第79話 神性魔法
「そんな、馬鹿ナ……! お前ハ、何者なんだ……?」
後ずさりするアマテラスに、青い光を身に纏った響華は笑みを浮かべて答える。
「知る必要ないって言ったのはアマテラスでしょ? だから教えてあげない」
アマテラスは苛立った様子で唇を噛む。
「お前ノ正体は分からナイが、邪魔スル者は倒すまでダ!」
「私も。みんなを守るために、絶対にあなたを倒す!」
お互いに睨み合うアマテラスと響華。二人の間に張り詰めた空気が流れた。
「魔法目録一条、魔法弾!」
「魔法目録二条、魔法光線!」
アマテラスと響華が同時に魔法を放ち、それが激しくぶつかる。
『ドカーン!』
爆発音とともに、爆風が響華の体を襲う。響華は左腕で顔を覆いそれを防ぐと、すぐさま右手を前に突き出した。
「魔法光線!」
再び光線を放つ響華。
「しまっタ……! 魔法目録三条、魔法防壁」
アマテラスはぎりぎりのタイミングで防壁を展開し、なんとか直撃を免れた。
息を切らし、肩を上下させるアマテラス。響華は余裕な表情をして話しかける。
「あれ? もしかして、もう終わりなの? 弱い私にそんな簡単に負けちゃうんだ?」
「違ウ……。なぜ、なぜ行動ヲ予測出来ない?」
アマテラスはぶつぶつと独り言を呟いていて、響華の言葉は届いていないようだ。
「ねえ、大丈夫? 早く決着付けようよ」
響華が言うと、アマテラスは鋭い視線を響華の顔に向けた。
「うるさイ! 予測に使うリソースも全テ攻撃に回せば、お前に負ケルことなど無い!」
アマテラスの目がより一層赤く光る。
「この感じ、なんか懐かしいなぁ」
この戦いを楽しんでいる様子の響華。アマテラスはそれを見て恐怖心を抱いた。
「魔法目録二十七条、火炎放射!」
アマテラスが両手を後ろに引く。するとその瞬間、響華の姿が消えた。
「転移か。どこから現レル……?」
燃え盛る炎を手にしたまま、周りを見回すアマテラス。
「魔法目録二条、魔法光線!」
響華の声がどこかから聞こえる。だが、響華はどこにも見当たらない。
「どこダ……!?」
「ここだよ! 見上げてごらん」
アマテラスが上を見て、ハッとした顔をする。霧に霞む空から落ちてくる響華が目に入ったのと同時に、光線がアマテラスを直撃した。
「ぐわアッ!」
アマテラスが苦しそうな声を上げ、地面に倒れ込む。
「よっ、と……」
響華は華麗に着地すると、アマテラスにゆっくりと歩み寄る。
「来るナ……、来ないデ……! わらわニ近づくナ……!」
アマテラスは仰向けに倒れたまま、震え声で叫ぶ。しかし、響華は立ち止まることなくアマテラスの真横まで来ると、上から顔を覗き込んだ。
「……殺スのか? わらわヲ殺したところで、また新たナ魔獣が生まレルだけだぞ」
アマテラスが半ば諦めた表情をして問いかける。
それを聞いた響華はその場にしゃがむと、首を左右に振ってから微笑みを浮かべた。
「魔獣が悪いんじゃないのは分かってるよ。だけど、あなたを放っておくことは出来ないから」
「お前ハ、魔獣が何かを知ッテいるのか……?」
驚いた様子で響華の顔を見つめるアマテラス。響華はこくりと頷いて答える。
「アドミニストレータの駒、でしょ? あなた達は、この世界を支配するために送り込まれた駒。生き延びるためには、こうするしか無かったんだよね」
「お前ハ、一体……?」
「私が全部、終わらせる。あなたのことも、救ってあげたいから」
響華が笑顔を見せると、アマテラスはそっと目を閉じた。
「なるほど。藤島響華がイレギュラーな存在デある理由は、そういうことだったのカ」
「私もずっと記憶を失くしてて、ついさっき思い出したんだけどね」
響華は深呼吸をして、口を開く。
「魔法目録百五条、神命救済」
魔法を唱え、アマテラスの胸に両手を当てる。
その瞬間、地面に魔法陣が出現し、アマテラスの体を青白い光が包み込んだ。
「お前ノ神性魔法は、優しいんダナ……」
呟くアマテラス。
「違うよ、アドミニストレータが自分勝手すぎるだけなんだって」
