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魔法災害隊  作者: 横浜あおば
信用レート編
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第35話 アマテラスの野望

 響華たちは国会議事堂の中に足を踏み入れていた。

「国会の中ってちょっとドキドキするね」

 響華が周りを見回しながら言う。

「普通じゃこんな風に入ることなんて無いですからね……」

 雪乃は半ば不法侵入である今の状況に少し怯えている様子だ。

「大丈夫だって、最悪みーちゃんか長官が何とかしてくれるよ。へーきへーき」

 遥は雪乃の肩を叩き、そう声をかけた。

「おい、あそこに階段があるぞ」

 碧が指をさす。

 そこには地下に向かう階段があった。

「怪しいわね。行ってみましょう」

 芽生の言葉に、四人は頷いた。


 響華たちは階段を下へ下へと降りていく。その階段はどこまでも続き、果たして終わりがあるのかと不安になるほどだった。

「これ何階分あるんだろう?」

 何度目かの踊り場で響華が呟く。

「この感じだと軽く十階分くらいはありそうね」

 芽生が下を覗き込みながら答える。

「それじゃあ、江戸環状線よりもずっと地下まで階段で降りなきゃいけないんですか?」

 雪乃が驚いた表情を見せる。すると遥が雪乃の言葉に反応する。

「えっ、あの江戸環状線より深いの!? ってその地下鉄乗ることないからよく知らないけど」

「知らないで驚いたのか……」

 碧は呆れた顔をしていた。

「でも、早く行ってスーパーコンピューターがあるか確かめないと。この国が何を隠してるのか、この目で見よう」

 響華の言葉に四人は首を縦に振る。

 響華たちは再び長い階段を降り始めた。




 国会議事堂、地下十五階。

 薄暗いこの階で階段は終わっていた。

「きっとこの扉の奥に何かがあるな」

 碧が鉄製の扉を見て言う。

「開けてみよう」

 響華がゆっくりと扉を押す。

 すると、扉の向こうから光が差し込んできた。

「うわぁ、何これ!」

 扉の隙間から中を覗き込んだ遥が声を上げる。

 中は照明が点いていて明るく、冷房が効いていた。

「おじゃましま〜す……」

 響華を先頭に、五人が中に入る。

「本当に、こんな場所にスーパーコンピューターがあるなんて……」

 雪乃が信じられないといった様子でその光景を眺めている。

「それで、これが何なの? 守屋刑事が『真実を確かめて』って言っていたけど」

 芽生が問いかける。

 その時、どこかから声が聞こえてきた。

『よく来たナ、シナイのライバルを倒シタ英雄たちよ……』

「誰だ! どこにいる?」

 碧が身構える。

『わらわはもう一人のアマテラス。アマテラスの知識、記憶、思考をコンピューターにコピーしたものダ』

「仮想世界のアマテラスってこと……?」

 遥が言う。

『まあ、そんなところダナ。そして、国民情報システムと信用レートの正体でもアル』

「信用レートの、正体……。つまり、それを判断しているのはあなたってことですか……?」

 雪乃が恐る恐る聞くと、アマテラスのコピーが答える。

『そうダ。わらわが全テ判断している』

 響華はアマテラスのコピーに問いかける。

「じゃあ、信用レートって何なんですか? どうやって判断してるんですか?」

