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魔法災害隊  作者: 横浜あおば
共工編
47/100

第43話 特殊部隊のボス

『ドカーン!』

 遥が放り投げた魔法弾の爆発音が周囲に響き渡る。

 その音はスタジアム通りで警備を行なっていた碧と雪乃の耳にも届いた。

「魔法弾? あいつらに何かあったのか……!」

「かもしれません。私たちも行きましょう」

 碧と雪乃は急いで甲州街道側のペデストリアンデッキへと向かった。

「どういう状況だ?」

「人が多すぎて、何が起きてるのか分かりません……」

 しかし、デッキにはパニックになった人や野次馬で溢れていて、響華たちの姿を確認することができない。

 二人は何とか人垣を掻き分け先へと進む。

「魔災隊だ。通してくれ」

「すみません、すみません……!」

 すると目に飛び込んできたのは、立ち竦む響華たちと爆弾を巻き付けた男だった。

「こいつは一体何者なんだ」

「皆さん、大丈夫ですか?」

 碧と雪乃は響華たちの元へ駆け寄る。

「碧ちゃん、雪乃ちゃん! 多分この人も特殊部隊の仲間だと思う」

 響華が言う。

「けど、爆弾が邪魔で不用意に攻撃できなくてさ……」

 遥は困った表情を浮かべている。

「どうにかして自爆テロを阻止しないと、日本の失態になりかねない。あなた達が来てくれて助かったわ」

 芽生の言葉に、碧が頷く。

「ああ。オリンピックが標的ではないにしろ、競技会場の近くで自爆でもされたら、とんでもないことになる」

「でも、どうやって阻止するんですか?」

 雪乃が不安そうに問いかける。

「ええ、そこが問題なのよね……」

 芽生はそう言って男の方を見遣る。

 その男は、いつの間にか右手にリモコンを持っていた。

「俺の仲間を殺した魔法能力者ども。最初は三人殺せればいいかと思っていたが、わざわざ五人揃ってくれるとはな。さあ、お前ら全員地獄に送ってやる!」

 男がリモコンのボタンに指をかける。

「だめ!」

 響華は大きく叫んでリモコンの方へ手を伸ばした。




 男の指がリモコンのボタンを押し込む。

『ピッ』

 しかし、爆弾は爆発しなかった。

「な、何故だ!」

 男はかなり慌てている様子だ。

 響華も何が起こったのかよく分からず呆然としている。

「ふふ〜ん」

 するとその時、遥が得意げに笑った。

 碧がまさかと思い遥の方を見る。

「お前、もしかして今の一瞬で……?」

「うん、そだよ〜? 気付かなかった?」

 遥は男がボタンを押す寸前に電子操作魔法を放っていたのだ。

「もう遥ちゃん、必死に止めようとした私が恥ずかしいじゃん!」

 響華が頬を膨らませて言う。

「ごめんごめん。まさか響華っちが飛び出してくなんて思わなくてさ」

 遥は頭を掻きながら謝る。

「全く、どんな離れ業よ……」

 芽生は遥の行動に驚きつつも、どこかホッとした表情を浮かべていた。

「くそっ、こうなったら!」

 男がポケットに手を入れる。

 それを見た雪乃は。

「もしかして……」

 何かを察知したように呟いた。

 男がポケットから取り出したのは、つくばで見たあの銃だった。

「お前らにとっちゃ爆弾より怖いんだろ?」

 男はニヤリと笑い銃口をこちらに向ける。

「芽生ちゃんは下がってて」

 響華が言う。

「で、でも……。本当に大丈夫なの?」

 芽生は響華たちが撃たれてしまわないか不安に感じているようだ。

「へーきへーき。私がいれば大体何とかなるから!」

 遥は自信たっぷりに言うと、芽生にウインクした。

「……分かったわ。あなた達、くれぐれも無理はしないでね」

