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魔法災害隊  作者: 横浜あおば
神界決戦編

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第74話 迫る境界

 翌日、二〇二一年三月十九日。JPBニュース。

『昨日発生した東京上空の異常現象は、一夜明けた今も続いています。空が落ちてくるという恐怖は、国民生活にも大きな影響を与えています』


 魔法災害隊東京本庁舎、司令室。

「向こう側にほとんど干渉出来ないとなれば、アマテラスを倒さない限り神界との融合は止められないということか……」

 碧が呟く。

「あれだけの技術を集めても境界から数メートルしか観測出来ないなんて、絶望的ね……」

 芽生の言葉に、遥が続けて言う。

「魔法護衛艦の魔法光線すら効かなかったんでしょ? そんなのもうどうしようもないよ〜!」

「滝川さん、諦めないでください。私たちが諦めたら、この世界は本当に終わりです」

 雪乃が返すと、響華がこう声を上げた。

「沢山の人の想いを無駄にしないためにも、絶対に神界との融合を阻止しよう」

 五人は気を引き締め直し、アマテラスの捜索を再開した。




 神界との境界が地上に近付き始めてから十五時間ほど経過した今日未明、自衛隊や研究機関による様々な作戦が開始された。

『ビチューン!』

 東京湾から空に向けて一筋の光線が放たれる。

「駄目だ。全然効いてないよ〜」

 魔法護衛艦『さんとう』艦橋で、がっくりとうなだれる真鶴艦長。隣にいたシュウ副長は背中をポンと叩いて声をかける。

「そりゃあ一撃で目に見える結果は出ないだろうな。辛抱強く続けるしかないさ」

「うん、そうだね。響華さんたちのためにも、時間を稼がないと……」

 真鶴艦長は帽子を被り直し、号令をかける。

「主砲発射用意! 魔法光線、エネルギー充填」

「エネルギー充填百パーセント、いつでも撃てるぞ」

 シュウ副長が計器を見ながら言う。

「こーげきはじめー!」

「ていッ!」

『ビチューン!』

 主砲から真っ白な光線が放たれ、夜の闇の中に魔法護衛艦の姿が浮かび上がる。光線は空へと一直線に伸び、神界との境界に飲み込まれる。しかし、またしても境界に変化は起こらなかった。

「エネルギー充填急いで!」

 真鶴艦長の言葉に、シュウ副長はこくりと頷く。

「ああ。言われなくてもやってるさ」

 魔法護衛艦『さんとう』による魔法攻撃作戦は、夜が明けるまで続けられた。


 つくば、魔法省魔法物質研究機構。

 この研究機関では魔法科学技術を用いた最高性能のレーダーを用いて、境界の向こう側、つまり神界の観測を試みていた。

「強さは最大、角度を九十度に設定して……」

 大きなモニターがある研究室で、研究者の男性がコンピューターを操作してレーダーの向きを調節する。

 するとその時、白衣を身に纏った女性が研究室に入ってきた。

「それで神界を観測するのは難しいと思いますヨ?」

「誰だ?」

 研究者の男性が振り向く。

「驚かせてしまってスミマセン。ワタシは魔法省の依田よりた凛風りんかと申しマス」

 その女性は優しい笑みを浮かべると、丁寧にお辞儀をした。

「ああ、魔法省の方でしたか。お話は伺っております」

「海外経験が長かったもので、少々日本語がおかしいところもあると思いますが、気にしないでくだサイ」

 凛風はそう言うと、コンピューターの画面に視線を移した。

「依田さん、レーダーの設定に何か問題でも?」

 首を傾げる研究員の男性に、凛風は当然だといった様子で答える。

「問題しかありまセン。そもそもこのレーダーで観測しようというのが無理な話デス。ちょっといいですカ?」

 凛風はキャスター付きの椅子を引き寄せてコンピューターの前に座ると、カタカタとキーボードを叩き始めた。

「えーと、これをこうして……。これで良し、ですネ」

 凛風が思い切りエンターキーを叩く。

「何をしたんですか?」

 研究員の男性の問いかけに、凛風はにやりと笑って返す。

「レーダーの性能を二割ほど引き上げまシタ」




 凛風曰く、電力を魔法によって電波に変換することでレーダーを改修することなく出力を引き上げることが出来るらしいが、研究員の男性の研究分野とは全く違う領域の話だったのでいまいち理解はしていなかった。

