第47話 雪乃の覚醒
「遥ちゃん!」
碧と共に特殊部隊の男性を取り押さえていた響華が一目散に遥の元へ向かう。
「芽生ちゃん、遥ちゃんの様子は?」
響華が問いかけると、芽生は今にも泣きそうな表情をしながら答える。
「意識はある。だけど、何を言っても全然反応してくれないわ。全部、私のせいよ……」
涙が頬を伝う。
「芽生ちゃん……」
責任を感じている様子の芽生に、響華はどう声をかければいいのか分からなかった。
「ところで北見は何をしているんだ? 滝川があんな状態になったことに気付かない訳がないと思うが……」
碧は不思議そうに呟きながら、物質変換魔法で作った手錠を男性にかけた。
魔法災害隊東京本庁舎近くのビル屋上。
雪乃は上から遥が撃たれるまでの一部始終を見ていた。
「遥さん! 今すぐ回復魔法を……」
雪乃は急いで魔法を唱えようとしたが、嫌な気配を感じてそれをやめた。
「何でしょう、この感じ……」
キョロキョロと周囲を見回す。
すると、向かいのビルの屋上に狙撃銃を構えた男性の姿が見えた。
「あの銃、そしてあの顔、アーチェリー会場の時の……!」
雪乃はその男性に見覚えがあった。
潮見で狙撃してきた男性だ。顔もしっかり覚えていたが、何よりも狙撃銃を見ればそれは明らかだった。
「誰を狙っているんでしょう?」
銃口の向きから射線を予測する。
「もしかして、桜木さんの魔法結晶……?」
雪乃はハッとした表情を浮かべる。
「あの魔法結晶は、桜木さんの魂そのもの。あれを粉々にされてしまったら、桜木さんは死んじゃいます……!」
想像しただけでぞっとする。もう二度と芽生に会えなくなるかもしれない。
「今なら向こうはまだ気付いてないはず。ごめんなさい、滝川さん」
雪乃は遥に申し訳なく思いながらも、回復魔法を後回しにする決断をした。
「魔法目録八条二項、物質変換、狙撃銃」
雪乃の目の前にスナイパーライフルが形成される。
「…………」
雪乃は恐る恐るそれを手に取ると。
「桜木さんの命がかかってるんです。大丈夫、私ならやれます」
自分に言い聞かせるように呟いて、狙撃の体勢を取った。
額から汗が流れる。
「やっぱり、怖いです……」
雪乃はまだシナイでの出来事を引きずっているのか、手が震えて引き金に指をかけることが出来ない。
しばらくすると、男性の口が動いたのが見えた。
「ゲームセットだ」
確かに男性はそう言った。
雪乃は覚悟を決め、震える手を無理やり動かして引き金に指をかける。
「……この距離をセットプレーで外す私じゃない。試合終了の、ホイッスルです!」
『バン!』
雪乃が引き金を引く。
銃口から放たれた弾丸は男性目掛けて一直線に飛んでいった。
『バン!』
突然聞こえた銃声に、響華たちが上を見上げる。
「今の、もしかして雪乃ちゃん?」
響華が音のした方を見ると、ビルの屋上から微かにはみ出した物質変換銃が目に入った。
するとその向かいのビルから黒い物体がバラバラと落ちてきた。
「あれは、あの時の……!」
芽生が驚いた様子で声を上げる。
「潮見で狙撃してきた男の銃か」
碧が呟く。
「雪乃ちゃん、私たちを助けてくれたんだ」
響華の言葉に、芽生は。
「もう。いくら遥が好きだからって、無理しすぎよ……」
怒ったようにそう言いつつも、その顔はとても柔らかい表情をしていた。
その時、遥の体が緑の光に包まれる。
「遥?」
「遥ちゃん!」
芽生と響華が声をかける。
「……あれ、メイメイ? それに、響華っちも……」
遥が目を覚ます。
「大丈夫?」
響華の問いかけに、遥はしばらく考えて答える。
「あ、そっか。私、思いっきり撃たれたんだよね……」
「ごめんなさい、私のせいで……」
涙を浮かべて謝る芽生に、遥は優しく微笑んだ。
「別にメイメイのせいじゃないよ。私の反応が遅れたのがいけないだけ。だからそんな、ディセンバーギフト? は感じる必要ないって」
「全く、それを言うならサバイバーズギルドよ。こんな夏に誰がお歳暮なんて……」
芽生は呆れたように言うと、そっと遥を抱きしめる。
「メイメイ、ありがとね」
遥は芽生に体を預けると、ぐっすりと眠ってしまった。
「くそっ、あの嘘つき女! あれのどこがヒーラーだ。とんだ腕利きのスナイパーじゃねぇか」
高は右腕を押さえたまま、屋上で倒れ込んでいる。
雪乃の放った弾丸は、高の右腕を貫いていて、そこからは大量に出血していた。
「T93も落としちまったし、俺も終わりだな……」
高は諦めたように呟くと、意識が遠のいていき静かに目を閉じた。
魔法災害隊東京本庁舎、分析室。
リンファはパソコンに映る監視カメラの映像で外の様子を眺めていた。
「あ〜あ、失敗ですネ」
高が撃たれたのを見たリンファがため息をつく。
「でも平気デス。まだ共工が控えてますカラ」
リンファは共工がアマテラスに倒されたことに気付いておらず、余裕な態度を見せる。
するとそこへ、国元が入ってきた。
「おっと、ノックしてもらわないと困りますネ」
