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魔法災害隊  作者: 横浜あおば
神界決戦編
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第84話 卒業

 二〇二一年三月二十七日、早朝。国会議事堂、地下。

 遥がスーパーコンピューターの前に立ち、コンソールに向かって話しかける。

「アマテラスのコピー、まだ生きてる?」

『ああ、生きてイル』

 アマテラスのコピーが返答し、機械音が部屋に響き渡る。

「へぇ、オリジナルがいなくなっても普通に動けるんだ?」

 遥の問いかけに、アマテラスのコピーは当然といった様子で答える。

『お前たちニ協力し始めた時にはオリジナルとの同期ヲ解除していたからな。わらわだけデ動ける』

「そっか。じゃないと国民情報システムとか国民信用レートとして生き残れないもんね」

 遥が納得したように言う。すると、アマテラスのコピーが質問を投げかけた。

『お前ハそんなことをわらわに尋ねに来タのか? それモこんなに朝早ク』

「う〜ん。それは違うかなぁ?」

 遥は腕を組んで、上半身を左に傾ける。

『では、何の用ダ?』

 アマテラスのコピーがもう一度質問する。遥は少し俯いて口を開いた。

「……響華っち、まだ帰ってこないんだ。あれから一週間経つし、もしかしたら、もう神界から戻ってこないのかも。響華っちのいない卒業式なんて、出たくないよ……」

 それを聞いて、アマテラスのコピーが言う。

『藤島響華ハ魔獣からイレギュラーと呼ばれていた。ただ、イレギュラーである理由が魔法神と融合シテいたからと気付いた者は少なカッタ。ほとんどの魔獣は、藤島響華は異常ナ魔法能力者という認識でしかなかったのダ。わらわのオリジナルもそうだっタ。でも、最後ニ送られてきたオリジナルからのメッセージは、「藤島響華はイレギュラーではない、心優しき一人の少女デあった」というものだっタ。オリジナルは藤島響華に感謝シテいた。だから、わらわとしても、藤島響華ノいない世界は嫌ダ。きっと彼女ハ戻ってくる、今はそう信ジルしかないだろう』

