表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法災害隊  作者: 横浜あおば
信用レート編
36/100

第32話 中国の影

 警視庁、捜査一課。

 楠木管理官と捜査一課の刑事たちは頭を悩ませていた。

「あの変な薬の供給元はどこだ?」

「我々も捜査をしているのですが、全く情報が……」

「いいから早く突き止めるんだ! でないと信用レートの真実がバレかねない」

「……捜査人員を増やすとともに、急ぐよう指示します」

 楠木管理官の圧に押され、刑事の一人が指示に向かう。

「魔災隊の連中も黙ってはいないはずだ。絶対に先を越されてはならない……」

 楠木管理官がそう呟いたと同時に、スマホの着信音が鳴り響いた。

「はい、楠木です」

『何をしている? 東京拘置所から不信者が逃げ出すなどという失態を犯しておきながら、まだ失態を重ねるつもりかね』

 相手は松本警視総監のようだ。

「すみません。現在全力で捜査に当たっていますが、なかなか情報を掴めず……」

『言い訳はいらん! いいか? これはこの国の運命を左右する重要な事案なのだ。一つでも誤れば我らは終わりだ』

「……承知しています。絶対に薬の出所を突き止め、そいつらを潰します」




 同時刻、魔法災害隊東京本庁舎。

「こ、この人って……」

「ええ、間違いなさそうね」

 東京拘置所付近の防犯カメラに映っていたのは。

「明石楓……」

 響華がぽつりと言う。

「だが、明石はなぜこんな所に?」

 碧が疑問を口にすると、遥が碧の方を見た。

「もしかして、明石さんがこの前言ってたクライアントってあの人型の魔獣なんじゃない?」

 その言葉を聞いて、雪乃が思い出したように言う。

「確かに、あの時重力魔法をかけたのはクライアントだって言ってましたし、可能性としてはあるかもしれません」

「じゃあ、石倉製薬について調べれば、あの魔獣のことも分かるかも……!」

 響華の表情が少し明るくなる。

「遥、このモニターで石倉製薬について調べられる?」

「任せて〜!」

 遥がモニターを操作すると、石倉製薬に関する情報が表示された。

「これで何かおかしな点が見つかれば、あの魔獣の正体も分かるかもしれないな」

 碧がモニターを眺めながら言う。

 しかし、遥は「う〜ん」と唸り声を上げる。

「今出したのはあくまでインターネット上から拾って来た情報だから、魔獣の正体につながる情報はどうだろうね……」

「そっか〜、守屋刑事も前に調べてたし、あんまり期待はできないね……」

 響華がうなだれる。

 その時、雪乃が何かに気が付いた様子でモニターに近づいた。

「ユッキー、どうかした?」

「これ、ちょっと開いてもらってもいいですか?」

「ん? これ?」

 遥はモニターにあったネットニュースの記事をタップした。

《石倉製薬に中国の政府系ファンドが出資 議決権ベースで20%を取得へ》

 一見よくある経済ニュースに思えるが、雪乃は芽生が言っていたことと結びつくような気がしていたのだ。

「もしかしたらこのニュース、桜木さんの言っている共工って魔獣と何か関係があるんじゃないでしょうか……?」

「そうね……」

 芽生は記事を読みながら少し考える。

「はっきりとは言えないけど、中国政府を操ってるのは共工だと思うから、その政府系のファンドが石倉製薬に出資しているとなると無関係とも言えないわね」

「それじゃあ、もしそれが関係しているとしたら……」

 響華が芽生の顔を見つめる。

「ええ、二つの事件は繋がってる。そして、東京拘置所を襲撃したのは共工。ってことになるわね」

「碧ちゃん、どう思う……?」

 響華が問いかけると、碧はゆっくりと口を開いた。

「確かに、状況証拠としては揃っている感じもするな……。もう一度石倉製薬に聞き取りに行こう」

「うん、分かった。じゃあ長官に伝えてくるね」

 響華は大きく頷くと、長官にそのことを伝えに行った。

「なあ、桜木?」

 碧が話しかけると、芽生は顔を向けることなく答える。

「ん、何か用?」

「いや、用というわけでもないんだが……」

「じゃあ何?」

 芽生は不機嫌そうに言う。

「……さっきは悪かった」

「え?」

 芽生は突然の謝罪に困惑し、碧の顔を見る。

「今回はお前の情報が役に立ちそうだな。なぜそんなことを知っているのか腑に落ちないところはあるが、きっと何か訳があるんだろう? 気にはなるが、話せる時が来たらでいい。信じて、いいんだよな?」