 芽生は四人にそう告げると、安全な場所まで離れていった。

「フッ、この状況で一人減らすとは、舐められたもんだな」

 男は少々苛立っている様子だ。

「藤島、どうすればいい?」

 碧が問いかける。

「距離が近いほどダメージも大きくなる。だから、なるべく距離は取りたい」

 響華が答えると、碧は小さく頷いた。

「分かった。では、私が矢で射抜こう」

 すると遥は。

「オッケー、それじゃあ私と響華っちで援護するよ。もし何かあったらユッキーの回復魔法もあるし、安心して」

 と言った。

「すまないな。頼んだぞ」

 碧は簡潔に礼を述べると、魔法を唱え始めた。

「魔法目録八条二項、物質変換、弓矢」

 目の前に形成された弓矢を手に取ると、すかさずそれを構えた。

 しかし男は、怯むどころか馬鹿にしたように鼻で笑った。

「お前ら、まだ学習してないのか? この銃には魔法物質と反対の性質を持つ物質が充填されてんだ。だからそんな矢で射抜こうなんて無理な話なんだよ!」

 男が引き金を引く。

『ビチューン!』

 銃から光線が放たれると同時に、碧も弓を引き矢を放つ。

「だから無駄だと言ってるだろうが」

 男は余裕な笑みを浮かべている。

「それはどうだろうな?」

 碧がそう言うと、響華と遥が同時に魔法を唱えた。

「「魔法目録三条、魔法防壁!」」

 二人の魔法が合わさり、強力な防壁が展開される。

 その防壁に光線が当たる。

『ドカーン!』

 するとその瞬間、大きな爆発音が鳴り響いて光線と防壁が消滅した。

「これで、私の勝ちだ」

 碧の放った矢は一直線に男へと向かっていく。

『ガチャン!』

 その矢は見事に男の持つ銃に命中し、銃はバラバラに砕け散った。

「な、何てこった……!」

 男が力なく崩れ落ちる。

「おい、お前」

 碧が男に話しかける。

「何だよ……?」

 男がゆっくりと碧の顔を見上げる。

「誰の指示だ? つくばの襲撃も潮見の狙撃も全部誰かの指示だろう?」

 碧が詰め寄る。

「…………」

 しかし、男は口を開こうとしない。

 その様子を見た響華が、男に声をかけた。

「あの、答えてもらえませんか? もしあなたが脅されてやったと言うなら、もし答えることで身の危険があるのなら、私たちはあなたを全力で守ります。私は、あなたを助けたいんです!」

 響華の言葉を聞いた男は、少し考えるとゆっくり口を開いた。

「……俺のボスは高って男だ。そいつは中国の軍事作戦で台湾のトップを暗殺したスナイパー。潮見の狙撃はそいつの仕業だろう。俺が知ってるのはこれくらいだ。で、本当に守ってくれるんだろうな?」

「はい、安心してください。それは保証します」

 響華が言うと、男は安心したような表情を見せた。

「お前らみたいな若者がいるなんて、日本は良い国だな。俺もこの国で生まれてたら、もっとまともに生きられたのかもな……」

「生きられますよ、今からでも」

 響華が微笑みかけると、男は。

「そう、だといいな……」

 と言ってバタッと倒れてしまった。

「ちょっと、せっかくいい感じだったのに! 死んじゃったの?」

 遥が慌てて男を揺さぶる。

「いや、きっと大丈夫です。疲れてただけだと思いますよ」

 雪乃は男の状態を確認すると、回復魔法をかけた。

 男の体が緑の光に包まれる。

「警察には通報しておいた。後は警察に任せよう」

 碧の言葉に、響華たちはこくりと頷いた。




 武蔵野の森総合スポーツプラザ、駐車場。

 車で待機していた国元は、右斜め向かいに停まっているスポーツカータイプの車を不審に感じていた。

(なぜいつまでも降りずにどこかを眺めているんだ……?)

