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魔法災害隊  作者: 横浜あおば
米軍編
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第52話 開戦

 二〇二一年一月六日、魔法災害隊東京本庁舎。

 響華たちは食堂のテレビで、マーティン国防長官の会見を見ていた。

『日本政府は、我が国が猶予を与えたにも関わらず考えを改めなかった。これはれっきとした叛逆であり、見過ごすことはできない。よって、我が国は宣言する。日本への宣戦布告、日米開戦を』

 会見が終わると、響華が立ち上がった。

「行くよ、みんな」

 碧、芽生、遥、雪乃の四人も頷いて立ち上がる。

 五人は地下の駐車場へと向かう。そこにはすでに国元が車を回して待っていた。

「準備は整ってます。僕は入間基地までお送りすることしかできませんが、公安として国内の混乱は最小限に抑えてみせます」

「はい。じゃあ、お願いします」

 響華たちが乗り込むと、国元は入間基地へ向けて車を発進させた。




 埼玉、航空自衛隊入間基地。

 響華たちが到着した頃には、すでに臨戦態勢が整っていた。

「おはようございます」

 響華が挨拶をすると、一人の男性隊員が出てきた。

「……ああ、おはよう」

 男性隊員は響華に向かって言うと、碧を睨みつけた。

「父さん……」

 碧が呟く。その男性隊員は碧の父だったのだ。

「碧、今からでも遅くない。戦いに出るのはやめなさい」

 碧の父は鋭い口調で話しかける。

「嫌です。私はこの国が大好きで、この国のために力を使いたいと、そう思っている。父さんは、私の魔法能力が信じられないのですか?」

 碧もつい強く言い返してしまう。

 碧の父はそれにカチンと来たようで、最後にこう言い放った。

「お前の魔法では米軍の圧倒的な力に対抗できるはずがない!」

 踵を返し駐機している戦闘機へと向かっていく碧の父。碧はその背中をじっと見つめていた。

「アオ、追いかけなくていいの?」

 遥が問いかける。

「いいんだ。父はいつもああだからな」

 碧はそう答えるが、表情を見ると怒り以外の感情が滲んでいるように感じられた。

「ホントは分かってるくせに。心配して言ってくれてるってこと」

「うるさい……」

 遥の言葉に、碧は顔を赤くして俯いた。


 しばらくすると、響華たちに声がかかる。

「皆さん、出撃しますのであちらのヘリコプターに乗ってください」

「はい!」

 五人は大型の輸送用ヘリコプターに乗り込む。

「雪乃、平気?」

 不安そうな雪乃に、芽生が聞く。

「はい。少し怖いですけど、一人じゃないので大丈夫です」

「そう。私は役に立たないと思うから、もし何かあったら遥にでも頼りなさい」

 芽生が言うと、雪乃はこくりと頷いた。

「じゃあ、お願いします」

 響華が操縦士に告げると、ヘリコプターがエンジン音を立て始める。プロペラが回転し、バタバタと言う音で周りの音が聞こえづらくなる。

『離陸許可が降り次第出発します』

 ヘッドホンから操縦士の声が聞こえる。

「どんな敵が来ても戦闘機と私たちの魔法でドカーンだよ! さあ、レッツゴー!」

 遥が拳を突き上げる。

「ちょっと遥ちゃん、狭いところで動かないでよ〜」

 響華が文句を言うが、音がうるさくて遥にはその声は届かなかった。

 その時、機体がふわりと浮き上がる。響華たちを乗せたヘリコプターは、編隊飛行をする戦闘機に続いて東京方面へと飛んでいった。


 国元はその光景を車の中から見ていた。

「行ってしまいましたね……」

 すると、車の窓をノックする音が聞こえた。国元は嫌な予感を抱きつつ窓の外に目を向ける。

「またCIAか……」

 そこにいたのは、CIAの魔法工作員ライリーだった。国元はため息をついてから窓を開ける。

「しつこいですね。今度は何の用ですか?」

「もう一度あなたとお話がしたかったので。このような状況になってしまった以上、貴重な戦力である藤島響華を今すぐに引き渡せとは言いません。ただ、終戦もしくは休戦状態になったタイミングで、こちらに保護させてほしいのです」

 ライリーは響華を保護することをまだ諦めていない様子だ。

「だから何度も言わせないでください。僕は響華さんを引き渡すつもりはありません」

 国元が強く反論すると、ライリーは鋭い視線をこちらに向けた。

「公安であるあなたなら、分かっていますよね? 彼女がいかに危険な存在であるか」

「…………」

 国元は黙ってライリーを見つめる。

「藤島響華の魔力は人間のキャパシティを超えています。まだ彼女自身は気が付いていないようですが、もしその事実に気が付いた時に何が起こるか。魔法能力者である私ですら予測できないのです。それを魔法能力者もいない日本の公安に制御可能だとは到底思えません」

