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魔法災害隊  作者: 横浜あおば
魔法護衛艦編
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第72.6話 無人艦ラストピリオド

「ちょっと、副長!」

 碧はシュウ副長に腕を引っ張られ、ある部屋に連れ込まれた。部屋の中にはベッド、机と椅子、収納がある。どうやらシュウ副長の部屋のようだ。

「とりあえずそこ座んな。ここなら誰にも話を聞かれることはねぇ。聞かせてくれよ、悩んでんだろ?」

「……はい」

 碧は小さく頷くと、ベッドに腰を掛けた。

「碧サン、自分が魔法災害隊に向いてんのか、分かんなくなったんだってな?」

 シュウ副長が椅子に座りながら問いかける。すると碧は驚いた表情を見せた。

「なぜ副長がそれを?」

「さっき響華サンに聞いたんだ。と言っても、私が無理に聞き出しただけだから、響華サンを責めるのはやめてくれよ?」

 シュウ副長の言葉に、碧は首を縦に振る。

「で、どうして自分が向いてないって思うんだ?」

 質問を投げかけるシュウ副長に、碧は俯き気味に答える。

「私は、藤島や他の仲間より魔力も魔法能力も劣っている。その上覚悟も足りていない。これでは魔災隊の隊員として失格だ。私が向いてないのは明らかだろう?」

 それを聞いたシュウ副長は、「はぁ?」と首を傾げる。

「他人との比較なんて意味ねぇし、覚悟なんて出来てる人の方が少ないだろ」

「ですが、魔災隊は国民を守る国家公務員です。プロ意識が欠けていては務まらない」

 反論する碧に、シュウ副長は大きなため息をついた。

「ワタシだって国家公務員だ。でも、命賭ける覚悟なんてねぇよ。それは別に自衛隊に統合されたからじゃない。自分が生きることの方が大事だからだ」

「自分が、生きること……?」

「おう。矛盾してるように聞こえるかもしれんが、そもそもワタシが海軍を目指したのは高い給与が目当てだからな。そして、自分の生活を守るために国を守る。海軍にしろ魔法災害隊にしろ、結局は自分のためなんじゃねーの? ってワタシは思うけどな」

