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魔法災害隊  作者: 横浜あおば
次元結界編
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第64話 黒幕

 東京、〓比谷公園。

「メイメイ、ずっと手を抜いてるのはどうして? 答えてくれないなら、メイメイに魔法弾をぶつけるよ」

 鋭い視線を芽生に向ける遥。芽生は挑発的な態度で言う。

「構わないわよ。やってみなさい」

「止めないんだ? 魔法適正使用法違反の行為なのに」

 遥の問いかけに、芽生は首を傾げる。

「魔法不正使用禁止法のこと? って、どんな内容だったかしら……」

 思わず口を衝いて出てしまったその言葉に、修正を図るかのように思い出せない素振りをする芽生。

「魔法目録一条、魔法弾」

 遥は魔法を唱え、魔法弾を右手にする。

「最後通告だよ、メイメイ。ずっと手を抜いてる理由は?」

 遥は魔法弾を放つ態勢を徐々に整え、それをカウントダウンの代わりとしているようだ。芽生は遥の動きをただじっと見つめている。

「残念だな〜。ホントはやりたくなかったけど」

 遥はそう呟くと、地面を蹴り一気に間合いを詰める。

「私と戦うのに、まさか手は抜かないよね?」

 遥が芽生の目の前で魔法弾を放つ。この距離で放たれた魔法弾を避けられるはずがない、と遥は確信していた。

「甘いわね」

 しかし、芽生はそれをギリギリのところで躱し、すかさず反撃を試みたのだ。

「魔法目録八条二項、物質変換、サーベル」

 芽生は手元に形成された刀を手に取って、それを遥に向かって振りかざす。遥は体を捻らせ、既のところで回避した。

「危ない危ない。でも、そんなんじゃ私は倒せないよ。魔法目録一条、魔法弾!」

 遥は再び魔法を唱え、芽生に向かって魔法弾を放つ。芽生はそれを簡単に躱すと、遥目掛けて駆け出した。

「やぁぁっ!」

 芽生が刀を構える。

「魔法目録三条、魔法防壁!」

 遥が魔法を唱えたのと同時に、芽生が刀を横薙ぎに振るう。防壁の展開が間に合っていれば芽生の刀が折れるだけで怪我人は出ないだろう。だが、もしも防壁の展開が間に合っていなければ、遥は致命傷を負う可能性がある。