 ライリーが話し終えると、国元はゆっくりと口を開いた。

「……それは承知の上です。ただ、僕は響華さんを信じています。その事実を知ったとしても、響華さんなら誰かを助けるために戦い続けると」

「それがあなたが保護を拒む理由?」

 問いかけるライリーに、国元は頷く。

「はい。理由として不十分だとでも?」

「いいえ。では、せめてこちらで検査だけでもさせてください。なぜ異常なほどの魔力を持つ人間が生まれたのか、興味があるのです」

 ライリーは向き直って言う。

「それは強制、ですか?」

 国元が聞くと、ライリーは首を横に振る。

「藤島響華、彼女の同意があればの話です。ではまた」

 ライリーはコートのポケットに両手を突っ込むと、踵を返し駅の方へと歩いていく。

 国元はその後ろ姿をじっと眺めていた。




 東京、新宿上空。

『二時の方向に敵機確認! 数二十(ふたじゅう)!』

『ミサイル発射!』

 ヘッドホンから緊迫したやり取りが聞こえてくる。

「私と遥ちゃんで敵を混乱させるから、碧ちゃんと芽生ちゃんと雪乃ちゃんの魔力をもらってもいい?」

 響華の言葉に、碧が首を縦に振る。

「ああ、最初からそのつもりだ」

 響華は碧と、遥は芽生と雪乃と手を繋ぎ、それぞれ魔力を集中させる。

『ピッ、ピッ、ピピピピピ……!』

 ロックオンされたという警告音がヘリコプターに鳴り響く。窓の外を見ると、右後方からミサイルが飛んで来ていた。

「私たちが乗ってることに勘付かれた?」

 芽生が呟く。

「それは分からない。でも、私たちは大ピンチってことでしょ? なら、魔法目録二十三条、電子操作!」

 遥がミサイルの方に向かって右手を伸ばすと、指先から光のようなものが一直線に放たれた。その光がミサイルに当たる。するとミサイルはフラフラと軌道が歪み始め、空中で爆発した。

『ピピピピピ、ピー』

 警告音が鳴り止む。

「助かりました……」

 雪乃がホッとした表情を見せる。

「でも、まだまだ敵はいっぱいいる。ユッキー、もっと魔力を貸して!」

「はい。遥さんのためなら、いくらでも」

 遥の言葉に大きく頷く雪乃。

「全く、こんな状況でイチャイチャしないでくれる?」

 芽生は誰にも聞こえないような声で言うと、遥の手をしっかりと握り直した。


「魔法目録二十三条、電子操作!」

 その頃、響華も自衛隊機に襲いかかるミサイルを対処していた。

「次から次に攻撃が来てきりがないよ〜」

 響華は連続で魔法を放っていたため、消耗が激しいようだ。

「私の魔力だけではやはり厳しいか……」

 碧がどうするべきか思案していると、またしても米軍機からミサイルが発射された。

「うわぁ、まただ〜! 魔法目録二十三条、電子操作!」

 響華が前方に右手を伸ばす。

 指先から放たれた光のようなものがミサイルに当たり軌道が変わる。しかし、ミサイルが外れた方向に何かが飛んでいる。

「まずい!」

 響華が声を上げる。それはアジアスカイネットワークの旅客機だったのだ。

「なぜ民間機がここにいる?」

 碧がヘリコプターの操縦士に問いかける。

「分かりません! 直ちにコンタクトを取ります!」

 パイロットはコックピットの機器を操作し、旅客機と無線を繋ぐ。

『アジアスカイネット・ワン・ゼロ・ツー・エイター! ミサイルだ、避けろ!』

 大きな機体が旋回しながら上昇していく。すると、ミサイルは捕捉できなかったのか旅客機に当たることなく地面に落下していった。

 響華と碧は安堵の表情を浮かべる。

「アジアスカイネットワークって、確かLCCだよね?」

 響華が聞くと、碧は頷いて答える。

「ああ。ただ、羽田に路線はなかったはずだが?」

 そんな話をしていると、操縦士が話しかけてきた。

「ASN機は、成田離陸後に進路を塞がれてしまい羽田への着陸を試みていたようです」

「つまり、米軍は東京の制空権を完全に掌握しているというわけか」

 碧が言う。

『ピピピピピ……』

 再び警告音が鳴り響く。

「またロックオンされた……!」

 響華は再び魔法を放つ。しかし、響華の魔力はもう限界に近づいていて大きく精度を欠いた。

 ミサイルは何とかヘリコプターからは外れたが、その先にいた自衛隊機に向かっていく。

「響華っち、何やってんの! 魔法目録……」

 遥が慌ててフォローしようとするが、その時にはすでに手遅れで。

『ドカーン!』

 自衛隊機にミサイルが命中し、空中で爆発した。

「あっ……」

 響華はショックで言葉を失い、目を潤ませながら口を押さえている。

「パイロットは……!」

 碧はパイロットが脱出していないかパラシュートを探すが、どこにも見当たらない。どうやら脱出できなかったらしい。

「あの戦闘機、確か新海さんの……」

 操縦士が呟く。

「父さん……!」

 それを聞き逃さなかった碧は、響華の胸ぐらを掴みこう言い放った。

「おい、お前のせいだ! お前がちゃんとやらないから、父さんが死んだんだ!」

「…………」

 碧に睨みつけられた響華は、黙ったまま下を向いていた。

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