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魔法災害隊  作者: 横浜あおば
魔法護衛艦編
82/100

第72.5話 伊豆諸島沖

 伊豆諸島へ向けて航行中の魔法護衛艦『さんとう』艦橋。

「おもーかーじ」

「おもーかーじ」

「もどーせー」

「もどーせー」

 時折、真鶴艦長と航海長の声が響く。

「ほわぁ……!」

 響華は静かにその様子を眺め、目を輝かせている。

「どうした、藤島?」

 それを見た碧が首を傾げる。

「いや、本物のこういうの初めて見たからちょっと興奮しちゃって」

「ああ、それで無言になっていたのか。以前は戦闘時しか艦橋にいなかったし、そもそも普通じゃこんな経験出来ないからな」

 碧が納得したように言う。

「響華サンと碧サン、だっけ? 艦橋の気分はどうよ?」

 するとその時、シュウ副長が話しかけてきた。

「なんかこう、本物だって感じです!」

 響華の答えに、シュウ副長がクスッと笑う。

「響華サン、ワタシより日本語下手なんじゃねーか?」

「えっ、そんなことないよ〜!」

 頬を膨らませる響華。

「あはは、悪かったよ。で、碧サンは? 楽しんでるか?」

 シュウ副長が碧の顔を見る。碧は少し考えてから口を開いた。

「……はい、とても有意義な時間を過ごさせていただいてます」

「ふ〜ん、それならいいけどサ。碧サン、船の中で嘘は突き通せねーからな?」

 シュウ副長がそう言って、元の立ち位置に戻る。

「全部お見通しか……」

 碧は隣の響華にも聞こえないような声で小さく呟いた。




 伊豆諸島沖。

「予定海域に到着。ただ今より訓練を開始します」

 真鶴艦長が言うと、隊員たちの表情が引き締まる。

「それじゃあここからは響華さんと碧さんにも参加してもらおうかな。準備は大丈夫?」

 真鶴艦長の問いかけに響華と碧は首を縦に振る。

「はい!」

「ええ、問題ありません」

 真鶴艦長は帽子をしっかりと被り直してから、隊員に告げる。

「模擬戦闘訓練。レーダーに識別不明の艦を捕捉、呼びかけに応答なし。敵艦は射程圏内まで接近し、主砲旋回を確認。戦闘配置!」

 隊員が慌ただしく動き、瞬時に戦闘態勢が整う。

「戦闘用意! 戦闘左魚雷戦!」

「方位角右九十度、距離一マイル」

 砲雷長を兼務するシュウ副長が正確な指示を送ると、真鶴艦長が号令をかける。

「こーげきはじめー!」

「ていッ!」

 シュウ副長の掛け声で魚雷が発射される。

「命中! しかし、速力変わらず」

「敵艦の装甲には魔法科学技術が用いられているみてーだな……」

 隊員の言葉を聞いて、シュウ副長が呟く。

「ねえ碧さん、こういう時はどうしたらいいかな?」

 真鶴艦長が碧の顔を見る。

「あっ、えっと、いや……」

 しかし碧は突然の質問に動揺し、考えが思い浮かばない。それを見た響華が代わりに答える。

「私なら電子操作魔法で機関を停止させる、かな?」

「なるほどな。必ずしも艦の装備で攻撃する必要はねぇんだし、それに響華サンは過去にその手を使ったことがあるだろ? 前例があるならそれでいいんじゃねーか?」

 シュウ副長が言うと、真鶴艦長はこくりと頷いた。

「特殊戦闘、左魔法能力戦!」

「方位角右九十度、距離一マイル」

「こーげきはじめー!」

 真鶴艦長の号令に続けて、シュウ副長が魔法を唱える。

「魔法目録二十三条、電子操作!」

 シュウ副長が右手を前に突き出し、神経を集中させる。

「ていッ!」

 声を上げたと同時に指先から細い光が放たれる。

「これでどうよ?」

 シュウ副長がニヤリと笑う。すると隊員から報告が入った。

「敵艦、機関停止!」

 それを受けて真鶴艦長はすかさず指示を出す。

「両舷前進強速! 速やかにこの海域を離脱」

「両舷前進強速!」

 航海長が復唱し、船の速度を上げる。

「これで模擬戦闘訓練は終了です。お疲れ様でした!」

 真鶴艦長が告げると、隊員たちの肩の力が一斉に抜ける。響華と碧も緊張から解放され、ホッとした様子で大きくため息をついた。


「お疲れ。響華サン、碧サン」

 シュウ副長が響華と碧の元に近づいてきて話しかける。

「お疲れ様です!」

「お疲れ様です」

 響華と碧が頭を下げると、シュウ副長は碧に対して質問を投げかけた。

「なあ碧サン。改めて聞くが、あの状況で取るべき行動は何だ? 私たちには魔法能力で戦闘するノウハウが無ぇからさ、そういうことは分からねぇんだ。だからこそ碧サンにもオブザーバーとして参加してもらってるわけだが、どうなんだ?」