響華が言うと、アマテラスは「フフ、そうだったのカ」と笑った。
「またいつか会おうね、アマテラス。その時は、本当に日本を救ってくれると嬉しいな」
「お前ハ……。ああ。もし今度ガあるなら、その約束、果たシテ見せよう」
アマテラスの体がキラキラとしたエフェクトとともに消滅する。最後に見せた顔は、なぜかとても幸せそうだった。
国会議事堂の建物の前で一人佇んでいる響華の元に、遥が駆け寄ってきた。
「おーい、響華っち! どんな状況?」
響華は振り向いて答える。
「もう終わったよ〜」
「終わったって……ええっ!? あのアマテラスを、一人で倒しちゃったの?」
信じられないといった様子で声を上げる遥に、響華が照れ臭そうに頭を掻きながら返す。
「うん。最初は危なかったけど、本気を出したら倒せた」
「本気を出したらって……。もう、せっかく助けに来てあげたのに、これだったら素直に休んでれば良かった!」
頬を膨らませる遥。
「ごめんごめん。でも、ありがとね、遥ちゃん」
響華が微笑みかけると、遥は首を縦に振った。
「じゃ、みんなを回収しつつ戻りますか」
遥が言う。
「回収って、物じゃないんだから……」
響華は呆れたように呟き、本庁舎の方へ向けて歩き始めた。
門を抜け、内堀通りへと続く幅の広い道路を進む。所々、道路に損傷があったり生垣が踏み潰されていたりしている。その光景は、遥たちと魔獣がいかに激しい戦闘を繰り広げたかを物語っていた。
「お〜い、みんな〜!」
響華が大きく手を振ると、雪乃、川辺隊員、芽生、結城隊員、碧がそれぞれその声に気が付いて立ち上がった。
「藤島さん!」
「藤島先輩っ!」
「響華!」
「藤島隊員!」
「藤島!」
全員が響華の無事を喜び、こちらに駆け寄って来る。響華も五人の方へと駆け出す。
「雪乃ちゃん、芽生ちゃん、碧ちゃん!」
響華が雪乃と芽生、碧を抱きしめる。
「藤島さん、アマテラスを倒したんですね……!」
「良かったわ、響華が元気に戻ってきてくれて」
「ああ、本当によくやってくれた」
雪乃と芽生、碧は目に涙を浮かべ、響華の背中に手を回した。
「藤島隊員、私も混ぜてくださいよ〜!」
結城隊員も満面の笑みでその輪に加わる。
「あはは。結城さんも、頑張ってくれてありがとう」
響華は四人を抱き寄せ、笑顔を見せた。
「あっ、あうぅ……。藤島先輩っ……」
その後ろで、川辺隊員はあたふたしていた。ゆっくりと歩いてきた遥は、その様子を見兼ねて話しかけた。
「かわべぇ、入り損ねちゃった?」
川辺隊員はぴくっと反応し、遥の顔を見る。
「あっ、滝川先輩っ……!」
「別に響華っちはかわべぇのこと忘れてないと思うから、そこは安心して。そもそも論、あの中に割って入れるゆーきゃんの方がおかしいから」
「ゆーきゃん……?」
首を傾げる川辺隊員。
「とりあえずかわべぇ、ナイスファイト」
遥が微笑んで右手の平を見せる。
「な、ナイスファイトっ……」
川辺隊員も恐る恐る右手の平を見せる。
『パシン!』
二人のハイタッチの音が響く。
その音が聞こえたのか、響華たちが一斉にこちらを振り向いた。
「あれ? 遥ちゃんと川辺さん、いつの間に仲良くなったの?」
「ちょっと滝川さん、私の目の前で浮気するなんてひどいじゃないですか!」
「ああ結城さん、こっちにいらっしゃい」
「これは川辺さんも含めた私たち全員で成し遂げた結果だ」
「川辺ちゃん何でそんなとこにいるの〜?」
響華、雪乃、芽生、碧、結城隊員に同時に話しかけられる遥と川辺隊員。
「ユッキー、別にこれは浮気じゃ……!」
「あのっ、ちょっと、うわぁ……!」
七人は広い道路の真ん中で揉みくちゃになる。
「あはははは!」
響華たちの楽しげな笑い声は、霧に包まれた静かな街に響き渡った。
「藤島響華、あなたはやっぱり面白い人ですネ」
ビルの屋上で、リンファが一人呟く。
「あの方の言う通りでシタ。魔獣は神になれナイ。でも、人は神になレル」
リンファはにやりと笑い、どこかへと姿を消した。