「遥ちゃん!」

「滝川さん!」

 遠くからその様子を見ていた響華と雪乃が叫ぶ。

『ガキーン!』

 芽生が振るった刀は、先が折れて破片が周囲に飛び散った。遥は安堵の表情を浮かべる。

「いや〜、今のはかなりピンチだったよ〜。本気のメイメイ、やっぱり強いね」

 遥が芽生の顔を見て微笑む。するとその瞬間、遥の体に鋭い痛みが走った。

「くっ! 痛いな〜、もう……」

 遥はゆっくりと腹部に視線を落とす。

「うわ、何だこりゃ!」

 見てみると、腹部から矢の先端が突き出ていて周りが真っ赤に滲んでいる。遥は驚いて後ろを振り返る。そこには、弓をこちらに向けて立つ碧の姿があった。

「藤島や北見に嘘を吹き込んで、お前は何がしたいんだ?」

 碧は遥を睨みつけている。

「違う、嘘じゃないんだよ! アオ、聞いて。メイメイはね……」

 遥は碧に何かを伝えようとしていたが、出血がひどく意識を保っていられなかった。その場に倒れこむ遥。

「遥ちゃん、しっかりして!」

「滝川さん、起きてください! 滝川さん!」

 響華と雪乃が慌てて駆け寄り、遥の体を揺さぶる。

「碧、完璧な仕事だったわ」

 芽生が碧に声をかける。

「ああ」

 碧は無表情のまま、小さく頷いた。




「魔法目録四条、回復! 滝川さん、目を覚ましてください!」

 雪乃は目に涙を浮かべながら、必死に回復魔法をかけ続ける。

「遥ちゃん、いつもみたく冗談だって言って笑ってよ……。魔法目録四条、回復」

 響華もひたすら回復魔法を唱え、雪乃を支援する。すると、遥が苦しそうに唸った。

「うう……」

「滝川さん! 魔法目録四条、回復!」

 雪乃はさらに回復魔法をかける。

「もうちょっと……! 魔法目録四条、回復!」

 響華もそれに続く。遥の体が緑色の光に包まれる。

「滝川さん、大丈夫ですか?」

 雪乃が心配そうに顔を覗き込むと、遥はゆっくりと目を開けて微笑んだ。

「うう、ごめんね……。ユッキー、響華っち……」

「遥ちゃんは悪くないよ。それよりも、何で芽生ちゃんと碧ちゃんは遥ちゃんにこんな酷いことを……」

 響華が呟く。遥は少し考えてから口を開いた。

「……多分、私が攻めすぎた。メイメイから色々引き出した上で穏便に済まそうと思ったけど、そんな都合良くいくわけないよね……」

「もう、滝川さん。私たち全員に関わる問題を、一人で抱え込まないでください。もっと私を、頼ってくださいよ……」

 雪乃が遥の頬に手を当てる。

「ありがと、ユッキー」

 遥も雪乃の頬に手を添え、雪乃の顔を引き寄せた。

「うわちょっと、二人とも何してるの!」

 慌てて視線を逸らす響華。

 雪乃と遥は目を閉じて、口づけを交わす。

「……滝川さん、本当に心配したんですよ?」

「うん、ごめん。これからはもっと気をつけるから」

 しばらく抱き合った後、雪乃が遥の体を起こす。

「すみません、藤島さん。居づらかったですよね……?」

 雪乃が問いかけると、顔を真っ赤にした響華が答える。

「い、いや、大丈夫だよ? あは、あはは……!」

「響華っち、もう子供じゃないんだから、もっと恋愛の耐性つけないとダメだよ?」

 遥が茶化すように言う。

「あ、あれは恋愛とはなんか違う気がするからいいの!」

 響華が頬を膨らませる。

 遥は「あはは」と笑っていたが、急に真剣な表情になった。

「って、そんな話はいいんだよ。それよりも、あの魔獣どこ行った?」

 遥の言葉に、雪乃が周囲を見回す。

「そういえばどこにもいませんね?」

「碧ちゃんが倒したのかな?」

 響華がちらりと碧を見遣る。碧は無表情でじっと一点を見つめている。

「碧ちゃん! 魔獣倒したのって碧ちゃん?」

 響華が大声で話しかけると、碧はゆっくりとこちらを向いた。

「魔獣……? 霞ヶ関で倒したのは私だが……」

 碧はどこか気の抜けた様子で言う。

「そっか、分かった」

 響華は遥と雪乃の顔を見て、小声で聞く。

「倒したのは碧ちゃんじゃないと思う。だけど、様子が変だよね?」

 すると遥が、何かに納得したように首を縦に振った。

「やっぱり、魔獣を倒しちゃいけなかったんだ」

「どういうことですか?」

 雪乃が首を傾げる。

「アオは朝から私に敵対的だった。それは私がおかしなことを言ってたのもあるけどね。でも、魔獣を倒した後からより敵対的になった。というか、メイメイの肩を持つようになった。それって不思議じゃない?」