 シュウ副長の言葉に、碧が顔を上げる。

「でも、たとえ自分のためであったとしても、能力が低く向いていないのなら意味がないのでは?」

 問いかける碧に、シュウ副長はにやりと笑って言う。

「そんなこと言ったら、ワタシだって海軍の副長なんて向いてねぇと思うぞ。なんせワタシは争いが嫌いだからな。戦闘になったらただのポンコツだ」

「ポンコツって、そんな……!」

 慌てて手を水平に動かす碧。

「アハハ。とりあえずワタシの話は以上。碧サンのこと、周りは認めてくれてんだろ? だったらいいじゃん、自分が生きたいように生きれば」

 碧の顔を見て微笑むシュウ副長。

「自分が生きたいように、か……」

 碧が小さく呟く。その表情は先ほどより少し明るくなっていた。




 二〇二一年三月九日、十九時二十八分。小笠原諸島沖。

 魔法護衛艦『さんとう』の艦橋メンバーに夕食が配られた。

「うわぁ! 碧ちゃん、すっごく美味しそうだよ!」

 夕食を受け取った響華の顔がほころぶ。焼き魚に煮物にお吸い物と、プレートに盛り付けられた和食はどれも美味しそうだ。

「ああ、そうだな」

 碧は微笑んで頷く。

「あれ? 碧ちゃん、ちょっと元気になった?」

 顔を覗き込む響華。

「副長の話を聞いて、少し悩みが解消されたのかもな」

 碧が言うと、真鶴艦長が話しかけてきた。

「メイファンさんは優しいから、きっと碧さんのこと放っておけなかったんじゃないかな」

「真鶴艦長!」

 響華が真鶴艦長の顔を見る。

「隣いい? 一緒に食べたいな」

「はい、どうぞ!」

 響華は夕食のプレートをずらし、真鶴艦長のスペースを作る。

「ありがとう。あと、私のことは凪沙でいいよ」

 真鶴艦長は夕食のプレートを置くと、そう言って微笑みかけた。

「じゃあ凪沙艦長って呼びますね!」

「おい藤島! さすがにそれは馴れ馴れしすぎないか?」

 響華の言葉に碧は少し慌てたが、真鶴艦長は嬉しそうに「はい! 凪沙艦長です!」と手を挙げた。どうやら気に入ったらしい。

「それで、その、凪沙艦長……?」

 碧が恐る恐る慣れない呼び方で声をかけると、真鶴艦長は「どうしたの?」と首を傾げる。

「副長にはどのような魔法能力があるのですか? 私が悩んでいることを最初から見抜いていたようでしたし、ただ優しいというだけではない気がするのですが」

 すると真鶴艦長は、箸を手に取りながら答える。

「メイファンさんは心理読解魔法が使えるんだよ。と言っても、読み取れるのは感情だけで細かい内容は分からないみたいだけどね。いただきま〜す!」

 真鶴艦長は焼き魚を箸でほぐして口に放り込む。

「では、副長はどこかのタイミングで私の感情を読み取っていたのか」

 碧が呟くと、真鶴艦長はもぐもぐしながら「ん〜?」と唸る。するとその時、響華が思いついた様子で言った。

「もしかしてシュウさんの心理読解魔法って常時発動なんじゃないかな?」

「常時発動?」

 聞き返す碧に、真鶴副長が「そう!」と声を上げる。

「響華さん、正解だよ! 魔法目録十一条、心理読解。付則、常時発動。これがメイファンさんの持つ心理読解魔法。それにしても響華さん、よく分かったね?」

 真鶴艦長が褒めると、響華は照れ臭そうに頭を掻いた。

「常時発動ということは、副長には視界に入る人の感情がずっと見えているのですか?」

 驚く碧に、真鶴艦長は。

「そこまでは私も分からないよ。詳しいことは本人に聞いて」

 と答えて、煮物を口に放り込んだ。

「碧ちゃん、私たちも早く食べないとご飯が冷めちゃうよ!」

 響華が箸を持ちながら焦った様子で言うと、碧も「そうだな」と頷き箸を手に取った。


 一時間後。

 夕食を終えた真鶴艦長の元へシュウ副長が戻って来た。

「よっ」

 手を振るシュウ副長に、響華が手を振り返す。

「シュウさん、もう訓練始めるみたいですよ〜」

「おっと、もうそんな時間か」

 慌ててシュウ副長が位置につく。

「じゃあみんな、準備はいい?」

 真鶴艦長の問いかけに、全員が頷く。それを見た真鶴艦長は帽子を深く被り直し、訓練の開始を告げようとした。

「模擬戦闘訓練」

 しかしその瞬間、レーダーが何かを捕捉した。

『ピコン、ピコン』

「ん? 何だ?」

 シュウ副長がそれに反応する。

「ちょっと待って。訓練は一旦中止。状況の確認を」

 真鶴艦長は隊員に伝え、CICへと向かう。

「おい、響華サンと碧サンも付いて来てくれ」

「分かりました! 行こう、碧ちゃん」

