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魔法災害隊  作者: 横浜あおば
次元結界編
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第67話 東京の果て

 二〇二〇年一月十四日。国会議事堂、地下。

 国元はスーパーコンピューターのコンソールの前に立ち、アマテラスのコピーと会話をしていた。

「魂の魔法結晶化なんて、信じられませんね……」

 芽生の過去を聞いた国元が驚いた表情を浮かべる。

『だが、それは事実ダ。そして桜木芽生ハ今、わらわのハッキングにより植物状態デあるということになっている。しかしこの偽装工作モ限界がある。一刻も早ク藤島響華を見つけ出セ』

 アマテラスのコピーが言うと、国元は頷いた。

「分かりました。CIAとも連携して、早急に響華さん達を探し出します」

『頼んダぞ』

 国元は踵を返し、国会の地下を後にする。

『CIAは絶対に何か情報ヲ掴んでいるはず。問題はその情報を解析出来ルか、だろうナ……』

 国元の姿が見えなくなると、アマテラスのコピーはそう呟いた。




 中原街道、○子橋。

 濃い霧の中を進む響華と遥。

「何も見えないね」

「見えないどころか、視界ゼロじゃん」

 感覚的にはそろそろ川崎市との境のはずだが、自分の足元すら見えないほど視界は真っ白で、その感覚が正しいのかも分からない。

 するとその時、響華と遥は何かにぶつかった。

「「いてっ!」」

 二人同時に声を上げ、一歩下がる。

「すみません!」

 響華は人にぶつかったと思い、とりあえず謝った。しかし、それに対する反応も無ければ人の気配も感じないので、二人がぶつかったのは人ではなさそうだ。

 遥は手を伸ばし、ぶつかった物体が何なのか確かめる。

「これ、壁かな?」

「壁?」

 首を傾げる響華。

「うん。分かんないけど、結界魔法で作った結界の壁、みたいな?」

「それじゃあ、東京が丸ごと結界になってるってこと?」

 遥の言葉に驚く響華。

「断定は出来ない。でも、その可能性はある」

 遥が言う。

「この事を、早くみんなに知らせないと。このまま物流も交通も遮断されたままじゃ、東京中がパニックになっちゃう!」

 響華は遥と共に、急いで霧の中を引き返す。霧を抜け、丸子橋の信号にたどり着く。

「どうする? まず誰に伝えればいいかな?」

 響華が遥に問いかける。その瞬間、目の前に碧と雪乃が現れた。

「その必要はない」

「この東京は、全て偽りですから」

 碧と雪乃は、まるで自我を失っているかのようで、かなり不気味な雰囲気だ。

「アオ、ユッキー! 何してんの?」

 遥が話しかける。しかし、碧と雪乃は真顔のままで反応は無い。それどころか突如魔法を唱えたのだ。

「魔法目録八条二項、物質変換、弓矢」

「魔法目録八条二項、物質変換、狙撃銃」

 碧と雪乃はそれぞれ武器を手に取り、それを構える。

「待ってよ碧ちゃん、雪乃ちゃん。私と遥ちゃんは敵じゃない。ずっと一緒に戦ってきた仲間だよ。ねえ、思い出して!」

 必死に訴えかける響華。だが、碧と雪乃にはその言葉が届かない。

「処理する」

「はい」

 碧と雪乃がこちらに向かって攻撃を開始する。響華と遥はそれを躱しながら、二人の洗脳を解く方法を探る。

「私たちの話に聞く耳を持ってくれないと、前に進まないよ……」

 響華が呟く。

「かと言って、ユッキーを抱きしめてあげようったって近寄れないし……」

 遥も困った様子で言う。

 碧と雪乃は無言で攻撃を続けている。響華と遥も防戦一方では限界があった。

「反撃するしか、ないのかな?」

「傷つけたくないけど、やるしかないよね」

 顔を見合わせこくりと頷くと、響華と遥も魔法を唱えた。

「魔法目録二条、魔法光線!」

「魔法目録一条、魔法弾!」

 響華が碧に向けて光線を放つ。

「これで碧ちゃんが体勢を崩してくれれば……」

 光線の行く末を見守る響華。しかしそこで、思わぬ事態が起きた。

「碧ちゃん、何で避けないの!?」

 碧は弓を構えたまま、その場から動こうとしない。このままでは正面から光線を受けてしまう。そうなれば、大怪我をするどころか最悪の場合死んでしまうかもしれない。

 それを見た遥は慌てて魔法弾を光線の方へと放った。

「響華っち、大丈夫。これで軌道を逸らせるはず」

『ドカーン!』

 魔法光線に魔法弾が直撃し、光線は碧の横を掠めて通り過ぎた。

