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魔法災害隊  作者: 横浜あおば
信用レート編
38/100

第34話 最後の切り札

 二〇二〇年四月十三日、魔法災害隊東京本庁舎。

 響華たちは休日返上で調査を進めていたが、手がかりは全く掴めていなかった。

「ここまで何も無いと、不気味に感じるな」

 碧の言葉に、雪乃が頷く。

「嵐の前の静けさというか、これから何か悪いことが起きそうな、そんな気がしますね……」

「でも、それならそれで魔法反応をキャッチ出来るからいいんじゃない?」

 遥が呑気に言うと。

「遥ちゃん、もはやポジティブの域超えてるよ……」

 響華は少し引いてしまった。

 すると、芽生が口を開いた。

「ただ、向こうが動かない限りはこちらからはどうすることも出来ないというのは確かね」

 それに響華が同意する。

「うん。だから、とりあえずはこのまま調査を続けつつ警戒していこう」

 四人は響華の言葉に首を縦に振る。

「では引き続き調査を進めてくれ。何か分かったら報告、共有を」

 碧の指示の後、響華たちは再びモニターに目を移した。


 同時刻、国会議事堂正門。

 警察官と警備員合わせて十数名が見張りをしていた。

「最近国会の警備厳しいですよね〜」

「まあオリンピック前だし、テロとか気にしてんだろ」

「って言われても、ダンプが突っ込んできたりドローンが飛んできたりしても止められないっすけどね」

 一部の警備員は雑談をしている。

 その横で、警察官はアイプロジェクターで通行人の信用レートを計測していた。

「…………」

 その時、不思議な格好をした肌の白い女性が一人、雑談中の警備員の前で立ち止まった。

 警備員が話をやめて女性の顔を見る。

「どうしました? 迷ったならあっちの警官に聞いて下さい」

 するとその女性は、不敵な笑みを浮かべて警備員の腹を殴った。

「ぐはっ!」

 殴られた警備員がその場に倒れこむ。

「おい、大丈夫か?」

「何があった?」

 その様子を見ていた周りの警備員が慌てて駆け寄る。

 警察官は女性の方に目をやる。

《Credit Rate:Error》

 しかし、信用レートが計測されない。

「何故だ……!」

 その間にも女性は他の警備員にも殴りかかり、怪我人はどんどんと増えていく。

「くそっ、こうなったら……」

 警察官が拳銃を取り出し女性に銃口を向ける。

「…………」

 女性は黙ったままこちらを見る。

「撃つぞ、手を上げろ!」

 警察官が言う。だが、女性は少し微笑みながら一歩ずつこちらに近づいてくる。

 あまりの不気味さに、警察官の額からは冷や汗が流れる。

「本当に、撃つぞ……!」

 警察官が引き金に指をかけた。

『バンッ!』

 拳銃から弾丸が放たれる。

 その弾丸は女性に向かって一直線に飛んでいく。

「……甘いな」

 するとその瞬間、女性が左手を弾丸の飛んでくる方へ向けた。

 そして、その手から魔法光線が放たれる。

「魔法能力者、なのか……?」

 警察官がそう呟いたと同時に、魔法光線は弾丸を飲み込み、更にはその警察官までもを襲った。

『ドカーン!』

 魔法光線が後ろの壁に当たり、大きな音を立てる。

「くっ……」

 警察官が地面に転がる。

「まあ、準備運動トしては程よいナ」

 女性はそう言い残し、どこかへ行ってしまった。


 魔法災害隊東京本庁舎。

 突如、アナウンスが入る。

『警視庁より緊急要請。国会議事堂正門にて、警察官及び民間警備員が魔法能力者と思われる女性に襲撃され負傷。隊員は速やかに現場に急行してください。繰り返します……』

