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魔法災害隊  作者: 横浜あおば
米軍編

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第50話 爆撃

 埼玉、航空自衛隊入間基地。

『ドカーン! ドカーン!』

 上空を飛ぶ謎の戦闘機から、基地に向けて爆撃が繰り返される。

「何、あれ。どういうこと……」

 響華はその様子をじっと見つめていた。

「君たち、ここは危ない。早く基地の外へ!」

 自衛隊の人が声をかける。

 しかし、響華たちはあまりのショッキングな光景に体が固まってしまって動けない。

「……しょうがない。君たちはここにいて下さい。くれぐれも建物から出ないように」

 自衛隊の人はそう言い残して、建物の外へと駆け出していく。どうやら謎の戦闘機を迎え撃つつもりらしい。

 ゴォーという音を立てて、滑走路から戦闘機が飛び立つ。

「この基地の戦闘機を全部飛ばせば戦力はこちらが上。だけど、あの敵があれで全てとは限らないわ。もし応援が来た場合、かなり厳しい状況に陥るわね……」

 芽生は壁に寄りかかりながら言う。

「私の父は、無事でいられるのだろうか……」

 碧が祈るように呟くと、隣にいた響華が背中に手を回した。

「きっと大丈夫だよ。さっきの人も言ってたでしょ? 碧ちゃんのお父さんはすごいんだって」

「ああ、そうだな……」

 碧は響華の言葉に小さく頷いて、再び空に視線を移した。

 日が傾き始めた空には、いくつもの機影が太陽の光を反射して輝いていた。




 東京、国会議事堂。

 公民党こうみんとう神谷かみや総裁は、首相官邸へ戻るため車に乗り込んだ。

「アマテラス様のおかげで政策審議はとても順調です」

「そうカ、それは何よりダ」

 神谷総裁が話しかけると、車の横に立つ人型の魔獣アマテラスがこくりと頷く。

「アマテラス様はこれからどのように?」

「わらわニハやるべきことがあるのでナ。ここデ失礼する」

 アマテラスがそう答えると、神谷総裁はドアを閉めて運転手に告げる。

「出してくれ」

 運転手はすぐにエンジンをかけ車を発進させる。

 車が国会の敷地から出るのを確認したアマテラスは、ニヤリと笑って呟いた。

「さすがに今年度デハ長すぎる。あの男は用済みダ」

 神谷総裁を乗せた車が総理官邸前の交差点に差し掛かる。

 その時、後ろからこちらに向かって周りのビルよりも低い高度でヘリコプターが飛んできた。

「何事だ!」

 神谷総裁が振り返ろうとした瞬間、ヘリコプターから何かが発射され車が一気に爆発した。

『ドーン!』

 神谷総裁や運転手が逃げる間もなく、交差点の真ん中で車は激しく炎上。骨組みだけになった車は、もうもうと黒煙を上げていた。


 魔法災害隊東京本庁舎。

 長官の元に、木下きのした副長官が駆け寄ってきた。

「どうしたの?」

 長官が問いかけると、木下副長官は冷静な口調で伝える。

「たった今、神谷首相が殺害されたそうです」

「えっ? 殺害って、誰に?」

 長官が驚いた表情を見せる。

「それは分かりません。しかし、ネット上の情報ではヘリコプターによる攻撃とあります」

「ヘリコプター……?」

 長官はしばらく首を捻る。いくら優秀な人物でも、さすがにこの不可解な状況を理解するのは難しいようだ。

『♪タタタタタタタタタン……』

 長官のスマホが鳴る。

「はい、進藤です」

『もしもし、魔法省の近江おうみです』

 電話をかけてきたのは、魔法災害隊を所管する省庁である魔法省の人だった。長官は魔法省事務次官も兼任しているので、緊急時には召集がかかることがある。

「近江さん、首相が殺害されたって聞きましたけど……?」

『はい。ですが、異常事態はそれだけではありません。現在、航空自衛隊入間基地が爆撃を受けたとの情報が入っています。進藤事務次官、今から魔法省まで来ていただくことは可能ですか?』

 その問いかけに、長官は「分かりました」と一言答え電話を切った。

「ごめん。私魔法省に行かないといけなくなっちゃったから、ここは木下副長官に任せるね」

 長官がカバンとコートを持って司令室を出ていく。

 木下副長官はそれを見送ると、モニターに目を向けた。

「私を怪しんでいるくせに、あの人はなぜ仕事を任せるのでしょう。何はともあれ、作戦は順調ですね。アマテラス様?」


 警視庁、魔法犯罪対策室。

 守屋もりやみやこ刑事は、網膜に直接映像を投影することができるウェアラブルデバイス《アイプロジェクター》を使って調書を作成していた。

「よし、これで十分かしらね」

 守屋刑事が空中に表示された送信ボタンを押す。

 その時、サイレンが鳴り響いた。

『全警察官は直ちに大会議室に移動して下さい。繰り返します……』

「全警察官って、どんな大事件?」

 守屋刑事は椅子から立ち上がると、アイプロジェクターを装着したまま大会議室へと向かった。

 大会議室には、刑事部や公安部はもちろん、地域部や交通部まで、普段は参加することのない部署の人間まで集まっていた。

「これはただごとじゃなさそうね」

 守屋刑事が呟く。

 すると、現在の警視総監であるあずま芳正よしまさが前に立った。

「時間が無いので、簡潔に伝える。先ほど、総理官邸前交差点で神谷首相が殺害された」

 この言葉に、大会議場が騒然とする。

「落ち着いてくれ。まだ話は終わっていない。それに加えて、航空自衛隊から連絡があり、入間基地が爆撃されたようだ」

「首相殺害に、爆撃って……」

 守屋刑事が息を呑む。

「これはまだ未確定の情報だが、この二つの事案はどちらも米軍によるものとの情報もある。もしかしたら、我々に出来ることは少ないのかもしれない。だが、警察の役目は市民を守ること。全警察官に告ぐ。総員、市民の命を守り抜け」

