップとなっている。
簡略した文字で表せば、
自軍陣地⇔通路⇔中央広場⇔通路⇔敵軍陣地。
というマップだ。
「試合が始まってまずやるのはリスポーン拠点の制圧だ。これは足の速い戦士の役割だけど、味方には戦士の【プリンセスメイル】を使ってる味方もいるから拠点から最寄りのやつはその人に任せる。俺は中央広場のリスポーン拠点の制圧に向かう」
再生を続けながら私は視界に表示されているミニマップにレーザーポインターを向け、一つのアイコンを強調させた。リスポーン拠点だ。
訓練所マップには自軍通路奥に1つ、広場に2つ、敵軍通路奥に1つが配置している。
画面の上では、エリアルブースターのマナが底をつき次々と足を止めていく味方が映し出されている。
戦士である我が【零式聖鎧】はブースト容量も多く、ブーストスピードも速い。
開始から足を止めなければ大体は戦士が先陣を切る。
通路を抜けると、人が身を隠せるほどの大きさをした木箱が所々に積まれている広場に出る。
視界の向こう側には敵プレイヤー達が同様に広場に到着していた。
敵軍からこちら側に撃ち込まれる数発の火球を警戒しながら、私は木箱の陰へと飛び込んだ。
木箱はマップの地形と同化したオブジェクトだ。
プレイヤーが鑑賞することのできない金剛不壊の壁となる。
木箱に身を隠しながら、私はリスポーン地点の上にしゃがみ込んで制圧にすべてを集中させる。
そうしている間に両軍はマップで展開を終え、じりじりとした開幕のにらみ合いが始まった。
広場に用意されたちょっと高い岩に飛び乗った魔術師が、相手のプレイヤーへと砲撃を開始し、そのやや前方で騎士が遮蔽物に身を隠しつつ警戒を続けている。
「あー、指摘するの忘れていた。味方の【征旅・魔術狙撃仕様弐式】がスナイプ装備じゃなくてブラストシューター装備だね。遠距離からスナイパーする戦法じゃなくて、中距離からマシンガンみたいに連射できる魔法つかってダメージ取る戦い方するやつだ」
「それって強いんですか? ネットとか見ると、やめろって声多いですけど」
「DPSはゲーム内随一だね。味方に負担かかる場面が多いから嫌われてるけど、ちゃんと戦術に組み込んであげれば最強って声もある。あと、使ってる本人はめっちゃ楽しい」
マツリカに解説しながらもビデオは止めない。
拠点の制圧を終えた画面の私は、立ち上がって、実際の視界とレーダーを見ながら物陰から突撃する期を伺っていた。
そしてその時は突然やってくる。
木箱の陰からブースターを使って飛び出した私は、緩衝地帯となっている中央の溝を抜けて単身敵陣ギリギリまで攻め込んだのだった。
……?