 響華たちは顔を見合わせる。

「もしかして……!」

「ええ、共工かもしれないわね」

 芽生が言うと、遥がモニターに表示された情報に目をやる。

 モニターには《強い魔法反応を永田町で検知 種別:直接攻撃系》と表示されていた。

「何にしても、魔法による襲撃があったのは確かみたいだね」

「よし、私たちも向かおう」

 碧の言葉に、雪乃も頷く。

「はい」

 五人は襲撃のあった現場へと駆け出していった。




 国会議事堂正門。

 五人が到着した時、現場には倒れた警備員と警察官以外に人や魔獣は見当たらなかった。

「早く応急処置しないとですよね」

 雪乃がそう言って魔法を唱える。

「魔法目録四条二項、範囲回復」

 倒れていた警備員と警察官を緑の光が包む。

「これで、大丈夫でしょうか……?」

 不安そうな雪乃。

 それを見た響華が警備員の状態を確かめる。

「うん、大丈夫だと思う。後は救急隊に任せよう」

「それなら良かったです……」

 雪乃は少しだけホッとした様子だ。

 その間、碧と芽生は周囲に何か襲撃時の痕跡が無いかを探していた。

「ここに魔法光線が当たったようだな。だが、他に直接攻撃魔法による損傷は確認できない」

「ええ。それに、この警備員は魔法を受けたわけじゃなさそうよ。この感じだと……素手で殴られた?」

 芽生が警備員の顔を覗き込む。

「うぅ……」

 警備員が苦しそうな声を上げる。

「もうすぐ救急車が来ると思うわ。あと少しの辛抱よ」

 芽生は警備員に微笑みかけると、優しく声をかけた。


 道路の方を見張っていた遥が、四人に駆け寄って来た。

「響華っち、ちょっとヤバイかも」

「えっ?」

 響華が道路の方を見る。

 するとそこに楠木管理官と捜査一課の刑事たちが現れた。

「この状況は……」

 楠木管理官が響華の方を見る。

「まさか、魔災隊の仕業か?」

 刑事の一人が問いかける。

「い、いえ! 私たちじゃないです!」

 響華は慌てて否定する。

「こういう時は、信用レートを測れば一発だろ?」

 刑事はアイプロジェクターで信用レートを計測する。

《藤島響華 Credit Rate:1905 over405》

《新海碧 Credit Rate:1822 over322》

《滝川遥 Credit Rate:1796 over296》

《桜木芽生 Credit Rate:1804 over304》

《北見雪乃 Credit Rate:1847 over347》

 しかし、信用レートは全員千五百以上だった。

「チッ、これじゃあ撃てねぇな」

 刑事が不満そうに呟く。

 楠木管理官は小声で刑事に注意する。

「おい、相手は魔災隊だ。不必要に刺激するべきじゃない」

「分かりましたよ、管理官」

 刑事は仕方ないといった態度で頷いた。

「だが、ここであれが魔災隊にバレるようなことがあれば、それこそ我々と公民党のピンチだ。何とかして魔災隊を追い払いたい……」

 楠木管理官は考えを巡らせるも、いい案が思いつかない。

 すると、一人の刑事が楠木管理官に近づき、何か耳打ちをした。

「なるほど、こちらの指揮下に置いてしまえばいいのか……。よし、それで行こう」

 楠木管理官が響華たちの方を向くと、それを見た響華が身構える。

 楠木管理官は慎重に話し始めた。

「先ほどは捜査一課が大変な無礼を働きまして失礼いたしました。警察としても国会を警備中の人間が襲撃を受けたことに動揺しておりまして……。そこでなのですが、魔災隊の皆さんにも警備任務に就いていただけないでしょうか? もちろん、代わりの人間が来るまでの数時間で構いません」