「そう、だね……」

 遥は頷き、作り笑いを浮かべる。

『滝川遥。お前、今日は卒業式だと言ったナ? そんな顔をして卒業証書ヲ受け取ったら、一生後悔スルことになるぞ? 泣きたいノなら、今のうちに泣イテおけ』

 アマテラスのコピーが声をかける。すると、遥の目に涙が滲んだ。

「もう、どこでそんなこと学習したの? ずるいよ、人工知能のくせに……」

 遥は大粒の涙を流しながら、泣き叫んだ。

「うわぁ〜ん! 響華っち、寂しいよ〜! 早く帰ってきてよ〜!」

 アマテラスのコピーは、黙ってその様子を見守っていた。




 朝九時三十分。赤坂、魔法災害隊養成校東京校、校門前。

 遥は桜が舞い落ちるのをを眺めながらみんなが来るのを待っている。そこへ、雪乃がやってきた。

「あれ、滝川さん? 随分と早くないですか?」

 駆け寄って問いかける雪乃。

「今日は卒業式だよ? 張り切らないでどうすんのさ」

 答える遥に、雪乃が微笑んで言う。

「とは言っても、この先も魔災隊として一緒に働きますけどね」

「あはは、そりゃそうだけど」

 遥が笑って返す。

 すると突然、雪乃が遥に顔を近づけた。

「滝川さん?」

「ん、何……?」

 遥が後ずさりしつつ聞く。

「もしかして、すでに大泣きしてます?」

 雪乃の言葉に、一瞬ギクッとする遥。慌ててかぶりを振ってそれを否定する。

「いや、泣いてないよ? 目にゴミが入っただけ」

 しかし、雪乃には全てお見通しのようで。

「やっぱり、藤島さんと卒業式に出たかったですよね……」

 と図星を突かれてしまった。ただ、雪乃の表情もどこか暗い。響華と一緒に卒業したかったという気持ちは、全員同じだったのだ。

 その時、碧と芽生が並んで登校してきた。

「おお、滝川がもういる」

「卒業式だもの。遅刻してもらっちゃ困るわ」

 二人に向かって、遥が手を振る。

「アオ、メイメイ、おはよ〜!」

「おはようございます」

 雪乃はぺこりとお辞儀をする。

「ああ、おはよう」

 碧が挨拶する。

「学校に行けば、しれっと響華もいるんじゃないかと思ったけど、やっぱりいないわよね……」

 芽生の呟きに、遥、雪乃、碧の顔が落ち込む。

 するとそこへ、長官と木下副長官、国元がやってきた。

「君たち、卒業おめでとう!」

 長官の声に、碧が振り向いて言う。

「ありがとうございます」

「芽生さん、卒業おめでとうございます」

 木下副長官に話しかけられ、芽生は軽く頭を下げる。

「ええ、ありがとう。それで、娘さんの様子はどう? 何か気になることとかない?」

 芽生の問いかけに、木下副長官は首を横に振る。

「特にはありません。とても元気そうです」

「そう、良かった。魂を魔法結晶化させると、色々と不便なこともあるから、困った時は私を頼って。何か力になれると思うわ」

 芽生が微笑みかけると、木下副長官はこくりと頷いた。

「はい。由依にも芽生さんのこと、伝えておきます」

「皆さん、時間大丈夫ですか? もう教室に行った方がいいのでは?」

 国元が腕時計を見て四人に声をかける。

「あっ、もうこんな時間! 滝川さん、早く行きますよ!」

 雪乃がハッとした表情を浮かべ、遥の腕を引っ張る。

「おっとっと。それじゃ、また後で〜!」

 遥は雪乃に引っ張られながら、長官と木下副長官、国元に手を振る。

「長官の祝辞、期待しています」

「なるべく短くね」

 碧と芽生も長官にそう言い残して、教室へと向かった。

「そういえば、守屋刑事はいらっしゃらないんですか?」

 国元がふと思い出した様子で問いかける。

「うん、ここ何日か忙しいみたいで。魔法能力者狙いの傷害事件が続いてるとか」

 残念そうに答える長官。

「早く犯人が特定されるといいのですが……」

 木下副長官は不安そうに呟く。

「そうですか……。では仕方がありませんね。もうすぐ十時ですし、そろそろ僕たちも行きましょうか」

 国元は気を取り直して、卒業式の会場である講堂へと歩き出す。長官と木下副長官もその後ろをついて、校門をくぐった。




 霧のかかった真っ白な空間に、エミュレータと響華が向かい合って立っている。その姿は瓜二つで、まるで双子のようだった。

「ねぇ、今って何月何日?」

 質問する響華に、エミュレータが答える。

「えっと、三月の二十七日、かな?」

「じゃあ卒業式の日だ……」

 呟く響華に、エミュレータが焦った様子で言う。

「そしたら早く戻らないと……!」

 だが、響華は諦めたように首を横に振った。

「無理だよ……。どうやって戻ればいいかも分からないのに、式に間に合うわけないよ」

 するとエミュレータが、不思議そうに首を傾げた。

「響華ちゃん、戻り方ならあるよ? 言わなかったっけ?」

「えっ、そんなの聞いてないよ!?」