 芽生は碧の言葉を聞くと、少し俯いて答える。

「ごめんなさい。でも、ありがとう……」

 二人のやり取りを、遥と雪乃は微笑ましく眺めていた。

 しばらくして響華が戻って来た。

「長官に話したら、明日聞き取りさせてもらえることになったよ」

「おお! さすが長官って感じだね!」

 遥が言う。

「それじゃあ、明日までに色々準備しておかないとですよね?」

 雪乃の問いかけに碧が頷く。

「ああ、そうだな。なんとしても明石に罪を認めさせなければ……」

 その言葉に、芽生も続けて言う。

「そして、魔獣との繋がりも認めさせるわ」

「よし、じゃあ手分けして材料を集めよう!」

 響華の掛け声に四人は首を縦に振り、早速作業に取り掛かった。


 警視庁、捜査一課。

「楠木管理官! こちらの映像を」

「何か分かったのか?」

 楠木管理官は刑事が手にしたタブレットの画面に目をやる。

「ここです。この建物の陰、拡大すると人が映ってます」

 刑事が楠木管理官に見せているのは、どうやら響華たちが見ていたのと同じ映像のようだ。

「確かに人がいるな……。国民情報システムで直ちに照合を」

「はい」

 楠木管理官の指示を受け、刑事はタブレットから国民情報システムに検索をかける。

|《明石楓 生年月日:1997.09.27 年齢:23 血液型:A 出身:中国・北京市》

「明石楓……。北京出身? 移民か?」

 楠木管理官の質問に、刑事は首を横に振る。

「いえ、明石は純粋な日本人です。両親の仕事の都合で幼少期を北京で過ごしたとの記述があります」

「では、両親は何を?」

「少々お待ち下さい……」

 刑事はタブレットを操作し、両親の情報を表示させる。

「どうやら明石の両親は中国の大学で研究をしていたみたいですね」

「研究?」

「はい。魔法結晶についての研究で中国政府から表彰も受けてます。魔法医学分野ではかなり著名な人物のようです」

 楠木管理官はタブレットに表示された情報をしばらく眺めると。

「ということは明石も同じ研究に携わっていたのか?」

 そう問いかけた。刑事は頷いて答える。

「学生時代は両親の研究室に在籍していたみたいですね。その後は……」

 突然刑事が言い止す。

「どうした? 何かあったか?」

 楠木管理官が聞くと、刑事は少し困惑した様子で続ける。

「その後は、石倉製薬に入社、現在は新薬研究を行なっているラボの責任者を務めていると」

「石倉製薬、だと?」

 楠木管理官は自分の耳を疑った。しかし、刑事はこくりと首を縦に振る。

「石倉製薬がこの事件に関与しているかは不明ですが、無関係とも言えないかと……」

 楠木管理官はすぐさま刑事に指示を出す。

「すぐに捜索差押の手配を。明石と石倉製薬について早急に調べる必要がある」

「承知致しました」

 刑事が一礼しその場を立ち去る。

 それを見送った楠木管理官はスマホを取り出して電話をかけた。

『はい』

「松本警視総監、お疲れ様です。楠木です」

『ああ、お前か……』

 松本警視総監の声のトーンが下がる。

「この事件、公民党の仕組んだものではないのですか?」

『それは、どういう事かね?』

 唐突の質問に、松本警視総監が不思議そうに言う。

「この事件、石倉製薬の研究者が容疑者として浮上しています。その為、石倉製薬に捜索差押を行うことになるのですが、深追いしてよろしいのでしょうか?」

『石倉製薬……? 向こうからそのような話は聞いていない。こちらからも確認してみるが、一応そのまま進めなさい』

「かしこまりました」

 電話が切れる。

 楠木管理官はスマホをデスクに置き、ため息をついた。

「この事件、何かが引っかかる……」


 都内某所、料亭。

 公民党の神谷総裁が誰かと極秘で接触していた。

「これからどう動けばいいのですか?」

「そうだナ……」

 相手はアマテラスのようだ。

「まずは信用レートを国民ガ当たり前と感ジルようにしなければならない」

「それはどのように?」

 神谷総裁が聞くと、アマテラスは不敵な笑みを浮かべた。

「そんなもの決まってイル。問題ヲ起こすコトなく、安定して運用することダ。それより、そろそろ電話ガ鳴ルぞ」

 アマテラスが言った直後、神谷総裁に電話がかかってきた。

「さすがアマテラス様ですね」

 神谷総裁はアマテラスにそう告げ、着信相手を確認する。電話をかけてきたのは松本警視総監だった。

「松本か。どうかしたか?」

『神谷さん、石倉製薬って今何か動いてるか?』

「石倉製薬? 選挙協力以外では特には」

 神谷総裁は首をかしげる。

『それならいいんだが。いや、むしろ良くないのか……』

「何だ、言ってみてくれ」

『東京拘置所の襲撃と、不信者の脱走、その際に見つかった変な薬。一連の事件の容疑者として石倉製薬の研究者が浮上したらしくてな。これは公民党の仕組んだものではないのだな?』

