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魔法災害隊  作者: 横浜あおば
米軍編
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第56話 絡み合う思惑

 東京、魔法災害隊東京本庁舎。

「何よ、これ……」

 芽生が信じられないといった様子で呟く。

「木下副長官は、完全に向こう側なのね……」

 長官が言うと、碧が問いかける。

「これでは私たちもアマテラス側に思われてしまうのでは?」

「そうだね。魔災隊、魔法省としてもこの状況は良くない。何か対策を考えるよ」

 長官はいつになく真剣な表情を見せる。

「さすがに国民全員が信じてしまう、なんてことはないですよね……?」

 不安そうに聞く雪乃。遥は雪乃の頭をぽんぽんと撫でて答える。

「大丈夫。魔獣がそんな簡単に受け入れられるわけないって。それに、もしそんな事になっても、私たちがいる限りアマテラスの自由にはさせない。でしょ、ユッキー?」

「そ、そうですね……」

 遥の言葉に、雪乃の不安は少し和らいだようだ。




 東京、国会議事堂。

「お疲れ様でした。見事な会見でした」

 木下副長官がアマテラスに話しかける。

「これでわらわが世界ヲ支配する土壌ができた。本番はここからダ」

 前を向いたまま答えるアマテラスに、木下副長官が問いかける。

「アマテラス様、一つ質問してもよろしいでしょうか? 私との約束、忘れてはいませんよね?」

 アマテラスは少し考えてから言う。

「約束? ああ、そのことカ。忘れてハおらぬ。お前がきっちりと成果ヲ出したら果たすつもりダ」

「ですが、もう時間がないんです。早くして頂かないと、由依ゆいは……!」

 木下副長官が詰め寄ると、アマテラスは振り向いて一言。

「助けたいノなら黙って従え」

 その時向けられた冷酷な眼差しに、木下副長官は黙ってアマテラスの後ろをついていくことしか出来なかった。


 本庁舎の地下駐車場に停めた車の中で会見を見ていた国元は、車載端末をテレビモードからカーナビに戻す。

「木下副長官、やってくれましたね……」

 国元がぽつりと呟く。

「このままでは魔災隊への風当たりが悪くなる。世論を上手く誘導できればいいのですが……」

 国元が思案していると、車載端末の挙動がおかしいことに気が付いた。

「故障か?」

 しばらく様子を見ていると、画面が真っ暗になりプログラムのコードのようなものが表示され始めた。そしてその文字が日本語に書き換わっていく。最終的に現れたのは《朝鮮連邦以来ダナ。国会議事堂ノ地下で待っている》という文言だった。

「アマテラスのコピーか。オリジナルが動き出した今、コピーは何を企んでいるのです?」

 国元は車を降り、国会議事堂へと向かった。

 国会の地下へと着いた国元は、スーパーコンピューターのコンソールの前で立ち止まる。

「言われた通り来ましたが、今度はどんなご用件で?」

 国元が問いかけると、アマテラスのコピーが答える。

『藤島響華がCIAの提案ヲ受け入れたのは知っているナ? しかし、藤島響華ガ航空機でアメリカへ渡るのはリスクがある。そこデ国元勇也には、転移魔法でアメリカに渡れるよう根回しヲしておいて欲しいのだ』

「なるほど。アメリカもまた一枚岩ではないと」

 国元が言うと、アマテラスのコピーは感心したような声を上げる。

『ほう。公安の人間ハかなり優秀だな。理解が早クテ助かる』

「持ち上げても何も出ませんよ。それにしても、なぜ響華さんは多方から狙われているのです?」

 国元の問いかけに、アマテラスのコピーは少し間を置いて答える。

『……お前ヲ信じて伝えよう。藤島響華、彼女ハおそらく、魔法神の一人であるエミュレータだ。正確に言えば、元々ノ藤島響華とエミュレータが融合している、といったところカ。狙ワレているのはそれが理由だろう』

「魔法神? それはどういう存在だ?」

『魔法物質の世界ニ暮らし、魔法の全てヲ統べる存在。だが性格ハ様々で、魔獣を生み出し人間ヲ管理することを企むアドミニストレータや、世界に起コル異変を感知するコンパイルなど、挙げればキリがない』

