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13 ■幕間 箱入り娘の憂鬱

 ■ 【雪村茉莉】視点



 人体とvrデバイスの接続方法は大別して二種類に分けられる。

 事前に経口摂取したナノマシンとメガネ型の簡易vrデバイスを併用し、ヒトの知覚と五感を仮想空間とリンクさせる方法。

 費用も安価で、その手軽さから広く普及している方式である。


 2つ目が、脳と脊髄を物理的にvrデバイスと接続する方法だ。

 手術で中枢神経系にコネクタを埋め込み、頭蓋骨の内側や外側に脳波デバイスなどのBMIをインプラントし、脳と機器が行う双方向の情報伝達系にvrデバイスの回路を繋げ、仮想空間へとつなげる。

 この方式を採用して遊ぶプレイヤーは、いわゆるサイボーグの一種だ。


 当然のように身体の改造には莫大な費用がかかり、機器の寿命問題、改造施術の安全性や体内のデバイスに不調が起こった場合の対処など、抱える問題は多い。

 軍用に開発された技術が元になっており、この方式は、強化兵が使用する戦闘機および軍隊用VR訓練システムなどに用いるのが本来である。

 言うまでもなく民間には過ぎた技術であるが、強化人間だけが持つことのできる超人的身体能力は魅力的な部分も多く、デメリットよりもメリットを優先して改造を受ける人々も近年では増加している。

 スポーツでは人類の限界値を突破したサイボーグによるエクストリームスポーツも、近年認知が進みつつある。


 VRゲームに限った話では、経口摂取のナノマシンと脳に電極ではリアリティが圧倒的に異なるという点にメリットを見出す人が多い。


 また、

 長時間仮想空間にダイブする場合の身体への負荷軽減や、

 没入度の調整、

 VR酔いへの耐性、

 キャラクターを操作するイメージの入力速度およびゲーム側からの送られる脳へのレスポンス速度、

 血糖値などの快適な脳環境のメリット、

 投薬と電気的刺激による感情調整用ナノマシンの併用が可能になるなど、

 少しでも多くの強さを求めるならば強化人間への扉を叩くべきである、との風潮が一部ではまかり通っている。


 現に活躍しているプロゲーマーはそのほとんどが強化人間だ。

 真人間のまま強化人間に太刀打ちできるゲーマーなどもはやほとんど存在していない。むしろ素質のある真人間は率先して強化を受け(うえ)(うえ)へと(のぼ)っていってしまっている、というのが現実。


 VRゲームに限らず家電やARデバイス、携帯型や据え置き型ゲーム機にも脳活動を利用して機械を操作する場面が多い。

 身体の改造は没入型ゲーム以外でも有利を作れる場面は多い。


 ……もちろん、ただの女子学生の私にはそんな技術なんて手が届くはずもなく、一般的なvrデバイスが使えるようになったのもつい最近のことだ。

 俗に、私のような女性を箱入り娘と言うのだろう。

 両親の教育方針でこの年になるまで身体補助用のナノマシンすら使わせてもらえなかった私にとって、周囲が熱中している仮想空間は憧れだった。


 習い事や塾は厳しかったが、そのおかげで今まで大きな挫折は味わったこともなく、両親も優秀な成績に気をよくして不相応な額のお小遣いを私にくれる。


 その甲斐あって、目の前の出来事であまり不自由を覚えたことはなかった。

 だが、現実とは隔絶した電子の世界については、まったくと言っていいほど触れることができなかった。


 ごめんなさいお父さんお母さん。

 私、悪い子です。

 こんなにもゲームばっかりしちゃってます……。


 BCDオンライン。

 初めて買ってもらえたvrデバイスとナノマシンで、初めてプレイすることの出来たゲームがこれだ。

 低スペックでも遊べて本体のストレージを圧迫せず、基本無料で気軽にプレイが出来るゲームだった。


 仮想空間に意識を飛ばすという初めての体験には感動したが、もっと驚いたのは――その「中毒性」だ。

 いくらでも時間を費やせるようなゲームデザイン、一度かかった獲物を逃がさず絡め取っていくような甘く心地いい餌と適度なストレスの組み合わせ。

 若干の依存状態に陥っているのでは? と両親から指摘され、実際にゲームを始めてから学業に身が入らなくなっているのも事実だ。


 体質的に、私は平均よりも長い時間VRゲームをプレイできる体質らしいのもそれに拍車をかけているのかもしれない。


 初めはただ遊ぶのが楽しくて、

 色んな装備が集まっていくのも楽しくて、

 試合に勝てるようになっていくのも楽しくて。


 だけど、

 だんだん強い人と試合するようになって勝てなくなってきて。

 新しい装備も拾えないまま持っている装備でなんとかやりくりして、

 イベント戦なんかも攻略の手口が見えないままで、

 ユリスという最強クラスのプレイヤーにボコボコにされて、

 だけどもゲームをやめるなんて選択肢は頭になくて――。


 一体全体、私がゲームをプレイしているのか、ゲームにプレイさせられているのかわからないような、自分でもよくわからない状況にはまってしまった。

 ゲームを通して何かを磨くために遊ぶ。転校の影響を受けた不安定な現実から目を背けるために遊ぶ――今は、どちらの割合が多くなってしまっているのだろうか?


「はあぁぁぁ……」


 師匠は、誰でも強くなれると言っていたが、今はとてもではないが強くなれるとは思えなかった。

 誰にだって得意不得意はあるのだから。

 師匠と那由他さんの一騎打ちの録画を見ながら、そんな考え事にふける。

 これほどまでに強い人たちは、世界はどんな風に見えているのだろうか。


 個人と個人。二人以上人間がいればそこには必ず差異が生まれる。

 人は平等ではないと、否が応でも突きつけられる。


 位置取り、状況判断、操作技能、エイミング、空間の把握といった基本技能。

 加えて、基本を逸脱したフェイントや心理戦まで混じり合わさったあまりにも高度すぎる戦闘に、私は今まで積み上げていた自信を木端微塵に打ち砕かれてしまった。


 トップクラスのプレイヤーは、これらの技能が上限に近いレベルで備わっている。

 彼らの勝敗を分けるのは、最大値に迫るスキル郡の僅かな差だ。

 ほぼ同等レベルに鍛えた各技能のうち、ほんの僅かでも優れているものを持っていた者が勝者となる。


 さならがら詰将棋のように。

 たった一つのミスが命取り。

 極限状態の綱渡りじみた命からがらの戦闘を、笑いながら軽々と楽しそうにこなしてみせる師匠と那由他さんに、追いつけるビジョンが浮かばなかった。


 基本的なスキルが彼らに届かない上に、チームでの戦いといった知識面も私は知らないものが多く、忽然と開いている戦闘力の隔たりに絶望感すら覚える。


 生身の人間でコレなら……思い出すものがあった。

 VRゲームの第三の選択肢。


 機能調整された人口臓器や、有機コンピューター技術を応用した医療用筋電義肢および制御用代理電脳の使用、複合センサーによる強化五感、AIによる意思決定の補助を利用した有機体よりも高性能な肉体――完全なるサイボーグ。


 私は、弱い。だから、まあ、そんな超高価な義体を利用してまで、遊び半分にゲームをプレイする人間なんて、私が出会うことなどないだろう――。


 ■ 【雪村茉莉】視点 終了

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