「ああ」

 シュウ副長と響華、碧も急いで真鶴艦長の後を追った。

 CICでは電測員が情報収集に当たっていた。

初瀬はつせさん、状況は?」

 真鶴艦長がレーダー画像を見ていた電測員に問いかける。

「レーダーが捕捉したのは、おそらく米軍の艦だと思われます。ですが……」

「ですが何だよ?」

 シュウ副長が首を傾げる。

「ですが、どの艦とも識別番号が一致しません」

「そんなはず……!」

 真鶴艦長はモニターに目を凝らす。そこには《CVZ-001》と記されていた。それは公表されているどの艦のものでもなかった。

「おいマジか、アメリカは隠し球を持ってたってのか?」

 信じられないと言った様子のシュウ副長。

小野寺おのでらさん、横須賀に連絡を。急いで!」

「はい!」

 真鶴艦長の言葉に、通信員が横須賀基地と無線を繋ぐ。

「こちらは魔法護衛艦『さんとう』、至急応答願います」

「こちら横須賀、何かあったのか?」

 応答したのは波岡艦長だった。

「波岡さん、米軍にCVZ-001って艦ありますか?」

 真鶴艦長が聞くと、波岡艦長は戸惑いつつ答える。

「いや、そんな番号は聞いたことないが……。それがどうかしたのか?」

「狙われてんだ。その艦に」

 シュウ副長が言う。

「狙われてる、だと? 距離は?」

 切羽詰まった様子で問いかける波岡艦長。真鶴艦長はレーダー画像を見遣る。

「レーダーの情報では百五十キロです。ただ、ダミーの情報の可能性も否定できないので何とも言えません」

「……そうだな。識別番号からして怪しいし、信用しすぎるのも良くないだろう。魔法護衛艦『さんとう』は直ちに訓練を中止し、横須賀に帰港されたし」

 波岡艦長が命ずる。

「了解しました」

 真鶴艦長が言うと、無線が切れた。

「横須賀に戻るんですか?」

 響華が話しかけると、シュウ副長が答える。

「そう命令が出た。戦闘を避けるためにもそれが最善だろう」

「私たちは何をすれば?」

 碧が聞くと、真鶴艦長は真剣な表情で告げた。

「響華さんと碧さんは安全な区画で待機してて。絶対に横須賀まで送り届けるから」

 真鶴艦長とシュウ副長は響華と碧を残し、艦橋へと向かう。

「私たち、本当に何もしなくていいのかな……?」

 不安そうに呟く響華。

「今はそうするしかないだろう。万が一状況が悪化したら、その時は前みたく戦闘に加わればいいんじゃないか?」

 碧の言葉に、響華は「そうだね……」と小さく頷いた。




 真鶴艦長とシュウ副長が艦橋へ戻ると、航海長が青ざめた顔で立ち尽くしていた。

「どうしたの? 具合悪い?」

 真鶴艦長の問いかけに、航海長はゆっくりと前方を指差した。

「ま、前……」

「そっちに何かあるのか?」

 シュウ副長が航海長の指差す方を見る。すると目に飛び込んで来たのは、見たこともないような巨大な艦影だった。

「おい、あれは何だ……?」

 シュウ副長が息を呑む。

「もしかして、あのレーダーの艦がこれなのかも」

 真鶴副長が呟く。

「そんなワケ……!」

 シュウ副長がまさかと否定するが、CICから報告が入った。

「あのレーダーの位置情報は、電子操作魔法による偽の情報でした。正しい位置情報は、北に三キロの地点。おそらく敵艦の射程圏内にあると思われます」

「早く距離を取らねぇと!」

 シュウ副長が声を上げる。真鶴艦長は頷いてすかさず指示を出す。

「とーりかーじ! 最大戦速! 早急にこの海域を離脱!」

 しかし、航海長は立ち竦んでしまっていて操艦をしようとしない。

「おい、航海長! しっかりしろ!」

 シュウ副長は必死に声をかけるが、航海長は相当ショックを受けたのか反応が無い。

 それを見た真鶴艦長が口を開く。

「しょうがない。私がやるよ」

「は? 艦長が操艦するってのか?」

 驚いた表情を見せるシュウ副長。真鶴艦長は微笑んで言う。

「大丈夫。私は元航海長だから」

 真鶴艦長は航海長を隊員に預けると、帽子を被り直し号令をかけた。

「艦長操艦! 最大戦速、針路百八十度」

 真鶴艦長は操舵輪を握り、操艦を始めた。

『ヒュン!』

 その時、遠くの艦影にオレンジ色の閃光が見えた。どうやら発砲してきたようだ。

「衝撃に備えろ!」

 シュウ副長が叫ぶ。

『ドカーン!』

 すぐ近くに着弾し、艦が大きく揺れる。真鶴艦長やシュウ副長は体のバランスを崩す。

「もう一度横須賀に繋いでくれる? 多分このまま逃げ切るのは無理」