慌ててパソコンの画面を消すリンファに、国元が告げる。
「公民党第三執行官、ユー・リンファさん。あなたを逮捕します」
「何言ってるんですカ? 公民党? 執行官? よく分かりまセン」
白を切るリンファに、国元はさらに続けて言う。
「実は先ほど、情報提供がありましてね。誰の情報だと思います?」
「知りませんヨ、そんなコト」
リンファが苛立ちを見せる。しかし。
「木下副長官です」
この一言に、リンファは動揺し目が泳ぐ。
「な、なぜ……。もしかして、私を排除しようト?」
「ということは、認めるんですね?」
国元が問い詰める。
するとリンファは突然魔法を唱えた。
「魔法条款第十五號、転移!」
どうやら逃げるつもりのようだ。
「逃すか!」
国元はポケットから反魔法銃を取り出し、すかさず引き金を引いた。
『ビチューン!』
銃口からレーザーが放たれる。
「ぐっ! なぜあなたが、それを持ってるのデス……」
リンファは撃たれた箇所を押さえ、その場に座り込む。
「つくばの襲撃の時、お仲間からくすねてしまいました」
国元は平然と言って、それをまたポケットにしまった。
「私たちを捕まえても、この国は魔獣から逃れることはできナイ。それでもあなたは、この件を追うつもりですカ?」
リンファが苦しそうな声で聞く。
「ええ、当然です。この国の平和を守るのが、僕たちの仕事ですから」
国元は真剣な表情を見せ答える。
「そうですカ。せいぜい頑張ってくだサイ」
リンファがそう呟くと同時に、国元は手錠をかける。
「ユー・リンファ、逮捕します」
国元に拘束されたリンファは、力なく俯いていた。
魔法災害隊東京本庁舎前、桜田通り。
爆弾犯の男性はボスである高を失ったことで、放心状態になっていた。
「高さんがいなきゃ、何もできねぇよ……」
そこへ響華が近づいて言う。
「その人の事、そんなに信頼してたんですね」
「ああ、そうだよ。高さんは台湾作戦の英雄で、ずっと憧れだった。一緒に仕事できるってなった時は、泣いて喜んだものさ。それなのに、お前らは……!」
男性の目に涙が浮かぶ。
「……そうだったんですね。でも、それだけ信頼しているなら、なんで間違っている時にそれを教えてあげないんですか? 信頼している人が間違った事をするのって、見ていて辛くないんですか?」
響華が問いかける。
すると男性は、突如大きな声を上げた。
「そんなもん分かんねぇよ! まともに教育も受けられず、子供の時から兵隊として育てられてきたんだ。俺には何が間違いかも分からない。お前らとは、違うんだよ……」
その言葉に、響華はゆっくりと口を開いた。
「……今からでも、あなたは変われるはずです。だってあなたは、それだけ人を信じることができる。それなら、今度は私たちを信じてください。私はあなたを助けたい、もっといい世界にしたい、そう思ってます。だから、もうこんな事、やめにしませんか?」
「…………」
男性は黙って響華を見つめている。
「まだ間に合います。もうその爆弾は捨てましょう」
響華が微笑みかける。
「分かったよ……」
響華の想いが通じたのか、男性は爆弾を地面に置く。
「ありがとうございます、信じてくれて」
響華はホッとした表情を見せる。
しかし、それで終わりとはいかなかった。
『ピッ、ピッ』
なぜか爆弾が起動し、カウントダウンを始めたのだ。
「おい、俺じゃねぇぞ」
「何で……!」
男性と響華はあまりの驚きに、体が固まってしまう。
「おい何をしている! 早く離れろ!」
「響華、何してるの!」
碧と芽生が必死に叫ぶが、その声は届いていないようで、返事すら返ってこない。
『ピッ、ピッ』
その間にも、どんどんとカウントが減っていく。
「結局、俺らは運命には逆らえないってことだ」
男性が諦観したように呟く。
「そんなことありません。運命は、自分で決めるんです」
響華は大きく深呼吸をして、魔法を唱えた。
「魔法目録二十三条、電子操作!」
響華は電子操作魔法で爆弾の解除を試みる。
しかし、カウントは止まらない。
「この感じ、上位魔法……」
だが、空母遼寧や石倉製薬の時とは少し違う性質に感じられた。
「ほら、やっぱり運命には従うしかねぇ。最後にお前と話せて良かった」
男性はそう言って笑う。
「そんな、これで終わりなんて。そんなの、駄目……」
響華は何か策がないか必死に考えを巡らせるが、上位魔法を解くような術は思いつかなかった。
『ピッ、ピッ』
カウントはもう一分を切った。
(どうしよう? 本当に、この人を助けられないの……?)
目の前の男性を見捨てるしかないのか。響華は自分の無力さを悔やみ、唇を噛んだ。
魔法災害隊東京本庁舎、屋上。
共工を倒したアマテラスは、不敵な笑みを浮かべながら響華たちの様子を眺めていた。
「いいぞ、そのままダ。イレギュラーもろとも、爆発シテしまうがいい。フフ、アハハハハ!」
アマテラスは自分の勝利を確信したように、高笑いした。