「ありがとう、遥ちゃん」

 響華が微笑みかけると、遥はこくりと頷く。

「でも、相手が避けないとなると、攻撃は慎重にやらないとだね」

 遥はそう言って、再び魔法を唱える。

「魔法目録一条、魔法弾! 少し狙いをずらして……」

 遥が雪乃から照準を少し外し、魔法弾を放つ。雪乃は先ほどの碧と同様に一歩も動かない。魔法弾が雪乃の右肩に当たる。

「…………」

 雪乃は無言のまま、こちらに銃口を向け直す。

「どうにかして洗脳を解いてあげないと……」

 響華が呟くと、どこかから声が聞こえてきた。

「仲間に殺される気分はどうかしら?」

 響華と遥は声の主を探す。すると、トラス構造になった橋の鉄骨からこちらに向かって誰かが飛び降りてきた。響華と遥はその人の方を見る。

「芽生ちゃん、じゃないんだよね?」

「メイメイになりきるなら、もう少し上手くやろうか」

 響華と遥の言葉に、芽生の姿をした何者かは不敵な笑みを浮かべた。

「そうね、あなた達みたいな優秀な魔法能力者を相手にするなら、もっと考えないといけなかったわね。でも、こうなったらもういいわ。ここであなた達を殺して、私が世界を支配スル」

 言い終えると、芽生の姿が変異し、人型の魔獣になった。

「あなたは誰?」

 響華の問いかけに、人型の魔獣はにやりと笑って答える。

「Want to know? 知りたいカ? 私はマリナ、米軍ヲ統べる魔獣だ」




 響華と遥はごくりと唾を飲み込む。

「それじゃあ、日本に戦争を仕掛けたのもあなたの仕業ってこと?」

 鋭い視線を向ける響華。

「That's right. その通りダ」

「それでどれだけの人が犠牲になったか分かってんの? アオのお父さんも、何の関係もない一般市民も、理由もなく巻き込んでさ。神の名前を名乗るなら、それに見合ったことをしたらどう?」

 遥が詰め寄ると、マリナはふっと笑った。

「我ノ目的、それは全ての人間ヲ洗脳し、完璧な世界へと導クこと。正真正銘、我は神となるのダ」

「全ての人間を洗脳するなんて、そんなの許せない……!」

 唇を噛む響華。

「大体、何で魔獣は神の名前を名乗りたがるのさ? 自分で考えられない訳?」

 遥が苛立った様子で言う。

「考えられない、というのは心外ダナ。我らはアドミニストレータの使いなのダ。魔法神に仕エル存在である以上、それは神と同等ノ存在ということだ」

 そう答えたマリナは、息を整えて魔法を唱えた。

「Magic call, Material destruction」

 マリナの手から光線のようなものが放たれる。

「何この魔法!?」

 響華は地面を蹴ってそれを躱す。光線のようなものはそのまま真っ直ぐ進んでいき、後ろに停まっていたトラックに当たった。するとその瞬間。

『ピシャーン!』

 不思議な音とともに、トラックが消えて無くなったのだ。

「あれは……!」

 遥がハッとした表情を浮かべる。

「さすが第二位ノ魔法能力者、察しがいいナ。これは物質破壊魔法、お前らデ言うところの『魔法目録八条三項』ダ」

 マリナの言葉に、響華が信じられないといった表情を見せる。

「八条三項って、存在しないんじゃ……」

 それを聞いた遥は首を縦に振る。

「響華っちの言う通り、八条三項は存在しない。だけど、物質破壊魔法は理論上不可能じゃない。ここがマリナの張った結界の中であるなら、マリナは思いのままに魔法を操れるだろうね」

「Magic call, Material destruction. これで、終わりダ!」

 マリナが再び物質破壊魔法を放つ。

 響華と遥は冷静にそれを回避する。しかしその瞬間、響華と遥の体に痛みが走った。

「ぐぁっ!」

「うっ!」

 地面に倒れる響華と遥。二人は何とか顔を動かして、痛みを感じる箇所に視線を移す。

「矢が、刺さってる……」

「ユッキーは、ホント狙いが正確だね……」

 響華と碧を攻撃したのは、マリナに洗脳された碧と雪乃だったのだ。

「油断したカ? 洗脳さえシテしまえば、魔法ヲ唱えなくとも簡単に操れるのダ。さあ、このままくたバルがいい!」

 高笑いするマリナ。響華と遥はどうにか立ち上がろうと試みるが、体に力が入らない。

(ここまで、なのかな……。芽生ちゃん、助けてあげられなくてごめんね……)

 響華は魔法結晶のペンダントを握りしめ、静かに目を閉じた。

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