 神谷総裁は一瞬アマテラスの顔色を窺う。

 アマテラスは目を閉じ、うっすらと笑みを浮かべている。

「ええ、こちらは特に指示はしていない」

『では、その容疑者は潰して構わないのか?』

 神谷総裁は小さな声で答える。

「構いません。潰して下さい」

『では、失礼します』

 電話が切れると、神谷総裁はアマテラスに問いかけた。

「アマテラス様、これはどのようにお考えでしょうか?」

「共工の仕業だろうナ」

「共工、というのは?」

 神谷総裁が質問する。

「ああ、お主は知らぬノカ。共工は中国ヲ支配しておる魔獣でな、わらわニかなりライバル心を抱いているようダ」

「それで、その共工がなぜ日本で事件を?」

「議論ノ余地もなく、日本を支配スル為だな」

「日本を、支配……」

 神谷総裁が驚いた表情を見せる。

「共工は東アジアを全て手中ニ収めようト企んでいる。香港、台湾ヲ支配した今、標的とナルのは日本。きっとわらわヲ狙っているのであろうガ、そんなことはお見通しダ」

「アマテラス様には、展開が見えておられるのですね?」

 神谷総裁が問うと、アマテラスは平然と答える。

「然り。石倉製薬はわらわと共工を天秤に掛けてイタ。結果共工ヲ取ったようだが、その判断ハ間違いだったナ」

 アマテラスは不気味に笑うと、転移魔法を使いどこかへ行ってしまった。

 一人残された神谷総裁は。

「アマテラス様がいれば、この国も安泰だな」

 と呟き、テーブルに並べられた料理を口に運んだ。




 翌日、二〇二〇年四月九日。石倉製薬本社前。

 石倉製薬の本社を見た響華たちは目を疑った。

「あれ? 何で……」

 石倉製薬の本社であるはずの建物には、前回あったロゴも無く、人の気配すら感じられなかった。

「これはどういうことだ」

 碧が焦ったように辺りを見回す。

「どうも何も、逃げられたわね」

 芽生はため息交じりに言う。

「逃げられたって、そんなこと出来るんですか? こんなに大きな企業なのに……」

 疑問を浮かべる雪乃に、遥が話しかける。

「ユッキー、冷静に考えてみて。普通じゃありえないことが起こった時、まず考えられるのは?」

「……魔法能力者、あるいは魔獣の仕業、ってことですね?」

「そういうこと!」

 そのやり取りを聞いた響華は。

「じゃあ、共工はどんな魔法を使って何をしたんだろう?」

 と言って、トリックを考え始めた。

「物質干渉とか転移魔法を応用すれば物とかは移動させられるだろうけど、会社を移転させるにはまだ足りないし……。う〜ん、全然分かんないよ〜」

 響華が頭を抱えて悩んでいると、芽生が口を開いた。

「もしかして、予測魔法しか使ってないんじゃない?」

「桜木、どういうことだ?」

 碧が首をかしげる。

「魔法目録二十条、予測魔法。この魔法で私たちの動きをすでに予測していたとしたら、前もって対処することが出来るわ」

「ってことは、もうとっくに移転が終わってたなんてこともあるってこと?」

 遥が聞くと、芽生はこくりと頷く。

「そうなるわね」

「それじゃあ、一体どこへ移転したんでしょうか? いくら前もって分かっていたとしても、そんなに大きな建物、いきなり確保できませんよね?」

 雪乃の言葉に、芽生は「あくまで私の想像だけど」と前置きした上で言う。