 響華は碧の顔を見る。

「これは何か裏があるな。どうする藤島? 乗るか?」

 碧が問いかける。

「う〜ん、どうしよう……」

 響華は判断しかねる様子だ。

「とりあえず言いなりになっといて、もし何かあったら不意打ちでもすれば?」

 遥が言う。

「でも、それって結構リスク高いと思いますけど……」

 雪乃は遥の意見に反対のようだ。

 しかし、芽生は。

「もちろん雪乃の言う通りリスクはある。だけど、共工の目的を知るチャンスかもしれないわ」

 と賛成した。

 響華は楠木管理官に目を向ける。

「分かりました。任務は引き受けます。ただ、警察の持っている情報を提供していただけませんか?」

 響華の言葉に、楠木管理官が頭を下げる。

「ありがとうございます。では、こちらの持つ情報は後ほどデータでお渡しします」

「はい、了解しました」

 楠木管理官は響華との話を終えると、捜査一課の刑事たちを呼び寄せる。

「国会警備の真の目的は当然のこと、石倉製薬絡みの事も隠すように。くれぐれも魔災隊にヒントを与えるな」

「はい」

 刑事たちはこくりと頷いた。




 響華たちは国会議事堂の正門で警備をしていた。

 そこへ刑事が一人近づいて来た。

「データの方をお送りしましたのでご確認ください」

「ありがとうございます」

 響華は刑事にお礼を言うと、スマホを取り出して早速データファイルを開く。

 遥や芽生も同じようにスマホでデータを見始めた。

《国会正門襲撃事件:犯人は魔法能力者であると思われるが、容疑者は不明。ただ、東京拘置所の魔法災害との関係が疑われる》

「すみません、これって東京拘置所の魔法災害が人為的なものだと考えてるってことですか?」

 響華が問いかける。

「質問は楠木管理官を通して下さい」

 しかし、刑事は答えようとしない。

 その様子に、五人は不信感を抱いた。

「響華っち、警察の人たち絶対何か隠してるよね?」

 遥が響華に話しかける。

「うん、私もそう思う」

 響華が頷く。

「隠してるというか、そもそもこの文章、成立してませんよね?」

 雪乃が聞くと、芽生が答える。

「確かに、容疑者不明なのに他の事案と結びつけてるのはおかしいわね。もっと言えば『魔法災害との関係』って不可解な文よね。何かが抜けてる気がする」

 芽生の言葉に、響華は。

「芽生ちゃん、そうだよ! どこか引っかかると思ってたんだ〜」

 と少しスッキリした様子で言った。

 すると、四人のやり取りを聞いていた碧が口を開いた。

「やはり警察は何かを知っていて、それを隠そうとしているのは明らかだ。それならばこちらから揺さぶりをかけてみてはどうだ?」

「え? どうやって?」

 響華が首を傾げる。

「石倉製薬や共工といったワードを出して、その反応を見る。そうすれば警察が何を知っていて何を知らないのかが分かるだろう?」

「そっか! 向こうが情報を出さないならこっちが情報を出せばいいんだね」

 響華が言うと、碧が首を縦に振った。

「でも、その役割って誰がやるんですか? いくらなんでもハイリスクすぎます」

 心配そうな表情をする雪乃に、碧は。

「私がやる。言い出したのは私だからな。大丈夫だ北見、心配するな」

 そう言って微笑んだ。


 碧が刑事の方を見る。

「一つ聞きたいのですが、東京拘置所での魔法災害で収容されていた不信者がサプリメントを服用していたのをご存知ですか?」

「ああ、そうでしたね」

 刑事が思い出したように言う。

「では、そのサプリメントが石倉製薬が開発したものだというのは?」

 碧がその質問をした瞬間、刑事の目つきが変わる。

「……どこまでご存知なのですか?」

 刑事が聞く。

「公民党と繋がってることならとっくに分かっている」

 碧が挑発的に答える。

 すると、楠木管理官や他の刑事たちも集まってきた。

「魔災隊の皆さんには手を出さないように忠告したはずですが?」

 楠木管理官が問いかける。

 まずいと思った響華や芽生、遥、雪乃が碧のそばに近寄る。

「私たちにも捜査する権利がある。それに、魔災隊の活動に警察が口出しすることは出来ないはずだ」

 碧は強い口調で反論する。

「撃っちゃっていいんじゃないっすか、管理官?」

 刑事の一人がこちらに拳銃を向けた。

「仕掛けた途端にこの態度。絶対何かある……」

 遥が呟くと、芽生が頷いた。

「ええ。でも、このまま殺されるわけにはいかないわ」

 芽生は楠木管理官に目を向ける。

「では、石倉製薬の裏に中国が絡んでいることは知ってるかしら? そして、この襲撃事件は中国を支配する魔獣、共工による犯行である可能性が高い」

 その言葉に、楠木管理官と刑事が顔を見合わせる。

「魔法能力者ではなく、魔獣だったか……」

「どうします? この子たち、侮れませんよ」

 楠木管理官たちが話していると、五人に拳銃を向けていた刑事が口を開いた。

