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魔法災害隊  作者: 横浜あおば
次元結界編
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第65話 なりすまし

 翌日、二〇二一年一月拾肆(じゅうよん)日。

 昨日と同じように響華たちは渋谷に集合した。

「響華っち? 昨日のメッセージ、あれ何?」

 遥の問いかけに、響華が答える。

「私昨日ね、帰りに電車乗り過ごしちゃってさ、気が付いたら狛江だったんだよ。だけどその電車、最初は準急だったのに各駅停車になってて、和泉多摩川に停まったかと思えば運転打ち切りになったの。それでホームから多摩川の方を見たんだけど、すごい濃い霧がかかってて、全然川崎の街が見えなかったんだ」

「えっとつまり、藤島さんはそれが誰かの意図によるものだと考えてるってことですか?」

 雪乃が聞くと、響華は首を縦に振った。

「それであのメッセージってことか」

 遥が呟く。遥と雪乃には昨日の夜、響華から謎のメッセージが届いていた。

《私、多摩川渡れないみたい》

 十二文字のその文章は、謎解きかと突っ込みたくなるような、意味を成しているとは言い難いものだった。

「私、東京の外に出てみたいんだけど、みんなはどう思う?」

 響華の言葉に、芽生が口を開いた。

「ちゃんと任務をこなせば、その後は何でもいいけど」

 碧もこくりと頷く。

「じゃ、決まりだね。ささっと魔獣やっつけて、横浜でも行きますか!」

 元気よく声を上げる遥。雪乃は隣でふふっと笑った。

『ピコーン、ピコーン』

 芽生のスマホが鳴る。

「魔獣反応、近いわね」

 芽生は呟くと、すぐに地図に示された地点へと駆け出した。

 響華たちも後ろから付いていく。

「メイメイ、横浜に行くこと止めなかったね」

 遥が小声で響華と雪乃に話しかける。

「もしかしたら、魔獣退治で疲れさせて結局行かせないつもりかも」

 響華が言うと、雪乃は驚いた表情を見せた。

「えっ? 藤島さんは、桜木さんが魔獣も操ってるって言いたいんですか?」

「分からない。でも、芽生ちゃんはこの世界を全部自分のものとしてるような、そんな気がする」

 響華の言葉に、遥と雪乃は黙ってしまった。確かに、昨日からずっと芽生に主導権を握られていると思う。しかし、それが全て芽生の仕組んだもので、そのシナリオ通りに進んでいるとしたら。考えるだけでもぞっとしてしまうが、今の状況を鑑みればその可能性も否定出来ない。

