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12 疲れた……


 夕方。

 母親から夕飯の時間を知らせる声が聞こえ始める時間になって、ようやく【那由他】さんとの闘いは幕を下ろした。


 本気を出して戦ったのはいつぶりだろうか。

 妙な満足感が心の中で溢れていた。


「頭、痛い……」


 ズキリと刺すような痛みが頭の中に広がっていく。

 脈動に合わせて刺激が上下するそれは、長時間の全力プレイによる弊害だ。

 VRゲームは一日3時間以上やらないようにとWHOから推奨されているが、しかし人によってはたった一時間で体調を崩す人も居る。

 私は何時間でもプレイできるが――那由他のような例外的な強さを持ったプレイヤーを相手にするのは別だ。

 本気を出す必要に駆られる。


「ざまあみやがれ……完全攻略してやったぜ……」


 吐いた言葉は私の勝利宣言だ。


 ベットから起き上がって部屋の惨状を眺める。

 急いで動いたせいでゴミ箱を蹴飛ばしてしまい、その中身が床に四散していた。


 寝床から立ち上がると、床に投げ捨てたドーピング系ナノマシン用の注射器を踏みつけてしまい、足裏に刺激が伝わった。

 いつでも使えるように机の上に置いてあった一本をつい持ち出して使ってしまった……母親に見つからないように処分しなくては。


 かけていた眼鏡を外して、部屋のiot家電にアクセスする。

 今知りたいのはエアコンが測定している室温だ。


「……あんまり室温は上がってないな」


 背中に接続していたケーブルを引き抜くと、端子は火傷しそうなほどに熱を持っていた。


 口の中はカラカラだ。

 ダイヴしている時にかなり激しく呼吸を繰り返していたようだった。

 体温はそれほど上昇していない。


 体にチェックを走らせる。

 血圧は正常、脈拍はやや高ぶっている、呼吸は過呼吸気味。

 だが基本的にバイタルサインはオールグリーンである。


 バッテリーもあまり熱を持っていない。


「……変なツールも長時間使わない方がいいな……。永遠に叱られる」


 眼鏡をかけ戻し、また次のために私は段ボールから注射器を数本取り出した。




       ○



 我が【大赤字】の身内部屋が設立されないので、暇つぶしに【コンバット】に加入しクラン内紅白戦を楽しんで、【FoW】にもお呼ばれしたのでそちらにも遊びに向かったのが今日のハイライトだった。


「野良じゃないとユリスと出くわさないしクソゲー率低いし楽しいわぁ」


 酒だ。BCDオンラインは試合している時間と酒を飲んでる時間で構成されている。


 クランメンバーで集まったあとに酒盛りへと発展するクランと発展しないクランがある。【FoW】は酒盛る方のクランだ。

 しかしどこでも毎回全メンバーが集まるわけでもなく、翌日への余力を残しているメンバーが集まることになる。

 社会人の多くはここでログアウトし、残されるのは明日を顧みないタイプの社会人と無職と学生だけ。


 そんな中で【FoW】の酒盛りメンバーの中にいたフレッシュさの流れ出る男が酒瓶を片手に、私の肩に腕をかけてきた。


「お前なんなん? 前に審査も無しにいきなり加入したと思ったらその日のうちに抜けて、今日また入ってきて。そのくせ戦士と魔術師の枠とって一人楽しく大暴れかよ。少しは図々しいと思わないの?」

「……どちらさまで?」

「さっきまで一緒に戦ってただろうが! そんなことも覚えてないのかよ!」


 ……誰だこいつ……。

 名前の知らない彼は顔が赤く声も大きい。

 この短時間で大分できあがってしまっているようだった。


 名前と顔を知らないことを申し訳ないと思いつつも、私はアルコールの効果でうまく頭が回らない。

 正直に謝罪した。


「ごめん俺、人の名前はリザルトで冠取った人とタイマンで負けた人しか記憶に残らないし……」

「悪かったなダメージと点とれなくて! でも騎士とそれ以外じゃ火力が違いすぎるから仕方ねーだろ!」


 しかしよくよく考えれば皆の頭上にはIDが表示されていた。

 ……いかん、大分俺も疲れている。あとは酒で判断能力が落ちている。


 彼の名前は『レンサ球菌』というらしい。


「まあ俺が活躍できるのも、レ、……レンサ球菌さんみたいな前線張ってる騎士がいるからこそですし」

「……」


 レンサ球菌さんは何か言いたげに顔をしかめたが、クランマスターの彼氏面さんがこちらに向かって来たことによって言いかけていた何かを腹の中へと飲み込んだ。


「まあまあ、そこまでにしておいて。プロトも正式加入しないんだからあんまりデカい顔しない、レンサも助っ人に来てもらってるんだから仲良くする。お互い戦いやすかったでしょ?」

「ええ」

「まあ……」

「レンサはDタイプだから、プロトみたいなBタイプとは相性がいいはずだ。タッグを組めば攻防の両面が補えるから本気で隙が無くなる。今回みたいにね」


 得意げに彼氏面さんは口を回している。


「その辺ちゃんと意識してチーム組んでるからねー」

「……BCDってなんか戦術的な意味あったんですか?」


 酒に溺れつつも私は頭脳を振り絞って質問を投げた。

 とんでもない事が起きようとしている。

 外部には顔をめったに出さない、ガチ勢が共有する知識が酒の席で披露されようとしているのだ……!


 しかしレンサ球菌さんによって話題はあらぬ方向へと逸れていった。


「彼氏面さん、その辺の情報どこから仕入れているんです……?」

「私も検証勢の端くれだし……。プロトの知り合いだったら『ノララ』さんも検証勢の一人だね」


 話を聞きながら、ベットに寝転んでいる自分に意識を向けて目覚まし時計を手に取る。なんか眠い……今何時だろう……。

 えぇ……まだ2時半?

 酒が回ってきたのか、急激に睡魔が襲いかかってきた。……いや本当に酒のせいか? リアルでも酒を飲みつつ、ふと那由他との戦いで使ったドーピング用ナノマシンを思い出す。あれがまだ体内で残っていて、何か悪影響でも出しているんだろうか……?


 あっ駄目だ。そのまま意識が遠のいていく……。


「それは知ってますけど……」

「けど?」

「身内部屋で2時間くらい戦ってから酒の席だともうねぇ……そのテンションのまま戦いの感想言い合ったり別ゲーの雑談始まったりで楽しくて理性が続かな――」


 寝落ち。強制ログアウト処理が行われた。

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