「管理官、さっさと処分した方がいいですって」

 楠木管理官はゆっくりと首を縦に振ると、五人の方を見る。

「……そうだな。君たちは知りすぎた」

 楠木管理官や他の刑事たちも拳銃を取り出しこちらに向けた。

 この状況に響華は。

「ここで魔法で反撃したら魔法不正使用法違反になる。私たちはとにかく避けるか防ぐことしか出来ない……」

 と深刻に言う。

 まさに絶体絶命だ。

『バン! バン!』

 銃口から弾丸が放たれる。

「「魔法目録三条、魔法防壁!」」

 響華と遥が魔法を唱え、シールドを展開する。

 弾丸はシールドに跳ね返され、地面に転がった。

『バンッ!』

 再び刑事たちが発砲する。

 しかし、シールドが簡単に壊れるわけもなく、弾丸はことごとく地面に転がる。

「なかなか手強いな……」

 楠木管理官が苛立ちを見せる。

「相手も消耗しているようだが、私たちも防戦一方では限界がある」

 碧の言葉に、雪乃が頷く。

「はい。このままじゃ千日手です……」

「千日手って、何?」

 遥が首を傾げる。

「今はそんなこと気にしてる場合じゃないわ。知りたければ後で教えてもらいなさい」

 緊迫した状況でもいつも通りの遥に、芽生が少し怒りを見せる。

「は〜い。それで、どうするの? 攻撃しちゃいけないんでしょ?」

 遥は適当な返事をすると、響華に問いかけた。

「う〜ん……。このままじゃダメだけど、他に方法も無いし……」

 響華もこの状況を打開する策が思いつかないといった様子だ。

 その時、楠木管理官たちの背後から女性の声が聞こえてきた。

「銃を下ろしなさい!」

「誰だ!?」

 楠木管理官と刑事たちが振り返る。

「質問は後。まずは銃を下ろして」

「お、お前は……」

「魔犯の、守屋……。死んだはずじゃなかったのか?」

 そこにいたのは守屋刑事だった。

「守屋さん!」

 響華の顔がほころぶ。

「裏切られたか……!」

 楠木管理官が守屋刑事に拳銃を向ける。

「楠木管理官こそ、国民を裏切るような真似をしておいて。あなたたちの信用レートはいくつなのかしらね?」

 守屋刑事も拳銃を楠木管理官に向けた。

 お互いにアイプロジェクターで信用レートを計測する。

《守屋都 Credit Rate:1727 over227》

《楠木耕一 Credit Rate:771 under729》

「もはやレートなど関係無い。ここで終わりです」

「それはこちらのセリフよ」

 楠木管理官と守屋刑事が同時に引き金を引く。

『バンッ!』

 銃声が響き渡る。

「くっ……。まさか、こんな結末になるとは……」

 楠木管理官が胸を押さえて倒れる。

 守屋刑事の弾丸は、見事に楠木管理官の心臓を貫いていた。


「守屋さん! 大丈夫ですか?」

 響華たちが守屋刑事の元へ駆け寄る。

「ええ、平気よ。心配かけて悪かったわね」

 守屋刑事が申し訳なさそうに言う。

「もう、みーちゃん! 急にいなくならないで下さいよ〜」

 遥が守屋刑事の手を握ると。

「ごめんなさい。殺されたふりをして捜査一課の隙を突く作戦だったから、言いたくても言えなかったの。最後の切り札とでも言えばいいのかしらね?」

 守屋刑事はそう言って微笑んだ。

「守屋刑事、それにしてもよく楠木管理官が弾切れだって分かったわね?」

 芽生が問いかける。

「それはまあ、そうね……。刑事の勘?」

 守屋刑事の答えに響華が笑い声を上げる。

「あはは、何ですかそれ!」

「でも、守屋刑事が無事で良かったです」

 碧の言葉に、雪乃も。

「はい。今撃たれなかったことだけじゃなくて、また会えたことが本当に嬉しいです」

 と安心したように言う。

「ありがとう。でも、まだ仕事は終わってないわ」

 守屋刑事の表情が真剣になる。

「何かあるんですか?」

 響華が首を傾げる。

「国会議事堂の地下に、スーパーコンピューターがあるかもしれない。それを調べて欲しいの」

「スーパーコンピューターというと、去年まで神戸で稼働していたものですか?」

 碧が聞くと、守屋刑事は頷いた。

「ええ、そうよ」

「そっか、だから捜査一課の人たちは必死に国会を守ってたんだね」

 遥が納得したように言う。

「私は残りの捜査一課の刑事を取り押さえる。だから、あなたたちは行って。この国の真実を確かめて」

 守屋刑事の言葉に、響華たちは大きく頷いた。

「じゃあ、行ってきます」

 響華が守屋刑事に頭を下げる。

 五人は正門を開け、国会議事堂の敷地内へと入っていった。




 国会議事堂付近。

「いよいよですネ、共工様?」

「ああ、そうダナ」

「くれぐれも気を付けてくだサイ」

「大丈夫ダ。桜木芽生にハ留意する。そして、アマテラスの野望ヲ打ち砕く」

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