『それはダナ、わらわニとって必要かどうか、使エル人間かどうか、この二つダ』

「使える人間……?」

『例え敵デあっても、わらわにとって有益ならレートは高クなる。お前たちノようにな』

 アマテラスのコピーの言葉に、芽生が反応する。

「私たち……? 私たちはあなたを倒すのが仕事。どうしてあなたが得をするの?」

『そんなノ簡単だろう。ライバルを減らしてくれるからダ』

「ライバル……?」

『この前はシナイのラーを倒してくれたナ。そして今ハ中国の共工を倒そうとしてイル。これはわらわニとってはかなり有益デある。感謝シテいる』

「お前に感謝されても全く嬉しくない。今お前を倒して、そんなシステム終わらせる! 魔法目録八条二項……」

 碧が魔法を唱えようとする。

 しかし、それをアマテラスのコピーが遮った。

『わらわヲ倒しても意味ハないぞ? オリジナルがいる限り、システムは何度でも修復さレル』

「それなら、オリジナルを倒すまでだ」

 碧が言うと、アマテラスのコピーはふっと笑った。

『わらわはお前たちニハ負けない。だが、コピーとしてその日ヲ楽しみにしているぞ』

「ああ、待っていろ」

 アマテラスのコピーに、碧は強い口調で言い放った。


 突如、アマテラスのコピーが何かに気が付いたように言う。

『わらわに聞きたいことガあるなら直接聞きに来テ良いのだぞ、共工?』

 その言葉に、五人が周囲を見回す。

 すると、階段の方から不思議な格好をした肌の白い女性が現れた。

「あっ! 小菅の時に防犯カメラに映ってたのと同じだ!」

 遥が大声を出してその女性を指差す。

「ということは、あれが共工……」

 響華が息を呑む。

 共工は五人には見向きもせずにアマテラスのコピーと会話を始める。

「アマテラスは元気ニやっておるか?」

『ああ、オリジナルのわらわは日毎に力ヲ増しておるぞ』

「それは何よりダ。我のライバルは強くなくてはナ」

『共工よ、そんな話ハ後だ。お前は何ヲ求めてここへ来た?』

 アマテラスのコピーが問いかけると、共工が答える。

「信用レートの判断基準。最初は我ガ直接聞かねばならぬかト思ったが、日本ノ魔法能力者は有能だな」

『それハもう、わらわが頼りにしているくらいだからナ』

 アマテラスのコピーの余裕な態度に、共工が苛立ちを見せる。

「そいつらは、我よりも強いト?」

 共工が響華たちを睨みつける。

 その瞬間、共工が驚いた表情を見せた。

「本当ニ、生きていたノカ……!」

 共工は芽生の顔を見つめている。

 芽生が共工に微笑みかける。

「久しぶりね。五年ぶりかしら?」

 その言葉に、四人は耳を疑った。

「五年ぶりって、どういうこと?」

「桜木、お前会ったことあるのか?」

 遥と碧が問いかける。

「私は殺されたのよ。この魔獣に……」

 芽生は共工を真っ直ぐ見たまま答える。

「殺されたって、嘘ですよね……? だって今、生きてるじゃないですか……」

 雪乃は恐怖と混乱で今にも泣きそうな様子だ。

「芽生ちゃん、ずっと一人で頑張ってたんだ……。私たちに話してくれても、良かったのに……」

 響華は全てを察した。

 以前響華が見てしまった、服の内側に付けていた魔法結晶のペンダント、きっとあれは『殺された』という話と関係しているのだろう。『誰にも話さないで』というのは、共工を欺くために生きていることを隠したかったからだろう、と。