「中国への移転なら中国政府の協力も得られるでしょうし、共工からしても一番の安全策になると思うわ。それに、アマテラスに宣戦布告してしまった以上、もう日本では企業活動なんて出来ないでしょうし」

「確かに、芽生ちゃんの言う通りかもね」

 響華は芽生の考えに納得した様子だ。

 すると、遥がスマホを取り出してニュースアプリを開いた。

「滝川さん? どうしたんですか、急に?」

 雪乃が問いかけると、遥は。

「もしかしてニュースになってないかな〜と思って」

 と答え、経済ニュースのタブをタップした。

「よし、ビンゴ!」

 遥が大きな声を上げる。

「滝川、何か情報があったのか?」

 碧がスマホの画面を覗き込む。

 遥が見つけた記事のタイトルは《石倉製薬株を中国製薬大手・中国薬品集団が取得 完全子会社化へ》というものだった。

「やっぱり、先手を打たれてたね……」

 響華が残念そうに肩を落とす。

「でも、裏にいるのが共工であることはこれでほぼ確定。私たちからすれば、敵が絞れているのは有利とも言えるわ」

 芽生の言葉に、響華の表情が明るくなる。

「そっか! 共工を倒すことさえできれば……!」

「ええ。この事件は全部解決、ってことね」

 これで五人に希望が見えてきた。

 と思ったその時、数台の警察車両が目の前に停まった。

「またお会いしましたね、魔災隊の皆さん」

 楠木管理官が車を降りながら話しかける。

「どうも」

 響華は軽く頭を下げる。

「皆さんはここで何を?」

 楠木管理官の問いかけに、遥が笑顔を見せながら答える。

「いや〜、事件捜査って難しいですね。まさか本社ごと逃げられるなんて思いませんでした」

「何? 本社ごと?」

 楠木管理官は意味が分からないといった様子だ。

「ほら、見てください。この建物、もぬけの殻ですよ?」

 楠木管理官は慌てて建物の方を見る。

「ま、まさか……!」

 楠木管理官はかなりショックを受けた様子だ。

「楠木管理官、これは一体……?」

 別の車から降りてきた刑事が聞く。

「出し抜かれたか。せめて明石だけでも見つけ出す。戻るぞ」

 楠木管理官と刑事は急いで車に戻ると、すぐに走り去っていった。

「私たちも長官に報告しないと」

 響華はスマホを取り出すと、長官に電話をかける。

『あっ、響華さん。どうだった?』

「石倉製薬の本社に来てみたら、もぬけの殻になってて……」

『逃げられたってこと?』

「はい。でも、今警察の方も来て慌てていたので、裏にいるのがアマテラスという可能性はかなり低くなったと思います。なので、私たちは中国の共工という魔獣が主犯ではないかと考えています」

『なるほど、別の魔獣が日本に仕掛けてきたってことね? 分かったわ。この事件については君たちに任せるよ。くれぐれも安全第一でね』

「はい、ありがとうございます」

 響華は電話を切ると、四人に向かって言う。

「長官の許可も出たから、共工を探し出そう」

 四人は響華の言葉に力強く頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=592386194&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