自分でも見ていてよく分からないが、このときは絶好の期だと感じたらしい。
そしてこのゲームの基本は集団行動だ。味方は先頭を追いかけてくる。
突っ走った私と歩調を合わせるために、一人の勇者装備が私の背中を追いかけてきて、二人で敵陣の木箱の陰に陣取った。
「今更だけど騎士と魔術師使うマツリカさん的には直接は参考にならないかもなー。このビデオだと戦士の使い方の一つしかレクチャーできないからさ、マツリカさんの戦い方に反映するためにはとりあえず一つの知識として頭に入れる感じにしてくれるとありがたい」
小さくマツリカは頷いた。
「前に言ったけどさ。俺は敵陣に突っ込んでから、隙を見て敵の前線に突っ込んで奥の魔術師を殺しに行く戦いするって言ってたじゃん」
「はい」
「あれ味方の行動を全部省いて自分がやってることだけ言ってる感じだから矛盾した文章になるわけで、実際やってみると結構いけるんだよね」
スクリーンの上では敵陣の際で膠着状態に陥った私と味方一人が写っている。
「とりあえず俺は、ああやってまず一人で敵陣に突っ込むんだ。あの位置なら遮蔽物があるから一歩踏み込んでこっち側に来ないかぎり、敵からそうそう攻撃は食らわないし、一歩踏み込めば味方の魔術師からの射線が通るから騎士はむやみに俺のこと殺しに行けないのよ。このマップの有利位置の一つだから覚えといて」
視界標示物のレーダーを確認すると、私の後ろを追ってきた自軍の全メンバーが敵陣に踏み入り、マップオブジェクトの木箱で射線を切りつつ突撃の準備をしている。
「俺が突っ走ったから、味方の騎士も魔術師も物陰から出てきて前線が上がったね。広場の反対側で戦ってる味方も前に出たから、敵は前に出てこれなくなって敵陣地の木箱周辺で6人がごっちゃになってる。こうすると敵が集団で前に出てこれなくなるからやりやすい」
その時、私に追従していた勇者装備の一人が、ブーストで突っ込んできた敵の一人に火球を撃ち込みその足を止めた。聖剣を抜いたその味方勇者は、遮蔽物の奥でひるんで動けない敵に向かって斬りかかりに行く。
同タイミングで、遮蔽物の別サイドから勇者が敵陣のど真ん中へと突出した。
前線が崩れる。乱戦の開始だ。
ヘイトが拡散する。
「こんな感じで味方が攻めてくれると、敵の意識がそっちに向くから戦士の俺が自由に動けるようになるのよ。敵は攻め込まれてるから無理に前進するか後ろの壁側に下がるしかないけど、自軍は押し込んでる側だからマップを広く使えるんだ」
フリーになった画面の私は、一歩下がって中央に大きく広く刻まれた溝を堂々と走り抜けていく。
「この場合は中央の溝が物陰になってて射線が通らないから、そこを通れば敵陣の背後を取りに行ける」
「……戦士ってこんな戦い方するんですか……」
「俺はとりあえず突撃してるだけだけど」
敵の側面を横切り、私は敵陣の背後へと回り込んだ。
〈味方が撃破されました!〉
〈味方が撃破されました!〉
二重のアナウンス。
敵軍が撃破ポイントを獲得する。
二枚落ち、場面は4vs6。
一気に圧倒的枚数不利に陥ってしまっていたが……。
敵陣の奥へと単騎で潜り込んだ私は、遮蔽物地帯の横にある山みたいな形をした高台に上った。ここ敵軍の魔術師のテリトリーだ。敵の魔術師がここにいるだけで、状況の不利はこちらに傾く。私はいまそれを阻止している状態だ。
だが、敵陣地の奥で私は孤立している。
「こ、この試合本当に勝てるんですか?」
「なんで?」
「だって今プロトさんが敵に囲まれたら勝ち目なくなっちゃいますって!」
「普通に考えたらそうだけど、全部が全部それじゃない」
そわそわしているマツリカを尻目に、私はポップコーンをむさぼりながら背もたれに体重をかける。
「まあ見てなって」
高台の頂上から頭を出し、射線から身を隠しながら敵魔術師を探す。
そしてそれはすぐ近くにいた。敵の騎士たちから一歩下がった場所に敵の魔術師はいて、のこのこと私に向かって歩み寄り、二連火球を撃ち込んできたのだった。