 すると碧は、少し考えてからゆっくりと口を開いた。

「……すみません。咄嗟に判断出来ませんでした」

「慎重派なんだな、碧サンは。別に怒ってるわけじゃねぇから、気にすんなよ」

 シュウ副長は碧の肩をぽんぽんと叩く。その時、真鶴艦長が声をかけてきた。

「碧さん、ちょっといいかな?」

「はい、何でしょう?」

 碧が艦長に連れられ、艦橋を出ていく。

「行っちゃった……」

 その姿をじっと眺めていた響華が呟く。気が付けば艦橋には響華とシュウ副長の二人しか残っていなかった。

「響華サン、せっかく二人になれたし、ちょっと話さねーか?」

 微笑みかけるシュウ副長に、響華は首を傾げた。




「響華サンには聞きたいことがいくつかあるが、どれから聞こうかなぁ?」

 悩んでいる様子のシュウ副長に、響華が優しく言う。

「そんなに聞きたいことがあるんですか? 何でも聞いてください」

「そうか、じゃあお言葉に甘えて。まずは遼寧の話を聞かせてもらおうかな。スリランカ沖で遼寧を航行不能にしたの、響華サンだろ? あんな高度な魔法技術が使われた空母、一体どうやって止めたんだ?」

 シュウ副長の問いかけに、響華は簡単に説明する。

「碧ちゃんとか他の魔法能力者に魔力を分けてもらって、電子操作魔法の威力を高めたんです。でも、何でそれをシュウさんが知ってるんですか?」

 響華が聞き返すと、シュウ副長は少し俯いてこう言った。

「……ワタシは、響華サンたちのおかげで救われたんだ」

「それって、どういうことですか?」

 理解出来ないといった様子の響華に、シュウ副長は「ちょっと暗い話だが、構わねぇか?」と前置きし、話を始めた。

「ワタシは元々、遼寧で副長をやってたんだ。でも、そん時の艦長がえらく攻撃的な人でな、なるべく戦闘を避けたいワタシといつも意見がぶつかってた。そんな時、遼寧に日本のイージス艦を沈めろって命令が出たんだ。ワタシはその命令に従いたくなかった。けど、艦長はワタシの話なんか聞かず、攻撃を仕掛けた。まあその結果は響華サンの知っての通りだから省くが、そのおかげで艦長は更迭された。艦長が魔獣に操られてたってのはもっと後に知った話だが、ワタシを艦長や魔獣から救ってくれたのは響華サンたちだ。本当に感謝している」

「そうだったんですね……」

 暗い表情をする響華の背中を、シュウ副長が思い切り叩く。

「暗い顔すんなって。ワタシにとっちゃ響華サンは恩人だ。だから楽しく生きてほしいんだ」

「すみません」

 響華は顔を上げ、笑顔を見せる。

「おう、やっぱり笑顔の方がいいな。でだ、響華サン。もう一つ聞きたいのが、碧サンは何に悩んでるんだってことなんだが、何か知ってるか?」

 シュウ副長の質問に、響華は頷いて答える。

「碧ちゃんは、自分が魔災隊に向いてないんじゃないかって感じてるみたいなんです。私から見れば全然そんなことないですし、むしろ向いてると思うんですけど、碧ちゃんは私たちと自分を比べてしまってるみたいで……」

「あ〜、真面目な人ほど陥りがちなヤツだな」

 シュウ副長はふむふむと頷くと、「よし、分かった」と言った。何が分かったのかと首を傾げる響華に、シュウ副長はニヤッと笑って一言。

「碧サンの悩み、ワタシが解決してやろう」

「えっ? シュウさんが、ですか……?」

 響華はぽかんとした表情でシュウ副長の顔を見つめていた。


 CIC(戦闘指揮所)。

「それで艦長、ご用件は?」

 真鶴艦長に連れられてCICに入った碧が問いかける。

「碧さんには次の訓練の設定を考えてほしくて。もちろん私も一緒に考えるけど、どうかな?」

 首を傾げる真鶴艦長に、碧は迷いながらも首を縦に振った。

「はい、私は構いませんが……。私でいいんですか?」

「もちろんだよ。良かった、碧さんが引き受けてくれて」

 真鶴艦長はホッとした様子でにっこりと笑った。

「えーと、どのような訓練を行う予定なのでしょうか?」

「今決まってる設定は、敵艦が米海軍のサラトガってところだけ。あとは全然なんだ〜」

 どうしようと悩む真鶴艦長。碧は少し思案して口を開いた。

「サラトガから突如発砲された、みたいなシチュエーションはどうでしょう?」

「発砲か〜。主砲の魔法光線の射程距離はサラトガの方が長いし、結構いいかも。ありがとう碧さん。おかげで一瞬で決まっちゃった!」

 真鶴艦長はどんどんとイメージが湧き上がってきたようで、ホワイトボードにすらすらと図面を描き出していく。

「あの、艦長……?」

「ん? どうしたの?」

 碧が話しかけると、真鶴艦長はペンを走らせながら返事をする。

「本当にこの案で良いのですか?」

 碧は自分が考えた案で本当に良かったのか、不安に感じていた。

「うん、すっごくいい案だと思うよ」

 真鶴艦長は図面を描き上げ、ペンの蓋を閉めて言う。

「それならいいのですが、もし気を遣って無理に採用してくれたのだとしたら……」

 ネガティブな発言をする碧。するとそこへシュウ副長がやって来た。

「碧サン、いつまでそんなこと言ってんだ? 艦長はそんなことする人じゃねーから、安心しな」

「副長……!」

 驚いた表情を浮かべシュウ副長の顔を見る碧。

「碧サン、ちょっと借りてもいいか?」

「うん、大丈夫だよ。細かいところは一人で考えるから」

 シュウ副長は真鶴艦長に声をかけると、碧の腕をがしっと掴んだ。

「副長、私をどこへ?」

 引っ張られながら問いかける碧。シュウ副長は「いいから付いてこい」と答えるだけで、行き先や用件は全く伝えてくれなかった。

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