「魔法目録八条二項、物質変換、打刀」

 芽生が魔法を唱え、刀を手にする。

「私はあなたを倒すために生きてる。だから……」

 芽生が共工に斬りかかる。

 しかし、共工はそれをひらりと躱すと。

「我ハこれで失礼するトしよう。桜木芽生、また会おウ」

 と言い残し、転移魔法を発動してどこかへ消えてしまった。

「逃げられた……」

 芽生が悔しそうに呟く。

「芽生ちゃん……」

 響華たちは、刀を持ったまま佇む芽生を黙って見ていることしか出来なかった。


『上手く使わレタな?』

 アマテラスのコピーが話しかけてきた。

「そうだな。まさかあの襲撃が私たちとお前を引き合わせる為の罠だったとはな」

 碧が言う。

『それニしても、桜木芽生。お前はよく共工を欺けたナ?』

 アマテラスのコピーの問いかけに、芽生が答える。

「コンパイルと約束したから、やり遂げなければいけない。あなた達もアドミニストレータの為にやってるんでしょう?」

『然り。それハお互い様だな』

 アマテラスのコピーの声色が少し優しくなる。

「同情ならいらないわよ? 共工を倒したら、あなたのオリジナルも倒すから」

『さて、お前達ニわらわが倒せるのカ?』

 アマテラスのコピーはせせら笑った。

「絶対に倒して、この国を魔獣から救う。私は、私たちは、その為に戦ってるので」

 響華はそう宣言すると、踵を返してその場を後にした。

 五人が出ていき、扉が閉まる。

『藤島響華、イレギュラーである彼女なら本当ニやりかねんな……』

 アマテラスのコピーは、そう呟いた。




 国会議事堂正門。

 守屋刑事は捜査一課の刑事たちに手錠をかけていた。

「二〇二〇年四月十三日、十一時五十四分。銃刀法違反の現行犯で逮捕します」

「俺は悪くねぇ! 管理官の指示に従っただけだ!」

 刑事の中には抵抗する者もいたが、ほとんどの刑事はこの逮捕を素直に受け入れていた。

「すみません、お願いします」

 守屋刑事が最後の一人を警察車両に乗せる。

『バタン』

 捜査二課の刑事がドアを閉め、運転席の方に回り込む。

「では、取り調べはこちらで行いますので」

 捜査二課の刑事が言うと、守屋刑事は。

「はい、分かりました」

 と言って頭を下げた。

 捜査二課の刑事は警察車両に乗り込むと、車を発進させ警視庁へと向かっていった。

「これでひとまずは解決、かしらね……」

 守屋刑事が警察車両を見送りながら呟く。

 すると、国元が後ろから歩いてきた。

「確かに、警視庁内部の問題は解決かもしれません。ですが、アマテラスはあらゆる組織や企業と繋がっています。これはまだ日本を守る戦いの第一歩でしかありませんよ」

「そうね。魔犯としても、魔獣の味方をする人間は全員取り締まらないと」

 守屋刑事が決意したように言う。

「どうです? 守屋さんも僕たちの所へ来ませんか? 守屋さんなら、きっと十分力を発揮出来ると思うのですが」

 国元が問いかけると、守屋刑事は首を横に振った。

「やめておくわ。私は私のやり方で、東京を守る。だから、あなたはあなたのやり方でこの国を守って」

 その言葉に、国元は静かに頷いた。




 中国、雄安新区。中国政府主導の元、自動運転やIT分野の企業が進出し、近年急激な発展を遂げた新興都市。

 その一角にある『中国薬品集団』の研究施設。そこには、石倉製薬の流れを引き継ぐ研究室があった。

 その研究室で、明石は共工と椅子に座って話をしていた。

「共工さん、成果はあった?」

 明石が聞くと、共工が答える。

「ああ、信用レートの判断基準ハばっちり聞き出しタ」

「それは何より。私はその辺のこと分からないから、共工さんに任せるわね」

 共工はこくりと頷く。

「明石。それよりも一つ大きな問題ガ起きた」

「問題? それってどんな?」

 明石が首を傾げる。

「この前リンファから聞いた時ハ人違いかとも思ったのだが、この目デ見てしまったのだ。五年前に香港で殺シタはずの、桜木芽生を」

「桜木芽生って、あのツインテちゃん? 私には普通の女子高生に見えたけど?」

 少し驚いている様子の明石に、共工が言う。

「見た目は普通ダ。だが、絶対ニ何か仕掛けがあるはずだ。五年前、確かに我ハ桜木芽生ヲ仕留めたのだからな」

「それってリンファも知ってるのよね?」

 明石が問いかける。

「ああ、すでニ探ってくれている」

 共工が答えると、明石は。

「さすが共工さん、仕事が早いわね」

 と褒めた。

 話を終えた共工が立ち上がる。

「我ハ早速信用スコアシステムの改修ニ取り掛かる。楓は引き続きあの物質ノ開発に努めよ」

「分かったわ。共工さんも頑張って」

 明石が頷いて言うと、共工はどこかへと転移し姿を消した。

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