 その車の運転席に座る男は、ずっと何かを見つめていて車を降りる気配はない。

(一体あっちに何があるんだ)

 国元は男の眺めている方を見遣るが、甲州街道に架かるペデストリアンデッキがあるだけで、特に変わったものは無い。

 するとその時、ペデストリアンデッキの向こうの方から爆発音が鳴り響き、閃光が走った。

「何だ、何が起きた……?」

 国元が車の男に視線を戻すと、その男は不敵な笑みを浮かべていた。

(少なくとも、あの男は何か知ってる)

 国元は車載端末を操作し、国民情報システムにアクセスする。

《ドライブレコーダーに映る人物を参照中》

《参照結果 該当者なし》

 しかし、車の男は国民情報システムには登録されていなかった。

「外国人か……」

 国元はその後もしばらく監視を続けたが、男はただ眺めているだけでアクションを起こすことはなかった。

(絶対何か裏があるはずだ。だがそれは何だ? 何が目的だ……?)

 国元は車の男を見て深く考え込む。だが、それによって車の男に怪しんでいることを勘付かれてしまった。

『ブルルーン!』

 男が車を急発進させる。

「しまった!」

 国元も慌ててエンジンを入れ、ギアをドライブに入れる。

『ブーン!』

 国元は男の車を必死で追いかける。

 しかし、相手はスポーツカー。魔災隊のミニバンでは追いつくのは容易ではない。

「まさか甲州街道でカーチェイスすることになるなんてね……」

 男の車は甲州街道を新宿方面に向かって猛スピードで走行している。

 国元もアクセル全開で追走するが、どんどんと距離が離される。

「魔災隊の車じゃリミッターがあるから速度が出せない。どうすればいい?」

 国元は男の車を見失わないようにすることで精一杯だった。


 響華たちは眠ってしまった男の身柄を確保し、警察の到着を待っていた。

「もう、捕まえたんだったら誰か呼んでくれてもいいんじゃない?」

 すると、芽生が怒った様子で戻ってきた。

「あっ、芽生ちゃん!」

 響華が笑顔で手招きする。

「全く、放置しておいて『あっ、芽生ちゃん!』じゃないわよ」

「ごめん、悪かったって」

 遥は適当に謝って笑いかける。

「はぁ、全員無事なだけでも良かったってことにしておくわ」

 芽生は呆れたように呟くと、碧に問いかけた。

「そういえば、この男は何か言ってた?」

 碧は男が言っていた情報を一通り伝える。

「なるほどね。台湾作戦のスナイパーが、今度は日本をターゲットにしてるって訳ね」

 芽生が納得したように言う。

「でも、その高さんも、きっと誰かの指示で動いてるはずですよね? その上には、やっぱり共工がいるんでしょうか……?」

 雪乃が不安そうに聞く。

「確かに、それは否定できない。でも、とにかく私たちは戦うしかないよ。それが、日本の平和を守ることにも繋がると思うから」

 響華はそう答えると、雪乃の左肩にぽんと右手を乗せた。

「なんか響華っち、より正義感増してない?」

 遥がにやけながら言う。

「え〜、そんなことないよ〜?」

 響華は笑顔でその言葉を否定したが、内心は公安の協力者になったことがバレると感じひやりとしていた。

 その時、真下の甲州街道からものすごいエンジン音が聞こえてきた。

「何だ?」

 碧が下を覗き込むと、スポーツカーが猛スピードで走り抜けていくのが見えた。

「うわ、何あれ!? 超スピード違反じゃん!」

 遥が驚いて大声を上げる。

 すると後ろの方から一台のミニバンが追いかけてくるのが目に入った。

「あれ、あの車って……?」

 雪乃がそのミニバンを指差す。

「ええ、あれは私たちの乗ってきた車ね」

 芽生が言う。

 その様子を見て、響華はハッとした表情を浮かべた。

「私、行かなくちゃ……!」

「えっ?」

 遥が首を傾げる。

「私、ちょっと国元さんのところに行ってくる!」

「行くって、おいお前!」

 碧は呼び止めようとしたが、響華は柵を乗り越えて下へと飛び降りてしまった。

 響華がミニバンの上に着地する。

「響華、あなた何やってるのよ!」

「藤島さん……!」

 芽生と雪乃は、響華を上に乗せたまま走り去っていくミニバンをただ見つめることしか出来なかった。

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