「はい!」

 全員が立ち上がり、慌ただしく動き始める。

「魔犯の私に出来ること。それは、魔災隊と連携して少しでも被害を抑えること。響華さんたちがいれば、きっと戦争を防げるわ」

 守屋刑事は大会議室を出ると、魔法災害隊東京本庁舎へと向かった。




 埼玉、航空自衛隊入間基地。

 幸い、謎の戦闘機はあれだけだったようで、自衛隊機が迎え撃とうとしたらあっという間に離脱していった。

「行っちゃった……」

 遥がぼーっと空を眺めている。

「爆撃なんて、宣戦布告みたいなものですよね? もしかして、日本は戦争することになるんでしょうか?」

 不安そうな雪乃に、響華が声をかける。

「大丈夫だよ。もし戦争になりそうなら、私たちが止めるくらいの気持ちでいればいいんじゃない? だって私たちは戦争を止めたことがあるんだもん」

 微笑みかける響華に、雪乃は小さく頷いた。

「そうですね。魔法さえあれば戦闘機も怖くないですよね」

「そうだ、国元さんのところへ戻らないといけないな。公安としてもこの状況は見過ごせないだろう」

 碧の言葉に、芽生が首を縦に振る。

「ええ。きっと国元さんもまだ状況が飲み込めていないはずよ。早く伝えてあげましょう」

 響華たちは、急いで基地の外で待機している国元の元へと向かった。


 国元は車の中から爆撃の様子を見つめていた。

「あれは、米軍機……。まさか、この国を乗っ取るつもりか?」

 国元は車載端末を操作し、警察のシステムにアクセスする。

「これは……!」

 目に飛び込んで来たのは、神谷首相が殺害されたという衝撃的な文言だった。

 するとその時、車の窓をコンコンと叩く音がした。ハッとして窓を見ると、そこにはこちらを覗き込むスーツ姿の長い金髪の女性がいた。顔つきからして日本人ではなさそうだ。

 国元は窓を開けて、その女性に問いかける。

「何の用でしょうか?」

「私はCIAの魔法工作員、ライリー・ディアス。あなたは日本の公安だということは分かっています」

 ライリーと名乗るその女性を、国元は怪訝な顔で見る。

「それで、CIAがどうして僕に接触してきたのです?」

「私は、藤島響華と桜木芽生を保護するために来ました。あの二人の魔法能力は異常です。このまま表で活動をするのはリスクが高すぎると私たちは考えます。あなた方も気付いているからこそ、スパイをしているのでしょう? なぜ放っておいているのですか?」

 ライリーの質問に、国元はフッと笑って答える。

「そんなこと決まっているじゃないですか。この国の平和にとってそれが一番ベストだからですよ」

「ベスト? そんなことはないはずです。桜木芽生はまだしも、藤島響華を野放しにしているのは見過ごせない。保護するのがベターです」

 冷静に話すライリーに、国元は一言だけ言った。

「アメリカのベターより、僕は日本のベストを優先します」

 国元は車の窓を閉める。ライリーは諦めたようにため息をつくと、どこかへと去っていった。

 その頃には、空を飛ぶ米軍機の姿はどこにも無かった。


 それから間もなく、響華たちが戻って来た。

「国元さん! 大丈夫ですか?」

 響華が勢いよくドアを開けて車に乗り込んでくる。

「はい、僕は平気です。それにしても、米軍は一体何を考えているのでしょう?」

 国元の言葉に、続いて乗り込んできた碧が驚いたように聞き返す。

「米軍? あの謎の戦闘機は米軍機だったのか」

「おそらく。それと同時に、米軍のヘリが神谷首相を殺害したとの情報もあります。アメリカは日本に対して何かを仕掛けてきた。それは間違いありません」

 国元は五人が車に乗ったのを確認すると、エンジンをかけて車を発進させた。

「東京に戻るまでインターネットの情報しか掴めないのは痛いわね」

 芽生がスマホをいじりながら言う。ネットニュースを開いても、詳しい情報は書かれていなかった。

「それでは、協力者である皆さんに特別に使用を許可しましょう」

 国元は車載端末を操作し、再び警察のシステムにアクセスする。

「えっ? 国元さん、これトップシークレットのあれなんじゃ……!」

 遥がその画面を見て興奮気味に声を上げる。

「トップシークレットの『あれ』って……。でも、警察の内部情報を部外者に開示していいんですか?」

 雪乃が言うと、国元は前を向いたまま答える。

「今は非常事態です。そう遠くないうちに魔災隊にも応援要請が来るでしょう。その時はこの情報は共有されます。それが早まったというだけですよ」

「非常事態、か……」

 碧はそう呟き、茜色に染まった空を見上げた。

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