 遥の言葉に、響華と雪乃がハッとした表情を見せる。

「だから碧ちゃんは、遥ちゃんを後ろから狙ったんだ……!」

「それに、新海さんが桜木さんの味方をしているというのなら、黒幕は……」

 遥はこくりと頷いた。

「メイメイ、だろうね」




 芽生は広場の真ん中でスマホを眺めている。響華と雪乃が近づくと、芽生がそれに気が付いて顔をこちらに向けた。

「どうしたの?」

 響華は恐る恐る質問する。

「あのさ、さっきの魔獣って、どこに行ったの?」

 芽生は少し思案して、こう言った。

「魔獣? この公園には最初からいなかったわよ」

「そんなはずないですよ!」

 雪乃がありえないといった様子で声を上げる。しかし芽生は聞く耳を持たなかった。

「あなた達、疲れてるのね。今日はもう日が傾いてるし、終わりにしましょうか」

 芽生は碧と遥にも解散を告げる。

「…………」

 響華は芽生のことを明らかに怪しいと感じたが、遥のような目に遭うリスクを考えると深く切り込むことが出来なかった。

 響華は四人と別れ、一人電車に揺られていた。トレインビジョンには《準急 向ヶ丘遊園行き》と表示されている。

(芽生ちゃんは、何が目的で私たちを騙してるんだろう……)

 響華はしばらく考え事をしていたが、疲れが溜まっていたのか気がつくと眠ってしまっていた。


『早くこの世界から出て! じゃないとあなた達、洗脳されるわよ』

「はっ、寝ちゃってた……!」

 響華がその声に目を覚ます。

(また芽生ちゃんみたいな声……)

 その声は魔獣に攻撃しようとした時にも聞いた芽生のような声だった。しかし、電車に芽生は乗っていないし、他の誰かが自分に声をかけたとも考えられない。

(何なんだろう。それに、洗脳って……)

 響華は声の謎もそうだが、その内容も気に掛かっていた。最初は魔獣を倒しちゃダメだと言い、今はこの世界から出ないと洗脳されると言った。一体どういう意味なのだろうか。

『ドアが閉まります。駆け込み乗車はおやめください』

 ガシャンとドアが閉まる。その時、響華はふと駅の看板が目に入った。

《狛江》

「しまった、乗り過ごしてた!」

 響華の自宅は祖師ヶ谷大蔵駅の近くにある。響華は仕方なく次の停車駅まで行って折り返すことにした。電車が再び動き出す。

『次は和泉多摩川です。お出口は左側です』

「あれ、和泉多摩川……?」

 響華はそのアナウンスに違和感を感じた。だが、その違和感の正体はすぐに分かった。トレインビジョンを見ると、そこには《各駅停車 向ヶ丘遊園行き》と書かれていたのだ。

「違う、私が乗ったのは準急……」

 いつの間に各駅停車に変わったのだろうか。熟睡している間に何か案内があった可能性は否定できないが、種別変更をするほどの乱れが生じたのならさすがに気が付くはずだ。そうこうしているうちに、電車は和泉多摩川駅に入線した。

『和泉多摩川です。ご乗車ありがとうございました』

 ドアが開き、乗客数人が降りる。響華も続けて降りようと席を立ったが、足を止めた。

「乗ってくる人が、いない……?」

 ホームには電車を降りた客はいても、乗ってくる客がいなかったのだ。もちろん大きな駅ではないのでそういうことが無い訳では無いと思うが、夕方のこの時間帯でこの状況というのは少し不気味な感じがした。

(準急だったら登戸まで降りられなかった訳だし、次まで乗ってようかな……)

 響華がそんなことを考えていると、車掌からのアナウンスが車内に流れた。

『ただいま、信号トラブルが発生したため、運転を見合わせております。ご利用のお客様には大変申し訳ございませんが、この電車はここで運転打ち切りとさせていただきます。この電車は回送電車です』

 このアナウンスを聞いた乗客たちは、仕方なさそうに立ち上がってぞろぞろと電車を降りていく。

「おかしい。準急が各駅停車になって、今度は運転打ち切りになった……」

 しばらく思案して、響華は一つの仮説にたどり着いた。

「私に多摩川を渡らせたくない……?」

 響華はホームに降り、多摩川の方を見る。川の先には川崎市が見えるはずだが、川の半分を境に不自然に真っ白な霧がかかっていて何も見えなかった。




 某所。芽生が暗い部屋の中で、目を閉じて何かに集中している。

「イレギュラーに果てヲ見られた……。やはりスナイパーを味方につけておくべきダナ……」

 呟いたその言葉はどこかぎこちなく、まるでアマテラスや共工の喋り方のようだった。

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