「この先に魔獣がいるわ。それもかなり大型の」

 芽生がスマホの地図を見て立ち止まる。

 響華たちが建物の陰から顔を覗かせると、そこには今までに見たこともないような超巨大な魔獣がいた。




 超巨大な魔獣を目にした遥は。

「あんなのもはや怪獣じゃん! 倒さなくて良くない?」

 と諦めムードで言う。

「滝川、それは駄目だ。私たちの任務は魔獣を倒すこと。命を賭けてでもやらねばならない」

 碧は鋭い視線を遥に向ける。

「ええ、どうにかしてあの魔獣を倒しましょう」

 芽生はそう声をかけると、それぞれに指示を出した。

「まず私と碧、響華と遥でペアを組んで、ツーマンセルで戦いましょう。それで雪乃、あなたはあのビルから狙撃して、私たちのサポートをお願いね」

「ああ」

「分かった!」

「りょーかい!」

「分かりました」

 四人が大きく頷く。

「それじゃあ、私はあそこから狙撃するので」

 雪乃が一人ビルの中へと入っていく。

「うん、行ってらっしゃい。気をつけてね」

 響華が声をかけると、雪乃は振り返って軽く微笑んだ。

「それじゃあ、行くわよ」

 芽生の言葉を皮切りに、四人は一斉に魔獣の前へと飛び出した。

「魔法目録八条二項、物質変換、サーベル」

「魔法目録八条二項、物質変換、弓矢」

 芽生と碧が魔法を唱え、それぞれ武器を手にする。

「完全に芽生ちゃんのペースに飲まれてるけど、大丈夫かな?」

 不安そうに聞く響華。遥は芽生の様子をちらりと見遣ってから答える。

「一応監視しておいた方がいいかもね。あの二人が見える位置で戦おう」

 遥の提案に、響華は首を縦に振った。

「魔法目録一条、魔法弾!」

「魔法目録二条、魔法光線!」

 遥と響華も魔法を唱え、攻撃態勢を整える。

「グワァー!」

 超巨大な魔獣は鼓膜が破れそうなほどの大きな咆哮をあげる。

 碧は弓を構え、魔獣に向かって矢を放った。矢は見事に魔獣に突き刺さったが、ほとんどダメージは受けていない様子だ。

 続けて芽生が魔獣に斬りかかる。

「これなら、どうかしら?」

 しかし、またしても魔獣には大してダメージを与えられていない。

「どんだけ強いの、この魔獣……」

 遥が魔法弾を放ちながら呟く。

「まさか、永遠に倒せないなんてことはないよね……?」

 響華は苦笑いを浮かべて言いつつ、魔法光線を放った。


 しばらく戦っていると、碧が響華と遥に話しかけてきた。

「藤島、滝川、お前たちは反対側から攻撃してくれ。私たちと同じような場所から攻撃していてはツーマンセルの意味がないだろう」

「ごめんね、ちょっと待って!」

 響華は碧にそう声をかけ、遥の方を見る。遥はしょうがないといった表情をして、一旦反対側に回ろうと身振り手振りで伝えた。響華はこくりと頷いて、碧のそばを離れた。

「どうするの? この位置からじゃ芽生ちゃんは見えないよ?」

 響華の問いかけに、遥は。

「そのままそっちから回り込めば解決でしょ」

 と言って笑った。

「そっか、一周すればいいんだね!」

 納得した様子で頷く響華。響華と遥は魔獣に攻撃をしつつ、反対側から回り込む。

「もうすぐ芽生ちゃんが見えるはず……!」

「さすがにメイメイもこの短時間に私たちの目を盗んで何かをするなんて出来ないでしょ」

 先ほどまで芽生がいた場所が視界に入ってきた。だが、そこに芽生の姿は無かった。

「嘘、でしょ……!」

 驚いた表情を浮かべ、体が固まる響華。遥は慌てて碧に問いかける。

「ねえ、メイメイどこ行った?」

「桜木? 今日は休みだったはずだろう?」

 真顔で答える碧。遥は唇を噛んで悔しそうに呟く。

「……やられた。アオはもう完全に取り込まれてる。次にメイメイは何をしようとしてるんだ? 考えろ、考えろ私……」

 するとその時、響華がふとビルを見上げて。

「雪乃ちゃん、一人だけど大丈夫かな?」

 と心配を口にした。

 その言葉に、遥はハッとして声を上げる。

「響華っち、それだ! メイメイはきっとユッキーを取り込もうとしてる!」

「えっ? ってことは、早く助けに行かないと!」

 響華が焦った様子で言う。

「アオを一人残すのは危険だから、私はここに残る。響華っちはユッキーのところに行って!」

「分かった!」

 遥の言葉に響華は大きく頷くと、ビルに向かって全力で走り出した。




 雑居ビル、五階。

 雪乃は窓から超巨大魔獣を狙撃していた。

「当たってはいるんでしょうけど、全然効いてる感じがしませんね……。皆さん、大丈夫でしょうか」

 雪乃がぽつりと呟く。この場所からでは響華たちの状況が分からないので、一人で行動している雪乃は多少の不安を感じていた。

 その時、コツコツと階段を上がってくる足音が聞こえた。

「だ、誰でしょうか……?」

 雪乃はゆっくりと後ろを振り返る。

『コツ、コツ、コツ……』

 足音がどんどんと近づいてくる。

「魔法目録八条二項、物質変換、拳銃」

 目の前に拳銃が形成されると、雪乃はすかさずそれを手に取り銃口を階段につながる扉の方へ向けた。

『コツ、コツ、コツ……』

 足音がすぐそこまで迫る。雪乃は緊張と恐怖で心臓が張り裂けてしまいそうだった。

『ガシャン、キィ……』

 扉が開く。雪乃は引き金に指をかけ、狙いを定める。しかし、いくら待っても誰も入ってこない。

「おかしいですね、絶対誰かいるはずなんですが……」

 雪乃がそう呟いて首を捻った瞬間、背後に嫌な気配を感じた。

「しまった、後ろ……!」

 雪乃は慌てて振り返ろうとしたが、それよりも一瞬早く相手に首を絞められてしまった。

「くっ! あなたは、一体誰ですか……!」

 雪乃がもがきながら声を振り絞って問いかける。するとその相手は不敵な笑みを浮かべて答えた。

「私? あなたなら声で分かるでしょう?」

「桜木さん、何で……!」

 その声は、間違いなく芽生の声だった。雪乃はなぜ芽生に首を絞められているのか必死に考えを巡らせる。

「本当は自然と完全暗示魔法にかかるはずだったんだけど、ちょっと想定外が起きすぎたわ。あなたは記憶を取り戻しすぎた。それなら、無理やりにでも暗示魔法にかけるまでよ」

 芽生の言葉で、雪乃は何かを思い出した様子だ。

「黒幕は桜木さん、あなたですよね?」

「はぁ?」

 芽生はより強く雪乃の首を絞める。

「桜木さんは、私たちを、どうするつもり、なんですか……」

 息苦しそうに抵抗する雪乃に、芽生はフッと笑ってこう言った。

「Need not to know. 知る必要ノないことダ」

 この発言で、雪乃は今まで大きな思い違いをしていたことに気が付いた。

「なるほど……。あなたは、桜木さんじゃ、なかったん、ですね……」

 しかし、一歩遅かった。気を失い、床に倒れ込んでしまった雪乃。

「Magic call, perfect brainwashing. さて、これで我ハ数的優位に立てる。フフ、アハハハハ!」

 芽生の姿になりすました何者かは、興奮を抑えきれない様子で高笑いをした。

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