「依田さん、起動させてもよろしいでしょうか?」

「ハイ、始めてくだサイ」

 凛風が首を縦に振ると、研究員の男性は画面に表示された《Start-up》にカーソルを合わせてマウスをクリックした。

 すると建物の屋上に設置された直径十メートルのレーダーが真上を向き、電波を出し始めた。

「順調に出力上昇してます。これなら向こう側を観測出来るかもしれませんね」

 研究員の男性が話しかけるが、凛風は画面を見つめたまま唸り声を上げている。

「いや、これでは難しいかもしれませんネ……」

 リンファが難しい表情をして呟く。

「今のところ、神界との境界で電波は大きく減衰してしまっていマス。これではいくら続けても向こう側を覗き見ることは不可能でショウ」

「では、どうすれば?」

 研究員の男性が聞く。凛風は腕を組んで少考すると、閃いたように声を上げた。

「関東のレーダーを全て使えば、行けるかもしれまセン……!」

 凛風は再びキーボードを叩き始める。目にも留まらぬ速さでプログラムを打ち込むと、エンターキーを叩く音が研究室に響き渡った。

「ちょっと反則してもいいですカ?」

 凛風の言葉に、研究員の男性は戸惑いつつも「は、はい……?」と頷く。反則とは一体何をするつもりなのだろう。男性が疑問に思っていると、凛風は呼吸を整えてから口を開いた。

「魔法条款二十三条、電子操作!」

 凛風がコンピューターに触れると、画面に《Unification:Progress rate 0%》と表示され、パーセンテージが徐々に上がっていく。

「依田さんって、もしかして……」

 驚いた表情を浮かべる研究員の男性に、凛風はこくりと頷いて微笑んだ。

「ハイ、ワタシは魔法能力者デス。あまり魔法は使いたくなかったのですが、今回ばかりは仕方ありませんネ」

 話をしている内にもパーセンテージは上がっていて、気がつくと表示は《100%》になっていた。

「では、始めますヨ」

 凛風はマウスを動かして《Start-up》をクリックする。

 しばらくすると、コンピューターに観測データが届き始めた。

「すごい、観測成功ですよ……!」

 嬉しそうに言う研究員の男性に、凛風はちょっと不服そうに呟いた。

「もう少し広い範囲を調べたかったんですが、ここが限界ですネ」

 凛風は白衣の右ポケットからUSBを取り出すと、コンピューターに差し込んだ。

「データ貰いますヨ?」

 確認するより前にデータの複製は完了していたので拒否する権利は無いに等しかったのだが、研究員の男性はとりあえず頷いた。

「はい、構いません」

「ありがとうございマス」

 凛風はUSBを引き抜くと、それを右ポケットに戻す。

「それで依田さん、あなたがここに来た目的は? 魔法省の人間がわざわざここまで来るということは、それなりの理由があるんですよね?」

 研究員の男性が問いかけると、凛風はニコッと微笑んで答える。

「残念ですが、それはお教え出来まセン。ワタシが言えるとすれば、このデータが必要だったってことくらいでしょうカ」

 凛風は椅子から立ち上がり、研究員の男性に一礼する。

「では、失礼しマス。引き続き観測をお願いしますネ」

「了解しました」

 研究室から凛風が出ていく。一人残された研究員の男性は、結局何だったんだろうと首を捻った。


 魔法災害隊東京本庁舎、司令室。

「それにしても、魔法物質研究機構はよく観測に成功したわよね。ほんの少しの範囲ではあるけれど」

 芽生がモニターを眺めながら呟く。その隣で碧が首を縦に振る。

「ああ。あのすぐ裏に脅威が無いと分かっただけでも多少の救いにはなるからな」

 するとそれを聞いていた雪乃が口を開いた。

「長官の話では、魔法省の依田凛風さんって研究者の成果らしいですよ。電子操作魔法で関東のレーダーを連動させて、大きな一つのレーダーのようにして観測を行ったとのことです」

「へぇ、その人かなり頭いいじゃん。魔法能力も高そうだし。でも、何でそんな人が現場じゃなくて魔法省にいるの? キャリア組?」

 遥が疑問を口にすると、響華も言われてみればと首を傾げる。雪乃はひとまず話を続ける。

「そこまでは分からないですけど、依田さんは海外経験が長かったそうで、研究員は少しイントネーションに癖があったって言ってたみたいですよ。もしかしたら依田さんは、海外の研究機関に出向でもしてたんじゃないですかね?」

「…………」

 響華は今の話を聞いて、何かが引っかかった。

(依田凛風、イントネーションに癖。その名前、聞き覚えがあるような無いような……)

 しばらく考えたが、これだという答えは出なかった。

「藤島、お前はどこを調べてるんだ?」

 碧に話しかけられ、響華は慌ててモニターに視線を移す。

「えっと、世田谷区の辺りだよ」

「そうか。では私は立川周辺を探すとしよう。桜木と北見、それと滝川も、今のが終わり次第多摩地区の調査を頼む」

 芽生と雪乃、遥がこくりと頷く。

 その後も響華たちはアマテラスの居場所探しを続けたが、難航を極めていた。

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