 アマテラスのコピーの説明を聞いた国元は、さらに疑問を投げかける。

「ではエミュレータは一体どのような目的で響華さんと融合を?」

『エミュレータはこの世界でも魔法神の力を再現することができる数少ない魔法神ダ。エミュレータはその稀有ナ才能を活かし、今まで数々の人間の危機ヲ救ってきた。藤島響華と融合シテいるのもそれが理由であろう。しかし今回ハ今までと違って、エミュレータは自分が魔法神であるという記憶ヲ覚えていない。だから、その力を我が物ニするチャンスだとばかりに様々ナ組織が狙っているのだ』

「そうか、響華さんがあそこまでの力を持っているのはそれが理由。そして、自分が魔法神である記憶を喪失しているうちに味方にしようとしているのか」

 国元の言葉にアマテラスのコピーは『そうダ』と答える。

『最後ニ聞いておこう。国元勇也。藤島響華ノ真実を知った今、お前は何ヲ思う?』

 アマテラスのコピーの問いに、国元はフッと笑って言う。

「僕の気持ちは変わりませんよ。響華さんは魔法災害の危機から日本を救う存在です。絶対に日本を滅ぼす存在にはならないし、そうはさせません」

『そうか、お前らしいナ。よし、帰ッテ良いぞ』

 アマテラスのコピーが優しく声をかけると、国元は「ちょっと待ってください」と言って質問をした。

「そういえば、朝鮮連邦の住吉はどうなりました? ちゃんと約束は守っていますよね?」

 アマテラスのコピーはすぐに答える。

『当然ダ。彼の信用レートは罪ヲ犯さない限りは千五百以上に保たレル。そして彼は、革命軍として立派ニやっている。安心しろ』

「それは良かったです。あなたが約束を守っているなら、こちらも守らざるを得ませんね」

 国元は踵を返し、アマテラスのコピーの前を去る。アマテラスのコピーは国元の姿が見えなくなると、ぽつりと呟いた。

『国元勇也。お前ノ優しさが、のちにあだとならないことを祈ル』




 国元が本庁舎の地下駐車場に戻ると、そこには会見を終えた木下副長官がいた。

「木下副長官、随分と派手に出ましたね?」

 国元が話しかけると、木下副長官はこちらに近づいて来て言う。

「でも、これによって長官は動きを制限されました。アマテラスの味方と思われた今、それを否定することは組織の分裂と解釈されます。あの長官のことです。そんなリスクを負ってまで反論はしないでしょう」

「調子に乗らないでください、公民党第一執行官。あなただけが優位に立っていると思わないことですね」

 国元が鋭い視線を木下副長官に向ける。

「公民党は無くなったも同然ですが、その呼び方は皮肉ですか? それはともかく、私は別に優位に立っているとは思っていません。ただ、現状を鑑みればどちらが窮地に陥っているのかは明白でしょう?」

「確かにそうですね。魔災隊は追い込まれている。その事実は認めます。ですが、このままずっとアマテラスの思い通りとはいきませんよ」

「そこまで言うなら、どちらが最終的に勝者となるか、徹底的に争いましょう」

 しばらく睨み合うと、木下副長官は国元の肩をぽんと叩いてエレベーターホールに入っていった。

「アマテラスのコピーがこちら側についたことには、まだ気が付いていなさそうですね……」

 国元は小声で言いながら、車のドアを開け運転席に座った。

「さてと、CIAが次に現れるまでに転移魔法使用の口実を作らないとですね」

 車載端末を操作し警察のシステムにアクセスすると、転移魔法の使用許可状を作成し始めた。


 東京、米軍横田基地。

「あの魔獣相手に我々は勝てるのですか?」

「まずは国会に爆撃を行うべきでは?」

 米軍の兵士たちはアマテラスの会見で混乱していた。そこへ突如通信が入った。

『最前線で戦う諸君、国防長官のマーティンだ。諸君らには、ただいまより都心への一斉爆撃を行ってもらう。ただし、東新宿を避けること。それ以外はどこに爆撃を行っても構わない。こちらからは以上だ。幸運を祈る』

 通信が切れる。

「国防長官からの直接のお言葉……!」

「弱気になっている場合ではない! ただちに出撃準備だ!」

 この通信で、兵士たちの士気が一気に高まったようだ。

 数分後、横田基地から数え切れないほどの爆撃機が離陸していく。黒い機影が空を埋め尽くす光景は、この世の終わりかのような絶望感があった。

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