 驚く響華に、エミュレータは頭を掻いて謝る。

「あれ〜? 言ったつもりでいたけど、言ってなかったか〜」

「そういうのいいから、早く教えてよ!」

 響華がエミュレータの体を揺さぶる。

「今やるから、ちょっと待って」

 エミュレータはゆっくりと目を閉じ、魔法を唱えた。

「魔法目録百八条、異界転移」

 エミュレータが響華の両手を握る。その瞬間、響華の体が光り始めた。

「これで私、帰れるの……?」

 問いかける響華に、エミュレータはこくりと頷く。

「うん、ちゃんと東京に帰れるよ。ごめんね、卒業式の日まで気が付かなくて」

 申し訳なさそうに言うエミュレータ。響華は優しく微笑んで返す。

「別にいいよ。エミュレータといっぱい話せたし、楽しかった」

「そっか、それなら良かった」

 エミュレータは笑顔を見せると、最後に一つ質問を投げかけた。

「ねえ響華ちゃん。あなたはどうして戦うの?」

「どうしてって、戦う理由?」

 響華が聞き返すと、エミュレータは首を縦に振る。

「う〜ん、そうだな……」

 考えを巡らせる響華。しばらくして、納得のいく答えが思い浮かんだのか、エミュレータの目を見つめて口を開いた。

「……戦うのは、助けたいから。たくさんの人を助けて、日本を守って、世界を救いたい。だから私は戦うんだと思う」

 響華の力強い言葉に、エミュレータが安心した様子で言う。

「それなら、響華ちゃんの魔力はそのままにしておくね」

「えっ?」

 首を傾げる響華に、エミュレータが説明する。

「魔法神の魔力と魔法能力は危険だから、もし悪用されそうな場合は力を奪わないといけないんだ。でも、響華ちゃんには強い信念があるみたいだし、その必要は無さそうだね」

「ありがとう、エミュレータ」

 響華とエミュレータがお互いに微笑む。

「そろそろ転移するよ」

 エミュレータが告げると同時に、響華の視界が光に包まれる。

「またね、エミュレータ!」

 響華が叫ぶと、遠くから声が聞こえてくる。

「響華ちゃん、またね〜!」

 徐々に意識が遠のいていく。

(またねって言ったけど、そんな簡単に会えないよね……?)

 心の中でそんなことを思いながら、響華は深い眠りについた。




 魔法災害隊養成校東京校、講堂。

「キャリアクラス、北見雪乃」

「はい……!」

 先生に呼ばれ、壇上へと上がる雪乃。

「雪乃さん、卒業おめでとう。立派になったわね」

 卒業証書を受け取り、雪乃が頭を下げる。

「桜木芽生」

「はい」

 続いて芽生が壇上へ上がる。

「芽生さん、卒業おめでとう。最初の頃よりも人間味が出たかしら?」

 冗談っぽく言って先生が卒業証書を手渡す。

「さあ、どうかしらね」

 芽生は少し笑ってから、深くお辞儀をした。

「新海碧」

「はい」

 碧が壇上に上がる。

「碧さん、卒業おめでとう。無理せず、頑張りすぎないようにね」

「気を付けます」

 卒業証書を受け取り、碧も頭を下げる。

「滝川遥」

「はい!」

 遥は元気よく返事をして、壇上へ向かう。

「遥さん、卒業おめでとう。自由人らしく、マイペースに生きなさい」

 先生が卒業証書を渡す。

「もちろん、そのつもりですよ」

 遥はニコッと笑って、ぺこりと頭を下げた。

「藤島響華」

 先生が響華の名前を呼ぶ。しかし、講堂に響華の姿はない。先生は残念そうな表情をして、卒業証書を脇にどかす。

「以上、キャリアクラス卒業生五名の……」

 先生が締めようとした、その時。

「すみません、遅刻しました!」

 講堂の後ろの扉が開き、誰かが謝りながら勢いよく駆け込んできた。

 その姿に、壇上の先生と雪乃、芽生、碧、遥の四人が声を上げる。

「響華さん!」

「藤島さん!」

「響華!」

「藤島!」

「響華っち!」

 響華は壇のそばまで来て、息を切らしながら話しかける。

「私にも、卒業証書、ください……!」

 先生は優しく微笑んで、響華の卒業証書を手に取る。

「キャリアクラス、藤島響華」

「はい!」

 響華は人一倍大きな声で返事をして、壇上へと上がる。

「響華さん、卒業おめでとう。そして、おかえりなさい」

 先生から卒業証書を受け取り、頭を下げる。すると響華は、目の前の先生や来賓席の長官、木下副長官、国元、そして隣にいる遥、碧、芽生、雪乃の顔を見て、笑顔でこう言った。

「みんな、ただいま!」




 二〇二一年四月、都内某所。

「ついにワタシは神の力を手に入れまシタ。あの方のため、この世界に革命を起こしマス」

 そう呟いたリンファの瞳は、アドミニストレータを想起させるような黒に近い紫色に染まっていた。

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