「小野寺サン、横須賀に繋いでくれ」

 真鶴艦長の言葉を受け、シュウ副長がCICにそれを伝える。

『ドカーン!』

 また近くに着弾する。先ほどよりも狙いが正確になっている。

「まずいな……。相手はどういうつもりで攻撃してきてんだ?」

 シュウ副長は敵艦の艦橋に目を凝らす。しかし、何か様子がおかしい。

「人間の感情を感じない、全員CICに籠ってんのか? いや、そんなはずねぇな……」

 ぶつぶつと呟いていると、横須賀基地の波岡艦長と無線が繋がった。

『おい、大丈夫か?』

「波岡さん! 敵艦より攻撃を受けてます。反撃してもいいですか?」

 焦った様子で問いかける真鶴艦長に、波岡艦長は少し考えてから答える。

『……あの魔獣のせいで判断プロセスが曖昧になってしまっているのだが、構わない。反撃を許可する。責任は全て私が取る』

「ありがとうございます!」

 真鶴艦長が感謝を述べると、無線が途切れてしまった。

「妨害電波か」

 シュウ副長が言う。

「ねえ、響華さんと碧さんを呼んできてくれる? 私たちだけじゃこの危機を乗り越えられないかもしれない。だけど、あの二人がいてくれたら、乗り越えられる気がするの」

 真鶴艦長が真剣な眼差しでシュウ副長を見つめる。

「……分かった、すぐ連れてくる。その間、ちゃんと攻撃を避けとけよ」

 シュウ副長が響華と碧の元へ駆け出す。

 真鶴艦長は「やるしかない」と呟き、操舵輪をしっかりと握りしめた。


 海上自衛隊横須賀基地。

『ありがとうございま……』

 真鶴艦長との無線が途切れる。

「魔災隊の子たちを、また戦闘に巻き込んでしまったのか……」

 波岡艦長が自分を責めるように言う。

 するとその時、目の前が明るく光った。

「な、何だ……?」

 波岡艦長が眩しそうにその光を眺めていると、そこに三人の少女が姿を現した。

「あっ、イージス艦の人だ!」

「もう滝川さん、そんな呼び方失礼ですよ!」

「驚かせてしまってごめんなさい。波岡艦長」

 その三人を見て、波岡艦長が声を上げる。

「君たちは!」

 波岡艦長の前に現れたのは遥と雪乃、芽生だった。

「でも、どうして君たちが?」

 首を傾げる波岡艦長に、遥が答える。

「CIAからやばい戦艦が日本に向かってるって情報を聞いたので、来ちゃいました!」

「CIAって、君たちは本当に恐ろしい子たちだね……」

 思わぬ組織名を聞いて、少し恐怖を感じた様子の波岡艦長。

「それで、響華と碧は今どうなってるの?」

 芽生が聞く。

「アメリカの艦から攻撃を受けているらしい。おそらく君たちがCIAから聞いた艦だろう。それで、その情報というのは?」

 波岡艦長が問いかけると、雪乃が口を開いた。

「日本に向かったのは、『ラストピリオド』という大型艦だそうです。ただ、この『ラストピリオド』には人工知能が搭載されていて、人は乗っていないと言っていました」

「人が、乗っていない……?」

 信じられないといった様子の波岡艦長に、雪乃はさらに続ける。

「しかも、最先端の魔法科学技術が使われていて、通常兵器はおろか魔法光線でもほとんどダメージを与えられないとのことです」

「そんな、ではどうすれば……」

 絶望的な説明を聞いて拳を握りしめる波岡艦長。すると遥が一歩前に出て言う。

「あの新型のやつ、もう整備も終わってるんですよね? 私たちにそれを貸してください!」

 頭を下げる遥に、波岡艦長は。

「無理だ。いくら君たちでも護衛艦を動かすのは不可能だ。それに、三人でどうやってあの大きな艦を動かすと言うんだ」

 と首を横に振った。すると今度は芽生が声を上げた。

「魔法よ。魔法があれば大抵のことはコントロールできるわ。だから波岡艦長、お願いします」

 芽生も頭を下げる。

「いやしかし……」

 だが、これ以上魔災隊の子たちを危険な目に遭わせたくないと波岡艦長はなかなか首を縦に振らない。雪乃も何とか説得しようと頭を下げる。

「お願いします。私は、藤島さんと新海さんを助けたいんです!」

 波岡艦長は必死に頭を下げる三人を見てしばらく考えると、頷いて一言。

「分かった」

 と言った。

「魔法護衛艦『かつうら』、好きに使うといい。その代わり、絶対に二人を助けてくれ」

 波岡艦長の言葉に、三人は顔を上げ「はい! ありがとうございます!」と決意に満ちた表情を浮かべた。

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