だがちょろちょろと動き回っている私にうまく照準を合わせていなかった魔術師の砲撃は空高くへと吸い込まれていった。
私は即座に抜刀、二本の聖剣が手元から伸びる。
そのまま私は距離を詰めるが――画面の私は突然後ろにブーストを吹かした。
敵陣の向こう側から敵の騎士が、魔術師の護衛をしにやってきたのである。
マツリカが不安そうに声を上げた。
「1対2になっちゃいましたよ師匠!」
「大丈夫。戦士に詰め寄られたときの魔術師はほぼ無力だ、これは純粋な1対2じゃない」
小山の山肌を撫でるように回りながら、私は騎士の照準から逃れる。
「護衛に来た騎士は【高機動型ファルメイル】だ。火力はあるけど小回りが効かない。おまけに体力も半分以下。カモだ」
敵から見れば2対1という圧倒的有利な状況だ。
一発でも攻撃を当てて、私の動きを止めればそのまま0まで体力を削れる。
敵魔術師と敵騎士は夾撃して私の撃破を試みようとするが……。
「基本的に言って、戦士に近寄られた時点で魔術師はほぼ死んでるんだよな。しかも【正規魔術師の聖鎧】、こいつは自衛力皆無だし」
「でもこっち向かってきてますよ!? どうするんですか!?」
「戦士で魔術師を殺すときは旋回速度と機動力の差で回り込んで殺すのが基本の一つだ。見といて」
逃げずに杖を向け、魔術の狙いを定める魔術師の側面に向かって、私はエリアルブーストで駆け抜け、横に回り込む。
強格闘。旋回が追いつかない魔術師に向かって、私は両手に持った二本の聖剣を叩きつけるように振り下ろした。
命中。火花のような閃光のエフェクトが弾け、敵魔術師の体力の半分ほどが削れる。同時にブーストを吹かして格闘終了後の硬直モーションをキャンセルする。
敵魔術師は転倒し、無様に仰向けに転がり隙をさらす。
「はいこれで加護削ったから敵【正規魔術師の聖鎧】は足が死んだね」
「でも騎士が残ってますよ!」
「魔術師の護衛に来た騎士は、相性有利で意外とこっちのこと嘗てるので殺しに行くと案外殺せるのよね。敵は魔術師の護衛しないといけないけど、肝心の魔術師はぶっ倒れてるし、こっちが高台取ってるから地形戦では有利だし、【高機動型ファルメイル】は格闘戦にはあんまり強くないからやりようはある」
私の移動速度に追いつけず小山の向こう側にいた敵騎士が、その手に魔方陣を浮かべて私への射撃による攻撃を試みているのが見えた。
私は転倒している敵魔術師の後ろ側に身を隠すように数歩引いた。敵騎士の射線が通らなくなる。敵騎士は前進を続ける。強格闘の間合いに、敵2体が入り込む。
「この場合は逃げずに前進だ。確か、俺はここで2体まとめて斬り殺した気がする」
そこで唐突に一歩を大きく踏み込む。
続けざまに強格闘を振った。
大きく振りかぶって頭から振り下ろされる二本の聖剣が、敵の騎士と魔術師を巻き込んで大きくダメージを与えた。
「はい、強格闘で敵騎士の転倒も取れた。そのまま処理しよう」
格闘終了後の硬直モーションをブーストでキャンセルしつつ、そのまま小山の奥で転倒している敵騎士の足へと強格闘を振り下ろす。
〈敵を撃破しました!〉
アナウンスと同時にポイントが入り、敵騎士が光となって溶けていく。
「うそぉ……」
そして敵魔術師だけが残された。すでに強格闘を二度受けた敵魔術師は瀕死である。
加護の減衰で動けなくなった敵魔術師に火球を一発撃ち込み、ひるんで動けなくなったところに三度目の強格闘でとどめを刺す。
〈敵を撃破しました!〉
アナウンス。ポイントを獲得する。
「……二体に囲まれてたのに勝っちゃった……」
「地形有利と、瀕死の敵二体、しかも敵の騎士は格闘型じゃなくて射撃型だからまあ勝てない戦いではなかった。でもポイント的には負けてるんだよなー。俺、二体撃破したこのタイミングで初めて自軍側が不利だったって知ったし」
「えっそうだったんですか?」
「さすがに二体相手してるときに、それ以外の情報見てられないから」
敵軍と自軍のポイント差を大雑把に比較してみると、敵軍の方が多くの点数を稼いできた。こちらのほうが一体だけ多く撃破されているようだった。
視界にある情報で自軍メンバーの体力を確認してみると、味方の魔術師2体はすでに撃破されていてリスポーン待ちだった。そして先ほど撃破された2体の味方はリスポーンしており、体力は満タンである。
敵陣の奥深くに切り込んで、こちらに向かってきた2体を撃破したので完全に私は誰にも見られていない状態だった。
マップを見ると、敵陣地へ続く通路付近で味方と敵の小競り合いが続いている。
そして敵の全員は私に背後を向けていた。
「ここで俺が背後から切り込みに行けばこのウェーブは勝ちだ」
ブーストのマナを温存し、歩いて私は加勢に向かった。
このマップはかなり狭い。ブーストを使わなくても援助に向かうまでの時間は一秒も変わらなかった。
敵は3体残っていた。味方は3体。私が加勢すれば4対3でこちらが高確率で勝てる。
魔術師が最前線にいることはほとんどない。
後ろから歩み寄っていくと、敵の最後尾は魔術師だった。こちらの編成と同様の魔術師二枚体制のようだ。
敵の騎士は攻め入る味方に釘付けだ。私の接近に気がついているのは敵の魔術師だけだった。そして、この距離まで詰められた魔術師が戦士を退けることはまずない。
体力も半分以下だった。逃げようとしている敵魔術師の移動方向の地面に火球を撃ち、爆風を当てて動きを一瞬止めた。
抜刀し、ブースターを起動し距離を詰める。
「火球で足止めて、中格闘から、強格闘。これ入れば相性振りな騎士でも死ぬから【零式聖鎧】はぶっ壊れって言われるんだよ」
火球でひるんで足を止めた敵魔術師に、交差させた両腕を水平に振るって、ハサミで断ち切るように両腕の聖剣を振るった。中格闘のモーションだ。
ヒットのエフェクトと同時に敵魔術師の体力が限界ギリギリまで減る。そのまま怯み続けている敵に向かって強格闘を繰り出す。二連撃で敵は死に絶えた。
〈敵を撃破しました!〉
そのまま画面上では、味方に追われる敵の二体に横やりを入れて殺した自分の姿と、戦況が読めずに単騎でリスポーンしてきた敵騎士を全力で追いかけ回す味方5体の姿が映し出されていた。
リスポーンしてきたばかりの敵は、味方によって袋だたきにされ即座に撃墜される。
マップ上から敵が消える。第一ウェーブが終了した。
10分あった試合時間は、残り7.5分。この時点で四分の一しか終わってない。
シートの隣に座るマツリカは、口を開けっぱなしにしながら瞬き一つせず画面を注視していたのだった。
○
○
○
画面に映し出されるゲームセットの文字。
その奥には、試合終了前に最後の特攻を仕掛たあげくなすすべもなく殺された私の死体が消える様子がカメラに補足されていた。
「……さいごなんで一人で戦いに行ったんですか……?」
「いやもう勝ち確だったから面白いことしようかなって……」
「でももしそれで負けちゃったら……」
リザルトを眺めながらマツリカがそう指摘してくる。
リザルト
撃破トップ 【大赤字】プロト
ダメージトップ 【大赤字】わざおぎ
施設トップ 【大赤字】ノララ
協力トップ 【大赤字】プロト
陽動トップ 【大赤字】プロト
総スコアトップ 【大赤字】プロト
リザルト画面の各項目は今はどうでもいい。
私はレーザーポインターでリザルト画面に表示されている、自軍と敵軍のスコアを指し示した。
「試合終了1分半とかその辺でさー、自軍スコアと敵スコアの差が味方総コストの1.6倍くらい勝ってればポイント的に負けることはないから死んでもいいと思う……たぶん」
「たぶんとは」
「言ってるの自分だけなので、正しいのかは分からん……誰もやらないし」
困惑している目で私のことを見つめるマツリカは物言いたげにソフトドリンクのストローを咥えている。
「……よし。じゃあなんか別の見ようか」
私は強引に切り替えた。




